2学年だより「岩をよじ登る(1)」
英語民間試験の利用はなくなったものの、リスニング試験の配点が大きくなるという変化は、次の共通テストから適用される。
そもそも四技能の力を大学入試で測るようにしようという動きは、経済界からの要請で始まった。
日本の若者は学校で英語を何年も勉強しながら、全然会話ができる人間に育っていない、これは英語教育のやりかたに問題がある、リーディングやグラマーやるより、まずスピーキングだ! と主張する大人がたくさんいたからだ。
今思えば居酒屋でくだをまくおじさんの主張としか思えないが、教育行政に大きく影響を与える結果となった。まず現行のセンター試験で、高校生全員が満点とれるまでトレーニングするほうが、よほど日本人の英語力をあげるはずだが、そうはならなかった。
英語学習に対する勘違いと、物事を論理的に考え判断できる知性が、日本人にかけていることを表す実例の一つだったといえるかもしれない。
~ 齋藤 日本人が英語を使えないのは英語教育が間違っていたから、という決めつけもおかしいと思います。ふつうに勉強して高校を卒業すれば、ある程度の文章は読んだり書いたりできる。しかし勉強しなかった人はできない(笑)。それだけの話だと思うんです。
鳥飼 そうです、実際に学校教育を基礎として英語を話せるようになる人もいます。世界で活躍している日本の多くの企業人は、そういう人ですよね。
齋藤 これは他の教科でも同じ。数学を勉強しなかった人ほどできないし、数学が嫌い。でも微分積分の分からない人は、「数学教育が間違っている」とは言いません(笑)。自分のせいだと自覚しています。
鳥飼 自慢じゃないですが、私は算数から数学までまるでダメなんです。でも、けっして学校の教え方が悪かったからとは言いません。自分が悪かったと思いますね。私は運動も苦手ですが、12年間も体育の授業を受けたのに、テニスもゴルフもできないのはなぜだ、などと文句は言いません。運動音痴だからしようがないな、と思うだけです。
ところが英語だけ、できない人ほど学校教育のせいにする。「大学卒業まで10年間もやって、なぜできないんだ」と。それはあなたの努力が足りなかったんですよと言いたい。(笑)
ついでに言うと、英語については世間にいろいろな勉強法が出回っていますね。いかに楽にマスターできるかを競っているようですが、外国語の習得にそんな都合のいい楽な方法はありません。たとえば少し前から、英語をシャワーのように聞き続けるだけで話せるようになる、という教材がありますね。たいへん人気があるそうです。
林真理子さんと対談したとき、開口一番に聞かれたのが「あれを買ったのにちっともうまくな
らない。どうして?」(笑)。うまくなるわけがないじゃないですか。「シャワーのように浴びても流れるだけですよ」と答えたら、「やっぱりね」と納得していただいたんですけどね。 (鳥飼玖美子・齋藤孝『英語コンプレックス宣言』中公新書ラクレ) ~
英語教育の第一人者、日本の同時通訳の草分け、立教大学名誉教授の鳥飼氏はこう語る。
英語民間試験の利用はなくなったものの、リスニング試験の配点が大きくなるという変化は、次の共通テストから適用される。
そもそも四技能の力を大学入試で測るようにしようという動きは、経済界からの要請で始まった。
日本の若者は学校で英語を何年も勉強しながら、全然会話ができる人間に育っていない、これは英語教育のやりかたに問題がある、リーディングやグラマーやるより、まずスピーキングだ! と主張する大人がたくさんいたからだ。
今思えば居酒屋でくだをまくおじさんの主張としか思えないが、教育行政に大きく影響を与える結果となった。まず現行のセンター試験で、高校生全員が満点とれるまでトレーニングするほうが、よほど日本人の英語力をあげるはずだが、そうはならなかった。
英語学習に対する勘違いと、物事を論理的に考え判断できる知性が、日本人にかけていることを表す実例の一つだったといえるかもしれない。
~ 齋藤 日本人が英語を使えないのは英語教育が間違っていたから、という決めつけもおかしいと思います。ふつうに勉強して高校を卒業すれば、ある程度の文章は読んだり書いたりできる。しかし勉強しなかった人はできない(笑)。それだけの話だと思うんです。
鳥飼 そうです、実際に学校教育を基礎として英語を話せるようになる人もいます。世界で活躍している日本の多くの企業人は、そういう人ですよね。
齋藤 これは他の教科でも同じ。数学を勉強しなかった人ほどできないし、数学が嫌い。でも微分積分の分からない人は、「数学教育が間違っている」とは言いません(笑)。自分のせいだと自覚しています。
鳥飼 自慢じゃないですが、私は算数から数学までまるでダメなんです。でも、けっして学校の教え方が悪かったからとは言いません。自分が悪かったと思いますね。私は運動も苦手ですが、12年間も体育の授業を受けたのに、テニスもゴルフもできないのはなぜだ、などと文句は言いません。運動音痴だからしようがないな、と思うだけです。
ところが英語だけ、できない人ほど学校教育のせいにする。「大学卒業まで10年間もやって、なぜできないんだ」と。それはあなたの努力が足りなかったんですよと言いたい。(笑)
ついでに言うと、英語については世間にいろいろな勉強法が出回っていますね。いかに楽にマスターできるかを競っているようですが、外国語の習得にそんな都合のいい楽な方法はありません。たとえば少し前から、英語をシャワーのように聞き続けるだけで話せるようになる、という教材がありますね。たいへん人気があるそうです。
林真理子さんと対談したとき、開口一番に聞かれたのが「あれを買ったのにちっともうまくな
らない。どうして?」(笑)。うまくなるわけがないじゃないですか。「シャワーのように浴びても流れるだけですよ」と答えたら、「やっぱりね」と納得していただいたんですけどね。 (鳥飼玖美子・齋藤孝『英語コンプレックス宣言』中公新書ラクレ) ~
英語教育の第一人者、日本の同時通訳の草分け、立教大学名誉教授の鳥飼氏はこう語る。