goo

鋏の記憶 今邑彩

少し不思議な能力を持った女子高生が主人公のミステリー短編集。「不思議な能力」といっても事件を直接解決してしまうような「超能力」ではなく、隠された事件の匂いを嗅ぎとるとか真相は別のところにあることを言い当てる程度の能力で、あくまで謎の解明は通常の推理によってあばかれるという設定だ。この設定が、作品を単なるオカルトではなくギリギリ普通のミステリーに止まらせているという微妙な感じをもたらしているし、事件そのものもそれほど悲惨ではなくなんとなくじんわり心に染みる、いわゆるイヤミスの対極にあるような内容。あとがきに、表題作「鋏の記憶」について、著者のお気に入り、自信作と書かれているが、確かにこの作品は数多く読んできた著者の作品の中でも、最高傑作の一つではないかと思うほど面白い。それから読後に気付いたのだが、この短編集のそれぞれの題名は、それを見ただけで内容がはっきりと思い起こされる良い題名揃いだと思う。(「鉄の記憶」 今邑彩、中公文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )