著者 馳 星周
出版社 文藝春秋
308頁 1760円
直木賞2020年上半期受賞作
”多聞”と名付けられた雑種犬とそれに縁する人間との関わり或いは暮らしを描いた短編六つの連作集。
"多聞"の仕草や想いは人間の側の語り口によって読者に伝わってくる。人の心をフィルターにして犬の賢さと愛情が表現されている。犬と暮らしている読者にはそれらの一つ一つのディーテイルがすべて肯定できることだろう。嬉しい本である。
ただ、"多聞"に関わる人達が皆ネガティブな人生なのが引っかかるが、大きなお世話か。まあ、哀切調の方が、読み物としては印象に残るのかな。
ウィキペディアによると、日本には動物文学というジャンルがあるそうで、57の作品が分類されている。誰もがよく知る『イソップ寓話』をはじめ、『フランダースの犬』『シートン動物気』『野生の呼び声』『昆虫記』など我々が幼少期に親しんだ作品も多い。どういう事情か、日本人によるものは数として少なく名として小さい。
漱石は一人称で猫を書き、星周は三人称で犬を書いた。ヒトとの共同生活の歴史はネコ6千年,イヌ1万5千年になるそうだ。ビッグな動物文学が登場した。世界中の愛犬家には日本を代表す新しい動物文学書を読んでもらいたいものである。
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