道しるべ

2013-08-12 23:10:18 |  初・縦走
薬師岳から北薬師岳へと進む。
ガスはだいぶ薄くなり、見通しが効くようになってきた。
道は大きな石がゴロゴロと積み重なるガレ場に変わる。
ペンキで岩に付けられた道しるべである◯印を追って歩く。
みんなが踏むので岩の上部は白っぽく削れている。
なので、あれ?岩が黒いなと思ったら道を外れた事になる。
そんな時、案の定前方に目印はない。
引き返して◯印を探す。
あ、あんなとこにあった。
ここだけでなく縦走中、数え切れないくらい道を一時的にロストした。

薬師岳での道迷いと言えば、愛知大学山岳部の東南稜での遭難が有名。
ガイドブックを読むと必ず出てくる。
折立の登山口にも慰霊塔があった。
薬師岳山荘から上っている時、道しるべは前を指しているのに、右手の斜面の上、ガスの向こうに黒い影が見えた。
行ってみると東南稜の基部だった。
大きなケルンがあり、その影だったよう。
祠が祀られていた、南無南無。
南東稜への道の岩には×印がしてあった。
彼らが遭難したのは厳冬期の1月。
雪が覆っていたら道しるべなんて無いに等しい。
道しるべ無しに歩けるなんてすごい。
道しるべありでも迷う私が歩けるギリギリのレベルの稜線らしい。

薬師岳への道に戻り歩いていると、前から単独行のおじさんがやってきて私に問う。
「どこから来たの?」
「太郎平ですよ。」
「そっちは太郎平? ああ、よかった。東南稜に迷い込んだかと思って、一度薬師岳山頂まで戻っちゃったよ。」
とホッとした様に言う。
なはは、ガスってるからなあ。
「東南稜はこの先ですよ。」
「いやあもう、東南稜に入っちゃったかと思って。」
と繰り返す。
私より前を歩く人はいなかったようで、こんな天候で誰にも会わずだいぶ不安だったよう。
地図持って歩いてくださいね。



薬師岳へ

2013-08-09 21:42:33 |  初・縦走
一日目の晩、小屋のトタン屋根を叩く雨音が断続的に強くなり、雨樋を溢れた水がドシャドシャと落ちる音が窓外から聞こえていた。
残念ながら予報通り明日も天気は悪いようだ。

翌朝出発時、小屋の人に天気の様子を聞くと、10時くらいから回復に向かう予報なので、途中の薬師岳山荘で様子を見るのがよいとアドバイスを受けた。
小屋を出る。
雨は小降り。
ガスった太郎兵衛平、20m先は真っ白。
緑の野にコバイケイソウの白い花が風に揺れ、足元には確としてある木道が、進む方向に薄れ霧の中に消えていく。
これはこれで幻想的でいい。
雨で無ければもっといい。

薬師峠へ下ると沢音が聞こえてきた。
沢を越えねばならないようだ。
沢音がどんどん大きくなる。
どれくらい増水してるんだろう、不安。
だったけど、幸いにして恐れたほどでなく、沢水も透明。
一回渡渉するだけでなく薬師平までずっと沢沿いに登らねばいけなかったけど。

薬師岳への稜線にでると、雨も風も強くなった。
ふと顔を上げるとガスのせいで気付かなかった薬師岳山荘が目の前にあった。
風も強いしアドバイス通りここで様子をみさせてもらおう。
玄関に入らせてもらい、小屋のお兄ちゃんと今上ってきた沢の話をし、早くも腹がなるのでおにぎりを一つ食べして薬師岳登頂に備える。

外で唸る風の音も小さくなったので出発。
頂への上りは茶色く、ザレた道がジグザグと小さく折り返し続く。
左から右へと一定の強さで風は吹き抜け続ける。
強風だが吹き飛ばされるほどではなく危険は感じない。
アドバイス通り時間を置いたのが良かったよう。


雨は落ちてこなくなったが、ガスが晴れてくれるわけでは無く、半径40m外は白い闇。
ガスの中の稜線は目を楽しませるものが何もない。
変化のないジグザグの道。
息を切らせ、ただひたすら足を運ぶだけ。
ここは薬師岳。
実は知らない間に遭難して死んでいて、山頂におわします薬師如来のもとへ向かっているのではないかと想像してみたりする。

ようやく頂上に到着。
当然展望は無し。
雨で無ければカメラが出せる。
息を整えつつ少しだけ撮影し、薬師如来にお参りして先に進んだ。

<薬師岳山頂>


乾燥室

2013-08-07 22:21:23 |  初・縦走
今夜も蒸しますな。
風が無い。
寝るころには少しは室温が下がればいいのですが。
暑い部屋、と言えば…。

山小屋には乾燥室なるものがある。
スキー場の宿みたいだ。
今回の縦走期間中、晴れた日は一日しかなく、あとは毎日カッパを着て歩いた。
なので各山小屋の乾燥室にはとてもお世話になった。
初日はそんなものがあると知らなかったので、インソールの濡れた靴を翌日も履くのか、と憂鬱になったが助かった。

泊まる山小屋は標高2000mを超える場所にあるので、雨が降れば気温は20℃を下回る。
雨で湿度も高く、濡れた衣服はただの部屋干しでは乾かない。
乾燥室はストーブや、なんという名前なのか轟々と熱風を噴き出す機器で高温を保ち、室内にある濡れものを無理矢理乾かす部屋である。
大量の衣紋掛けが吊り下がり、カッパや濡れたシャツ、靴下などをかけて置く。
まるで洗濯物が生い茂るジャングルの様になる。

当然吊り下げられる衣服の量により乾きの速さに差異が発生。
宿泊者の多い山小屋では乾燥室なのに入室したらメガネが曇った。
湿気が高い。
予想通り、そこではなかなか乾いてくれなかった。

しかし、山の雨があそこまで荷物を濡らすとは思っていなかった。
ウエストバッグにカメラを入れて歩いたのだが、カッパの上着をウエストバッグの上から被せていたにもかかわらず、内部に水が染み込みレンズケースやカードケースが湿ってしまった。
晴れた日レンズを確認すると、レンズ内が白く曇っていた。
あちゃー、黴るかも。

ザックについてもザックカバーを掛けていたのに、中の荷物がぐしょぐしょに濡れていた。
上部と下部がひどい。
気付いたのは二日目の朝。
荷造りをしようと床から持ち上げたザックの底は水がしたたる状態だった。
げげげ。
手を突っ込んでみると底に入れたツエルトやウォームアップシーツが水を吸ってとんでもないことになっていた。
ただでさえ重い荷物が更に重くなる。

次の日から小屋に着いたらザックの中身を全部出し、ザックそのものも乾燥させることにした。
カッパの背中の水分はザックカバーでは防いでくれないので、ザック内に詰める荷はそれぞれナイロン袋で覆うなどの対策が必要なんだ。
幸いにして衣類は防水のスタッフバッグとナイロンバッグに入れていたので事なきを得た。
まあ、よい経験になった。
次回に活かそう。

<山上は寒い所。 雪渓の縁。>

雨の登山道

2013-08-06 23:00:28 |  初・縦走
入山日は雨だった。
雨具を着込み、折立の登山口まで富山地方鉄道のバスで向かう。
バスを降りトイレを借りて、さて出発、と登山口に入って目を見張る。
前日夜からの雨で登山道は川となっていた。
茶色い濁流が途切れる事なく流れ下ってくる。
登山道は辺りで一番低い場所となるので、雨水が集まってくるのだろう。
登山靴の防水機能が試される事になった。
濁流と言っても浅いところを伝って行けば、靴の甲が沈むことはほとんどないが、急斜面で階段状になった箇所は滝の様に流れ落ちているので、足の置き場は限定され神経を使う。

林中でゴゼンタチバナのきれいな花を見つけた。
水色の雨を吸ったからか、花びらの透明な白さが際立っていた。
が、雨は降り続きカメラを取り出す気にはならず、ただひたすら歩くのみ。
汗が滴る。
ゴアテックスのカッパだが、ガスった湿度100%の大気中では透湿効果もほとんどなく、シャツはどんどん湿っていく。
いや、ビシャビシャである。

あれ、足の爪先が湿ってきたような…。
さすがのゴアテックスブーティーも根をあげたか、それとも靴底を張り替えているので、その際ゴアテックスに穴が開いてしまったのか。
なんにせよこの靴のインソールを湿らしたのは初めてだ。

高度が上がり、林を抜けると吹きっさらしの高原地帯を歩くようになる。
右からの風が濡れた身体から体温を奪っていく。
腹や胸などカッパの下に空間がある場所はまだマシだが、緩衝帯の無い右肩が異様に冷える。
衣服を濡らし風に吹かれるとこんなに冷たくなるものなのか。
まるでエアコンの吹き出し口に肩を押し付けている様。
喉が渇いて水を飲もうとザックを降ろし動きを止めると、身体全体が冷え始める。
これは長く休憩できない。
低体温症にどうしてなるのか理解した。

ガスが少し晴れれば、なだらかな高原が眼前に広がる。
ニッコウキスゲやコバイケイソウが点在し、ベンチが設置され、お天気良ければ気持ち良さそうな所。
だが、ひたすら歩くしかない。
ひたすら歩いていたら、あれれ、太郎平小屋に着いてしまった。
まだお昼前だ。
なのにチェックインさせてくれた。
そのときは気付かなかったが、下界ではありえない。
山小屋って普通ではないところだ。

と言う訳で写真なし。

初・縦走

2013-08-05 20:46:08 |  初・縦走
今年も夏休みに長期休暇を取得することが出来た。
あなうれしや。
9連休だからこれまでの行動パターンだと普段行けない遠方の東北地方、青森から秋田、岩手辺りの未踏峰の山を狙うところだが、そういった旅も結構マンネリ化してきている。
それはそれで楽しいのだがちょっと目先を変えたい。

で、学校の夏休み期間中とはいえ平日だから恐れる人出も少ないはず、ということで山小屋泊まりの山行を決行することにした。
縦走というやつである。
初体験であるから穂高岳みたいな難しいところは避けて、比較的難易度の低いところを狙った。
見つけたのは北アルプスは薬師岳縦走コース。
エスケープルートの無いコースではあるが、ガイドブックによると中級者向けらしいので、私のレベルにあったコースと判断。
無理の無い宿泊プランで計画した。

一日目 折立-太郎平小屋
二日目 太郎平小屋-薬師岳-北薬師岳-間山-スゴ乗越小屋
三日目 スゴ乗越小屋-越中沢岳-鳶山-五色ヶ原山荘
四日目 五色ヶ原山荘-獅子岳-浄土山南峰-一ノ越山荘
五日目 一ノ越山荘-室堂

それでもほとんどの日の1日の標準行動時間は5時間を越える。
写真を撮影しながらなので、いつものパターンだと1.5倍から2倍の時間がかかる。
そんなに動き続けられるのか不安たっぷり。

それに山小屋泊まりで嫌なのは、通常一人一畳のところ、宿泊者が多すぎて布団一枚に二人三人が寝なければいけなくなる事態。(山小屋は定員オーバーでも宿泊希望者は宿泊させねばいけないと聞く。)
これまでも山小屋泊まりはしたことがあるが、ハイシーズンを避けたので小屋全体で私一人とか、一人部屋にしてもらえたとか、上記の恐れる事態は発生しなかった。
平日だけど今回はハイシーズン中である。
どうなるだろうか。
テーマ毎に記していこう。

<五色ヶ原山荘>


うつつ

2013-08-04 19:08:53 | その他旅行き
もう3週間前の話か。
海の日三連休はいよいよこれからという夏山の雰囲気を味わおうと、山へ出かけることにした。
目的地はお手軽に登れる信州の山二つと、道行く途中にある赤沢自然休養林にある森林鉄道。
まずは赤沢自然休養林。

信州には何度も何度も遊びに来たが、ここを訪れたことはなかった。
初めて訪れて、なんて勿体ないことをしていたんだと後悔。
針葉樹の森ということで、落葉樹の好きなよかばかとしては訪問先からまず除外してしまっていたのが理由。
御嶽山の麓にあり、信州でも大阪寄りで非常に訪れやすいのに。
今回は森林鉄道はどんなもんだろうと、それほど期待することなく(失礼 )やってきた。
けどこれは期待を裏切られ(失礼 )とても良いところだった。
もっと見て回る時間が欲しかった。



当初予定では11時くらいに到着し、お昼を食べて見学、だった。
でも中央道を走り、途中、内津峠PAで休憩した時、駐車場横に「アートの森 うつつ」なるものが出来ていたのを見つけ、そこで道草してしまった。
こんなのいつ出来たんだ?
このPAには良く立ち寄るから、つい最近できたんだろう。
木彫りの動物たちが小さな公園に点在していた。
どれもよくできていて、動物たちの特徴をよく捉え、しかも見る角度によって表情が変わる。
おもしろくて30分も写真を撮ってしまった。
これが後悔その1。



中津川ICで中央道を流出し、木曽路を走っているとお腹が空いてきた。
時刻は11時前。
朝が早かったので腹時計はお昼を告げている。
途中の道の駅で食事することにした。
なんでもいいから食べておけば良かったのに、ガイドブックに出ていた牛丼がおいしそうでどうしても食べたくなり、お店の開く11時半まで待ってしまった。
牛丼はおいしかったが、当初予定になかった時間をまた使ってしまった。
これが後悔その2。



国道19号を上松町で左折し、より深い山の中に入っていく。
傾斜の緩やかな谷の底を道は行く。
横を流れる川の水はとても澄んでいた。
周りの林も明るくて、車を降りて歩いてみたいと思わせる魅力がたっぷり。
国道を左折してから結構な距離を走り、ようやく到着。
13時前になってしまった。
駐車場入口でもらったガイドマップを見ると、散策コースがたくさん紹介されていた。
うわー、いろいろ歩いてみたい。
森林鉄道の出発駅へ行くと、そこには素晴らしい鉄分が…。



こうして予定外の事物にうつつをぬかしたため、時間を使うべきであった本来の目的地を十分楽しむことができなかったのであった。
今回の旅では、計画変更の影響の大きさを学ぶことになった。