映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

俺物語!!

2016年07月11日 | 映画(あ行)
偉大なる勘違いのラブストーリー



* * * * * * * * * *

鈴木亮平さんが30kgの増量をして挑んだという本作。
原作は少女漫画のコメディということで、わざわざ見るまでもないかと思っていたのですが、
つい見てしまいました・・・、ところが、意外にもハマりました!!


いかつい顔面、屈強な肉体、豪傑で硬派。
しかし、限りなく人には優しく純情な剛田猛男(鈴木亮平)。
男子からの信頼は厚いのですが、女子は怖がって近寄りません。

そんな彼の親友が、女子からの人気ナンバーワン、
超イケメンでクールな砂川誠(坂口健太郎)。
ある日、街なかでヤンキーにからまれていた女子高生・大和凛子(長野芽郁)を猛男が助けるのですが、
その時に凛子は猛男に一目惚れをしてしまいます。
そして猛男もまた・・・。
普通ならそこでめでたし、めでたしなのですが、
何しろ、猛男には“絶対に女子にモテない”という自信がある。
だから、大和は砂川を好きなのだろうと勝手に勘違いをして、
自分の気持は押し殺し、なんとか大和と砂川の仲をとり持とうと奔走するのです。
そうすると、大和の方は猛男が好きなのに、
何故か猛男からは遠ざけられている気がする・・・。
お互いに大好きなのに咬み合わない、というこのおかしさと切なさ。
この勘違いの恋で全編通してしまうところが凄い!!
イヤイヤ、一番すごいのは大和さんの心意気ですね。
とにかく初めから、砂川でなく猛男がかっこ良くて、素敵で、大好きなのです。
蓼食う虫も好き好き・・・。
うん、でも実際猛男はカッコいいですよね。



で、気になるのは砂川の気持ちなのですが・・・。
もしかして、彼は猛男のことを???
と勘ぐりたくなるのですが、どうなのでしょう。

実はエンドクレジット後にショッキングなラップキス(!?)のシーンがあるのですが、
その時の砂川の心境は??? 
どうぞここをお見逃しなく。



鈴木亮平さんの怪演に笑って笑って・・・、
でも切ないシーンではつい泣かされてしまいます。
「セカネコ」で泣かないのに、なぜこんな作品で泣けるんだっ!!
涙のツボは、すなわち、登場人物との共感なのかもしれません。



俺物語!!(通常版) [DVD]
鈴木亮平,永野芽郁,坂口健太郎
バップ


「俺物語!!」
2015年/日本/105分
監督:河合勇人
原作:河原和音、アルコ
出演:鈴木亮平、長野芽郁、坂口健太郎、寺脇康文
勘違い度★★★★★
純情度★★★★★
満足度★★★★☆

ブルックリン

2016年07月09日 | 映画(は行)
ふたつの故郷でゆれる心



* * * * * * * * * *

アイルランドから、ニューヨーク・ブルックリンにやってきた少女のストーリー。
エイリシュ・レイシー(シアーシャ・ローナン)は、姉のすすめで
アイルランドからブルックリンへやって来ました。
女性ばかりの寮に住み、デパートの売り子として働く新生活。

しかし、この大都会ニューヨークでは戸惑うことばかりで、
激しいホームシックになってしまいます。
そんな時、イタリア系移民のトニー(エモリー・コーエン)と知り合い、
恋をすることで、彼女の生活は次第に生彩を帯びて来ます。

2年が過ぎ、仕事にも慣れ、夜は大学で会計士の勉強をし、恋人もいる。
なんとすばらしい日々。
しかしそんな彼女のもとに、ある悲報が届きます。

やむなくアイルランドへ帰国するエイリシュ。
故郷は思いの外穏やかで、温かでした。
請われて、やむなくある事務所で仕事をし、旧友たちと遊びに行ったりもする。
特に、以前は毛嫌いしていたジム・ファレル(ドーナル・グリーソン)が
好意を寄せてくれていることも知り・・・。

エイリシュの心は揺れ動きます。
ブルックリンへ戻るべきなのか、それとも、この故郷に残るべきなのか・・・。
でも実は、今となってはブルックリンも、彼女を待つ人がいる故郷なんですけどね。



独り立ちのはじめは、心細くて故郷が懐かしい。
そんな心もとないエイリシュのシーンがなんといっても胸を打ちます。
家を出て独り立ちをする。
多くの人が多かれ少なかれ経験をすることですよね。
だから、とても共感がもてます。
しかも、今のように簡単に行き来できたりはしない。
船に揺られ、船酔いで苦しい思いをして数日、ようやく辿り着く場所。


エイリシュは、故郷に帰って、そこが以前自分がいた時とは違うと感じたはずです。
仕事にも、恋にも、余裕がある。
昔のように自信のない自分とは違う。
それは自分がニューヨークで成長したからに他ならないのです。
そして、そこには自分を待ってくれている人がいる。
どちらに進むべきかは明らかなのですけれど・・・。
ちょっと、優柔不断に過ぎたかもしれません。
でもそこが人間というもの。
何事も理屈だけでは物事は進みません。
でも彼女の目をさましてくれたのが、皮肉にもあのいや~な人物だったというのが、
なかなかイケています。



こんなふうな、一人の女性が自立して歩み始めるストーリーというのは山ほどあると思うのですが、
本作が格別なのは、この舞台がアメリカで、そしてニューヨークというところでしょう。
自由の国アメリカ。
そのイメージは今も残っています。
一介の田舎出の少女でも何者かになれて、幸せになれる。
そういう、ささやかではあるけれどアメリカンドリームを叶えるから、
その凛とした佇まいがなお一層美しく感じられる。


ただし、現実を言えば、
今アメリカへ渡ろうとする移民の方は、なかなかこういう夢も果たせないのではないでしょうか。
貧乏人はどこまで行っても貧乏人のまま・・・というこの社会の構図の中では・・・。
だからもしかしたら、本作は失われた「夢」の物語なのかもしれません。
ブルックリンの施設で、アイルランド移民の老人たちが集い、
一人が懐かしい故郷の歌を歌い上げるシーンがあって、ここは泣けました。
素晴らしい歌だったなあ・・・。
つまりは結局、ここにも夢破れた人々が大勢いる、ということでしたか。
今も昔も、やはりそう変わらないのかな・・・・。



エイリシュの、グリーンのカーディガンが印象的です。
シアーシャ・ローナンの瞳の色によく似合う。

「ブルックリン」
2015年/アイルランド・イギリス・カナダ/112分
監督:ジョン・フローリー
出演:シアーシャ・ローナン、ジュリー・ウォルターズ、ドーナル・グリーソン、エモリー・コーエン、ジム・ブロードベント

時代性★★★★☆
満足度★★★★★


「御手洗潔の追憶」 島田荘司

2016年07月08日 | 本(ミステリ)
もっと御手洗を読みたい!!

御手洗潔の追憶 (新潮文庫nex)
島田 荘司
新潮社


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ちょっとヘルシンキへ行くので留守を頼む―。
そんな置き手紙を残し、御手洗潔は日本を去った。
石岡和己を横浜・馬車道に残して。
その後、彼は何を考え、どこで暮らし、どんな事件に遭遇していたのか。
ロスでのインタビュー。
スウェーデンで出会った謎。
明かされる出生の秘密と、父の物語。
活躍の場を世界へと広げた御手洗の足跡を辿り、追憶の中の名探偵に触れる、番外作品集。


* * * * * * * * * *

島田荘司さんの「御手洗潔シリーズ」の番外編的短編集です。
横浜・馬車道から石岡くんを残して、ヘルシンキへ行ってしまった御手洗周辺のあれこれ。
ですから、わたしのような御手洗ファンにはとても楽しめるのですが、
そうではないという方には特別にはオススメしません。
私も以前別のところで読んだ作品もあるようなんですが、
いやはや、例によって記憶が定かではないので、
しっかりはじめてのように楽しめました。


「天使の名前」は、ちょっと異色作。
なにしろ昭和16年の話。
いくらなんでも御手洗はまだ生まれていない。
ところが登場するのが外務省勤務の御手洗直俊。
特に記述はないですが、これ、御手洗潔のお父さんですよね。
彼は「総力戦研究所」で、日米がもし対戦するとどうなるかを具体的にシミュレートする、
ということをやっていたのです。
様々なデータから、資源が少ない日本の悲惨な状況が炙りだされ、
絶対に日米開戦などすべきではない、との結論に達するのですが、
軍部はそんなことはまるで無視。
ついには真珠湾攻撃に突入・・・
そんな状況が、ドキュメンタリータッチで描写されています。
戦争を止めることができなかった御手洗は、失意のまま戦中を過ごしますが、
そんな彼があの8月6日、原爆投下直後の広島に足を踏み入れることになる。
そこで彼が見たものは・・・。
広島出身の著者らしい、貴重な一作です。


「石岡先生、ロング・ロング・インタビュー」は、完璧にファンサービスですね。
以前にもどこかで読んだ気がしますが、
石岡くんのルックスは「ヒュー・グラントを少しぽっちゃりさせて、一重瞼にした感じ」
ですって。ふーむ。


「ミタライ・カフェ」は、スウェーデンのウプスラ大学で、
研究に勤しむ御手洗とその友人たちの様子が描かれます。
この調子なら、ノーベル賞受賞も近い・・・って、雰囲気ですね。
ですが、この文章が書かれたのが2002年。
現在の御手洗はどうしているのか。
・・・って、御手洗もすでにかなりのお年のはず。
だからなのか、近年、ごく最近の御手洗はあんまり出てきません・・・。
残念。


「御手洗潔の追憶」島田荘司 新潮文庫nex
満足度★★★.5

ベル&セバスチャン

2016年07月07日 | 映画(は行)
犬とともにアルプスの野山を駆け回り、成長する少年



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本作の原作はセシル・オーブリー「アルプスの村の犬と少年」。
これは、日本で放映されたTVアニメ「名犬ジョリー」の原作ともなったものです。


第二次世界大戦中、ドイツの統治下に置かれたフランス。
アルプスの小さな村で、セバスチャンはお爺さんと暮らしています。
「お母さんは“アメリカ”に行っている」とお爺さんは言うのですが・・・。
ある時、セバスチャンは山で、家畜や人を襲い“野獣”として恐れられている犬と遭遇。
でも犬は言われているように凶暴ではなく、セバスチャンと心を通わせるようになります。
そして、あくまでも“野獣”を処分しようとする村人たちから守ろうとしますが・・・。
さてそんな時、この山奥の村にもドイツ兵がやってきます。

彼らは、この村からアルプスの峠を超えて隣国のスイスへ逃れようとするユダヤ人を
捕らえるためにやってきたのです。
村人の中にはユダヤ人たちの案内をし、手助けをしているものもいます。
そして、クリスマスの夜・・・。



なんといってもこのセバスチャン役の男の子がかわいい!!
そして、この真っ白で巨大なグレート・ピレニーズのベルが
賢く可愛くて、そしてかっこいい!!

アルプスの夏の花でいっぱいの野原を犬と駆けまわる少年。
美しく大好きなシーンです。
ベルは、はじめ登場するときは、灰色のサエない犬なんですよ。
でも、セバスチャンと一緒に川で泳いでみたら、
真っ白でふかふか、おなじみのピレネー犬。
犬好きにはたまりません。



亡命しようとする人々を助けるというエピソードは原作にはないそうなんですが、
ここのところで、物語がしっかり引き締まって、大人のためのものなりました。
また、本作にはセバスチャンが「学校へ行く」という隠れたテーマがあったように思います。
セバスチャンは学校へ行っていなかったのですね。
村人も「一日中山で遊び呆けている」と、
セバスチャンを学校へ入れないお爺さんを責めているシーンもありました。
セバスチャン本人も学びたいなどとは少しも思っていなかったようなのですが、
でも、学ぶことの必要性を彼が感じるところがいくつかあるのです。
セバスチャンはお母さんのいる「アメリカ」が山の向こうにあると思っていました。
お爺さんがそう言ったから。
でも、ある人から「山の向こうはスイスで、アメリカは海の向こう」と言われます。
地図を見ても字が読めないので、「アメリカ」という字を人に書いてもらって、
それでようやくアメリカの位置を知ることができました。
また、ベルが怪我をした時も、
治療法は、お爺さんが傷口にウオッカをかけるやり方しか知りません。
「学校へ行きたい」などというセリフは一つも出て来ないまま映画は終わるのですが、
エンドロールでセバスチャンが学校へ行き始めたらしい映像が入るではありませんか!!
なんとも素敵な演出でした。
頭も良さそうな子なので、もしかしたらうんと勉強をして、
獣医にでもなるのかもしれません。
また、お爺さんがなぜ山の向こうの「アメリカ」にお母さんがいる、
などといったのかという理由が明かされるところも、しんみりとしてしまいます。



公開時、見そびれていた作品ですが、この度見ることができてやっぱり良かった。
ハマりました。

ベル&セバスチャン [DVD]
フェリックス・ボシュエ,チェッキー・カリョ,マルゴ・シャトリエ,ディミトリ・ストロージュ,メーディ
TCエンタテインメント


「ベル&セバスチャン」
2013年/フランス/99分
監督:ニコラス・バニエ
出演:フェリックス・ボシュエ、チェッキー・カリョ、マルゴ・シャトリエ、ディミトリ・ストロージュ、アンドレーアス・ピーチュマン

犬好きにはたまらん度★★★★★
少年の生きる力度★★★★★
満足度★★★★★

「エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦」 梨木香歩

2016年07月06日 | 本(その他)
辺界の地を旅すること

エストニア紀行: 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦 (新潮文庫)
梨木 香歩
新潮社


* * * * * * * * * *

首都に巡らされた不思議な地下通路。
昔の生活が残る小さな島の老婆たち。
古いホテルの幽霊。
海辺の葦原。
カヌーで渡る運河の涼やかな風。
そして密かに願ったコウノトリとの邂逅は叶うのか…。
北ヨーロッパの小国エストニア。
長い被支配の歴史を持つこの国を訪れた著者が出会い、感じたものは。
祖国への熱情を静かに抱き続ける人々と、彼らが愛する自然をつぶさに見つめた九日間の旅。


* * * * * * * * * *

梨木香歩さんの紀行文です。
さてしかし、エストニア? 
どこだったけ?というのが恥ずかしながら私のはじめの疑問。
はい、でもちゃんと地図も入っていました。
バルト海に面した、リトアニア・ラトビアと並んだ小さな国。
東隣はロシアで海の向こうはフィンランド、そしてスウェーデン。
自然の雄大な営みや、渡り鳥を愛してやまない梨木香歩さんらしい行き先です。


巻末の解説で奥西俊介氏が述べていますが、
つまり、これは辺界の地。
「中央から見れば僻地であり、両側から見れば境目。」
つまり「境界」ということで、
常々私は、梨木香歩さんの文章はあちら側とこちら側の「境界」を意識している
と認識しているので、すごく納得できたのでした。
この小さな国は、スウェーデンの一部であったり、ロシアの一部であったり、
常に大国の脅威に晒されながらも、独自の文化を培ってきていたようです。
そういう、国と国の境界という意味もあると思いますが、
おそらく著者は人界と未開の地との境界を意識していたのではないかと思います。


著者は、案内の方やカメラマン、数人でこの旅行をしているのですが、
ある時一人でホテル近くの森に踏み込みます。

「じっとしていると、時々自分が人間であることから離れていくような気がする。
人が森に在る時は森もまた人に在る。
・・・何か、互いの浸食作用で互いの輪郭が、少し、ぼやけてくるような、
そういう個と個の垣根がなくなり、重なるような一瞬がある。」


だから人は時々森に入って、自分の中の「森」を補填するのではないか、
というのですが、私にはすごく納得できる言葉ですが、
まあ、人にもよるでしょうね。


私など住宅地からほんの一歩ばかり離れた山道を歩くだけでも
ちょっぴりそんな気持を味わうのですから、
北欧の太古の森に踏み込めばどんなだろう・・・と、憧れてしまいます。
きのこも取り放題!みたいでした!


古くていかにも不気味なホテルの話などもあり、興味はつきません。
全く観光地ではない、こういうところを歩くのもいいですねえ・・・。

「エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦」梨木香歩 新潮文庫
満足度★★★★☆

日本で一番悪い奴ら

2016年07月05日 | 映画(な行)
成果主義がもたらした結果・・・



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あまりにも強烈だったので、私らがまた呼びだされちゃったね。。
まあね、綾野剛主演じゃなかったら見なかっただろうなあ・・・というタイプの作品ではあります。
2002年に北海道警察で起こり、「日本警察史上最大の不祥事」と呼ばれた事件を元にしているんだね。
地元北海道ですからねえ・・・、
 北海道民としても申し訳ない気がしちゃう・・・。
さて、諸星要一(綾野剛)は、柔道の腕を見込まれて警察に入ったわけだけど・・・
若き新人時代は、それでも普通に正義観は持っていたわけ。
ところがある先輩に、捜査協力者「S(スパイ)」を使って、裏社会に飛び込めばいいのだ、と教えられる。
 そうして点数を上げることが出世の早道、と。
 その助言に従い、「S」とともに、自分自身も悪事に手を染めていくことに・・・。

でもこれは、実は彼一人の独断というわけでもないみたいなんだね。
 彼の上層部も暗黙のうちに認めていたと言うか・・・。
密輸の拳銃や覚醒剤を押収することは、諸星個人の成績に影響することはもちろんだけど、
 道警の成績にも繋がるというわけだ。
地方の警察は中央に対しても成果を見せなければならないんだね・・・。
 地方の悲哀でもあるけれど・・・。
 そのために、無理やり拳銃を買い集めたりまでしちゃダメだろう・・・。
拳銃の密輸を摘発するために、覚醒剤の流入をわざと見逃す・・・なんて、そんな馬鹿な!



はじめは初々しい諸星が、26年を経て次第に彼本人がすっかりヤクザになっていく様・・・、
 いやはや、恐れいりました。
こういうやさぐれた役、綾野剛くんは似合うわー。
ナイーブな青年役だってぴったりだしね。
 何でもこなしちゃうからやっぱり凄い。



でもね、最後の方の役柄は結構な年齢になっていたはずで、
 だから彼の「S」の一人である太郎(YOUNG DAIS)が諸星を「オヤジ」と呼ぶのだけど、
 そこでいちいち違和感を持ってしまったのだわ、私。
どう繕っても、綾野剛くんは、そんな年じゃないもんねー。
せめて「アニキ」なら良かったのに。
イヤ、だからこれは演技のせいじゃないんで、それだけに、惜しかった。



映画はコミカルにできてるけど、実際には自殺者まで出て、すごくシビアな話なんだよね。
 私ら、札幌に住んでいたってススキノの奥深くになんかほとんど行くことはないけど、
 怖い場所だわねー。
普通に暮らしている庶民には想像もつかない話ではあるけれど・・・、
 結局この話では警察が見逃したせいで大量の覚醒剤が出まわってしまって、
 それで苦しむ人も大勢いただろうってことだよ。



ある老女が覚醒剤を使っていて、刑事の一人が思わずつぶやくところがあったでしょ。
 「よくシャブなんか買うお金があるなあ。」
 諸星は言うんだよ。
 「ああ、生活保護もらってるからな。」
 思わず笑っちゃったよ。
 いや、笑い事じゃないんだけど・・・。


ヤクザとツルんだ悪徳警官っていうのは、TVドラマや映画によく登場するけど、
 まさか本当にいるとはねえ。
実際、前代未聞、史上最大の不祥事でした。
ほかでも似たようなことのないように、祈ります。



「日本で一番悪い奴ら」
2016年/日本/135分
監督:白石和彌
原作:稲葉圭昭
出演:綾野剛、YOUNG DAIS、ピエール瀧、中村獅童、植野行雄、青木崇高、矢吹春奈

強烈な個性度★★★★★
不祥事度★★★★★
満足度★★★★☆

クリーピー 偽りの隣人

2016年07月04日 | 西島秀俊
ザワザワさせるための仕掛け



* * * * * * * * * *

さて久しぶりにぴょこぴょこコンビの登場で~す!
西島秀俊VS香川照之という黄金カード。
 期待は高まりますねえ。



高倉(西島秀俊)は元刑事なのだけれども、わけあって職を辞し、
“犯罪心理学者”として大学に勤め始めたところ。
家も引っ越して、妻・康子(竹内結子)と愛犬と、新生活を始めるところだね。
ところが、隣人 “西野”(香川照之)の一家に、何か違和感を覚えてしまう。
 西野は、時に無愛想で、話すことが咬み合わないし、
 しかしまた時には妙に親しげでもあり、何かとらえどころがない感じ。
一方、高倉は元同僚の野上(東出昌大)から、6年前に起きた一家失踪事件の分析を依頼されるのです。
 家族の中でただ一人残された長女早紀(川口春奈)の記憶を探ってほしいと。
しかし、高倉が6年前の事件に関わっているうちに、家では妻・康子の危機が迫っていた・・・!
 また、そんな時、西野の娘は高倉に言うのです。
 「あの人はお父さんじゃない!」



う~ん、やっぱり香川照之さんの演技の効果が大だよね。
 あ~、気持ち悪かった・・・。
 それで、「クリーピー」っていうのは?
「ゾッとするような」とか「身の毛のよだつ」というような意味だって。
 正にこのストーリーを表すにぴったりな題名というわけ。



すごく緊張感と恐怖を呼ぶシーンが印象に残っているよ。
 一つは、高倉が6年前の事件の起きた家の前で、
 何か嫌な予感と言うか気配におののいて、立ちすくむシーン。
カメラがずんずんと急上昇して行って、かなりの上空から高倉を見下ろすようになるシーンだよね。
私、高いところが苦手なので、余計緊張感が湧き上がってきて、怖かったよ~。
 あれ、どうやって撮ったんだろね。
 今までこんなカメラワークを見たことがない。
そしてこれは事件のあった家と隣家との位置関係をはっきり示す目的もあったわけだけれど。
あ、そうか。そのことに気が付かないくらい、このカメラワークに恐れおののいちゃってました。



それから、もう一つ怖かったのが、高倉が6年前の事件の生き残り、早紀から記憶を聞き出そうとするシーン。
 場所は大学の研究室。
 ガラス張りで、窓の外には学生たちがおしゃべりしていたりする、開放的で明るい場所。
でも、早紀がとぎれとぎれに記憶を蘇らせていくに従って、辺りがだんだん暗くなってくるんだね。
 天候が急変して、晴れていた空が急に影って雷がなり、雨が降ってくるんだ。
 何やら、嫌な記憶が呼び覚まされそう・・・。
そしてまた、一見穏やかそうな高倉の本性がここで見えてくるよね。
 研究熱心のあまり、つい激昂してしまうようなところが・・・。
そうだよね、これは早紀のためなんかじゃなくて、
 あくまでも研究というか興味本位のところが見られるんだな。
作中では、詳しく述べられてはいないけれど、
 この早紀って、つまり、西野の娘の澪と同じ役割を務めていたってことなんじゃ・・・!
そうだよ、だからこそその記憶は封印してあったのだし、
 決して思い出すべきではなかったということなんだな・・・。


う~む、恐るべき作品だなあ・・・。
 不気味さや恐怖がすごく良く計算されてる気がする。
 観客をザワザワさせるための仕掛け満載ってことだ。



それにしても康子が、どうしてあんなに安々と西野の手にかかってしまったのかというのも問題。
 だってね、西野に「ご主人と私とどちらが魅力的・・・?」なんて聞かれてもね。
 どう考えても西島さんのほうがいいに決まってるじゃん!! 
 ばかなこと聞くんじゃなーい!!
こらこら・・・。
 そうはいっても、あの必ずしも正義感だけじゃないダンナだしね。
 多分妻の料理なんかほめたこともないんだよ。
 でも西野は手放しで料理を褒めるよね。
 手作りのチョコレートのこととかも。
 そういうところでつい気を許しちゃったんだろうなあ。
 第一印象は全然よくなかったにも関わらず。
それと、「飛んで火に入る夏の虫」みたいなもんで、つい西野の吸引力に引きこまれちゃったんだろう・・・。
そういうちょっと危なげな妻を、竹内結子さんがまた、好演しているわけだ。



は~、それにしても怖かったワ・・・。
 とりあえずワンちゃんが無事でよかった・・・。

「クリーピー 偽りの隣人」
2016年/日本/130分
監督:黒沢清
原作:前川裕
出演:西島秀俊、香川照之、竹内結子、川口春奈、東出昌大、藤野涼子
クリーピー度★★★★★
西島秀俊の魅力度★★★★☆
満足度★★★★☆

草原の実験

2016年07月03日 | 映画(さ行)
ラストまで見てやっと分かる「実験」の意味



* * * * * * * * * *

ほとんど予備知識なしに見たこの作品。
まずはセリフも説明も一切なし、ということに驚きますが、
実際そんなものは必要ないのでした。
登場人物たちの表情やしぐさが何よりも雄弁に状況を物語っています。
本作は、旧ソ連・カザフスタンで起きた実際の出来事から着想しているそうなので、
とりあえず、それくらいは頭に入れておくと、状況は飲み込みやすいですね。


見渡す限り地平線しかない草原の真ん中の一軒家。
そこで平和な日々を送る父と娘。

しばらくはそんな二人の日常が描写されます。
父親は毎日何処かへ出かけていきます。
どうも軍の基地あたりで仕事を得ているようではあります。
娘が父親を途中まで見送った帰りには近所の青年が馬でやってきて、
家まで送り届けてくれます。
近所とはいっても、
用事があれば銃を発砲して来てもらうように合図しなければならないほどの距離。


ある日、近くを通りかかり、水を分けて貰いに来た青年が
彼女を一目見てトリコになってしまいます。
それも無理はない。
本当に美少女なんですよ、この娘が・・・! 
まだ固い青いリンゴのような清々しさをたたえた美少女。
でもある時、二人の青年がはち合わせをしてしまい、
彼女をめぐって喧嘩を始めた・・・。



いかつい顔のくせにちょっと無邪気な少年のようなところのあるお父さんとか、
この二人の青年とか、
ほんのりとしたユーモアを漂わせながら、ストーリーは展開していきます。
しかしある夜、このささやかな平和は軍の訪れによって破られる・・・。



なんと意外にも、兵士が持ってきたのはガイガーカウンターなのです。
あまりにも異質です。
そこで一つの大きな悲劇が起こるのですが、
ラストで、それは単なる伏線であることがわかります。


そもそも「実験」などという即物的な題名に、始めから違和感があったわけですが、
ラストまで見てはじめてその意味がわかるのです。
こんなのどかとしか言いようのない場所で、
ささやかに営まれているどこにでもありそうな人々の小さな幸せ。
それを簡単に踏みにじる巨大な「何か」。


セリフがないからこそ、饒舌な作品以上に食い入るように見てしまう。
そして、言葉を使わなくても伝わるそのメッセージ。
忘れられない作品となりそうです。

草原の実験 【プレミアム版】 [DVD]
エレーナ・アン,ダニーラ・ラッソマーヒン,カリーム・パカチャコーフ,ナリンマン・ベクブラートフ=アレシェフ
TCエンタテインメント


「草原の実験」
2014年/ロシア/97分
監督・脚本:アレクサンドル・コット
出演:エレーナ・アン、ダニーラ・ラッソマーヒン、カリーム・パカチャコーフ、ナリンマン・ベクブラートフ=アレシェフ
美少女度★★★★★
衝撃度★★★★★
満足度★★★★☆


ブログ分離のお知らせ

2016年07月02日 | インターバル
「札幌散歩」と「たんぽぽ工房」

いつも当ブログを覗きに来ていただいている皆様、
どうもありがとうございます。
4月から、私のセカンドライフが始まり
ブログ記事も以前より充実させることができていると思います。
でも、“映画と本の『たんぽぽ館』”にも関わらず、
最近は映画でも本でもない記事が多すぎるような気がしていました。
来ていただく方の興味によっては、
どうでもよいことも多いのではないかと・・・

そこでこの度、
「札幌散歩」と「たんぽぽ工房」の部分を別ブログとして
新たに立ち上げることにしました。

→ たんぽぽのさっぽろ散歩

です。
姉妹ブログとして、そちらの方もぜひ覗いてみてください。

トップは、「白い恋人パーク」です!



「ランクA病院の愉悦」海堂尊

2016年07月01日 | 本(その他)
やはりストレスの軽減が、健康への近道なのか

ランクA病院の愉悦 (新潮文庫)
海堂 尊
新潮社


* * * * * * * * * *

とんでもない医療格差が出現した近未来の日本。
売れない作家の終田千粒は「ランクC病院」で
銀行のATMに似たロボットの診察しか受けられない。
そんな彼に「ランクA病院」潜入取材の注文が舞い込む表題作。
"日本一の健康優良児"を目指す国家プロジェクトに選ばれた男の悲喜劇「健康増進モデル事業」など、
奇抜な着想で医療の未来を映し出す傑作短篇集。


* * * * * * * * * *

海堂尊氏の「医療」に係るコミカル&シニカルな怪作短編集。
でもこれもやはり海堂ワールド。


冒頭「健康増進モデル事業」では、
厚生労働省の新企画として実験的に行われたこの事業で、
実験材料?に選ばれた男の悲喜劇が描かれます。
健康優良児ならぬ、「健康優良成人」に仕立てられる男。
健康のために職場などの数々のストレスを"国家権力"が排除してくれたりもするのですが・・・。
厚生労働省の"あの人"も一瞬ですが登場したりする、ユニークな一作。


「ランクA病院の愉悦」では、病院は患者の支払能力に応じて
A~Cの3つにランクづけられており、
貧乏人はCランクの病院にかかるしかありません。
そこでは、銀行のATMみたいなロボットが
アンケート形式の質問をして診断をするという、
なんともお寒い近未来のお話・・・。
後書きには
「ここに書かれた物語はフィクションだが絵空事ではない。
そう思ってこころして読んで欲しい」
とあります。
いやしかし、今でもロボットのほうがマシ、みたいな対応をする医者もいますよね。
いっそ、うんと丁寧な対応をするようプログラムされたアンドロイドが
開発されるならそれでもいいかも・・・。


海堂尊氏、今年で作家デビュー10年だそうです。
かなりの著作があるように思いますが、まだそんなものだったんですね。
これまで桜宮市を中心とした海堂ワールドを繰り広げてきましたが、
今度は全くテーマを変えて、チェ・ゲバラのストーリー「ポーラスター」に取り組むとのこと。
それもなんだか面白そうです。

「ランクA病院の愉悦」海堂尊 新潮文庫
満足度★★★.5