演出の仕事って言ったら、台本決めて、キャスト決めて、それじゃ本読み入りますか、ってところから始まる、だろう、普通は。ところがねえ、菜の花座はこうは行かないんだよ。台本決まる、主役を探す、拝み倒して出演を引きうけてもらう、ようやく稽古、これだもの。やりたい台本が決まっても、肝心の主役を張れる役者がいない。あるいは、稽古始まっても出てこない。連絡とってみたら、辞めます、なんてのもちょくちょくあった。さあ、どうする?あいつどうだ?彼ならやってくれそう?よし、じゃあ、説得だ!
狙うのは、演劇学校の2期以降の卒業生とか、1期生だけど座員にならなかった人、高校演劇部(置農以外)でならした奴、ついには、この人やれそう!って僕の直感一つで演劇経験ゼロの人を引っ張ってきたこともあった。
辞めるっていうのを何日もかけて口説いたこともあったなぁ。車の中で夜中の1時過ぎまで、説得したんだ。めちゃくちゃだよ、若い女性と二人きり、深夜の駐車場だもの。最近は、地元の他劇団から借りてくるなんて荒技もやった。もう、なりふり構わずって感じだね。だって、スカウトに失敗すれば、その公演アウトなんだから、こりゃ必死だよ。
だから、回りからは随分不興をかった。舞台さえうまく行けばいいんですね、菜の花座の公演のことしか考えていないんですね、非難の言葉なんか、気にしちゃいられない。なんでうちらでやらないの?団員の無言の抗議、無視無視。
これまで18回の公演を振り返って、予定のメンバーで芝居打ち上げたことってほんと数えるほどだもの、いやはや。主役探しはいつものことだし、途中交代も何度かあった。しかも、まずいことに、空いてるメンバーってのがまったくいないんだ、菜の花座には。どの公演でも、全力主義だから、。だから、誰かが欠けるともう、パニック。代役決まらない不安のまま、1ヶ月稽古続けたなんてこともあったね。
ともかく、キャスティングのトラブルは日常的。そのたんびに、だれかかれか、引っこ抜いて、ほじくり出して、磨き上げて舞台に上げてきた。ひやひや、綱渡りそのもの!それが毎回だもの、凄い!!振り返って冷や汗!思い返して立ち眩み!
さらに、不思議な事、こんな無茶苦茶してんのに、一度たりとも、公演キャンセルはおろか、演目変更もなかった!仕上がりだって、最高!とは言わないが、目指した水準はしっかり保った。これどう考える?よくよく強い星のもとに生まれてきたんだとしか言いようがない。これも菜の花座の奇跡の一つと考えていいようだ。
ということだから、菜の花座、これからも、まっ、なんとか、なんじゃないの。そう、この楽天主義こそ、乗り切れた秘訣かもしれないね。