萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第74話 芒硝act.9―another,side story「陽はまた昇る」

2014-03-25 23:35:13 | 陽はまた昇るanother,side story
And hear the mighty waters rolling evermore 一滴の環



第74話 芒硝act.9―another,side story「陽はまた昇る」

橘色、青白橡、杏子色、蘇芳、瑠璃色、そして葡萄色。

ただ一房、けれど光彩ゆたかに実りの季だと告げてくる。
もう幾度か霜を浴びたはず、それでも薄い皮のうち湛えた雫は陽を透かす。
屋敷畑の一角ゆるやかな午後の陽射しに揺れて輝く、その姿に周太は溜息ごと微笑んだ。

「きれい…11月に葡萄って珍しいよね?」
「でしょう?霜が当って美味しいのが出来ないかなって思って、試してみてるの、」

楽しげに答えながら華奢な指そっと果実へ触れる。
実を仰ぐ瞳きれいに明るく温かい、どこまでも実直な眼差し笑った。

「奥多摩は霜害があるでしょ、それに耐えられる果樹をって前から試してるの。水源林のこともして、それに受験もだなんて欲張り過ぎだけど、」

農業高校で学んだことをJA就職後も美代は生かしている。
特産物の開発に携わって、その日々が大学で研究したい意志を育んだ。
そこにある学究心は篤い、そんな眼差しが真昼の横顔に重なるようで質問こぼれた。

「ね、美代さんって光一や吉村先生とは親戚になるの?」

真昼、吉村医院で見つめた横顔ふたつは眼差しが似ていた。
あの二人は伯父と甥の血縁にある、そして今この隣にいる瞳も俤を映すよう微笑んだ。

「そうよ、遠縁だけどね、」

さらり肯定ごと振向き笑ってくれる。
日焼けあわい肌に真直ぐな黒髪は健やかに明るい、そのトーンが似ている。

―美代さんって雅人先生と似てるんだ、いま初めて気がついたけど明るい感じが似てて、

40歳になる男性と女子高生のような風貌、そんな差から今まで気付かなかった。
けれど改めて見つめた空気は親戚なのだと頷かす、その聡明な瞳が可笑しそうに笑った。

「ホント言うと私もどんな親戚繋がりか憶えてないの、でも吉村先生のお母さんの家を本家って呼んでるからね、分家とかだと思うけど、」

本家、分家、どちらも自分には縁遠い言葉でいる。
なにか目新しい想い見つめながら訊いてみた。

「吉村先生のお母さんの家が本家なの?」
「そうなの、同じ吉村さんって名字でね、本家から分家にお嫁に入ったって聴いてるよ、」

なんでもない貌で答えてくれる向う、からり玄関扉が開く。
木造しっかりした引戸から銀髪ゆれて朗らかに笑ってくれた。

「声がすると思ったらまあ、また庭で話しこんじゃって。ほんと美代も湯原くんも畑やら木やら好きだねえ、お茶淹れたからお入りなさいな、」

可笑しそうに笑った懐かしい顔が手招きする。
その言葉と仕草に恐縮しながら周太は頭下げた。

「ご無沙汰しています、2月はありがとうございました、」
「相変わらず綺麗なお辞儀だねえ、こちらこそ2月は楽しかったわ。さあ入って下さいな、」

楽しげな笑顔に誘われて歩きだす。
紅葉の木洩陽きらめく庭石を渡りながら美代が尋ねてくれた。

「湯原くん、今日は何時まで平気?よかったらお夕飯どうかなって言われてるの、5時からとかならどう?」

夕餉に誘ってくれる、その笑顔が温かい。
こんなふう迎えてくれる友達が嬉しくて周太は微笑んだ。

「ん、6時過ぎに御岳を出られたら大丈夫だけど、御馳走になって良いの?」
「もちろんよ、お祖母ちゃんもお母さんも朝から支度しちゃってるの、食べて行ってあげて?」

愉快そうに笑ってくれる言葉にまた恐縮してしまう。
それ以上に嬉しい本音があるのは、きっと自分は団欒に飢えている。

―家でもお母さんと二人きりだったけど、でも家族って空気が恋しいね…お母さんどうしてるかな、

母と食事した最後から1ヵ月を経ってしまう。
あの台所で独り母は食膳につく、その姿を想うと鼓動きゅっと締められて、そしてまた思案めぐりだす。

―環くんもお母さんのこと想う時あるよね、でもお父さん…雅樹さんのことまだ知らなくて、美代さんもどこまで、

環のことを美代はどう想っているのだろう?

いま話してくれた通り縁戚ならば環の存在を知らないはずがない。
それは光一も同じだろう、けれど二人から環の話を聴いたことは未だ無い。
その理由は雅人が話してくれた通りなのだろうか?そんな思案ごと玄関くぐり小嶌家に上がった。




(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】

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閑話:止観の桜

2014-03-25 23:30:01 | 雑談
時止めて、



閑話:止観の桜

桜の開花が東京でも出されましたね、笑
開花宣言=染井吉野っていう品種が基準なんですけど、この桜は短命です。
いわゆる観賞用に育てられてきた品種で生育も速いけれど枯死も他種より速いのだとか。

日本の桜は多種多様で四季すべて開花期があり、色も幾つかあります。
濃い紅色、白、薄紅はポピュラーですが他に黄色、黄緑色。黒色=薄墨色、水色もありました。
ありましたっていう過去形なのは現在、水色と薄墨色の桜は文献でしか見られず現存木が確認できない為です。
ウスズミザクラというと根尾谷の淡墨桜が有名ですがアレは江戸彼岸という種類で薄紅色、で、品種の薄墨桜は淡い藤色=薄墨色でした。

これだけ多様な品種なのは実生=種から育てると親木と同じ種類になる確率が低いためです。
ようするに遺伝子の変化が起きやすいってコトなんですけど、ソレを利用して江戸期に多様な改良がされました。
そんなふうに愛されてきた花木なんですけど、今でも開花前線がニュースになるほど日本では特別なトコあります。
ソンナ桜は和歌や俳句など韻文や紋様、絵画の題材にも多く取り上げられていますが、
今秋、もう去年ってことになりますけど横浜美術館で桜を観ました。

横山大観の描いた篝火×桜の絵だったんですけど、
それも独特の空気感が惹かれましたが以前、他の美術館で見た夜桜は今も記憶に鮮やかです。
どちらも描かれていたのは染井吉野ではない、もっと古い品種の桜に見えたんですけど。
ドコで見分けたかって言うと桜の花と一緒に葉が描かれていたから。
染井吉野は花が終わってから葉が出るんですよね、

秋の大観展@横浜美術館では、滝の水墨画っぽいのと夏の雨を描いた絵が印象的でした。
あと菖蒲の池を覗きこむ女性の絵があったんですけど、水鏡には女性の影が映っていないんですよね。
女性=花の精だっていう表現なのかもしれません、そこらへん図録見れば書いてあるかもしれないけど、笑
それから『屈原』会期が違って観られなかったんですが、図録だけで息呑まれます。

横浜美術館はカフェが併設されています、
観終わった後にぼーっとするのに良い空間ですけど、サンドイッチ頼んだ場合はご用心かもしれません。
秋で寒め=エアコン効いてた所為だと思うんですけどパンがすぐ乾いてしまい口の水分もってかれました、笑
でも味は悪くないですしコーヒーとか普通に美味しかったんで、買ったばかりの図録ノンビリ眺めて良い時間でした。

第7回、ミュージアム・ミュージアム ブログトーナメント



Aesculapius「Mouseion13」校了です、雅樹@光一の運動会にて父親やってます、笑
第74話「芒硝act.9」短めですが校了しています、小嶌家庭でのワンシーンです。
このあと短編連載かAesculapiusの続きを掲載します、

深夜に取り急ぎ、




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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚42

2014-03-25 15:26:11 | 雑談寓話
こんにちは、休憩合間ですが春眠らしくホント眠い、笑
で、この雑談もバナー押して下さる方いらっしゃるので続きまた載せます、楽しんでもらえたら嬉しいです、笑



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚42

金曜夜の某コーヒー屋にて、同僚御曹司クンと夜お茶してたんだけど。
明日はデートだから遅くなるの無理だよって正直に言ったら直球な台詞ぶつけられた。

「明日おまえとデートする相手のコト憎ったらしいくらい羨ましい。クリスマスイヴ俺だって誘いたいもん、」

発想なんだか乙女ちっくだな?

っていうのが正直な感想だった、でもコウイウもんかなあとも思ったよ。
イベントな特別っぽい日は好きな相手と過ごしたいって発想なんだろうけれど、
そういうのまったく自分も無い訳じゃない、だから決めてる予定あったけど訊いてみた。

「なんで誘いたいワケ?笑」
「そりゃーさー好きな相手とイヴしたいじゃん、拗」

ま、そういう返事するよね?
なんて予想通りの展開に笑ってSった、

「ふうん、じゃあ一緒したらナンカ期待させちゃうよね?だから無理、笑」

期待させるのは嫌だったんだよね、
彼のコト嫌いなわけじゃない、自分と違う視点を持ってる&無様メンドクサイけど潔癖なトコ好きだった。
ニセモン笑顔仮面・イイワケ多い・女々しい・メンドクサイヤツだけどカッコイイ貌ちゃんと持ってる、だから友達でいたかった。

恋愛で相手は来る、でもコッチは友達続けていたい。
そうしたかったら期待は潰す+でも一緒の時間を楽しませればイイ、いわゆる生殺し。
こういうの狡いって人も当然いるし男女なら不実だと謗られる、それでも自分はソレやっていたくて笑ったら御曹司クンは言ってきた。

「ぜったい期待とかしない、それならイヴ一緒してくれる?週末だし、」

そこまでして一緒にいたいって、どうよ?

なんてこと思った、で、コッチの思う通りにはなってるけど哀しくなった。
ソンナに大切にしたがる日を自分と一緒に居させていいのか解らないなって思ってさ、
だったら諦めてもらう方がイイかもしれないって思いながら、とりあえず12月24日の予定を正直に言った、

「昼は親にケーキ買って帰る約束してるから無理、そのあと約束一コしてる、笑」

ホントにそういう予定だったんだよね、
だからありのまま言ったんだけど御曹司クン重ねて訊いてきた。

「その約束ってさー…もしかして本命?」

やっぱソレ気になるんだ?
まあ気になるの仕方ないだろなって思いながらコーヒー飲んで笑った。

「夕飯はとりあえず予定無いよ、今のとこはね?笑」

その年のイヴは夜、ホントは独りで過ごすつもりだったんだよね。
それまでイヴが独りだったことは無くて子供時代は友達と家族&学生時代からは恋人ってカンジに誰か一緒だった。
だけどその年は独りでいたくて、独りだってことに期待してたことがあってさ。だから空けてあった予定に笑顔が飛びこんだ。

「イヴの夕飯おごらせて?車出すから好きなトコどこでも連れてくから一緒にいさせてよ、期待とか絶対しないし友達でいいから、」

やっぱり誘われることになるんだなって思った、笑
こうなること解かって言ったけど、予定を言っちゃった自分がホントは狡い。
でもコウなることも遺志なのかなって思ったりしてさ、なんだか執行猶予みたいな中途半端な気持ちで笑った。

「ドタキャンしたらゴメンね?」

こんなこと許してくれるのかな?
そんなこと考えながらコーヒー口付けた前で、友達は幸せな貌して笑った。

「ドタキャン予告とかってホントSだよなーでも約束守るおまえだって知ってるし、笑」

約束を守る、
そんな言葉は何げなくて信頼してるよって言ってくれてる。
だけど今このタイミングで言われたことは本音ざっくり刺さって、それでも顔で笑いながら独り考えてた。

『君のことだから恋にならんだろうし、ノーマルの方が生きやすいのも本当だからね。お互いに人として誠実に向きあえたら良いなって思うなあ、』

一週間ほど前に父に言われた通りだって考えながら納得してた、
今も御曹司クンは一生懸命に一緒にいたいって伝えて笑ってくれる、そういうの誠実だなって思ったよ。
その誠実さには恋愛っていう動機がある、ふり向いてほしい期待が無いって言えば嘘だろうし幸福になれるって信じてる。

だけど自分は恋の欠片も無い、彼が自分を恋したところで幸福になれないって思ってる。
相手の気持ち欠片も応えられない自分のコトいつか御曹司クンが苛立つかもしれないとも思ってたんだよね。
それでも友達としては傍にいてほしいなって思い始めてたから、ドッカ執行猶予みたいな感覚でイヴの予定とりあえず笑った。

「店の予約とかするなよ?笑」



とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、
おもしろかったらコメントorバナー押すなど頂けたら嬉しいです、で、気が向いたら続篇載せます、笑

Aesculapius&第74話の加筆校正したら短篇連載かナンカの予定です。
小説ほか面白かったらバナーorコメントして続き急かして下さい、笑

取り急ぎ、



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Short Scene Talk ふたり暮らしact.41 ―Aesculapius act.51

2014-03-25 00:55:14 | short scene talk
二人生活@ playground4
Aesculapius第3章act.13の幕間



Short Scene Talk ふたり暮らしact.41 ―Aesculapius act.51

「吉村すげえ、ぶっちぎり1位じゃん、笑(やっぱりすげえなあ)」
「走るのは逃げ足で鍛えてるからね、(笑顔)(思い出しちゃうねオヤジのコトおふくろのコト)」
「逃げ足って吉村、ナニから逃げてたわけ?(クマとかだったりして)」
「ん、オヤジに悪戯して猛ダッシュしてたからね(いつもオヤジ面白かったな反応が陽気でさ)」
「あ(しまった俺また失言ってやつしちまった凹)あー吉村って悪戯好きなんだ?(ソッチに話し持ってこっと)」
「うん、悪戯は大好きだね(笑顔)でもコッチ来てからはしてないね、(雅樹さんには悪戯したくないね悪戯より何万倍ずっと雅樹さん大好き)」
「へえ、なんか吉村の悪戯って凄そうだよな?笑(知能犯って感じするよなあ)おっ、父さんたち集まってるぞ、」
「ホントだね、父兄リレーどんなだろね?(笑顔)(雅樹さん腕まくりしてるカッコいいねっ何番目に走るのかねやっぱアンカーかね)」
「兄貴のとき見たけどクラス対抗でさ、フツーは半周だけどアンカーだけ一周するんだよな、たしか(ソンナ感じだったよな)」
「ふうん、じゃあ俺たちのリレーと同じカンジだね、(アンカーだけ一周で練習したもんね)あ、(並び始めてる雅樹さんも)」
「お、吉村の父さんがアンカーっぽいぞ?笑(いつも父さんアンカー多いけど今日はサスガに譲ったんだなあ)」
「うんっ(御機嫌笑顔)(やっぱ雅樹さんアンカーだよねっ走ってるとこ2倍見られるねっ嬉)」
「あ、俺んちの父さんトップみてえだ、第一走者とかって緊張しそう、笑(やっぱ花形ポジションだな父さん)」
「へえ、あれが荒木のオヤジさんなんだね?ナンカ似てるね、(目の感じとか笑ってる顔そっくりだね俺と雅樹さんドッカ似てるとこあるかね)」
「うん、ナンカよく似てるって言われるんだよなあ、笑 でも吉村も父さんとナンカ似てるとこあるよな?(ドッチも綺麗な貌だよなあ)」
「ホントっ?雅樹さんと似てるんなら嬉しいねっ(御機嫌笑顔)いちお血繋がってるしねっ(ジイさんと吉村のバアさんが従兄妹だっけね)」
「元から親戚のお兄さんだって言ってたよな?姉さんも美人だし吉村ん家って美形だよな、(可愛い美代ちゃんも親戚だとか言ってたし萌)」
「ん、なんでそう思うかね?(雅樹さんはホント別嬪だけどねっ)」
「だって美代ちゃんも親戚なんだろ、あの子すげえ可愛いしさ(照×萌)あの男の人もカッコいいよ、やっぱ親戚なんだろ?(誰なんだろ)」
「雅人さんは雅樹さんの兄さんだね、オヤジさんの吉村先生そっくりだよ?(性格は雅樹さんと先生が似てるカンジだけどね)」
「その吉村先生もお祖父さんで、あの雅人さんって人は伯父さんってコトか、(吉村すごい可愛がられてそうだよなあコンナ綺麗だし優秀だし)」
「うん、そうなるね(笑顔)(そうだ雅人さんに代休の時お願いしてみよっかね一度はって思ってたしさ雅樹さんのアレも知りたいね好奇心×照萌)



Aesculapius第3章act.13の幕間というか裏より光一@運動会
中学生のワンシーン+雅樹のことばかり考えている光一4です、笑

Aesculapius「Mouseion13」加筆校正まだします。
それ終わったら第74話か短篇連載かナンカの続き掲載します、

取り急ぎ、笑



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