「深海のYrr(イール)上・中・下」 フランク・シェッツイング ハヤカワ文庫
一巻が550ページ前後の上・中・下3巻。
かなりのボリュームの本です。
人類滅亡の危機。海洋科学SF超スペクタクル。
ゴールデンウィーク中に読むつもりが、少しはみだして読了。
いや~、すごかったです。
発端は、ノルウェー海で発見されたゴカイ。
ゴカイって?
まあ、いろいろ種類はあるそうなんですが、海底で、うにょうにょ動く毛虫みたいなヤツ。
それが何百万と海底を覆い尽くしている・・・。
考えただけで気色悪いですね。
これが、今、新燃料として注目されているメタンハイグレードの層を掘り続けている。
このことはやがてとてつもない災害をもたらします。
カナダ沖では、突然クジラやオルカが船や人を襲い始める。
フランスではロブスターに潜む病原体が猛威を振るう。
やがてヨーロッパ北部を大規模な津波が襲い、都市は壊滅状態。
アメリカでは奇怪なカニの大群が上陸。ここでも、謎の病原体が広がる。
これら、一気に起こった災害の原因を探るため、関連分野の科学者たちが召集されます。
あくまでも中東のテロリストの陰謀、と主張する軍部。
科学者たちは、そのような可能性はないと断言し、調査を進めるのですが・・・。
そこで出た結論は、深海の未知の知的生命体の存在。
ここで、彼らを「イール」と呼ぶことにする。
私はこのくだりで、一瞬、しらけました。
せっかくここまで、ワクワクと話が進んだのに、やっぱりそれなのか・・・?!
見えないものは怖ろしいけれど、姿を現したとたん、陳腐なものに早変わり、というのはよくあるパターンです。
なにやら半魚人めいた姿が脳裏をよぎる・・・。
ところが、これがまた意外なことに、確かにいるその知的生命体は形を持たない。
海底でうす青く光る、不定形の生物なのです。
単細胞生物があるときは集合しあるときは分散し、
たとえば人の脳細胞が互いに信号を出し、情報を交換し合うようにして、思考。
人類の歴史よりはるか以前から、この地球で別の形で発達をとげてきた。
(・・・ここのくだりは詳しく書いてありますが、難しいところは適当に読み飛ばす。)
しかし、最近の人類によるひどい環境汚染に敵意を抱き、ついに牙をむいた、ということなのです。
この未知なる生命体とコンタクトをとる方法。
それは、なんと、はるかなる宇宙の未知なる生命体へ向けて発信していたメッセージと同じ方法。
う~む、この想定には思わずうなってしまいますね。
私たちのあこがれてやまない、未知なる知的生命体は、私たちのすぐ足元にいた。
最終巻では、終結した登場人物たちがすべて、ヘリ空母「インディペンデンス」に乗り込み、息もつけない大スペクタクルシーンに突入。
「ジョーズ」、「コンタクト」、「ディープ・インパクト」、「タイタニック」、・・・様々な映画が思い出されます。
この作品をハリウッドが放っておくはずがない。
すでに映画化の動きがあるそうで・・・。
楽しみなことではありますが、このボリュームを2時間あまりにするなら、ほとんどダイジェスト版みたいな薄っぺらい物になりそうな、いやな予感がします。
私が好きだったのは、クジラなどの生物学者アナワク。
彼は、イヌイットなのですが、その出自を恥じていました。
でも、父の葬儀のため、少年の頃から戻ったことのない故郷に帰り、
叔父の話を聞き、幼い頃なじんだ風景に触れるうちに
自らのアイデンティティを取り戻してゆくのです。
彼が取り戻した、長く自然と共に生きてきたイヌイットの心。
未知の生命体に対するにはこの心をもって当たれば良いのだ、と気づくアナワク。
このようなサイドストーリーも魅力です。
それにしても、あまりにもあっけなく人が死んでゆきます。
主要人物であろうとも、例外ではなくて、どんどん命を落とします。
果たして最後まで生き残るのは誰なのか。
女性司令官リーは何をたくらむのか。
人類の滅亡は阻止できるのか。
まあ、ゆっくりとお楽しみください。
満足度★★★★★