秋の深ーい空の海を眺めながら、いつもこの『 カチリ 石英の音 秋 』という、たった3行の詩を思い出します。
井上靖の小説「あすなろ物語」「しろばんば」「夏草冬涛」「北の海」と続けて読んだときに、この中のどこかに確かに出てきた詩だと確信しています。
これらの本は、幼少から旧制中学、高校時代の私的小説ですが、この詩は多分井上氏自身の作品ではなく、交友の多かった中学時代の親友の詩だったという記憶があります。
これほど端的に、秋の澄んだ空を軽快な響きで詠んだ詩はないと思い、何十年も心の中に宿っているフレイズなのです。
カチリという響きも、透明な石英も、秋を表現するにはぴったりです。秋になると、吸い込まれそうなどこまでも青い空を見上げながら、石英の音が耳の奥で鳴るのを楽しんでいます。