帰京した後の日曜、桜を愛でながら川歩きをしたい。
桜並木沿いの川とくれば、目黒川だ。
都心部の川なので、川そのものは人工的様相だろうが、桜の季節なら歩き甲斐がありそう。
もちろん河口から歩き始めるので、羽田空港行きモノレール駅の「天王洲アイル」に降り立つ。
河口部に当たる東京湾岸は、殺伐としたビル群で道路は広く、人通りは少ない。
人工島の天王洲から目黒川の河口部に行くと、
ほとんど黒の深緑によどんだ水に、桜の花が群となって浮いている。
この付近には桜がないので、上流から流れてきたのが溜まっているのだ。
いかにも桜が豊富な目黒川らしい河口だ。
といっても都市部にある河口の川は死相を呈して、見るに忍びない。
先を急ごう。
品川区の運動場から歩道の橋で目黒川の河口(写真)を眺めながら渡ると「東品川海上公園」となる。
その名の通りここはまだ臨海部だが、目黒川の桜並木はここから始まる。
残念ながら、数日遅く、葉桜になっているが、その分緑が多いので春の気分となるには不足はない。
目黒川はこの河口部から川沿いの歩道が両側にあり、しかも桜並木になっている。
品川区のこの姿勢は、川に背を向けている神田川の河口部(中央区) とはおおいに異なる。
川沿いに歩いて橋の中央に和風の屋根付きベンチのある品川橋に達する。
そこはなんと旧東海道の橋。
橋の北側は旧東海道の品川宿の町並みになっている。
町中の無料休憩所脇では地元の主婦たちがなにやら小麦粉を練って料理の仕度中。
街道歩きの人たちが橋を渡っていく。
そうか、川歩きの他に街道歩きという手もある(東海道も中山道も名古屋からの方が楽しめるが)。
街道歩きの楽しみは数年後に預けるとして、
今回は東海道と直交する目黒川歩きなので、宿場風情を堪能せずに先を急ぐ。
すぐ上流にある地元の鎮守・荏原神社に詣で、鳥居前の赤い欄干の鎮守橋を渡り、
京急線の下をくぐり、第一京浜の広い道路を渡って、
東海橋沿いの三重塔のある本光寺に立ち寄り、対岸の東海禅寺(沢庵和尚の寺)にも立ち寄る。
JRの鉄橋(京浜東北、東海道、山の手)を次々くぐって、
品川御殿山のビル群を行く手に仰ぎ、川沿いの道は大崎ニューシティという高層ビル群沿いになる。
同じ都市的風景でも人工島の湾岸沿いの殺伐さとはうってかわって、
この一帯は、高層オフィスだけでなく高層マンションが建ち並んで人の生活感があり、
しかも並木の緑も豊かで職住近接の快適なアーバンライフが送れそう。
といっても目黒川自体は、両岸はコンクリート壁で、川も深緑によどみ、魚影も鳥の姿もない。
御成橋脇にあった説明板によれば、以前の目黒川は下水がそのまま入って悪臭を放っていたという。
今では水質が改善して鮎も遡上しているとのこと。
でも川は透明でないけど。
五反田の国道1号(現東海道)を渡ると、桜並木の密度が増してくる。
葉桜の中に満開になっている桜があったので、咲き遅れた木かと思ったら、八重桜だった。
ソメイヨシノは葉桜だが、この八重桜やピンクの濃い関山桜の満開は楽しめた。
東急目黒線の鉄橋を過ぎると、ここから先が桜の名所として有名な地帯となる。
うちの菩提寺である五百羅漢寺に行く時いつも通るから知っているのだ。
ここまで来てその五百羅漢寺に立ち寄らないと、霊廟で眠っている父に申し訳ないので、
羅漢寺に立ち寄って屋内の霊廟を開けて線香を立てる。
ついでに親戚が供えたままの缶ビールを拝借(酒類は持ち帰るのが原則)。
対岸の目黒雅叙園の桜の並木が川にせり出して、目黒川ではいちばん見ごたえがある風景を作っている。
川には立ち漕ぎサーフィンで川を遡上している人たちがいる。
波がなく、流れもゆるいので楽しそうだ。
目黒通りを渡ると、右岸が公園続きとなり、そこに腰を下ろして、さきほどの缶ビールの栓を抜く。
川歩きでは完歩後にビールを開けることにしているのだが、
今回は桜の花見が目的でもあるので、こうして花見らしいことをするのだ。
白く高い煙突が目立つ目黒清掃工場付近の桜もきれいで(写真)、
中目黒公園付近の風情も川への愛情を感じる。
船入場広場に達すると、歩道は川から離れ気味になるのだが、
川には人工的な石が置かれて、川の様相が一変する。
河原が中途半端な公園風になるのだ。
といっても人が降りることはできない。
その代り、サギが数羽たむろして、鴨の群も見える。
河口から遡行して、はじめて生き物に出会えた。
駒沢通りに出て正覚寺に立ち寄り、公衆トイレを借りる。
目黒区の目黒川沿いにはトイレの案内が随所のあるがのありがたい。
目黒川が下流からさらにこの先の上流までずっと桜並木だから、歩く人が多いのだろう。
周囲にしゃれた店が増えてくると中目黒駅。
ここから目黒川もぐっと狭くなり(両岸が接近し)、親しみやすくなる。
川をみると、なんと水が透明になっている!
しかもしっかり流れている。
さきほどの鳥がいた船入場から変わったのだろう。
ただ川床は昭和初期の改修による、コンクリートの人工的凹凸。
当時はあえてそうすることがかっこよかったのだろう。
中目黒から先は、川沿いにしゃれた店や出店も立ち並び、吉祥寺的雰囲気となる。
こういう道は歩くだけで楽しい。
それがずっと続いて、右手に円形状の大きな建物が見えて、その先で目黒川は暗渠となる(写真)。
暗渠となる池尻大橋(国道246上)が目黒川の終点。
円形状の建物は首都高の大橋JCTで、その最上部は「天空庭園」となっているので、行ってみた。
屋上の庭園からは本来なら目黒川が一望のはずだが、風景はビルだらけ。
ここから先は目黒川は2つに別れてその両方とも暗渠の上の緑道となる。
つまりその2つの川(烏山川と北沢川)が合流してここ池尻から目黒川になるのだ。
目黒川は河口からここまで、ほとんどが桜並木で遊歩道がついている。
川そのものは都市部の人工的な川で見映えがしないが、桜の時季なら最高に楽しい川歩きができる。
次回は、ぜひ満開の時に歩きたい。