のんびりぽつぽつ

日常のこと、本のこと、大好きなこと・・・
いろいろ、と。
のんびりと。

「麦の海に沈む果実」

2005年09月06日 20時26分23秒 | ★★恩田陸
恩田 陸 著 講談社文庫。

「三月は深き紅の淵を」の内側のお話・・・?
先日の四部作の4作目に織り込まれてダイジェストのように出てくる物語。
3月意外の転入生は破滅をもたらすといわれる北国にある全寮制の学園。そこに2月最後の日に転入した理瀬を主人公に、その閉ざされた学園での不可思議な出来事や殺人事件などなどを追っていくお話。
ラストまでいく前にある程度「あ、もしかして」と思っていたことが、半分は当たっていて、半分はとても驚かされた物語です。
そして、この「学園」を描く、古くそしていつの間にか紛失してしまった本のタイトルが「三月は深き紅の淵を」なんです。

ストーリーを話すのは、今回しないでおこうと思います。
説明しちゃうと、この「世界」の感覚が崩れてしまいそうなので。
先日読み終えた「三月は~」でおおまかなあらすじを読んでいるためか、理瀬の性格やそのほかの人々の不思議な景色を読み進むうちに、まるで、昔知っていたお話をとても久しぶりに思い出しつつもう一回読み直しているような、そんな懐かしさを感じました。
理瀬の気持ちや行動に私の心を重ねて、ああ、こんな時代、私もあったなあ・・・などなどと突拍子もない空間の不思議な世界なのにどこかきちんと現実に気持ちを通わせられる場所があって、そういうところは、完全に「ありえない」お話ではない、隣にある物語としての位置づけがきっちりとあります。

そしてラストでギャフン・・とさせられてしまったんですけど、、ね。
あまりの理瀬の変貌振りに読んでる私が茫然自失状態・・・(爆)
そこまで入れ込んで読んでいたのかーと、そっちにもびっくり・・・(苦笑)

そうそう。
読み終わって思いました。
前出の「三月は深き紅の淵を」の第二部の物語のなかで、編集者の女性の一人がこういっています。
「物語というのは、物語のために存在するんだ」と。
なんとなく、この意味がわかる気がします。物語のために存在する物語。それが「三月は深き紅の淵を」なんじゃないのかな、と。
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「三月は深き紅の淵を」

2005年09月05日 21時43分52秒 | ★★恩田陸
恩田 陸 著 講談社文庫。

読みたい。
「三月は深き紅の淵を」を読みたい。手にとって始めから終わりまで誰にも邪魔されずに読んでみたい・・・

そう無償に思う、思わされてしまう「本」です。


この作品は、4部作になっています。そして、その4部作は、「三月は深き紅の淵を」という稀少本にまつわるお話。
第一部では、この本は実はまだ書かれておらず、お金持ちの人々の道楽に半分ひっかけられたような作り。第二部では、この本は厳然と存在し、その本の作者を編集者の女性二人が夜行列車のなかで推理しつつ、作者であろう人の元に行く話。第三部は、そこに出てくる人がきっと「いつか私は書くだろう」と思っているお話。そして第四部は、この「三月は深き紅の淵を」を書いた作者が、ちょっぴりこの話の構成を説明しつつ、実はものすごく厚いベールの影に、この「三月は深き紅の淵を」を隠してしまうお話。

つまり、この本は、「三月は深き紅の淵を」という内側の物語を包む、外側のお話の本なんですね。
それぞれの中編ごとに単品でも楽しめるし、「三月は深き紅の淵を」で繋がっているとも見える。更に必ずある人がそれぞれのお話にちらっと見え隠れしていますから、それはきっと、内側のお話に共通するある果物と同じ扱いであろうと思われ・・・そして更に、次の本に繋がっている。

ああ、書いていて自分でも混乱してます。
でも、文庫本の帯に「これが恩田陸だ!」なんてキャッチコピーがありましたが、ほんとにそうだなあ、、とも読みつつ感じておりました。
この構成力や表現力だけでなく、今までに読んできた恩田先生の作品の骨がちらほらと見え隠れしたりするんです。
作品をいろいろ読んだ後にこの本を手にとってもまた別の楽しみ方が出来そう。

というわけで、すでにこの次のお話を手にしています。
気持ちがとてもどきどきとして、不思議で追い求めたくて。
できたら誰にも邪魔されず、一気に読んでしまいたい。
でも、読み終わりたくない・・・

物語を追い求めつつ読み終えて、読み終えてしまったからこそ、更に追い求める。
そういう作品だな、と思います。
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「光の帝国」-常野物語ー

2005年08月28日 12時11分37秒 | ★★恩田陸
恩田 陸 著  集英社文庫。

膨大な書物を暗記するちから。遠くの出来事を知るちから。近い将来を見通すちから。「常野ーとこのー」というところの人々はみな、それぞれに不思議な能力があった。権力志向をもたず、穏やかで知的で、ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々・・・何故存在し、どこへ帰っていこうとしているのか?

文庫本の裏のこの紹介を読んだ途端に思い浮かべたのは、萩尾望都作「ポーの一族」中身は設定も何もかもまったくちがうし、そもそもこっちは日本のお話。ポーの一族はバンパイアのお話。なのに。
優しくて哀しくて、し・・・・んとしたものを感じる物語。そんなイメージがとても重なる。淋しくて温かい世界。冷たくて穏やかな世界。

不思議なちからを持つ一族の人々の短編集です。
読み始めたらとことん読み進んでしまいます。
一作一作がとても心に響いてきます。
「響く」っていう意味がこの本のなかでは違うのかもしれないけれど。

大きな引き出しを持つ光紀。手をとることで未来を見通す実耶子。多分何もかもを飛び越えることができるのであろう亜希子。「何か」と日々戦っている人たち。そして、長い長い時間を生きているツル先生。
そして、そんな常野の人々と一時すれ違う、普通の人々。

うーん。何とも惹き込まれるこの世界は、読んでみるのが一番いい!説明仕様が無いんです。心の中は言葉であふれても、それを文字に置き換えると光がなくなる。そんな感じ。

きっと、この魅力に一役かっているんだろうな、ということを最後にちょっとだけ書きましょう。

「しまう」「響く」「裏返す」「草取り」

みんな、常野の人々の「ちから」に関係することば。この言葉たちのおかげで、どこかシ・・・ンとして、古きよき時代を思い起こすような、不思議な世界が浮かび上がっている気がします。
まだまだ長い物語がありそうな予感を残して、このお話は終わります。

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「図書室の海」

2005年08月08日 16時46分59秒 | ★★恩田陸
恩田 陸 著 新潮文庫。

短編集。小さなお話が10話収録されています。
なんというか。
その一編、一編がそれぞれ十分に本一冊に値するんじゃないか、と思える内容で、すっかり恩田作品の虜になってしまいました。

表題の「図書室の海」はこの前読んだ「六番目の小夜子」の番外編。関根秋の姉、関根夏が小夜子だったときのお話です。
子どもの頃から落ち着いていて、自分も他人も客観的に見ることのできた夏は、だから今まで自分は『主人公』にはなれない人間だ、と思っており、そんな彼女に、あの『小夜子』が渡されたことから、少しだけ彼女の心が変化する。
鍵を彼女に渡した志田啓一。何故、自分に渡したのかを知りたくて、夏は図書室で彼が読んだ本を片っ端から読み始める。そこに、テニス部の一年後輩で、多分夏に好意を抱いている克哉と、同じく一年後輩で、図書室で敵意を示してくる少女がからみ、どこかに、髪の長い少女が見え隠れし。
短編だけれど、きっちりとそれぞれの成長と苦悩と悩みと希望が描かれる。
そして、あの、ちょっと怖くておもしろい感覚も。

後、、私がこの本の中で気になったお話が、
「イサオ・オサリヴァンを捜して」
野戦の戦場にあった一人の男の足跡を探す「私」の話なんだけれど、とてもおもしろくて、この世界観がとても気になった。こういうタイプのお話、大好きだなあ~と、改めて思い知った(笑)幸せ。

他のものも、たとえば「ピクニックの準備」は「夜のピクニック」(未読)という長編の前日譚だし、確かに「恩田陸」という作家の作品世界の感覚を手っ取り早く知ろうと思ったら、この短編集はとてもいいかもしれない。

そうそう。作者のあとがきも、それぞれの作品についてのコメントなので、必見。
気になった「イサオ・オサリヴァンを捜して」は、なにやら「グリーンスリーブス」という長編の予告編として書かれたものだとのこと。で、この長編の方はどこに?と思ったんですが、まだ本になっていないのかな?


☆恩田陸2冊目にして、虜になっちゃった記念の作品です。
 実はすでに「球形の季節」という作品も読み終わってます。
 今は、「光の帝国・常野物語」を読んでいます。
 もう、止まらない。
 昔、夢中になった、新井素子作品と似た感覚を覚えています。
 そんな気持ちをまだ持てる自分にも、ちょっとうれしくなっていたりして、
 これは、もう、止められません。
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「六番目の小夜子」

2005年07月28日 22時06分21秒 | ★★恩田陸
恩田 陸 著 新潮文庫

娘が中学校の図書委員のおたよりを持ち帰ってきたのは5月のはじめ。
そこに、「オススメの本!」と、委員会の3年生の生徒が紹介していたのがこの本でした。
これは、少し前にNHKでドラマ化されていて、とぎれとぎれではあったのですがとても気に入って見ていた作品。
その原作の本だ~と、
「お願い!図書室で借りてきて!」
と娘に頼んでおりました。
ところが・・・ちっとも彼女は借りてきてくれません。そもそも図書室に行ってもいないらしい。
そして夏。
本屋さんに夏休み向け(?)にたっぷりと本が並びます。

・・・・・見つけてしまいました。「Yonda?」のパンダくんの黄色い帯と一緒にこの文庫本。

これは、ある高校にもう十数年も続く、ひとつの不思議なゲームにまつわるお話。
県下でも有数の進学校である学校内に続いている「サヨコ」といわれるゲーム。3年に一度、「サヨコ」と呼ばれる生徒が選ばれ、その生徒がルールにのっとって一年間まわりに気づかれずに事を行えれば、その年の大学進学率は大変によくなる、といわれるもの。
その6番目にあたる年、実際に「津村沙世子」という美貌の転校生が3年10組に転入したことから起こる、少々怖くまた高校時代最後の甘酸っぱい香も漂う学園生活を、描き出す。
「サヨコ」としてのバトンを渡され、兄は見事に演じ切り姉は「沈黙のサヨコ」と呼ばれた兄と姉を持つ関根秋。その友人でカンが鋭い唐沢由紀夫、彼に恋心を抱く花宮雅子、そこに津村沙世子が加わった4人の友情と恋愛もからめつつ、「サヨコ」に関する謎解きが始まる。
読み勧めていて懐かしく、怖く、切ない。
こんな学生時代があったよね、と思いながら、「サヨコ」の怖さ、不思議さに惹かれていく。

作品中、秋の父親がいいます。
「それはお客様だな」と。秋がこの不思議なゲームと津村沙世子を話したときに。
そして物語の最後。なんとなく不明瞭なまま謎解きを終えるときに秋がいいます。
「僕たちがお客様だったんだ」と。
転校生。それはやっぱり不思議で興味深く、でもちょっと受け容れがたい存在なのかな。
安定していた水面に小石が落ちて波紋が広がる・・そんな存在。
義務教育時代、転校生をやっていた私は、お父さんの言葉にちょっと複雑で、そして秋の言葉に苦笑しつつうなずいていたのでした。

このお話を、とてもとても懐かしく感じるのは、昔NHKで放映していた「少年ドラマシリーズ」の雰囲気に非常に良く似ていたから。
あの、怖いけれど覗きたくって、不思議なんだけれどどこか判る感覚。夢中になって見ていたドラマ。その雰囲気が、この物語全体に散りばめられていたように思います。そして。
著者のあとがきに・・・なんと「少年ドラマシリーズへのオマージュとして書いた」とありました。
この作品をドラマ化したNHKのスタッフもまた、かのシリーズのファンであり同世代の人たちだった、と。

当時中学生だった(のかな?)私たちから今の中学生である娘たちへ。この本をバトンしようと思います。
どんな感想を持つのかな。ちょっと楽しみ。ちょっと不安。
コメント (6)
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