新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

小川洋子『博士の愛した数式』とアドベントカレンダー

2020年11月27日 | 本・新聞小説
カラフルなクリスマス用品が店頭を賑わす季節です。それに加えホークス優勝の熱気で街は賑わいを見せています。そんな中で見つけたのが、クリスマスを待つアドベントカレンダーでした。
boxにはキャンディが入っており、日付のboxをひと箱ずつ裏返しにしていけば、クリスマス当日にはツリーの絵が完成するというもの。孫娘に送ります。

数あるアドベントカレンダーの中から、なぜこれに目が行ったのか?
それは読んだばかりの小川洋子著『博士の愛した数式』が突然頭に降ってきたからです。
三角形の上から6段目までのboxが「自然数」で積み重ねてあり、ある数式を当てはめればboxの総個数が求められる・・・、そう(6×7)÷2=21でぴったり21個。
高校のとき「n×(n+1)÷2」は無機質な公式としてただ暗記しただけ。それが芥川賞受賞作家にかかれば数式は美しくなり、輝き、喜びを持ってくる・・・。

交通事故で記憶の蓄積は1975年まで、それ以降は80分しか記憶が続かないという64歳の数学博士、家政婦の「私」、彼女の10歳の息子「ルート」の心温まる話です。
博士の「子供は一人にさせてはいけない」という考えで、ルートは下校後は博士の家で過ごすことになりました。
ある日、博士と家政婦がルートの治療を待つ間に、目にはいった放射線の三角マークにヒントを得て、●を三角形の形に並べて書いていきます。


博士は「つまり三角形は本人が望もうが望むまいが、1からある数までの自然数の和を表しているんだ。この三角形を二つくっつけると、更に物事は先に拓ける」と家政婦に説明します。
こうして「n×(n+1)÷2」が導かれます。すごい、美しさって数字で表せるんだぁ~!数式に表情が宿りました。(このインパクトが強くてアドベントカレンダーに釘付けになったのです)
数字を、数学を愛してやまない純粋な博士の目には、この美しさに感動の涙が・・・。

家政婦の誕生日は2月20日→220。博士の論文「学長賞No.284」→284。
220の約数の和が284。284の約数の和が220。2つの数字はめったに存在しない「友愛数」。二人は見事なチェーンで繋がっていたのです。
江夏投手の背番号は28。28の約数1、2、4、7、14を足すと28。これが単純で規則正しい「完全数」。江夏はこの完全数を背中に背負って活躍したのです。

博士の愛する「数字」と「タイガース」で繋がった3人の生活のリズムはすぐに軌道に乗りました。
博士のルートを慈しむ純粋な愛情、ルートも少年ながら、博士を敬愛し正面からそれを受け止める寛容さを持っています。心根の優しい家政婦の博士に対する細やかな心遣いも自然です。

素数、双子素数、虚数、√(ルート)など、生活の中にエレガントな数を見つけながら三人の心が自然に結びついていきます。
無色だった博士の生活に「楽しさ」と「体温」が加わって透明感のあるカラー版になりました。静謐で、穏やかで、そして切ないストーリーでした。
ルートが長じて中学の数学の先生になる結末に、わずか2年足らずの3人の共同生活が意味を持ち、希望に繋がります。

この本が出版されたときに大いに話題になりましたが、数学と純文学の異質な結びつきに興味はわきませんでした。しかし、長びくコロナ禍で本に逃げ場を求めるうちに何でも読もうという状況に変わってきました。
もっと早く読んでおきたかった、この3人と心を共有したかった、ずっとこの本の美しい数字に浸っていたいと余韻がいっぱい残る本でした

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