萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

設定閑話:冬富士、皐月

2013-05-06 22:47:47 | 写真:山岳点景
氷雪と陽光、そして花



設定閑話:冬富士、皐月

こんばんわ、連休最終夜いかがおすごしですか?

短篇連載「side K2,another sky 明日香の風に」にて冬富士をベースに連作してみました。
三話とも表題・〆に掲載の写真はいずれも連休中に撮影して来たばかりです。
ただし、撮影場所は5合目以下のポイントですから悪しからず。

で、たった今、第3話目「富士、暁の夢問い」の加筆ほぼ終えました。
今朝はホントに冒頭の2行?程度だけのUPしか出来ずに外出。笑
読みに来てくださって「なんじゃこら?」って方いましたか?
もしいらしたら失礼しました、



5月現在、富士は4合目付近まで積雪がありました。
この写真はお中道へ上がれる4.5合目付近、場所によっては積雪が深いです。
気軽に見える雪の山、けれど経験も装備も無く踏みこむなら危険が伴います。

この時期は下界の温暖と晴天に、つい雪山でも気軽に入られる方もあるそうです。
ですが春の雪山は富士に限らず雪崩が起きやすい状態でもあります。
スラッシュ雪崩または底雪崩と呼ばれる雪崩です。

スラッシュ雪崩は11~5月頃発生し3月頃に多く、1~2月は低所から、4~5月・11から12月頃は高所から起きます。
発生する天候の特徴は富士山の場合、暖域にある富士の北側を低気圧が通過する時で雪崩発生地点は降雨、御殿場も降水量が多くなります。
そして山頂の気温が高極となって低気圧の中心が富士山北面、要するに山梨側を通過する直前がスラッシュ雪崩の発生ピークです。

スラッシュ雪崩は発生場所などの条件が重なれば大規模な土石流にも発展します。
最悪ケースの被害想定域は富士山ハザードマップの土石流想定域に等しく、五合目より遥か下方まで圏内です。
平成16年12月5日に発生した富士スバルライン土砂災害は山頂付近のスラッシュ雪崩が発端でした。
はるか標高3,776mで起きた雪崩が無雪の斜面を数kmを奔り、自動車数台が巻き込まれています。



山麓1合目は花咲く森の富士です、けれど標高が上がるにつれて季節は寒冷期に変化します。
撮影日は標高2,300mの吉田側五合目が推定5度位、山頂は零下10度だと書いてありました。
標高差およそ1,500m=気温差15度ほど、この数値が示す以上に春の富士は貌が違います。

作中にも幾度か書いていますが、積雪期の富士は気圧も風速も夏と別世界です。
この日も富士山頂は雲を吐き、纏い、刻々と風に陰翳は移ろって斜面の輝度は変化していきました。
そのスピードの通りに山頂の風は強いと想像も容易い、そして雲のなか湿度も視界も明快だとは思えません。
こうした風の速度を雲影を写して見せる斜面の鏡面状態に、鏡になるほどの硬度と平面が視覚から理解できます。

第32話「高峰」でホワイトアウトのことを書いていますが、視界零の経験は自分もしました。
時と場所は夏の比叡山なんですけどね、笑 って今だから笑えるけどちょっとシャレにならんかったです。
登山目的では無いのでバスで登ったら、下界から見たとき解らなかった霧が雲のよう湧いていました。
比叡山は琵琶湖の水蒸気が昇って濃霧が発生しやすいんです、この湿度が肺病の罹患率に繋がります。
で、根本中堂の付近では霧が流れていく風が綺麗で、けれど湿度は床歩く靴下を透すほど。
すごいな、と思っていたら横川エリアでは視界零になりました。

自分の足元すら見えないんですよね、黒の登山靴を履いてるのに霧の白濁に全く見えない。
視界は15cmといったところで山道も足で探りながら進むしか無くってね。
で、帰りに霧が薄まってから見たら道幅1mも無い崖部分があった。笑
ナンテね、笑いごとでは無いです。墜ちたら立派な転落遭難でした。

あの視界零に雪の高峰で陥ったら、って思うとホント怖いです。
きっと撮影日の富士も雲覆う中はアンナ感じだろうと思います。

今春の富士も遭難死が発見されています。
いずれも滑落が原因だそうです、それだけの強風と硬い雪面は五合目からも伺えました。
雪、氷、風、低気圧と低温。そんな全てが低地や都市部に住んでいる人間には想定外の世界です。

また、標高が高い地点での気候変化に対し、人体は酸素の吸収能力や消費量といった心肺機能も変化します。
こうした変化が高地に慣れていく事を順化と言いますが、その順化スピードも体調次第で違ってきます。
そのため以前に来た時は大丈夫でも今日は高山病を起こすケースも普通です。
撮影した日も高山病らしき方が救急搬送される場を見ました。

雄渾に美しい雪戴く富士、けれど「白魔」と呼ばれる通りの横顔は山の冷厳を湛えます。



春富士は標高が下がるごと芽吹きは華やぎます。
撮影日の山麓は芽吹きの季節、富士桜が林間に薄紅の春を見せていました。
小さな花つきが特徴の豆桜と山桜の容姿で、染井吉野の半分よりも小柄な花です。
枝ぶりも細やかに優しくて、冬富士の猛威とは対照的な花木は春の陽光に穏かでした。

また三葉躑躅も多くみられます。
紅あざやかな藤紫に咲く花と薄緑やさしい葉のコントラストが綺麗でした。
今5月の富士は初夏から春、冬へと標高ごと季節の流転を見せてくれます。

山頂は零下に凍らす氷雪の世界、山麓は若葉と花の森。それが春の富士です。



峻厳と優美、ふたつ備える富士は麗峰という言葉が似合うなって思います。
そして信仰の山でもある富士は山麓から山頂まで多くの神社が連なります。
吉田口登山道は浅間神社からスタートして当に神居の山の雰囲気です。

富士の祭神は此花咲耶姫、上述の富士桜を司る花神でもあります。
古典お馴染みの『古事記』に此花咲耶姫は語られる神です、ちょっと面白い話かと思います。
華やかに清楚な桜の花神、その反面は火焔を噴き豪風と氷雪をまとう荒ぶる山神、それが富士の姫神です。
言い古されているけれど「美しい花には棘がある」って言葉をモット鮮烈に雄渾になると、あんな感じかなあと。

いま世界遺産登録が言われる富士ですが、入山料も問われています。
これについて富士登山者にアンケートした結果、賛成意見が多いようですね。
コレ難しい問題だなって思います、有料化すると金払う分だけ勝手にしてOKって考えも出てくるから。
それ以上に心配なのは世界遺産になって入山者が増える→マナー低下がより悪化するって事です。

いまスバルライン五合目にはね、アノ有名なアウトドアショップが建設中です。
これを有効利用して装備不十分者で入山したい場合、強制的に装備を整えさせたら良いかもしれないですね。
たとえ五合目でTシャツ1枚で充分でも山頂では後悔するのが、標高差およそ1,500mの実力なので。笑

どうか今シーズンこれ以上の遭難事故が無く、きちんと山を楽しまれると良いなって思います。








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