私は毎日、富士山を見ながら育ち、
今はコオラウ山脈を間近に眺めて暮らしている。
今朝、寝室の窓から見たコオラウ。
昨夜降った雨が、水蒸気となって頂上に衣のようにかかっている。
数分歩けば、山の麓まで行ける近さにあって、
雨のあとにできた、幾筋もの滝がドウドウと流れ落ちるのが見える。
富士山も見飽きることがなかったが、この山も同じ。
今は日が差しているけど、あとで雨になりそうだから
今のうちにウォーキングに行くことにした。
そうしたら、アンティじいさん、目撃。
私を
「おはよう、オバちゃん」
よばわりしたヨボヨボじいさん。
アルプスに登山ですか、というようなおおげさなリュックを背負い、
両手に登山用のピックを持って、ごつい靴をはいたいでたちは、
ハワイの住宅地には、およそ不釣り合いすぎて、
私は異次元から迷い込んだものを見てしまったのではないかと真面目に思っていた。
そのじいさんが、同じいでたちで、今朝も歩いていたのだ。
異次元じゃなく、ちゃんとこの三次元にいる、ただの失礼なじいさんだった。
私は、再びオバちゃん呼ばわりされる前に、道の反対側にルートを変えた。
じいさんは私には気づかずに、うつむき加減に歩き去った。
ウォーキングから戻ると、隣家の家で飼い始めた犬が、フェンスの隙間から顔を出していた。
シモという名の、ころころとした毬のような犬だ。
私の手の匂いをくんくん嗅いで、泥だらけの手を出してくる。
「シモ!汚れるからダメだよ、すみません、お嬢さん」
隣家のダンナさんが、そう言った。
あらぁ、お嬢さんだなんて、困るわぁー(全然困ってない)
ダンナさんが私を お嬢さん と呼ぶのはこれで2回目。
私より一回りは若いであろう人が、である。
コラ、聞いたか、じいさん!
ああ、やっぱりすごくいい人だ。
(お嬢さんと呼ばれて喜ぶのはオバちゃん By みのもんた)
お嬢さんの名に恥じないよう、庭に出るときには身だしなみに気を付けたりしている、オババ心が我ながらいじらしいじゃないか。
見た目よりも若めに呼んでおくのが、近所づきあいのコツのようである。