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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「落陽」朝井まかて

2017年11月12日 | 本(その他)
明治天皇と神宮の森

落陽
朝井 まかて
祥伝社


* * * * * * * * * *

明治天皇崩御直後、東京から巻き起こった神宮造営の巨大なうねり。
日本人は何を思い、かくも壮大な事業に挑んだのか?
直木賞作家が、明治神宮創建に迫る書下ろし入魂作!


* * * * * * * * * *

明治天皇崩御の後、その御霊を祀るための明治神宮を造営。
そしてそこに広大な人工の森を作ろうとするプロジェクトが立ち上がりました。
東部タイムスの記者瀬尾は、
同僚の女記者伊東とともにそのことの取材を続けることになります。
伊東は、この巨大なプロジェクト自体に強く興味を持ったのですが、
瀬尾は少し違う。
明治の新時代に否応なく京都からこの東京の地に身を移し、
新政府の中心として据えられた明治天皇の心中に、
瀬尾は触れてみたくなったのです。
天皇の崩御に伴い、ほとんど全国民が悼み喪に服した。
そして、造営にも、民間から十万本に近い献木があった。
人々の天皇に対するこの敬愛の熱意はどこから来るのか。
また、それに対して45年の在位中、
天皇自らのお気持ちはどういうものだあったのか・・・、
それを計り知ろうとするのはおそれ多いことだとは思いつつ、
瀬尾は思いを巡らさずにいられないのです。


明治天皇が、東京へ下ったのは17歳の時。
文明開化で世の中はどんどん変わっていくし、
彼を祭り上げた薩長の者たちも次第に姿を消してゆく。
大きな戦争もあった・・・。
生まれ育った故郷に、帰りたくとも帰れるはずもなし・・・。
明治維新期の色々なドラマはあるけれど、
確かに、明治天皇その人に迫ったものはなかったかもしれません。
本巻冒頭に、戦で荒れ果て、強風に砂塵巻き上がる江戸、
いえ、東京の地をはじめて目にする「青年」の感慨が描写されています。
これこそが明治天皇その人。
なんだか、もっと知りたくなってきますね。


まあ、それはさておき明治神宮。
北海道に住む私でもその名前くらいは知っていますが、
ここの森が、もともと荒れ果てた原野であったところに、
あえて植樹をして森を作ったというのははじめて知りました。
その樹木が育って「完成」するのには150年を要するとされていたそうです。
今でようやく100年位。
まだ森は成長途中ということになりますね。
今度東京に行くことがあったら、ぜひ訪れてみることにします。
明治神宮。


図書館蔵書にて
「落陽」朝井まかて 祥伝社
満足度★★★★☆

ノクターナル・アニマルズ

2017年11月10日 | 映画(な行)
顕著な女性嫌悪



* * * * * * * * * *

現代アートギャラリーのオーナー、スーザン(エイミー・アダムス)は、
最近夫とうまく行っていません。
そんな彼女の元に、20年前に離婚したもと夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から、
小説の原稿が送られてきます。
以前から小説家を目指していた彼でしたが、ずっと芽が出なかった。
その彼が自信の新作を完成したという。
一人で過ごす終末。
所在なくスーザンはその小説を読み始めますが、
次第にのめり込んでいきます。



本作はその小説の内容を、
スーザンとエドワードの出会いから別れまでのシーンを挟みながら追っていきます。


その小説の冒頭シーンがこうです。
夜、車通りの少ない田舎の道を行く一台の車。
夫婦と10代の娘が乗っています。
その主人公・トニーに、スーザンのもと夫エドワードと同じ人物
(ジェイク・ギレンホール)を配しているところがミソですね。
それだけスーザンが小説とほぼ同化しながらのめり込んでいるということを表しています。
さて、その車の行く手を阻むようにちんたらと走っている車が2台。
トニーはイライラしてついクラクションを鳴らしてしまいます。
さてところが、そのことが相手の車を怒らせた。
煽り運転が始まり、ついには車ごと体当たり、
とうとう停車を余儀なくされます・・・。
車から降りてきたのはいかにもたちの悪そうな若者たち。

警察を呼ぼうにも、ここは携帯も圏外の田舎・・・。
こちらは頼りにはならなさそうな男が一人と女二人・・・。
状況は最悪。
そして、実際に悲劇が・・・。



うーん、あまりにも日本の今日的光景なので、苦笑いしてしまいました。
何処も同じか・・・。
いやまあ、とにかくこれはあくまでも「小説」の中の話です。
ですが、スーザンはその異様な迫力ある描写に魅せられてしまう。
エドワードはこんな才能を秘めていたのか・・・と、今更見直すのです。
そんな矢先、今の夫との電話のやり取りで、彼が女と一緒であることに気がついてしまう。
そんな反動もあって、エドワードに連絡を取ってしまうスーザン・・・。



本作で、中空に投げ出されたような気にさせられるのは、ラストのところです。
「え、これで終わり?」という終わり方なのですが、
でもそこで考えてしまう。
結局この小説を送りつけてきたもと夫、エドワードの意図は何だったのか?
なんだか怖い気がしてきます。


内田樹氏ではないけれど、私、本作には非常に「女性への悪意」を感じます。
そもそも冒頭シーンに驚かされますよね。
肥満体の女性(しかも若くはない)が、全裸で踊るのです。
垂れ下がった胸、お腹や、たぷたぷの皮膚が揺れる・・・。
それがスーザンが手がけたアート作品なのですけれど。
確かにインパクト大ですが美しいとはいい難い・・・。
見ようによっては「女の正体なんてこんなもの・・・」と言っているようでもあります。



仕事で成功し、家事などしない「女」。
その実の孤独を克明に浮かび上がらせる。
そしてさらに追い打ちをかけるようなラスト。
小説中でさえ、女性はレイプされた上に殺されるというひたすら悲惨な描き方。
男性の、「女性嫌悪」の表象としか思えない作品であります。
逆に言えば、自立し男性以上の仕事をしようとする女は
これぐらいのことを覚悟しなければならない、ということか・・・。
まあ、面白くはあったけど・・・。


<ディノスシネマズにて>
「ノクターナル・アニマルズ」
2016年/アメリカ/116分
監督:トム・フォード
原作:オースティン・ライト
出演:エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン、アーロン・テイラー=ジョンソン、アイラ・フィッシャー
女性嫌悪度★★★★★
満足度★★★.5

エイリアン2

2017年11月09日 | 映画(あ行)
女性的役割に縛り付けられるエイリアンを焼き滅ぼすリプリー



* * * * * * * * * *

エイリアンシリーズを、また続けていきたいと思います。



前作で、ただ一人生き残ったリプリーと猫は、
コールドスリープのまま57年後、宇宙空間を漂っていたところを救出されます。
リプリーは人々にエイリアンのことを話すのですが、
誰も信じようとしません。
しかもあろうことにあの惑星LV426には、
すでに開発植民星として100名以上の人が住み着いているという・・・。
ところがその後、惑星からの連絡が途絶えたということで、
探索のための軍隊との同行をリプリーは依頼されます。
はじめ、リプリーはまたあの恐ろしい目に合うのはゴメンだと拒むのですが、
夜な夜なエイリアンに腹を食い破られる悪夢にうなされる彼女は、
この恐怖を克服するためにはエイリアンをこの世から抹消する他ない、
と思い直し、軍に同行することに・・・。
さて、いよいよその惑星に到着してみると、
廃墟の基地にたった一人、隠れて生き延びた少女ニュートを発見。
リプリーは彼女を守り抜くと決意します。
しかし、何匹ものエイリアンが襲撃し、
鍛え抜かれたはずの仲間が一人、また一人とエイリアンの餌食になっていく・・・。



ここではリプリーは少女を守り抜くことに終始します。
ということはつまり、前作のような「フェミニズム」的側面はなくなっているのか
・・・と、思いきや、
内田樹氏は更にまた、フェミニズム論を繰り広げています。
監督が変わっても、そこら辺は受け継がれているんですね。


以下、また内田樹氏の受け売り。

確かにここではリプリーのニュートへの強い母性的感情が表されているけれども、
一方、エイリアンの方に注目します。
本作には卵を生み続ける女王アリのような、
つまりは女王エイリアンが登場します。
この女王エイリアンは長い産卵管を持つために、身動きできず
ほとんど「産む機械」になっているのです。
そのため、さらわれたニュートを取り戻しに来たリプリーに
火炎放射器で卵を焼き払われてしまってもどうにもできない。
子を産み育てるという女性的役割に縛られたエイリアンを、
徹底的に焼き尽くし滅ぼすというリプリーは
やはり、フェミニズムの旗手なんですねえ・・・。
母子が離れ離れのほうが母親の能力がまして、
結果的に子供は幸福になると、
そのようなことも暗示しています。



それからこれまで同様、ここにもアンドロイドが登場します。
前作のことがあるので、リプリーは彼を信用できないでいるのです。
最後の最後に、やはり彼に裏切られたのか?というシーンがありますが、
しかしやはり彼は信頼のできる友でした。
・・・というのは、なんだか当たり前すぎて、私にはつまらない。
アンドロイドはやはりどこか計り知れないところがなくてはね・・・。
しかし、このアンドロイド・ビショップは、
アンドロイドと言うよりむしろ「人造人間」と言ってほしいと、自ら語っていました。
つまり彼らはレプリカントと同じ存在なのかしらん? 
白い体液を持つサイボーグ? 
謎です。

「エイリアン2」
監督・脚本:ジェームズ・キャメロン
出演:シガニー・ウィーバー、マイケル・ビーン、ポール・ライザー、ランス・ヘンリクセン、シンシア・デイル・スコット、キャリー・ヘン
フェミニズム度★★★★☆
満足度★★★★☆

「希望の海 仙河海叙景」熊谷達也

2017年11月08日 | 本(その他)
三陸の普通の人々の上を過ぎる、あの日

希望の海 仙河海叙景
熊谷 達也
集英社


* * * * * * * * * *

東北の港町に生きる人々の姿を通して描く、再生の物語全9編。
3年前の秋、早坂希は勤めていた東京の会社を辞めて仙河海市に戻ってきた。
病弱な母親の代わりに、スナック「リオ」を切り盛りしている。
過去に陸上選手として活躍していた希は、
走ることで日々の鬱憤や悩みを解消していたが、
ある日大きな震災が起きて、いつも見る街並みが180度変わってしまう。
(「リアスのランナー」「希望のランナー」)。
高校生の翔平は、津波により両親と家を奪われ、
妹の瑞希とともに仮設住宅で暮らしていた。
震災の影響で心が荒む翔平だったが、瑞希の提案で「ラッツォク」を焚くことになり、
あの日以降止まっていた"時"と向き合う。
(「ラッツォクの灯」)。
東北に生まれ東北に暮らす直木賞作家の、「あの日」を描かない連作短編集。

* * * * * * * * * *

三陸の架空の町、仙河海(せんがうみ)市を舞台とする人々の物語。
手法としては佐藤泰志さんの「海炭市叙景」とおなじです。
三陸ということでピンとくると思いますが、
この町はあの大震災による津波にさらされることになるのですが、
その日のことについては直接的な描写はありません。
全9編のうち7編が震災前。
最後の2篇が震災後のことについて書かれています。


東京の会社をやめて故郷に戻ってきた希。

妻子を抱えリストラに揺れる悟志

親の別れ話と進路に惑う高校生、優人

昔からの恋心を打ち明けられない公務員、真哉

東京の息子に誘われ転居を考える、清子

イジメに耐える小学生、昴樹

教え子の家庭状況を憂う教員、倫敏

つまりはどこにでもある、ささやかな物語ではあります。
決して充足はしていないけれど、でも真摯に生きている。
けれど、あの日、ほんの一瞬でこれらの日常がガラガラと崩れてしまう。
そのことにおののかずにはいられません。
そして残り2編。
震災直後ではなくて、少し落ち着きを見せ始めた頃を描きます。


両親を津波で亡くした高校生・翔平とその妹・瑞希を語る
「ラッツォクの灯」にはちょっと驚かされるのですが・・・
最後の「希望のランナー」では、冒頭に登場した希が、
失意からまた立ち上がろうとする姿が描かれます。
自分の名前と同じ「希望」をいだきながら・・・。
3.11その日の描写がないのが効果的でした。
それがあると、その描写が強烈になりすぎてしまう気がします。
その後の瓦礫の街の様子や、亡くなってしまった人たちのこと、
悲しみはそれで十分伝わります。
心に迫る秀作。

※「物語の向こうに時代が見える」掲載作品
図書館蔵書にて
「希望の海 仙河海叙景」熊谷達也 集英社
満足度★★★★☆

彼女がその名を知らない鳥たち

2017年11月07日 | 映画(か行)
不潔感がハンパない・・・



* * * * * * * * * *

下品で貧相、金も地位もない15歳年上の陣治(阿部サダヲ)と暮らす十和子(蒼井優)。
彼女はそんな陣治には嫌悪を抱いていて、
そして8年前に別れた黒崎(竹野内豊)のことを忘れることができずにいます。

しかし、十和子は実際陣治の収入だけに頼って生活しているので、
今の生活を捨てることもできません。
クレームの電話で知り合った時計店員の水島(松坂桃李)との逢瀬を楽しんだりもしています。
ある時、十和子は黒崎が行方不明となっていることを知ります。
一日に何度も電話をよこしたり自分を尾行するなど
異常な執着を見せる陣治に対して、十和子はある疑念を抱くようになりますが・・・。



沼田まほかるさん原作の、まあ、今風に言うところのイヤミス。
私はこれが苦手で、読書でも湊かなえ、沼田まほかる等は、避けているのですが・・・。
この日、本当は「ラストレシピ」を見たかったのです。
しかし初日で祝日。
出演が西島秀俊さんだけならまだしも、ニノだから・・・。
ギャルで大混雑であろう劇場を避けたら、
なんとなくこの作品になってしまった。
・・・で、見てすぐにやっぱりよせばよかったと思いました。



十和子は自堕落でわがままで、すご~くイヤな女なんです。
陣治はあの不潔感がたまらない・・・。
つまりは主演お二人の演技、人物造形が素晴らしいということなんですけどね。
それにしても見ているこちらは嫌悪しか感じられない。
こりゃーもう、どうしようもない。
しかもセックスシーンが妙に濃厚というのも居心地が悪い・・・。
十和子はまたメンクイで、陣治を見下していて、
水島にはあっという間になびく。
まあ、そこのところはわかるけど・・・(^_^;) 
いやしかし、水島のはじめの行動にも驚かされましたけれど・・・。
結局水島ってそんなヤツだったんです、初めから。
なんで松坂桃李にこんな役させるのよ!といいたくなるくらい。



結局は、ラストで十和子と陣治の関係性を逆転させるための
このような設定というわけで・・・。
ストーリーとしてはよくできています。
でも、やっぱり駄目です。
私の感性がこれを否定します。
やっぱり私はイヤミスには近寄らないほうが良さそう・・・。



<ディノスシネマズにて>
「彼女がその名を知らない鳥たち」
2017年/日本/123分
監督:白石和彌
原作:沼田まほかる
出演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊、村川絵梨

逆転性★★★★☆
満足度★★☆☆☆ (←単に好みの問題です。)

ゴーストライター

2017年11月06日 | 映画(か行)
上質で上品、大人のミステリ



* * * * * * * * * *

元英国首相アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の
回顧録の執筆を依頼されたゴーストライター(ユアン・マクレガー)が、
ラングの滞在する孤島を訪れます。
彼の前任者がフェリーから転落して死亡したため、
その後を引き継ぐ形で仕事を始めるのですが、
残された資料から、不可解な事実が浮かび上がってくるのです。



本作の冒頭がいい。
フェリーが港に到着し、車が降りようと列をなしているのですが、
一台の車が通路のど真ん中に駐車したまま動かないのです。
迷惑な車だと皆が思うのですが、そもそも運転者が乗っていない。
この車でフェリーにのったはずの人物は一体どうしたのだ・・・?
というところで、次に海岸に打ち上げられた男の死体のシーン。
事故か、事件か・・・? 
いきなり興味が湧いてきます。
つまりこの亡くなった男こそが、前任のゴーストライターということなのですね。



孤島のラングの邸宅は全面ガラスの大きな窓があり
外の景色がよく見えるのですが、
しかし寒々しい鉛色の空と荒野、冬の寂寞とした風景がつづくばかり・・・。
この寂しい地で仕事をするゴーストライターも
次第に気が滅入ってくるのでしたが・・・。
しかし、前任者の残したある資料から、ラングに疑惑が湧いてきます。
そして彼がこの家の来客用の車を借りた時、
カーナビに先に登録した行き先がそのまま残っていたのです。
カーナビの指し示すとおりに道を辿ってみると、フェリー乗り場に到着。
つまりこれは、前任者が死の寸前に辿った道。
フェリーで本土についてからもカーナビはまだ行先を示し続けるので
それを辿って、彼はとある人物の屋敷に到着。
そしてそこから退去する時に彼の車を尾行する者があることに気がつくのです。
結局彼は前任者と同じ運命をたどることになるのではないかと、ハラハラしますね。



このゴーストライター、どうにもツキがないと言いますか、トホホな存在。
だから、かっこいいアクションなどはなくて、洞察力だけが武器。
ラスト、彼は“してやったり”というような
彼にとっては上出来の“敵”に対しての意趣返しをしてみせます。
が、しかし。
ツメが甘いというか、これまた彼らしいラストとなっているところが
またなんともいえずにいいんだなあ・・・
(いや、よくはないけど)
CIAが相手ではあまりにも分が悪い、ということか・・・。



派手なアクションとかカーチェイスとかはなくて、地味~な作品なのですが、
私、すごく気に入ってしまいました。
上質で上品な大人のミステリ。

ゴーストライター [DVD]
ユアン・マクレガー,ピアース・ブロスナン,キム・キャトラル,オリヴィア・ウィリアムズ,トム・ウィルキンソン
Happinet(SB)(D)



<WOWOW視聴にて>
「ゴーストライター」
2010年/フランス・ドイツ・イギリス/128分
監督:ロマン・ポランスキー
出演:ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン、キム・キャトラル、オリビア・ウィリアムズ、トム・ウィルキンソン
サスペンス度★★★★☆
満足度★★★★☆

「夜また夜の深い夜」桐野夏生

2017年11月04日 | 本(その他)
ストーリーは面白いけれど、何を言いたいのだか・・・?

夜また夜の深い夜 (幻冬舎文庫)
桐野 夏生
幻冬舎


* * * * * * * * * *

友達に本当の名前を言っちゃだめ。
マイコにそう厳命する母は整形を繰り返す秘密主義者。
母娘はアジアやヨーロッパの都市を転々とし、
四年前からナポリのスラムに住む。
国籍もIDもなく、父の名前も自分のルーツもわからないマイコは、
難民キャンプ育ちの七海さん宛に、初めて本名を明かして手紙を書き始めた。
疾走感溢れる現代サバイバル小説。

* * * * * * * * * *

国籍をもたず、アジアやヨーロッパの都市を隠れるように
転々と移り暮らしているマイコという少女が主人公の異色作。
彼女は母と二人暮らしですが、その母が何らかの事情で日本にいられなくなり、
何かから逃げているようなのです。
度々顔を整形し、元の顔がわからないほど。
そんな母とスラムに隠れ住み、ほとんど学校へも行かず、友人もいない。
今はナポリに住むマイコがついに耐えきれず家出。
今までの生活も十分悲惨ではあったけれど、
一人で生きなければならないマイコは、
更に厳しい状況を生き抜かなければならなくなります・・・。


家出をしたマイコが出会った密入国の少女2人の壮絶な事情や、
マイコ自身の父らしき人物の恐るべき正体・・・、
目をみはるような展開に引き込まれます。


ということで、題材の特異性もあって大変面白くはあった。
だけれども、なぜでしょう。
読み終わったあとで私の中に何も落ちてこないのです。
ラストが良くないのかなあ・・・。
けれど、他にどのようなオチを付けても納得の行くものになりそうにありません。
残念ですが、何を訴えたいのかよくわからない作品となってしまっています。
マイコがせっせと手紙を出していた相手、七海も結局正体不明。
私はこの七海こそが実はマイコの母であった、などという展開を想像していたのですが、
全然違いました・・・(^_^;)

「夜また夜の深い夜」桐野夏生 幻冬舎文庫
満足度★★☆☆☆

ゲット・アウト

2017年11月03日 | 映画(か行)
池の底に沈み込んで、なすすべがない・・・



* * * * * * * * * *

黒人青年クリスは白人の彼女ローズの実家へ招待されます。
ローズはまだ家族に彼が黒人であることを話していないと言うので、
ちょっと緊張しています。
そのドライブの途上、突然鹿が飛び出してきて衝突。
いきなりの鹿の死という事件。
なんとも先行きに暗雲が立ち込めます。
さて、ローズの家族は、思いのほか普通にクリスを歓迎。
少し安心はするものの、けれども何かがおかしい。
この家の使用人の2人の黒人や家族たちの態度や表情に、
クリスは妙な違和感を覚えてしまうのです。







そして、ローズの母は催眠術を得意とするセラピスト。
禁煙のための催眠療法を受けてみないかとクリスは誘われますが・・・。



いやいやいや・・・。
若干荒唐無稽のようなオチにつながるストーリーではありますが、
それにしても怖いですね、これは。
雰囲気としてはM・ナイト・シャマラン監督でしょうか。
通常では理解できない人の心の思い込みや狂気。
そうしたものが私たちを恐怖の底に突き落とします。
クリスが催眠術にかけられて、体が動かず、
池の底に沈み込んでいくような感覚、その表現が実にうまい!



そしてちょっとショックなのは、ローズ。
彼女の立場についての伏線も何もなく、突然に・・・。
女は信用するな。
同じ色の友こそが信頼できる存在・・・。
って、ちょっと悲しいですけどね。
言葉では色々いいことをいいますが、実際の差別はなくならない。
そうした世間への痛切な皮肉の作品なのでした。
神経を逆なでするような音楽がまた、効果を上げています。

「ゲット・アウト」
2017年/アメリカ/104分
監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、キャサリン・キーナー

ミステリアス度★★★★☆
満足度★★★.5


金メダル男

2017年11月02日 | 映画(か行)
それぞれの一等賞を目指して



* * * * * * * * * *

内村光良さん監督・原作・脚本作品。
もともとは内村光良さんの一人舞台です。


東京オリンピックのあった1964年。
長野県塩尻市で生まれた秋田泉一。
彼は小学校の徒競走で一等賞になり、一番になることのすばらしさを知ります。
その後、絵画や、魚のつかみ採り、火おこし・・・
様々な大会で金メダルをとり、「塩尻の神童」と呼ばれるほどに。
しかし、それも小学生まで。
中学生になってからは何をやってもダメで気がつくと友人もいない・・・。
高校のときにはチームプレイは無理だと見切りをつけて
たった一人で「表現部」という部を立ち上げますが・・・。


挫折を繰り返しながら、それでも一番への夢を求め続ける・・・、
言ってみればバカな男の物語ではありますが・・・。
でも、結局人はだれでもそれぞれの一等賞を探し求めながら生きているのではないかと、
そんな気がしてきます。



また本作、友人のいない泉一ではありますが、
それでもいろいろな人と出会い、影響を受け、
ついに良き伴侶と巡り合ったりもする。
そんな人と人とのつながりが描かれているのもいいのです。
また、そのいろいろな登場人物として
思いがけずにひょいと見知った俳優さんが顔を出すのが楽しい!



次から次へといろいろなことに挑戦。
どこでどう失敗して、どのように成功するのか。
予測がつかないのもいいですし、
チョッピリシャイででしゃばりタイプではないのに、
なお一等賞が欲しい泉一の人柄が
内村光良さんそのものにも感じられて、すごく親しみやすい。
思わぬ拾い物の一作でした。

金メダル男 [DVD]
内村光良,知念侑李,木村多江,ムロツヨシ,土屋太鳳
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン


<WOWOW視聴にて>
「金メダル男」
監督・原作・脚本:内村光良
出演:内村光良、知念侑李、木村多江、平泉成、ムロツヨシ、土屋太鳳、宮崎美子

コメディ度★★★★☆
人生度★★★★☆
満足度★★★★☆

「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎

2017年11月01日 | 本(その他)
ラブストーリーを絡めた連作短編

アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)
伊坂 幸太郎
幻冬舎


* * * * * * * * * *

妻に出て行かれたサラリーマン、
声しか知らない相手に恋する美容師、
元いじめっ子と再会してしまったOL…。
人生は、いつも楽しいことばかりじゃない。
でも、運転免許センターで、リビングで、駐輪場で、奇跡は起こる。
情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。
明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短編集。


* * * * * * * * * *

伊坂幸太郎作品には珍しく、ラブストーリーを絡めた連作短編集。
登場人物が主役を交代しながらの連作。
伊坂幸太郎さんのこの形式は、大好きです。
全体にボクシングが軸になっていて、
ストーリーの所々に日本初のヘビー級チャンピオン、
ウィンストン小野のことがチラチラと出てきたりします。
そしてラストの「ナハトムジーク」で、彼自身のストーリーが始まる、
という構成がなかなか見事。
中でも電話でしか話したことのない2人のラブストーリー「ライトヘビー」が良いです!!
ラストとのつながりも良し。


あとがきで、著者自身が言っていますがこの本には
「泥棒や強盗、殺し屋や超能力、恐ろしい犯人、特徴的な人物や奇妙な設定」
が出てきません。
それでもやっぱり間違いなく伊坂幸太郎だなあ・・・
と思えるのが凄いと言えば凄いですね。
これまで伊坂幸太郎を読んだことがない方でも馴染みやすいと思います。


「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎 幻冬舎文庫
満足度★★★★☆