<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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瑞巌寺。
松島に関する予備知識がまったくないまま訪れていたので瑞巌寺というお寺が伊達政宗公の菩提寺ということは全く知らなかった。
拝観料を支払い、パンフレットを見て初めて知ったのであった。

いつもの旅行なら、私は旅行に行く目的地のことは、かなり調べあげてから出かけるのだが、今回は仕事なので仕事以外の予備知識はまるで無し。

例えばベトナムを初めて訪問した時は、近藤紘一の書籍を読みあさり、司馬遼太郎、開高健のベトナム戦記を読み、ロバート・キャパの伝記なども読んだ上で出かけたのだ。
その結果、最大の目的地がクチのトンネルでも、戦争博物館でも、アオザイのブティ区でもなく、サイゴンのマジェスティック・ホテル屋上にあるスカイブリーズバーになってしまったのであった。
実際、サイゴンに到着し、ドンコイ通りにあるビジネスホテルに宿泊し、歩いてバーへ行った時のことは今もなお、ベトナム初訪問時の最大の印象として残っている。
涼しい夜風に吹かれながら、地上から聞こえてくるバイクの群れの喧騒。
サイゴン川を行き来する船。
ライトアップされた看板などなど。

「あ~、なかなかええ雰囲気やな~」

と、なるはずであった。
ところが実際はバーの横の宴会場で結婚式の披露宴が開催されておりカラオケの騒音がわんわん響きムードぶち壊しなのであった。

仙台でも松島を訪れることを最初から決めていたらそれ相応に調査してからやってきたであろうに。

これまたGWということもあり境内は多くの観光客で賑わっていた。
門をくぐると高さ20メートルはあろうかという杉並木が参道の両側に並んでいて圧巻である。
右手には石窟寺院が並び、一種独特の雰囲気を醸し出している。
荘厳な雰囲気と密教的な雰囲気が合い交じり合い、なんともいえない旅愁をそそる。
とりわけ石窟寺院は私の最もお気に入りの雰囲気で、その異境的雰囲気はまるで外国か映画の世界のようにさえ感じさせるのだ。

石窟寺院に初めて興味を持ったのは、大学生の時であった。
私の卒業した大阪芸術大学は大阪府の河南町というところにあり、その背後は「近つ飛鳥」または「河内飛鳥」と呼ばれる歴史の古い地域である。
どれくらい古いかというと聖徳太子の墓や小野妹子の墓があるほど古い地域なのだ。
その近つ飛鳥の東背面には二上山と葛城山があり、その間の谷間になっている峠を超える道が日本最古の国道竹内街道だ。
ちなみに作家の故司馬遼太郎はこの竹内街道沿いの奈良側の出自だと、たしか「街道をゆく」に買いてあったと記憶する。
があまり確かではない。
この竹内街道が通る峠を竹内峠と呼ぶのだが、この峠から二上山の山頂に向けて登山道が通じている。
ある日、私は50ccのバイクで登山道口までやってきて、そこから頂上を目指して歩こうとした。
で、実際に歩き登りはじめた。
頂上から大阪平野の写真を撮影しようと思ったのだ。
10分ほど登ると、登山道が枝分かれしていた。
不慣れなので、どちらへ行けば良いのかよく分からず、適当に進むことにした。
多少道を迷っても、そこは二上山。
規模が小さいからどうにでもなると、危なっかしくも考えたのであった。
この登山道。
次第に細くなり獣道のようになってきた。
「迷ったかな」
と不安になってきて、それでも歩いて行くと、やがて視界がひらけて平坦な場所に出た。
草ぼうぼうの広場みたいな所であったが、なんと正面には山を繰り抜いた大きな洞窟が有り、目を凝らすと仏様のようなものが掘られている。
さらに周囲をよく見ると石塔のようなものも朽ちた姿で立っていて、そこが仏教に関係する何らかの場所であることがうかがい知れた。
正直、気味が悪かった。
なんなんだ、ここは。
と思ったのだ。
洞窟に近づくと、「ガチャ!」という石がぶつかるような大きな音が立ち、なにかがガサガサガサと動いたので、私は飛び上がらんばかりにビックリして、這々の体で下山したのだった。
あとで調べるとそこは「鹿谷寺遺跡」と呼ばれる石窟寺院跡で山そのものを繰り抜いて出来たお寺の跡、山岳信仰の印なのであった。
しかも大阪府の史跡に登録されてるようだったのだが、予算が無いのか、だれも知らないのか朽ちるに任せた姿になっていたのだった。

とまあ、そんなことで以来、鹿谷寺であろうと敦煌であろうと石窟に興味を持つようになったのだった。
尤も、敦煌へは行ったことはありませんが。

瑞巌寺の石窟は幾つもの石窟が並んでいて迫力がある、というより独特の美を醸し出していた。
岩面にはところどころ苔が生えていて、いっそう美しい。
どこかで見たような景色だ。
そういえば、「千と千尋の神隠し」に出てくる現実世界の方のワンシーンみたいだ、と思った。
霊気が漂い、幻想的な石窟なのであった。

つづく

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