映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

終わった人

2019年02月12日 | 映画(あ行)

夫婦のあり方の多様化

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本作は、公開時見たいなあと思いつつ、定年退職後の男性の話ということで、
なんだか身につまされそうなので見るのを躊躇していました。

大手銀行の出世コースから外れ、子会社に出向。
そのまま定年を迎えた壮介(舘ひろし)。
仕事一筋に生きてきた壮介は、さっそく時間を持て余し、途方に暮れてしまいます。

妻・千草(黒木瞳)は美容師で、家でボーッとしている壮介を鬱陶しく感じているよう。
壮介はジムに通ったり、カルチャースクールに通ったり、
試行錯誤の上、なんと恋までも体験。
しかしある縁で、壮介はある会社の顧問として勤めることになり・・・。

退職直後の毎日を持て余す感じ、よくわかります。
でも女性よりも男性の方が断然所在なさは大きいですね。
女性は仕事に行かなくても家の中で結構やることがあるし、
友達とのお付き合いもあったりして、そこまでは持て余さない。
でも私は思うのですよね。
こんなふうに時間を持て余してどう過ごそうか悩むなんて、実はものすごく幸運なことだと。
世の中には定年退職したと言っても、
まだまだ別の職を探さなければ生活できないという人だって多いと思いますので・・・。
ところが、この壮介さん、そのままでいれば悠々自適な生活だったはずが、
大変なピンチに落ち込んでいってしまうのです。

ここでは、長く連れ添った妻の思いというのもポイント。
長い結婚生活、本当はもっとやりたいこともあったのです。
そしてこの先、やはりこの夫に「寄り添って」行かなければならないのか?
喧嘩ばかりとか、特に嫌いなところがあるとか、そういうわけでもないのだけれど、
一通り夫と妻の役割を終えたところで、結婚生活の「卒業」があってもいいのではないか・・・と。
こんなところはやっぱり原作者が女性ですよね。
男性ならこうは描かないだろうと思う。
そしてやはり女性なら共感できる。
いや、だからといって私は離婚したいとは思いませんけれど・・・。
それはやはりそれぞれの夫婦、それぞれの思いの中で決めていくべきことなのだろうな。
今後夫婦のあり方はますます多様化していくような気がします。

終わった人 [DVD]
舘ひろし,黒木瞳,広末涼子,臼田あさ美,今井翼
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)

<J-COMオンデマンドにて>
「終わった人」
2018年/日本/125分
監督:中田秀夫
原作:内館牧子
出演:舘ひろし、黒木瞳、広末涼子、臼田あさ美、今井翼、田口トモロヲ

夫婦のあり方を考える度★★★★☆
セカンドライフ度★★★★☆
満足度★★★.5


ヴィクトリア女王 最期の秘密

2019年02月11日 | 映画(あ行)

女王の孤独

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1887年、ヴィクトリア女王在位50周年記念式典で、
記念硬貨の贈呈役に選ばれたインド人アブドゥル・カリム(アリ・ファザル)が、イギリスへ渡ります。
ヴィクトリア女王(ジュディ・デンチ)は、
王室のしきたりを気にせず、真っ直ぐな笑顔を向けるアブドゥルに心を開き、
身分、年齢差を超えた友情が芽生えていきます。
ところが、この二人の親密さを快く思わない周囲の人々は、なんとかこの二人を引き離そうとしますが・・・。

老境に入り、体力も失われ、親しくうちとけられる人々は先に亡くなってしまっている。
しかし女王としての責任だけは大きいまま。
日々多くの人々に囲まれながら、孤独に陥り心がふさぎ込んでいく・・・。
ちょうどそんなときだったのですね。
率直で明るくて利発で、しかもハンザムな青年に心を奪われていくヴィクトリア女王。



そりゃそうですよね。
私だってイケメンの若い男性に優しくされたら、すっかり熱を上げてしまうに違いありません。
「後妻業の女」などという言葉もありますが、逆バージョンだってアリですよね。
いや、アブドゥルは別に詐欺ではないのですけれど・・・。
彼は事実優しかったし、好奇心が強くて、女王との交流を心から楽しんでいたように見受けられます。
でも少なくとも本作中では、完璧に女王に醉心したナイトというわけでもないように見受けられる。
女王にのつま先にひれ伏してキスをしたりするのは、明らかにパフォーマンスだし、
結婚していることを隠していたり、性病持ちだったりと、結構チャラいのです。
だからまあ、本作は、そうした彼の内面に深く切り込むという趣旨ではなく、
そんな男にウツツを抜かしてしまった女王の孤独をこそ描いた作品、と見たほうが良いと思います。



いくらなんでもそんなふうに一人だけをえこひいきして取りたれれば
周囲が混乱することくらいわかりそうなこと。
そうした判断力も失われていたのはやはり“老いと孤独”のせいでしょうか・・・。
絶大な権力を持ちながら、自由な旅行などもってのほか。
女王はどんなにかアブドゥルの語るインドの地を自分の目で見てみたかったことでしょう・・・。
そうした感慨を私達に呼び起こすところでは、成功しています。

人種差別を抜きにしても、皇太子や首相、王室職員が
「インド人に王室を乗っ取られた」と思うのは無理もないことに思えますし、
挙げ句にアブドゥルの生命の危機さえ呼びかねないと私には思えましたが、
彼はずいぶんのんきそうでしたね。
とりあえず、生きて帰ることができただけでもめでたいと思わなければ・・・。


<シアターキノにて>
「ヴィクトリア女王 最期の秘密」
2017年/イギリス・アメリカ/112分
監督:スティーブン・フリアーズ
出演:ジュディ・デンチ、アリ・ファザル、エディ・イザード、アディール・アクタル

歴史発掘度★★★☆☆
女王の孤独度★★★★★
満足度★★★☆☆


「烙印 上・下」パトリシア・コーンウェル

2019年02月09日 | 本(ミステリ)

はじめダラダラ、ラストでドッキリ

烙印(上) (講談社文庫)
池田 真紀子
講談社

 

烙印(下) (講談社文庫)
池田 真紀子
講談社

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ボストン郊外の静かな夕暮れ、チャールズ川沿いに自転車を走らせていた、
23歳のエリサ・ヴァンダースティールの死体が
あたかも雷に打たれたかのような状態で発見された。
検屍局長ケイ・スカーペッタはこれが神の偶然の行為ではないことを事件現場で直観し、
何の痕跡もない謎の感電死の真相に迫ろうとする! (上)

匿名サイバーテロリストから奇妙な詩が届き、事件は複雑な様相を呈し始める。
その脅迫メッセージは止まらず、調査を進めるケイとその周辺にもいよいよ危険な気配が漂い出す。
天才ハッカー・姪のルーシーに助けを求めるが、
元FBIのサイコパスで、邪悪かつ凶悪な宿敵、キャリーの影がまた再び忍び寄ってくる。(下)

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ずっと年末に新刊が出るのが恒例となっていた本シリーズなのですが、
2017年末には出ないので案じていましたが、2018年末に2年ぶりに刊行されました。
おなじみ「検視官」シリーズ。

前前作で重症を負ったスカーペッタでしたが、一応その傷は治癒したようです。
恐ろしい傷跡は残ったものの。
本作はある異常な暑さがボストンを襲った一日の出来事。
川沿いの道で自転車を走らせていた女性が倒れていたという
事故あるいは事件の調査に向かうスカーペッタ。
しかし上巻ではいつまでたっても肝心の検死が始まりません。
スカーペッタの様々に逡巡する心境が描かれるばかり。

突然訪ねてくるという、気の合わない妹・ドロシーのこと。
意外にもドロシーと交際をはじめたらしいマリーノのこと。
養子・デジとの生活が落ち着きを見せ始めた姪・ルーシーのこと。
最近届き始めた不可解なメールのこと。
邪悪な宿敵、キャリーの動きのこと。
未だに見惚れるくらいに好きだと思う夫、
けれど仕事モードのときは他人のようなベントンのこと。
それにつけてもあんまりな暑さで、汗まみれでぼろぼろになっている自身のこと。
等々・・・。

ルーシーやベントンが何かを告げにスカーペッタのもとに来るのですが、
肝心なことはなかなか切り出さず、全くイライラさせられます。
上巻を読んだ限り、もしかするとこれは失敗作なのでは・・・?
などという疑念を抱いてしまったくらい。


しかし、下巻に入ってようやくストーリーが動き始めます。
スカーペッタの敬愛するある人物の突然死。
どうやらその死因と今回の自転車の女性の死因が同じもののようだ・・・。
そうすると考えられるキャリーの影。
まるで雷に打たれたかのような、感電による死。
そうしたある"兵器"が使用されたようだ・・・。
最後の驚きは、暑く長い夜が開けたあとにありますので、
そこまで辛抱強く読むことをおすすめします・・・。

文庫の帯に「渾身の大団円」とありますので、
もしかしてこのシリーズはこれで最後となるのでしょうか・・・。
それにしては多少あっけないという気がしなくもないですが。
でももうこれ以上スカーペッタの様々な心配の種を聞かされるのもイヤなので、
ここらが潮時かもしれません。

「烙印 上・下」パトリシア・コーンウェル 池田真紀子訳 講談社文庫
満足度★★★.5


無伴奏

2019年02月08日 | 映画(ま行)

単に二組のカップルではなく・・・

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1969年仙台。
学園紛争が各地で繰り広げられている頃です。
女子高生響子(成海璃子)は、高校で制服廃止運動を立ち上げ活動していますが、
自分でも実はベトナムにも安保にも特別の関心はなく、
ただ時流に流されているだけ、と思っています。

そんなある日、バロック喫茶「無伴奏」で、大学生・渉(池松壮亮)とその親友・祐之介(斎藤工)、
そして祐之介の恋人・エマ(遠藤新菜)と知り合います。

よくここで顔を合わせているうちに親しくなり、この4人ですごすことが多くなっていきます。
そして響子は次第に渉に惹かれ始める。
そして、渉と響子が初めて結ばれた日、その様子を祐之介が密かにのぞき見ていたのでした・・・!

 

原作者小池真理子さんの実体験も投影されているようですが、
この頃の時代色がとても懐かしい。
私は全共闘世代よりも少しあとの世代ですが、
学園紛争の風潮、当時のファッション、そして懐かしの名曲喫茶・・・、
確かに私も通り抜けてきた道であります。
「無伴奏」は実在した店なのだそうで。
あの雰囲気、泣きそうなくらい自分の学生時代が思い出されてしまう・・・。
やたら皆でタバコを吸っているのも当時ならではですね・・・。
今あんなに皆でタバコをふかしている喫茶店などに入ったらむせてしまうかもしれない。
けれど当時公共の場では当たり前の光景だったんだなあ・・・実に。

さて、そんなことより問題はこの4人。
表面上は2組のカップルで、結構なことです。
だがしかし・・・!
いや、わかっちゃいますよね、途中で。
とはいってもなかなかキョーレツなシーンもあったりして・・・。
さすが斎藤工。

けれど、あまりにも強い情念はきれいごとでは終わらない・・・。
ドサドサと感情をゆすられる作品。
響子はそれですっかり成長するわけですが、
そのためというにはあまりにも大きな犠牲が払われました・・・。




無伴奏 [DVD]
成海璃子
キングレコード

<WOWOW視聴にて>
「無伴奏」
2015年/日本/132分
監督:矢崎仁司
原作:小池真理子
出演:成海璃子、池松壮亮、斎藤工、遠藤新菜、松本若菜

時代再現度★★★★☆
同性愛度★★★★★
満足度★★★.5


ジュリアン

2019年02月07日 | 映画(さ行)

DVについて考える

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離婚したベッソン夫妻は、11歳の息子ジュリアン(トーマス・ジオリア)の親権をめぐり争っています。
母ミリアム(レア・ドリュッケール)は、息子を元夫アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)に近づけたくないのです。
というのも、アントワーヌにはDVめいた言動が多く見られたため。
また、ジュリアン自身も父とは会いたくないと陳述書まで提出していました。

ところが家裁の出した結論は、隔週の週末ごとにジュリアンをアントワーヌに会わせるということ。
どうも無職の母よりも、しっかりした職についている父親の方を信用したらしいのです・・・。
ジュリアンは週末、渋々父に連れられて父の実家に行きます。
アントワーヌはなんとか元妻ミリアムの連絡先や引越し先を聞き出そうとしますが、
母をかばうジュリアンは必死で隠そうとします・・・。

ホラーではないのに、じわじわと怖さが忍び寄ります。
暴力で女子供を支配することでしか自分の存在を示すことができないヤツは、実際にいるものですね。
アントワーヌが白々しく息子や、居場所を突き止めた元妻を抱きしめるシーンには、思わず鳥肌が立ちました。

つい思い出してしまったのは、先ごろ、4年生の女の子が父親の虐待を受けて亡くなったという事件。
彼女は学校のいじめのアンケートに父から暴力を受けていると記していたにもかかわらず、
その内容を教育委員会が父に見せてしまったため、
余計に暴力が増幅してしまった・・・というやりきれない出来事。
家庭内のことは、実のところ外部からはわからないものなのですね。
この事件でも、本作においても、第三者が勝手な判断をすることによって、
本当に助けが必要な人が助けを得られず、余計事態がこじれてしまう・・・。



DVというのはいくら本人が反省したと言っても絶対に繰り返すもののように私には思えます。
少なくとも、女性や子供、立場の弱いものの言葉にもっと重きをおいてほしいものです。
そして周囲の気配りも必要ですよね・・・
こんな大ごとの事件になる前に、DVをもっとはっきりと「犯罪」とする認識が必要なのでは?
とつい思ってしまいます。
ついいろいろと考えさせられる作品でした・・・



<ディノスシネマズにて>
2017年/フランス/93分
監督・脚本:グザビエ・ルグラン
出演:レア・ドリュッケール、ドゥニ・メノーシェ、トーマス・ジオリア、マティルド・オネブ

DV度★★★★★
怖さ★★★★☆
満足度★★★.5


「向田理髪店」奥田英朗

2019年02月06日 | 本(その他)

過疎の町で、新たな人の絆の枠組みを考える

向田理髪店 (光文社文庫)
奥田 英朗
光文社

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かつては炭鉱で栄えたが、すっかり寂れ、高齢化ばかりが進む北海道苫沢町。
理髪店を営む向田康彦は、札幌で働く息子の「会社を辞めて店を継ぐ」という言葉に戸惑うが…。(表題作)
異国からやってきた花嫁に町民たちは興味津々だが、新郎はお披露目をしたがらなくて―。(「中国からの花嫁」)
過疎の町のさまざまな騒動と人間模様を、温かくユーモラスに描く連作集。

* * * * * * * * * *

北海道の、かつて炭鉱で栄えたが今は財政破綻した過疎の町。
すぐにモデルの地名は思い浮かびますが、まあそれはどうでもよろしい。
似たような町は日本中どこにでもあるでしょう。
そんな過疎の町を舞台とした連作短編集。
そこで理髪店を営む向田康彦の視点で語られます。
彼自身、大学を出てから札幌で仕事を得て暮らしていたのです。
しかし、仕事はうまく行かず、理髪店を営む実家の父が体調を崩したことを機に、
家業を継ぐために苫沢に戻ってきて、以来30年近く理髪店を続けている。
自分は仕事がうまくできなくて逃げてきた・・・という思いが彼にはあるのです。
そんなわけで、札幌で働く息子が「仕事を辞めて店を継ぐ」と、
帰ってきたときには嬉しさよりも戸惑いが先に立ってしまう。


この物語理が髪店主の視点で語られることには意味があるように思います。
この町に理髪店は2軒。
康彦は今の町の人々のことのみならず、この町で生まれ育ちそのまま農家を継いだ者や、
都会へ出た者の子供時代をたいてい知っているのです。
店では様々な人の噂が囁かれるけれども、彼はそれを他の人に言いふらしたりはしない。
そんなところで、町の人々の信頼を得てもいる。

ということで、中国から花嫁をもらった青年、
都会へ出て活躍をしていたはずが犯罪を犯してしまった青年など
話を聞くとついおせっかいを焼きたくなってしまう。
過疎の町なので、個人の家庭の事情など何もかも皆に筒抜けになってしまうという面もあるのですが、
だからこそ皆でなんとか助け合おうという気持ちも生まれる。
都会へと都会へと人が流れる中、こんな暮らしも悪くないと思います。
がそれにしてもコンビニも病院も、ろくな交通機関もないとしたら、
やっぱり考えてしまいますが・・・。


「向田理髪店」奥田英朗 光文社文庫
満足度★★★★☆


デトロイト

2019年02月05日 | 映画(た行)

藪の中

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1967年に米国であった実話を基にしています。
黒人たちの不満が爆発して起こったデトロイト暴動。
街はさながら戦場のようになって混乱しています。
そんな最中、アルジェ・モーテルの一室から銃声が響きます。
近辺の警備にあたっていた市警や州兵は狙撃を受けたとみなし、モーテルに突入。
数名の警官が捜査手順を無視し、宿泊客(主に黒人)を誰彼構わず自白を強要する
不当な強制尋問を開始します。

突入の際、逃げようとした一人を射殺。
そしてまた尋問するうちに2名を射殺。
銃を持たない無抵抗の者を射殺・・・。
そんな馬鹿な・・・・、と暗澹とした気持ちになるのですが、
後の裁判では・・・。

さすがに「ハート・ロッカー」や「ゼロ・ダーク・サーティ」のキャスリン・ビグロー監督。
強制尋問の数十分のシーンの緊迫感が半端ではありません。
私が好きなウィル・ポールターが、主犯(?)的な差別主義者のどうにもいけ好かない警官役。
いやいや、これも存在感ありまくりでしたが・・・。
理不尽な人種差別そのものの出来事と、その上の裁判判決に憤りを禁じえません。



本作は様々な関係者の証言を基に作られているそうです。
だから本作に描かれていたあの場面が真実なのかといえば、
もしかしたらそうではないのかもしれない・・・。
誰もが自分に都合の良い話をする。
真実は一体どこにあるのか・・・、まさに藪の中。
そんなうそ寒い気持ちにもさせられます。
なんにしても割り切れない思いの渦に放り込まれたような気になる、力作。





デトロイト [DVD]
ジョン・ボイエガ
バップ

<WOWOW視聴にて>
「デトロイト」
2017年/アメリカ/142分
監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールター、アルジー・スミス、ジェイコブ・ラティモア
歴史発掘度★★★★★
理不尽度★★★★★
満足度★★★★☆


マスカレード・ホテル

2019年02月03日 | 映画(ま行)

キムタク効果

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東野圭吾さん原作、キムタク主演の注目作。
やはり一応見ないではいられない、ということで・・・。

 

都内で3件の殺人事件が発生。
一見全く別々の事件のようだったのですが、
どの現場にも謎の数字の羅列が記された紙片が落ちていたため、
連続殺人事件とみなされます。
新田刑事(木村拓哉)がその数字の暗号を解き、次の殺人がとあるホテルで起こることを予測します。
ホテル内部に秘密裏の捜査本部が置かれ、厳重な警戒態勢が敷かれます。
新田はホテルのフロントクラークになりすまし、潜入捜査をすることに。
そのため新田はホテル職員・山岸尚美(長澤まさみ)にフロントクラークとしての心得を「教育」されることに。
二人は衝突を繰り返しながらも、事件の真相に近づいていきます。

 

様々な人々が仮面をかぶって現れる場所―ホテル。
だからこそ、豪華キャストが次々に現れるのも自然。
実際、すごく映画向きの原作なんですね。



私は、原作を読んでいましたが、とっくに内容は忘れていたので、
しっかり犯人探しを楽しむことができました。
ちなみに、当ブログの『「マスカレード・ホテル」東野圭吾』の記事の訪問者数が、
この映画の公開2週間ほど前からグイグイとうなぎのぼりに増加しまして、
我ながら驚いてしまいました。
最近ようやくもとに戻りましたが・・・。
さすが、キムタク効果なんですねえ・・・。



作中、このホテルを訪れる人、誰も彼もが一癖も二癖もありげで、
誰もが怪しく見えてしまいます。
あくまでもお客様を大切に思おうとする尚美と、あくまでもまず疑ってかかる新田、
とこまでも水と油のようでいて、次第に相手の思いを汲み取り、
折り合っていくさまがよく描かれていました。
最後に新田が尚美の居所を確信する、ある“アイテム”の扱いが秀逸ですよねえ。
まあ、どなたにも楽しめる作品だと思います。



さて、エンドクレジットで「明石家さんま(友情出演)」と出たところで、
場内微かなどよめきが走りました。
私も思わず「?!」。
うそ~、一体どこに出ていたの? 
と誰もが驚かされるようです。
どうしても知りたい方は、事前にネット検索で確認してからご鑑賞ください。
ここにはあえて記しません^^;

 

 

→原作「マスカレード・ホテル」東野圭吾

<シネマフロンティアにて>
「マスカレード・ホテル」
2019年/日本/133分
監督:鈴木雅之
原作:東野圭吾
出演:木村拓哉、長澤まさみ、小日向文世、梶原善、泉澤祐希、濱田岳、前田敦子

犯人の意外性★★★★☆
チームワーク度★★★★☆
満足度★★★★☆


「戦場のコックたち」深緑野分

2019年02月02日 | 本(ミステリ)

戦場の「日常の謎」+友情

戦場のコックたち
深緑 野分
東京創元社

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1944年6月、ノルマンディー上陸作戦が僕らの初陣だった。
特技兵(コック)でも銃は持つが、主な武器はナイフとフライパンだ。
新兵ティムは、冷静沈着なリーダーのエド、お調子者のディエゴ、調達の名人ライナスらとともに、
度々戦場や基地で奇妙な事件に遭遇する。
不思議な謎を見事に解き明かすのは、普段はおとなしいエドだった。
忽然と消え失せた600箱の粉末卵の謎、オランダの民家で起きた夫婦怪死事件など、
戦場の「日常の謎」を連作形式で描く、青春ミステリ長編。  

* * * * * * * * * *     

また一人の才能ある書き手を知ってしまいました。
このミス2位ということで、著者の「ベルリンは晴れているか」に興味を持ったのですが、
図書館予約ではいつになったら読めるかわからない。
それで、この前作「戦場のコックたち」もオススメとあったので、こちらを読んでみました。


・・・ところが、最初の一ページくらいでもう、グイグイと惹きつけられてしまいました。
本作の語り手ティムは、ヨーロッパの対ドイツ戦にアメリカが参入するときに志願兵となります。
19歳の血気にはやる多くの若者達がそうだったように。
多分小柄で童顔なのだろうなあ、ティムは周りのみなからは"キッド"と呼ばれます。
健全な家庭で育ったことが丸わかりの真っ当ないいヤツ。
生真面目なその語り口に好感が持てます。
そして彼は自分が思ったよりも戦闘向きでないことを悟ってコック兵となります。
しかし、コック兵といっても、いつも後方で調理しているだけではないんですね。
調理設備のない前線へ行く場合には他の兵と変わらず、銃を持って戦うのです。


紹介文にある通り、そんなティムの軍隊生活の中の「日常の謎」を解いていきつつ
ストーリーは進んでいきます。
戦場はすでに「日常」ではないのに、日常の謎というのも変ですけれど・・・。
そして探偵役はティムではなくティムの尊敬する先輩、エド。
ティムはいわばワトソン役です。


さてこのように言うと、戦場が舞台なのにずいぶんのんきそうに思えてしまうことでしょう。
いえ、決してそんなことはありません。
あのノルマンディー上陸作戦のときがティムの初陣。
彼は空挺兵なので、海岸からではなく、パラシュートでフランス内陸に降り立ちます。
はじめてのパラシュート降下。
ドキドキしますね。
ティムは始めは敵に銃口を向けることすらためらわれたのに、
いくつもの戦闘を体験するうちに変わって行くのです。
敵兵の死、友の死、町や村の民間人の死・・・。
生と死の差はほんの紙一重でしかない。
何かが少し違えばそこに横たわっている屍体は自分だったかもしれない・・・。
幾人もの友を失い、ドイツ人を憎むようにもなります。
ドレスデンが空襲で壊滅状態になったとの知らせに喜びを感じもする・・・。
どれだけの民間人が犠牲になったかも忘れて。


でもそんな彼が、ドイツ人の幼い子供を救い出し、その行く末の算段をしたりもするのです。
戦争とは・・・人間とは・・・なんと矛盾に満ちているのでしょう。
いかにも寒々しいアルデンヌの森でのドイツ軍との膠着状態の場面は
なんと言っても圧巻です。
このシーンは何かの映画でも見たことがある。
実にリアルで、悲惨さも覆い隠さず描かれています。
そしてそこでの大きな悲劇は、読者の心をも暗闇に突き落とすようでもあります。
更には全体を通して隠されていた一つの大きな秘密。
言葉をなくすような展開と、そんな中で育まれていた友情が胸を熱くします。

なんにしても心揺さぶられる本作。
私はすでに深緑野分さんの大ファンとなってしまいました。
まだ作品はそれほど多くはない。
今後も読みますよ~。

図書館蔵書にて
「戦場のコックたち」深緑野分 東京創元社
満足度★★★★★


覆面系ノイズ

2019年02月01日 | 映画(は行)

コテコテの青春音楽ラブストーリー

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歌うことが大好きな有栖川仁乃は二人の大事な友人との別れを経験しています。
一人は幼馴染の初恋の相手、モモ。
そしてもうひとりは曲作りをするユズという男の子。
やがて高校生になった仁乃(中条あやみ)は、学校でユズ(志尊淳)と再会。
ユズは人気の覆面バンドを組んでいて、彼女をボーカルとしてバンドに迎え入れます。
ユズは彼女をアリスと呼ぶ。

仁乃はいつか自分の声がモモに届いて、また逢うことができるといまだに信じていたのですが、
ある新人ボーカルのオーディション会場でモモ(小関裕太)と再会。
モモは彼女をニノと呼ぶ。

仁乃が最後に選ぶのはユズ、それともモモ、さあどっち、どっち!? 
というコテコテの青春音楽ラブストーリー。



海岸で沖に向かって大声で叫びを上げ、泣くなんてシーンもあって、
あまりにも図式的な少女漫画的(少女漫画が原作なので当然といえば当然ですが)
青春モノなので笑ってしまいました。
恋も仕事もごっちゃになって区別がつかない、いかにもガキンチョのストーリーだなあ
・・・と思いつつ終盤を迎えたのですが、
最後の最後に、いみじくもユズたちの音楽プロデューサーは言う。
「めんどくせえガキどもだ・・・。」
なるほど、この物語の描き手側にちゃんとそうした自覚があったのならそれで良し、
と救われた思いがしました。



やけに大人ぶったモモも含めて、まだ高校生の彼らのぐちゃぐちゃを描いた物語だったのか・・・と思えば、
何かストンと落ちた気がします。
ちなみに磯村勇斗さんはバンドのドラムスです!

覆面系ノイズ DVDスタンダード・エディション
中条あやみ
ポニーキャニオン



<WOWOW視聴にて>
「覆面系ノイズ」
2017年/日本/116分
監督:三木康一郎
原作:福山リョウコ
出演:中条あやみ、志尊淳、小関裕太、真野恵里菜、磯村勇斗

音楽度★★★☆☆
満足度★★.5