映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

砂漠でサーモン・フィッシング

2012年12月11日 | 映画(さ行)
信じる心で



            * * * * * * * * *


英国の水産学者ジョーンズ博士のもとに、
とんでもない依頼が舞い込みました。
イエメンの大富豪が砂漠でサーモンフィ・フィッシングをしたいので、
何とかして欲しいというのです。
たかが大金持ちの気まぐれの思いつきと、一蹴した博士でしたが、
中東との緊張緩和のためということで外務省が支援を決め、
否応なくプロジェクトは動き始めます。


ハナから不可能と思い込んでいたジョーンズ博士でしたが、
大富豪シャイフと直接話をして、気持ちが変わっていきます。
地下に水路があって、ダムもできていて・・・なんとか夢を実現したい。
力を貸して欲しい。
シャイフは自分の趣味のためと言うよりも
強い郷土愛のためにそれを実現したいと思っているのです。
人類が火星に行くのと同じくらいの可能性でも、
それを信じてやってみる価値はあるのかな・・・? 
そんな風に思えてきます。


ラッセ・ハルストレム監督らしく、ユーモアに満ちていて、
それぞれのちょっとした悲しみをのぞかせながらも、
ぬくもりに満ちている。
しかも今回は壮大な冒険をも加味して、素敵な作品に仕上がっています。


本筋と関係ないんだけれど好きなシーンが結構ありまして、
ジョーンズ氏が、適当にでっちあげたプランを
イラストでボードに書いて説明。
それをみて、ハリエットが「才能ありますね」という。
「いや、適当にでっち上げただけ」というと
「いえ、イラストの」。
(実は私も、このシャイフの絵が素敵!と思っていたのです)



首相広報官(クリスティン・スコット・トーマス)はいつも忙しくて
家庭でも電話を離さない。
夫や息子たちは、呆れるのを通り越し諦めていて
彼女が電話を始めるとそそくさとその場を去っていく・・・
そんな家庭の様子がいちいち描写されているのがおかしくて・・・。



ジョーンズ氏はユーモア表現が得意ではなく、
たまにジョークを言ったつもりでも
本当に聞こえてしまうのが情けないし。

こういう一つ一つをもう一度見て、確認したくなってしまいます。


それから、スコットランドのシャイフのお城が、素敵でしたねえ・・・。
このような夢にポンとお金を出せるというのがまた、いいじゃないですか。
日頃せこせこしているからこそ、こんなふうな壮大な浪費にもロマンを感じますねえ・・・。
いや、浪費ではなく、この川はきっとイエメンを緑豊かに変える。
まあ確かにそうなれば、観光収入も稼げるかも・・・。


ユアン・マクレガーのちょっと風采の上がらない博士がいい味です。
風采が上がらないだけでなく、釣りオタクの変人とも見受けられる・・・。
けれども、一つのことに打ち込み一生懸命になる人の姿はカッコイイものですものね。
そしてまた、その原動力は、一人じゃないってこと。
共に同じ目的を持って手をつなげる仲間がいれば、
本当に火星にだっていけるかも。



シャイフのセリフ
「私は一夫多妻なので、女性の気持ちがよく分かる。」
うひゃー、そうなんですか? 
かっこいいですよね、シャイフ氏。
お金があってルックスよし。
気遣いがあって、聡明で理想も持っている。
ハリエットが彼に夢中にならないほうが不思議かも・・・。

「砂漠でサーモン・フィッシング」
2011年/イギリス/108分
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:ユアン・マクレガー、エミリー・ブラント、クリスティン・スコット・トーマス、アムール・ワケド

ポスター犬11

2012年12月10日 | 工房『たんぽぽ』
きのこいぬ

 

以前ご紹介したこのコミック。
「きのこいぬ」は単純なスタイルなので
できるかも・・・と思いまして、作ってみました。







ちょっと、ぶーたれた感じが
似てるかも???




きのこいぬ(リュウコミックス)
蒼星 きまま
徳間書店


きのこいぬ 2 (リュウコミックス)
蒼星 きまま
徳間書店


きのこいぬ 3 (リュウコミックス)
蒼星 きまま
徳間書店



今、これを見て「3」が出ていることを知りました・・・!

Black & White ブラック&ホワイト

2012年12月08日 | 映画(は行)
あなたのお気に入りは・・・、さあ、どっち?



            * * * * * * * * *
 
CIAエージェントとして、最高のコンビであり親友でもある
FDR(クリス・パイン)とタック(トム・ハーディ)。
この二人がローレン(リース・ウェザースプーン)という女性を同時に好きになってしまいます。
二人は彼女がどちらを選ぶかに任せることにしますが、
互いの行動を監視し、抜け駆けしようとします。
盗聴器、麻酔銃、無人偵察機・・・ハイテク技術を駆使し、
何でもありのバトルになっていくのです。
これぞ、史上最大の職権濫用バトル。
さて、ローレンを勝ち取るのはどっち・・・?



FDRは、軽いノリのチャラ男くん。
女遊びはお手のものですが、本気で好きになったのはローレンがはじめて。

タックはもうすこし堅実で真面目。
バツイチ。



それぞれに魅力があります。
ローレンは結局二股をかけていることが心苦しく、そして迷いに迷います。
そりゃそうですよね。
こんなゴージャスな二人に想いを寄せられたら・・・。
夢でもいいから一度そんな気分を味わってみたいものです。
でも、今作は最悪な二股女になる寸前のところでとどめているのが、
そこはかとなく上品。
そして、タックが、さすがに結婚も経験しているせいか、
若干に気持ちの余裕ありと見た。
まあ、CIAがこんなことに夢中になっていられるくらいヒマなら、
世界は平和ですよね・・・。



非常にお気楽な作品ですが、時々はこういうのもいいなあ~。
永遠なる三角関係ドラマ。
色々なシチュエーションで、似たような作品はできちゃいそうです。



Black&White/ブラック&ホワイト [DVD]
リーズ・ウィザースプーン,クリス・パイン,トム・ハーディ,ティル・シュヴァイガー,チェルシー・ハンドラー
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


「Black & White ブラック&ホワイト」
2012年/アメリカ/98分
監督:マックG
出演:リース・ウェザースプーン、クリス・パイン、トム・ハーディ、ティル・シュワイガー

「銀漢の賦」 葉室麟

2012年12月07日 | 本(その他)
玲瓏・・・そして清冽

銀漢の賦 (文春文庫)
葉室 麟
文藝春秋


            * * * * * * * * *

さてまたハムリンの世界へ、いざ。
「銀漢の賦」。
銀漢とは天の川のことです。
電気などのなかった江戸時代。
さぞかし星がくっきりと美しくみえたでしょうね。


西国の小藩である月ヶ瀬藩。
郡方の日下部源五と名家老と謳われる松浦将監(しょうげん)は、
幼なじみで同じ剣術道場に通っていました。
しかしある出来事を境に進む道が分かれ、絶縁状態となっていたのです。
実はその幼なじみにもう一人、農民の十臓がいました。
この三人が十三・四歳のある夏祭りの夜、美しい夜空を見上げた時に、
小弥太(後の将監)が、天の川のことを「銀漢」というのだ、と二人に教えたのです。


それから約20年の後、農民の一揆が起こり
十蔵と将監は対立した立場になってしまいます。
そして起きた悲劇。


そしてまた更に20年の後。
絶縁状態の将監と源五、二人の路が再び交差。
そしてまた新たな苦難の道を行こうとする。


この二人、いや3人と言わせてもらいましょう。
それぞれの生き様のなんと鮮烈なこと。
この本の帯に「玲瓏にして、清冽なる時代小説」とありますが、
なるほど、ほとんど使っったこともない「玲瓏」とか「清冽」という言葉は、
このためにあるのだなあ・・・と納得してしまいます。
おのれの信じる道を、ひたすら歩む。
そのためには命を捨てることも辞さない。
「蜩ノ記」でもそうでしたが、そういう強く美しい魂が描かれており、
憧れずにいられません。
病みつきになりそうな、男の世界。


私は源五が井堰工事の際に、
人からどのように憎まれても、最後までやるべきことをやり通したというくだりりが好きでした。
なかなかできることではありません。
「実はね・・・」と、こっそり誰かに秘密を打ち明けたくなってしまう。
が、真実は自分の胸の中にだけあればいい。
こういう強さが、カッコいいんだなあ・・・。
それから最後の方は結構スペクタクルでもありまして・・・。
いいですよ、これ。
映画化してもいいんじゃないでしょうか。

「銀漢の賦」 葉室麟 文春文庫
満足度★★★★★

RAILWAYS  49歳で電車の運転士になった男の物語

2012年12月06日 | 映画(ら行)
自らをリストラし、夢にかける



            * * * * * * * * *

ちょうど私くらいの世代かも知れません。
子供の頃、男の子の将来の夢が「電車の運転手さん」というのは。
今作主人公肇(中井貴一)も、子供の頃電車の運転士に憧れていたのです。
それも自分が生まれ育った家のすぐ傍を通る一畑電車、
通称“バタデン”の運転士。
島根県出雲市が舞台です。
肇は東京の一流企業に勤めていましたが、いつも多忙で仕事一筋。
家庭のことはいつも二の次。
いつしか子供の頃の夢など忘れ果てていましたが・・・。
故郷でひとり暮らしをしている母が倒れ、
49歳にしてこれまでの人生をリセット。
故郷の地で電車の運転士になろうと決意します。



リストラされる話はザラにありますが、
自らをリストラする話はそうはありません。
まあ、普通はあり得ないでしょ、と言いたいところですが、
いくつになっても、夢を叶えようとするのに遅いことはない、
そう思いたいので、好感をもってみました。


彼を応援する家族もいいですね。
バラバラだった夫婦と娘。
この家族が住むところを別にしてもなお、絆が強まっていく。
活き活きと働く父親を見たら、文句なんか言えません。
自分も頑張らなくっちゃ、と思えてきますね。



故郷への回帰。
今多くの地方市町村が老人ばかりになっている時に、
こうした働く世代が戻ってくるというテーマもいいと思います。
何も、農業じゃなくてもいいんですよね。
地方都市にもいろいろな人がいて、いろいろな仕事があって成り立っているのだから。
なぜか大都会にばかり集中している人々が
少しでも地方に戻って、故郷の活性化につながればいい、と、
大都会ならざる土地に住んでいる私などは思います。
(札幌は大都会???   
 東京からするとやはり田舎都市と思っているのですが。)
けれど、北海道は北海道で、札幌への集中化が進んでいて、
他人事ではありません。
難しいものです。


さて、バタデンの古い車両は、木製なので、大工さんが修理。
他の部品類も製造されていないので、整備の方が一つ一つ工夫して修理をしていく。
古いものでも大事にしていく、そんな心意気がいいですね。
なんだか人々がしっかりと自分なりに生活している、そんな雰囲気に満ちたこの地方都市。
焦らなくてもいい。
一つ一つ。一歩一歩。
そんな言葉が綺麗事じゃなくて、まっすぐ心に届きます。



もう一人、本物の新人運転士は、
実はプロ入りも決まっていたというのに肘を壊して挫折した野球青年。
彼は彼で、手に入る寸前の夢を逃してしまったということなのです。
でも、泣き言なんか言っていられませんよね。
49歳から再出発を始めた人がここにいる。
それからしたら、まだまだ色々な夢を育てていけるのだから・・・・。
だから若い人はちょっとくらい就職が遅れても、
自分が好きで誇りを持てる仕事に付けばいいのだと思う。
肇の娘とこの彼が、たぶん良い感じになっていくのだろうなあ・・・と、
そこは匂わせる程度というのも良い演出でした。

「RAILWAYS  49歳で電車の運転士になった男の物語」
2010年/日本/130分
監督:錦織良成
出演:中井貴一、高島礼子、本仮屋ユイカ、三浦貴大、奈良岡朋子

「その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ」 吉永南央

2012年12月04日 | 本(その他)
その心意気で、生きたい

その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)
吉永 南央
文藝春秋


            * * * * * * * * *
 
コーヒー豆と和食器のお店を経営する老女・お草さんのシリーズ、
「萩を揺らす雨」の続編です。


「小蔵屋」の近くに「つづら」というライバル店が開店しました。
所狭しと商品が並んでいる和風小物店。
実は私もそういうお店をのぞくのが好きだったりしますが・・・。
このお店は当初こそ賑わっていましたが、儲かればいいという感じで、
客あしらいが悪かったり商品への愛情が感じられなかったり・・・と、
どうも評判はあまりよろしくはなく、
まあ、小蔵屋のライバルには成り得ないですね。
それよりも問題は、この店のオーナーが絡んでくる、あるできごと。


ご近所で、経営難の店のオーナーから詐欺まがいの手口で
家屋を買い叩く業者グループがいるという噂が・・・。
「つづら」のオーナーもその連中とつながりがあるらしい。
気丈なお草さんは、色々と調べ、
その中心人物たるドンと直接に対面することになるのですが・・・。


どれも他人事ではあり、余計なお世話かとも思いながら
ついおせっかいを焼いてしまうのは、
昔まだ幼い長男を亡くしてしまった苦い思いが残っているから。
彼女の中ではいつまでも胸に残っている悔いであり、
そしてまたそれこそが彼女の行動原理であったりもするのですね。


さて、ほとんどヤクザの親分のところに乗り込んでいく“姉さん”、というふうのお草さん。
さすが年の功なんですよね。
実際細腕のお年寄りに過ぎませんが、その気迫で勝負。
かっこいいです。
こんな風に年をとりたいな、と思います。


さて「小蔵屋」は、お草さんが気に入った品を、ゆったりと展示してあるようです。
こんなお店で和風のコーヒーカップを買ってみたいな、と思いました。
もちろん珈琲のお豆も。
珈琲の香とちょっとぬくもりのある上品な和風小物。
そしてお草さんのお人柄に惹かれて
きっとまた続きも読んでしまうでしょうね・・・。

「その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ」 吉永南央 文春文庫
満足度★★★☆☆



「女信長」 佐藤賢一

2012年12月03日 | 本(その他)
信長は女だったからこそ、覇者となった!

女信長 (新潮文庫)
佐藤 賢一
新潮社


            * * * * * * * * *

織田信長は女性だった――!
「織田信長はタイムスリップした現代の高校生だった――!」に匹敵する
センセーショナルな発想です。
興味を持って読んでみました。
この著者の作品を読むのは始めてですが、
普段はヨーロッパの歴史物を主に書いている方ですね。
今作中、信長(というより明智光秀)は、バテレンの合理的な戦の仕方に学んだことになっており、
そのあたりも詳しい記述がありますが、
それこそが著者の真骨頂と伺えます。


さて、今作、織田信長は確かに女で、その正体を知るのは一部の側近のみ。
彼の父が「男ではなく女であることの発想を大事にせよ」と
彼女に家督を継がせたのです。
通常は女であれば家長となることはできない。
そのため女であることを隠して王位についたりする様々な物語がありますよね・・・。
(様々な、といってもリボンの騎士くらいしか思い浮かばないけど)


さて、織田信長の行った大胆な人材登用、
鉄砲の導入や長槍など新たな戦法の採用、
楽市楽座・・・
これらはすべて、これまでのしきたりにとらわれない女であるがゆえの発想だった、とします。
まあそれはよいとして、読み進むうちに、
これは明らかに男性が描いた女性像だなあ・・・と見えてきます。
だって、信長が斎藤道三と対面するやいなや、
いきなり濡れ場に突入したりするんですよ・・・。
彼女はおのれの体も武器と心得ていて男を操ろうとする。
道三も面白がって、彼女の援助をするというのは歴史のとおりですが。
信長が女というのはこういうことなのか・・・、
ちょっと期待した方向とは違いました。
著者が女性なら、もっと違った方向に話が進んだのでは・・・?


信長はうちわでくつろぐ時には男装をとき、
御長(おちょう)という女性の姿に戻ります。
信長の妻、お濃にはまさか自分が女性であることを隠すわけに行かないので、
真相を伝え、親友のように気兼ねなくなんでも話し合える間柄。
そのお付きの者ということにして、
素知らぬ顔で二人して明智光秀と対面したりします。
さて、そうなるとやはり気になるのは、明智光秀との関係ですね。
明智光秀は眉目秀麗(禿げてるけど)、
優秀で、かねてより信長が聞きかじっただけのバテレンの情報をよく勉強して知っている。
そしていつしか彼に思いを寄せ、信長でなく御長として彼の愛人になってしまいます。
(まさかと思うけれど光秀は御長が信長だと気づいていない)
しかし複雑な“覇者としての信長”と“女としての御長”の心。
正論ばかりで煮え切らない明智光秀に信長はついキレて、
衆目の面前で光秀を罵倒してしまう。
・・・つまり完全にヒステリーですね。
確かに信長はこういうキレ方をすると知られていますが、
それが女ゆえであった・・・というのは、同じ女性としてはがっかりです。
ついにあるとき、信長は光秀の面前で着物を脱ぎ捨て、自らの正体を明かします。
(薄々気づいていた・・・と光秀は言いますが・・・)
御長は、光秀を試すかのように無理難題を押し付けますが・・・。


う~ん、どうなのでしょう。
話としては面白かったのですが、あまり好きではない。
そういうことになるかと思います。
あ、でも、ラストは思いがけない歴史の抜け道。
めげずに最後まで読んでよかった。
ちなみに、秀吉は、信長を女と知るやいなや襲いかかってくるヒヒジジイです。


今作はTVドラマ化されていまして、
今年(2012年)12月末、フジテレビ系で2夜連続放送されるとの事。
信長には天海祐希。
光秀には内野聖陽。
う~ん、見たくもあり、見たくもなし・・・。

「女信長」佐藤賢一 新潮文庫
満足度★★★☆☆
(これも強力なプラス・マイナスで、結果普通・・・)

2012年12月02日 | 映画(た行)
“卵”が示すもの



            * * * * * * * * *

セミフ・カプランオール監督の「ユスフ3部作」のうちの第1部。
先に3部の「蜂蜜」を見てしまいましたが、3作全て見たくなってしまいました。


イスタンブールで暮らす詩人のユスフ。
(といっても、もっぱら古書店で生計を立てているようです。)
あのユスフ少年が、こんなふうに成長したのだな、
と、3部を見た私は感慨にふけりますが、それもつかの間、
彼のもとに母の訃報が届きます。
ユスフは何年も帰ったことがなかった故郷へ。
彼は母の古びた家で、アイラという美しい少女に出会います。
遠縁の娘ですが、ずっとお母さんの面倒を見てくれていたのです。
彼女は、お母さんが神の生贄に羊を捧げて欲しいと言っていたことを告げます。
何故かなりゆきで早々に帰ることもならず、
二人で神に羊を捧げる旅にでることに。
ケータイもある現代のトルコです。
だからすでにユスフは宗教にはさほど思い入れがないのですが、
年老いた母は、宗教を支えに生きてきたのでしょう。
せめて母の晩年の思いを叶えてあげようというわけなのです。
やはりバックミュージックなどはなく、
様々な自然の音、生活の音が密やかに響きます。
私たちはひたすらじっと彼らの仕草や表情を追って、
彼らの感情を読み取るしかないのですが、
だからこそ油断ならない。
だからきっと人によって読み方は違うのかも知れません。
答えを自分で探す映画なんですね。
一作目よりも次第にこの世界にハマっていく私。



例えば今作の「卵」という題名。
ユスフは母の葬儀の後、卵が割れる夢を見ますね。
一人森に入ってお昼寝をしたのは、
幼い時にお父さんを亡くして、森に包まれて眠ったこと思い出したのかも知れません。
卵はつまり、命なのでしょう。
今ひとつの命が消えた。
それからまた、ユスフは故郷を離れて独り立ちし、
ほとんど母のことを思い出すことも少なくなっていただろうと思われるのですが、
母を亡くして始めて、
しかし実は、自分は卵のように母の手の平の中で大切に守られていたのだと気づいたのだと思います。
鶏小屋を探しても見つけられない卵=喪失感ということになりましょうか。
そして、ラストにまた卵が出てきますね。
これこそが、新しい生命の息吹を感じさせる卵。
それからまた、アイラに思いを寄せている男性が登場することで、
ちょっとした複雑さとささやかな可笑しみをプラスしているところも効いています。
素敵な物語でした。

「卵」「ミルク」「蜂蜜」 [DVD]
ジーダス
ジーダス


「卵」
2007年/トルコ・ギリシャ/97分
監督:セミフ・カプランオール、
出演:ネジャット・イシュレル、サーデット・イシル・アクソイ、ウフク・バイラクタル、トゥリン・オゼン