太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

カリスマ

2016-08-31 18:17:03 | 日記
最初の結婚時代、はじめの5,6年は女優の沢村貞子さんが私のカリスマだった。

沢村貞子さんのエッセイを読んで、「これだ!」と思ったのがきっかけだ。

『わたしの献立日記』というタイトルだったと思う。

ご主人と二人暮らしの沢村さんは、女優業のかたわら、毎日何を作って食べたかを詳細に残していた。

私もさっそくノートを買ってきて、朝晩のメニューを書き始め、それは何年も続いた。

夏休みの宿題もできない私が、なんでそんなことができたのかは謎である。

しかも、何品目の食材を使ったかまで書いていたのだ。


沢村さんは、いつもご主人を立てていて、家の事にあまり支障がでるような仕事は断ったし、

夜中に台詞を覚える時は、布団をかぶって懐中電灯で脚本を照らしながら覚えた。

今夜はステーキにしようと思って肉を買ってきてあっても、仕事から戻ったご主人が

「今日は昼飯においしいステーキを食べたよ」と言えば、「あらそうよかったわね」と

そ知らぬ顔をして肉を冷凍庫にしまい、他のものを用意する。

沢村さんは母親に、「濡れた布巾を平気で使うような ひきずり にはならないでおくれよ」と言われたことを覚えていて

煮沸消毒した清潔な布巾が山と引き出しに入っている。

まさにそれは私が鑑とする主婦のありかただった。


家を建てると、今度は 栗原はるみさん がカリスマに加わった。

栗原さんは、洗練されていて、息子と娘と夫、シュートメなしという完璧でリッチな生活スタイルだ。

美しい家をセンスよく飾って、美味しいものを作り、気のおけない仲間がいつもやってきて、

旦那さんもお料理をする。

沢村さんとはまったく違う世代とスタイルではあるが、家の中のことをきっちり楽しくやるという点は似ている。

「すてきレシピ」という栗原さんの雑誌をみては、似たような食器を探したりした。






すべてが崩壊してみると、あれは何だったんだろうと思う。

沢村さんの本や、栗原はるみさんの雑誌を見ても、何も響いてはこない。

沢村さんに至っては、反発すら抱く。

なんでそこまで夫に気を遣って生きてんのさ!!と思う。

それはそのまま、昔の自分に向かって言っているのだ。


毎日ちゃんとした料理をこしらえたり、家のことをきっちりやることは私の中でそれほど大事ではなくなった。

もし私が夕飯をステーキにするつもりでいて、夫がお昼にステーキを食べたと言ったら

そりゃツイてなかったねえ、と言って平気でステーキを焼くだろう。

栗原さんは週末に、翌週の分の料理の下ごしらえをするが、

私はそんなことで休みを使うのはとんでもないと思っている。


私はいつからこうなったんだろうと思いかけて、

実はこれが私の本質であったのだと気づく。

最初の結婚時代に、もし私が自分の本質に気づいていたら、きっと11年も結婚は続かなかっただろう。

しかし、今でも布巾だけはたんまりとある。

もちろん煮沸なんかしないけれど。

この家を建てるにあたり、ビルトインの食器洗い機は必須だという夫の両親に対し、

二人分の食器でそんなものはいらないと言って付けなかった。

事実、手で洗うほうが速いし、そのつど収納したほうが面倒がない。

洗濯機が洗った清潔な布巾をどんどん使うとき、ふと昔のカリスマのことを思うのである。








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