学年だより 人生の「攻略」法(2)
圧倒的な量のトレーニングをこなすと、脳そのものが変化するという話(学年だより№46)を前に書いた。その臨界点が「1万時間」ということなのだろう。
量をこなすことによって、特定の技術が身につくだけでなく、その部分を司る脳の領域そのものが変化していくという。これから脳を作り変えていけなら、「無限の可能性がある」という言葉もウソではない。ただし、「何をやっても」とは言えない。
自分の好きなことでなければ、「1万時間」を費やせないからだ。
~ 最近はキャリア教育とかいって、大学生のうちに、あるいは高校生のときに、自分の「スペシャルなもの」を見つけなさいと教えているようだけど、ぼくはこれをあまり信用していない。高校生のときは彼氏/彼女のことで頭がいっぱいなのがふつうだし、大学生は遊びに夢中で、たまに「こんな世の中はまちがってる」とか「この世界をもっとよくしたい」とか議論する方がずっと健全だ。だから、こういう「教育」は話半分に聞き流しておけばいい。
大学3年生になると就活がはじまって、そのルールをどうするかでもめている。これについてもぼくは、大学を出て(中退でも高卒でもいいけど)どこかの会社で働くことは勧めるけど、就活に必死になることはないと思っている。
かつての日本は、いったん就職すると、その会社に40年間閉じ込められるのが当たり前だった。就職氷河期の頃は、「就活に失敗すると一生負け組」といわれた。でもこんな異常な制度は崩壊しつつある。いまでは20代なら、あるいは30代前半までは、何度でも転職できるようになった。
最初から「好き」がわかっていて、夢に向かって一直線に進んでいける幸運なひとを除けば、「好きを仕事にする」方法はたぶんひとつしかない。それはトライ&エラーだ。そのときに大事なのは、会社ではなく仕事を選ぶことだ。
世の中にはものすごくたくさんの仕事がある。それでもなんとなく、自分に向いているものと、向いてないものはわかるはずだ。なぜなら、君のスピリチュアルが「自分らしくない」ものを拒絶するから。
こうやって自分に向いていそうなものをある程度絞り込んでも、まだまだたくさん仕事はある。だとしたら、あとは試してみるしかない。
自分らしいかどうかを基準にして、面白そうな仕事をいろいろ試してみるなかで、なにが「好き」かがわかってくるはずだ。 (橘玲『人生は攻略できる』ポプラ社) ~
大人がみなさんを見てうらやましく感じるのは、みなさんが持っている時間という資産のあまりの大きさにまぶしくなるからだ。
好きなことを探す時間があり、一流になるための努力をする時間がある。
さらに言えば、「人類史上もっともゆたかな日本に生まれた」という幸運を手にし、健康な精神と身体を有している。この資産こそが幸福の土台だ。有効に使ってみませんか。