映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ジェノサイド」 高野和明

2012年02月10日 | 本(その他)
人はどこまでも利己的で残酷だけれど・・・

ジェノサイド
高野 和明
角川書店(角川グループパブリッシング)


                * * * * * * * * * * 

「このミステリがすごい!2012年版」国内編、
週刊文春ミステリーベスト10」国内部門、
双方において第1位。
そして第2回山田風太郎賞受賞で、3冠を達成したこの作品。
私は特に権威に弱いワケではありませんが、
こうなるとさすがに面白いのだろうと興味がそそられ、抗うことができません。

ジェノサイド―――つまり大量殺戮のことです。
何とも不穏な題名ですが、すばらしくスケールが大きく、冒険に満ちたストーリーで、
ハリウッド映画も真っ青。
だからといって単にエンタテイメント性だけが突出しているわけではありません。
私たち人間の"本性"に迫りつつ、科学に裏付けされたそのストーリーは、
読み始めたらやめられません。


イエーガーという男が、米政府の密命を受け、傭兵としてアフリカ、コンゴへ向かいます。
彼には難病で余命幾ばくもない息子がおり、
その治療費のために仕事を引き受けたのですが、
その仕事というのが、何とも過酷で非情・・・。
一方日本では、薬学を学ぶ研人という青年が、亡き父から不可解なメッセージを受け取ります。
一定期間内に極秘で、ある薬を完成させるようにと。
日本とコンゴ、同時進行でストーリーが進んでいきますが、
果たしてその接点とは・・・?


コンゴというのは、内乱で大変なことになっている地です。
ツチ族とフツ族の争いとはいいますが、
その背景には古くからの欧米大国との関係が深く絡んでいる。
いわばエゴ丸出しの大国に食い物にされているといってもいい。
あまりにも殺戮が繰り返されたために、兵士が不足し、
子供たちが誘拐されて、新たな兵に仕立てられているという・・・。
さて、そのコンゴの深い森の中に、ムブティという一族が住んでいます。
私たちには「ピグミー」として知られる独特の風貌をした一族です。
人類発祥の地といわれるこの地で、
いま、あらたな「新人類」が誕生しているという。


人間の引き起こす戦争や残虐性について、こんなセリフが書かれています。

「いいかね、戦争というのは形を変えた共食いなんだ。
そして人間は、知性を用いて共食いの本能を隠蔽しようとする。
政治、宗教、イデオロギー、愛国心といった屁理屈をこねまわしてな。
しかし根底にあるのは獣と同じ欲求だ。
領土をめぐって人間が殺し合うのと、
縄張りを侵されたチンパンジーが怒り狂って暴力を振るうのと、
どこが違うのかね?」

「善なる側面が人間にあるのもひていはしないよ。
しかし、善行というのは、ヒトとしての本性に背く行為だからこそ美徳とされるのだ―――。」


非常に悲観的な見方ではありますが、
このストーリー中、いくつも人間の残虐性を見せられた後では身にしみます。
けれども確かに、自分の身をなげうっても他人のために尽くす者はいるのです。
その一人が、日本の研人というわけで・・・。
日本のいかにもモテそうにないサエない青年が、
韓国青年と力を合わせてあることをやり遂げるのです。


ヒトはどこまでも利己的に残酷になれるけども、
また逆に人のために命を投げ出すこともできる。
それがあるからこそ、私たちは未来を信じられるのだなあ・・・と、
読後の虚脱感の中で思うのでした。


私たちが日頃「宇宙人」として認識している姿のイキモノは、
実はこの地球の「未来人」だったのかなあ・・・などと思ったりして。

「ジェノサイド」高野和明 角川書店
満足度★★★★★

黄色い星の子供たち

2012年02月09日 | 映画(か行)
ユダヤ人の受難はドイツ内のみのことではなかった



                 * * * * * * * * * *

1942年7月。ナチス占領下パリ。
実話に基づく物語です。


11歳のジョーはパリで家族とともに幸福に暮らしていたのですが、
パリがドイツ軍に占領されてから、様子が変わってきます。
胸にユダヤ人であることを表す黄色い星をつけることを義務づけられてしまう。
ユダヤ人は立ち入り禁止の場所があったりします。
そしてある日13000人ものユダヤ人が一斉に検挙され、
ヴェル・ディヴ自転車競技場に収容されてしまいます。
当時のフランス政府がナチスに協力してしまったのです。
ろくに水も食料も与えられずに閉じ込められた人々。
それから彼らはまたフランス国内の収容所に移され、
その後またポーランドへと移されるのですが・・・。
先に出発した母親はジョーに最後に言い残すのです。
「ここから逃げ出しなさい。なんとしても生き延びるのよ」・・・と。



こんなことが実際に起こったというのは何とも信じがたいことです。
人道的に明らかに誤っているのですが、
唯々諾々と上からの指令に従い続けた人々・・・。
でもフランス国民の中にはドイツへの反感もあったのでしょう、
率先してユダヤ人をかくまい、守り通した人々も多くいます。
この作品ではそれが唯一の救いですね。



ある日突然、職も財産も、住んでいる家も奪われ、強制的に移送されて収容所に入れられてしまう。
たとえば、アメリカに住む日本人たちも戦時中そんな目にあったのでした。
けれど、そのままガス室に送られたりはしなかった。
生きる権利まで奪われはしなかったのです。
なぜ当時ナチスがそんなにまでもユダヤ人に対しての悪意をむき出しにしたのか・・・
私たちにはちょっと理解しがたいですね。
ヨーロッパの長い歴史の中で、そんな感情が密かに受け継がれてきていたのも確かなのでしょう。
でも、もうそんな感情は断ち切られた。
そのように私は信じたいのです。
まだまだこのような作品が繰り返し作られているのは、
世界中の人々の祈りと願いの証ですね。

黄色い星の子供たち [DVD]
ジャン・レノ/メラニー・ロラン
ビデオメーカー


「黄色い星の子供たち」
2010年/フランス・ドイツ・ハンガリー/125分
監督・脚本:ローズ・ボッシュ
出演:メラニー・ロラン、ジャン・レノ、ガド・エルマレ、ラファエル・アゴゲ、ユーゴ・ルベルデ

J・エドガー

2012年02月07日 | クリント・イーストウッド
真の姿を覆い隠すヨロイ



                 * * * * * * * * * *

さて、イーストウッド監督作品なので、久しぶりにまた出てきました~。
007よりはハリキリがいがある。
でも、実はこの作品を見るのは、あんまり乗り気ではなかったんだよね。
うん、ジャンル的に、政治ネタと言うか社会ネタがどうも苦手なんだなあ・・・。
しかし、イーストウッド作品は見逃す訳にはいかない、と。
そう。けれどこの作品、フーバー長官と腹心の部下の秘められた愛も描かれている
・・・と聞きまして、やっとその気になったのでした!!



さてまず、レオナルド・ディカプリオとイーストウッド監督、これで初タッグなんだね。
そういうこと。だからこそ、もうちょっと私好みのテーマ作であって欲しかったと余計に思うのよね・・・。
まあ、まあ・・・。
えーと、まずこのジョン・エドガー・フーバーについて。
29歳でアメリカ連邦捜査局つまりFBI局長に就任して
約半世紀にわたって局長を勤め上げた、FBIの顔ともいえる人。
現場検証、指紋採取、筆跡鑑定、操作情報のデータ化等々・・・
現在の犯罪捜査の基礎を築いた人だね。
ははあ・・・、今時のミステリはこのあたりが基礎基本だもんね。
そういうこと考えると、なかなか偉大ではないの。
ところがですね、そういう功績の一方で、
政治家や左翼系の活動家の言動を監視。
歴代の大統領の弱みを握って脅していたらしい。
すごい自己顕示欲だよね・・・
そもそもそういうところのトップが何十年もずっと同じ人物なんて、普通は考えられないよ・・・。
誰も恐ろしくて、変われとは言えなかったのかな・・・。
まあ、とにかくFBIの活躍は様々なTVや映画で語られる所でもあるし、
実際数々の大きな事件を解決してきたわけだ。
だからアメリカではこの人はまあ、英雄として誰もが知っているということらしい。
でも残念ながら日本では知名度はイマイチだよね。
そう、結局日本で盛り上がりに欠けるのは、そういうことだから仕方ないんじゃないかな・・・。



で、今作ではその伝説的フーバー氏の実像を描こうということだね。
まず表面上見えるのは、ものすごい上昇志向。自己顕示欲の塊。
狡猾。共産主義嫌い。正義の人と見られたがっている。
ところが次第に見えてくる内面は・・・。
根っこは、マザコンなんだろうなあ。
何しろ母親があのジュディ・デンチだよ。
この迫力には大抵の男は負ける・・・。
まあ、それはともかく、幼少の時から全てに母親が支配していただろうことが伺えるよね。
で、男は強くなくてはならない!!という呪縛を植えつけられる。
しか~し、そのためなのかどうか・・・、彼は女性を好きになれない。
と言うかむしろ男が好きだ!!
FBI副局長クライド・トルソンとの秘められた恋。
いや実際そんなエロいシーンがあるわけではないのだけれど、
トルソンはフーバーの下で働き始める時に、こう約束するんだね。
「毎日昼食か夕食を共にすること」。
口には出さないけれど、二人の心の絆が一目会ったその日から結ばれる。
あるとき、珍しく二人が大げんかをするのだけれど、その時トルソンはこういうね。
「お前なんか小心者で嘘つきで、凡庸だ!」
若干違うかもしれないけど、まあ、そんなセリフでした。
が、実はこの言葉こそが核心を突いているよね。
そうなのです。女々しい・・・って女の立場では嫌な言葉なんだけど、
フーバーは母親が求めていた「男らしい」男という理想とは真逆・・・。
彼の自己顕示欲たっぷりの言動は、つまり自分の真の姿を覆い隠す鎧なんだよ・・・。
結局なんだかんだと言いながら、そういうフーバーをトルソンは愛したわけなんだな・・・。
うーん、それにしてもやっぱり老人男性同士の愛って・・・。
正直気色悪いわな・・・。
むろん、この解釈が正しいというわけじゃないよね。
こういうふうにも考えられるんじゃないかって、イーストウッド監督の投げかけだから。
人の内面は、本人にだってわからないものだから・・・。
だからドラマになるってことか。
ディカプリオの老人姿は評判がいいようだけど・・・。
老人の動作とか、すごくそれらしかったと思うよ。
私が思うに、昔はさっそうとかっこ良くキビキビ動けたけど、年をとるとこんなふうになっちゃうって、
若干イーストウッド監督の実感もあったんじゃないかなあなんてね・・・。
そうだねえ・・・。



で、全然別の話だけど、今作を見たときに「タイタニック」の予告編をやってたね!
そう、今度3Dで、また公開になるとかで。
そこで写ったディカプリオのなんと若々しいこと!!
はあ~、やっぱり若いということはそれだけで美しいのだわ。
タイタニックは一度ならず見たけど、やっぱりまた見たくなっちゃったなあ。
ぜひ、3Dで!!
船の舳先で二人で風を切って・・・!、あの名シーンが3Dだと一層盛り上がりそうだ~!!


J・エドガー
2011年/アメリカ/138分
監督:クリント・イーストウッド
出演:レオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツ、アーミー・ハマー、ジョシュ・ルーカス、ジュディ・デンチ、ジェフリー・ピアソン

「カラスの親指」 道尾秀介

2012年02月06日 | 本(ミステリ)
だまし、だまされ・・・

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)
道尾 秀介
講談社


                  * * * * * * * *

私、道尾秀介作品はあまり多く読んでいません。
というのも、その数少ない読書体験では、
やや陰湿というイメージがありまして、あまり得意ではない。
それでやや敬遠気味だったわけですが、
この本を読んでそのようなイメージがすっかり払拭されました。


詐欺を生業とする男が、とある男と知り合い、二人組で仕事をすることになります。
次にそこへ一人の少女が加わり、さらにまた同居人が増えていって、
とうとう5人と一匹に。
他人同士の奇妙な生活が始まりますが、
やがて彼らは人生を懸け彼らの敵と対峙することに・・・。
いわばコン・ゲーム。
だましだまされ、立場がくるくる入れ変わり、
やがて感動の大逆転!
実に爽快な物語。
ただし、彼らそれぞれが抱えている問題は結構根深く悲惨なのです。
そうして負け犬となってしまった面々。
彼らが絆を結んで大きな力に対抗していくという、再生の物語でもあります。


この何気なく集まった知り合い同士が、連係プレーで・・・というあたりは、
伊坂幸太郎作品にも似ているのですが、
それよりももっとミステリファンを楽しませる仕掛けがいっぱいです。
アナグラム。
文字の並び替えですね。
詐欺で使った偽名が「石霞(いしがすみ)」。
これをローマ字で書くとisigasumi。
逆さまから読むとアイム・サギシ、なんていう具合です。
こういうのがあちこち散りばめられているのが楽しい。
また、章立ての表題が"HERON" ,"BULLFINCH","CUCKOO"・・・などとなっていまして、
これは鳥の名前なんですね。
HERONというのは鷺(さぎ)のことで、
つまり詐欺と懸けてある。
こんな工夫が何とも心憎いのです。


かと思えば、表題「カラスの親指」の意味なのですが、
私たちはしばしば指を家族に見立てますね。
お父さん指、お母さん指、兄さん指・・・というように。
そういうことを見立てた心温まるエピソードもあったり、
なんだか非常に得した気分になる本なのです。
これにはまって、道尾作品、もっと読んでみたくなりました。
一冊二冊で作家の傾向を知った気になるのは大変危険なことだとわかりました。
よい経験でした。

「カラスの親指」道尾秀介 講談社文庫
満足度★★★★★

ディア・ハンター

2012年02月05日 | 映画(た行)
戦争に“正義”などない

                  * * * * * * * *

1960年代、ベトナム戦争下にあるアメリカです。
ペンシルバニアの製鋼所で働くマイケル、ニック、スティーブンの3人。
その日はスティーブンの結婚式で、友人たちは朝からお祝いで大騒ぎ。
彼ら3人はそのすぐ後に出征することになっているので、
楽しいことの仕納め、そんな気持ちも働いているのです。
この作品、3時間もの長い作品ですが、
初めの1時間くらいがこのどんちゃん騒ぎの1日を描写しています。
けれど、この浮かれた1日がどんなに幸福で貴重な時間であったのか、
私たちは後で思い知ることになります。


場面は一転してベトナムの戦場。
彼ら三人は戦場で再会を果たしますが、ベトコンの捕虜となってしまうのです。
そこで強要される残酷な拷問のようなゲーム・・・。
単なる遊び事に命をかけなければならない。
マイケルの命がけの作戦により辛くも脱出し、
3人はとりあえず生き残ることができたのですが・・・。


彼ら3人が戦地に赴く前には、どこか浮かれた様子もありました。
そんなとき戦争帰りの一人の兵士に合うのですが、
彼は無口で、3人が何か聞いても全く応じようとしない。
けんかを始めそうになる彼らでしたが、かろうじて気持ちを抑える。
マイケルは戦地から帰還したときに、この兵士の気持ちをイヤというほど思い知ります。
思い出すのも忌まわしいことばかり。
口では言い表せない戦争の残酷さ、狂気・・・。
その中で、精神を正常に保ち得たマイケルは、
むしろ特異な存在と言うべきなのかもしれません。


さて、彼らは時折山に入り鹿狩りを楽しんでいました。
ニックはライフル1発で鹿を仕留めることを誇りとしています。
戦争もこのように1対1で相手と対峙し、正当な勝負をつけるのだったら、
マイケルも兵士として誇りが持てたかもしれません。
けれど戦争はそんなものではなかった。
どこにも正義などない。
ただあるのは殺戮、残虐、退廃、狂気・・・。
リアルに苦い作品でした。


ロバート・デ・ニーロがかっこいいです。
友情に厚く、タフな体と心。
あこがれますね・・・。(かなり手遅れですが。)
メリル・ストリープも若い!!

ディア・ハンター デジタル・ニューマスター版 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]
クリストファー・ウォーケン,ジョン・サヴェージ,メリル・ストリープ,ロバート・デ・ニーロ
UPJ/ジェネオン エンタテインメント


「ディア・ハンター」
1978年/アメリカ/183分
監督:マイケル・チミノ
出演:ロバート・デ・ニーロ、ジョン・カザール、 クリストファー・ウォーケン、ジョン・サベージ、メリル・ストリープ

わんこ6

2012年02月04日 | 工房『たんぽぽ』
子犬を3匹作ってみました。



節分も過ぎて、今日は立春。
でもここ北海道の「春」はまだまだ先です。
とはいえ、日差しも明るさを増してきました。
ひだまりで、こんな子犬たちとぬくぬくと遊んでいたい。
そんなことを夢想する、2月の休日。


日本各地で寒さと雪で大変とニュースが流れていましたが、
皆様のところはいかがでしょうか。
こちらは、確かに例年より気温が低い状態が続きましたが、
意外と雪は多くはなく、平穏です。
札幌はまもなく雪まつり。
この時期にあまり暖かくなると雪像が泣き出してしまうので、
寒さは必要なのですが・・・。
長い冬を乗り切るためのイベント、
皆様も一度は、来てみてくださいませ。
二回来たくなるかどうかは微妙・・・^^;
でも冷え切った体で食べるラーメンは、多分どんな店でも(?)絶品ですよ~!



上から

(ハル)

2012年02月03日 | 映画(は行)
文字だけの付き合いでも、より自分に近く感じられることはある

               * * * * * * * *

先に急逝された森田芳光監督を偲び、この作品を見てみました。
パソコン通信で、相手のハンドルネームしか知らずにやりとりを交わすうちに
お互いが誰よりも自分に近い存在になっていく、
そういう過程を描いた物語です。


(ハル)は初めてパソコン通信の映画フォーラムにアクセスを始めましたが、
まだなかなかうまくいきません。
そんなときに(ほし)から励ましのメールが届きます。
全く見ず知らずの二人。
お互いの仕事のこと恋愛のこと・・・やりとりが続きます。
映像はお互いの生活の様子を淡々と追いますが、
メールの文字は文字そのものが画面に表示されるだけ。
言葉もそんなに込み入った難しい言葉が書かれているわけではありません。
時には虚実さえも折り込められているのですが・・・。
でもやはり、本音で語る部分に真摯な気持ちがはっきり表れます。
文字を追うだけで、少し泣きそうになったくらいです。


1996年作品ですから、「パソコン通信」ということで少しレトロですが、
こういう事情は今現在、ますます身近ですね。
仮名でのお付き合いでありながら、いえ、そうであるからこそ逆に、
実際に周りにいる人よりも本音で語ることができる。
そういう気持ちはなんだかわかるんですね。
ちょっぴり落ち込んだりしたようなとき、
たった一人でもいい、文字だけでもいい。
温かい言葉をかけてもらえたら、それは十分生きる力になるのです。
そう考えたら、私たちはもっといろいろな人とのつながりを、
うまく生かしていけるのかもしれません。


さてこの作品、こうしたデジタルの二人のやりとりの合間に、
アナログつまり実生活のお付き合いが割り込んできます。
それは(ローズ)という女の子。
同じ映画フォーラムで(ハル)と知り合った(ローズ)は、
あっという間に垣根を乗り越えて、実際に(ハル)と付き合い始めてしまいます。
しかし、実はこの(ローズ)は・・・!? 
という意外な展開。
ここはぜひご自分で見て確かめてくださいね。
実際にあったことのない二人が初めて出会うとき。
ちょっと瑞々しくもどきどきして、不思議な気持ちもある。
よいシーンです。

(ハル) [DVD]
深津絵里,内野聖陽,戸田菜穂,宮沢和史
バンダイビジュアル


1996年/日本/118分
監督:森田芳光
出演:深津絵里、内野聖陽、戸田菜穂、宮沢和史

「先生と僕」坂木司 

2012年02月02日 | 本(ミステリ)
中学生によるミステリのススメ

先生と僕 (双葉文庫)
坂木 司
双葉社


                 * * * * * * * *

大学の推理小説研究会に入った、こわがりの伊藤二葉。
ひょんなことから彼は中学一年瀬川隼人の家庭教師を引き受けることになります。
ところが実は、この家庭教師のバイトは偽装。
隼人は非常に頭の切れる美少年。
家庭教師なんかつけなくても一人で勉強は十分。
しかし、母親があまり心配するので二葉に声をかけ、
家庭教師のフリをしてもらうことになったのです。
そしてなんと二葉は、逆にミステリについての手ほどきを隼人少年から受けることに。
つまり、この表題の「先生と僕」というのは、
先生=隼人少年、僕=大学生の二葉ということなのです。
二葉は大変気が弱く心配性なので、「殺人事件」など、本を読むだけで恐ろしくて怖じ気づいてしまう。
そこで隼人は殺人の出てこないミステリ、
すなわちミステリ用語で言うところの「日常の謎」ですね、そういうミステリを紹介します。


でも、この本はこれらミステリの内容を書いているのではなく、
二人が身の回りにおこる小さな事件、日常の謎を解き明かしていくという趣向です。
探偵役はもちろん隼人少年の方。
彼は非常に頭の回転がよくて大人びているのです。
ちょっぴり冷めた目で世の中を見ています。
けれど、見た目はジャニーズ系の美少年。
だから彼は事件の聞き込みにはわざとかわいらしいフリをするのです。
でも実際の彼はそこらの大人よりよほど大人。
この辺のギャップが、コナン君を思い出させ、とても楽しい。


さてでは隼人君推薦の本をご紹介しましょう。

江戸川乱歩「二銭銅貨」、「押絵と旅する男」

アーサー・コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの叡智」

アイザック・アシモフ「黒後家蜘蛛の会」

リリアン・J・ブラウン「猫は手がかりを読む」

ドナルド・E・ウェストレイク「天から降ってきた泥棒」

北村薫「六の宮の姫君」


おやおや・・・私が読んだことがあるのは北村薫だけだったりする。
(でも、この「円紫さんと私」のシリーズは大好きで、全部読んでいます。)
それにしても情けないですね。
乱歩くらいは今度読んでみましょう・・・。
といいつつ、なかなか読む順番になりそうにない。


「先生と僕」坂木司 双葉文庫
満足度★★★☆☆

永遠の僕たち

2012年02月01日 | 映画(あ行)
微妙に変化する三角関係の妙



              * * * * * * * *

病気の女の子の話は嫌いといいながら、実はこれも病気の女の子の話。
けれど、よくあるお涙ちょうだいのストーリーではなく、ひと味違うのです。
それは、彼女を見守る男の子の方の事情。


イーノックは、交通事故で両親を亡くし、
また自らもその事故で長く昏睡状態の末、奇跡的に目覚めるという体験をしています。
そしてその時から、普通では見えないモノが見えるようになった。
それは、なぜか日本の特攻隊、ヒロシの幽霊。
これが加瀬亮なんで本当にユニークですね!! 


ヒロシは幽霊といっても全然怖くありません。
突然両親を亡くしたイーノックに寄り添い、彼の孤独を癒やしているかのよう。
イーノックは、自分が昏睡状態のうちに両親の葬儀が行われたため、
両親の死を受け入れることができないのです。
自らも非常に死に近いところにいたのに、死というモノがよくわからない。
死とは全く「無」なのか・・・。
それで、イーノックは見知らぬ他人の葬式に紛れ込んだりして、答えを出そうとしています。
そんなときに出会った少女が、難病で余命3ヶ月を宣告されたアナベル。
不思議にひかれ合う二人は、
病気のこと、いつも一緒にいるヒロシのこと、
お互いのことを打ち明けながら、
アナベルの最後の時までを過ごすのです。



この物語は、少女の「死」を受け入れることによってまた、
自らの生をも受け入れていく少年のストーリーといってもいいでしょう。
命は消えてしまっても、消えないものが残る。
多分その「消えない何か」の象徴がヒロシなのですね。
特攻という形で、自らの意志にかかわらず死んでいかなければならなかったヒロシ。
彼は思い残したことがあったために、この世に留まっていたのでしょうか。


一方、アナベルは、強いのです!!
自らの死を受け入れ、泣き言を言わず、最後まで精一杯生きようとする。
だからこそ、イーノックを逆に支えているかのようにも見受けられる。
彼女は自分の葬儀のプロデュースまでしますね。
「エンディングノート」のおじさま並みにたくましい。
やっぱり、今時の女性像だなあ・・・。
・・・というようなわけで、
現代のアメリカの日常を描きながら、
日本の飛行服に身を固めた幽霊、というものすごいミスマッチが、なんだか自然に見えてきて、
そして強烈な印象となって残りました。
加瀬亮の淡々とした感じが、いい味出しています。



お互いが見えて、よくわかるイーノック・ヒロシ VS その関係に飛び込んでいくアナベル
生きて気持ちを通い合わそうとするイーノック・アナベル VS 死者ヒロシ
そして最後には生きているイーノック VS あちらの世界のアナベル・ヒロシ
このように微妙に変化していく三角関係の妙といいますか、化学変化、
それがこの作品の持ち味なのだと思います。


イーノック少年役のヘンリー・ホッパーは故デニス・ホッパーのご子息。
アナベル役は、「アリス・イン・ワンダーランド」のミア・ワシコウスカ。
このユニークな配役も、化学変化を助けています。


2010年/アメリカ/90分
監督:ガス・ヴァン・サント
出演:ヘンリー・ホッパー、ミア・ワシコウスカ、加瀬亮、シュイラー・フィスク