映画と本の『たんぽぽ館』

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「銀漢の賦」 葉室麟

2012年12月07日 | 本(その他)
玲瓏・・・そして清冽

銀漢の賦 (文春文庫)
葉室 麟
文藝春秋


            * * * * * * * * *

さてまたハムリンの世界へ、いざ。
「銀漢の賦」。
銀漢とは天の川のことです。
電気などのなかった江戸時代。
さぞかし星がくっきりと美しくみえたでしょうね。


西国の小藩である月ヶ瀬藩。
郡方の日下部源五と名家老と謳われる松浦将監(しょうげん)は、
幼なじみで同じ剣術道場に通っていました。
しかしある出来事を境に進む道が分かれ、絶縁状態となっていたのです。
実はその幼なじみにもう一人、農民の十臓がいました。
この三人が十三・四歳のある夏祭りの夜、美しい夜空を見上げた時に、
小弥太(後の将監)が、天の川のことを「銀漢」というのだ、と二人に教えたのです。


それから約20年の後、農民の一揆が起こり
十蔵と将監は対立した立場になってしまいます。
そして起きた悲劇。


そしてまた更に20年の後。
絶縁状態の将監と源五、二人の路が再び交差。
そしてまた新たな苦難の道を行こうとする。


この二人、いや3人と言わせてもらいましょう。
それぞれの生き様のなんと鮮烈なこと。
この本の帯に「玲瓏にして、清冽なる時代小説」とありますが、
なるほど、ほとんど使っったこともない「玲瓏」とか「清冽」という言葉は、
このためにあるのだなあ・・・と納得してしまいます。
おのれの信じる道を、ひたすら歩む。
そのためには命を捨てることも辞さない。
「蜩ノ記」でもそうでしたが、そういう強く美しい魂が描かれており、
憧れずにいられません。
病みつきになりそうな、男の世界。


私は源五が井堰工事の際に、
人からどのように憎まれても、最後までやるべきことをやり通したというくだりりが好きでした。
なかなかできることではありません。
「実はね・・・」と、こっそり誰かに秘密を打ち明けたくなってしまう。
が、真実は自分の胸の中にだけあればいい。
こういう強さが、カッコいいんだなあ・・・。
それから最後の方は結構スペクタクルでもありまして・・・。
いいですよ、これ。
映画化してもいいんじゃないでしょうか。

「銀漢の賦」 葉室麟 文春文庫
満足度★★★★★