太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

黒電話のお掃除に来た人

2022-07-28 07:58:29 | 日記
イギリスの映画を観ていたら、黒電話が映った。
懐かしいなと思った途端、ある記憶が脳の引き出しから唐突に飛び出てきた。

私が子供の頃、電話がない家も珍しくはなく、そういうお宅は近所の電話がある家の電話番号のあとに「(呼出)」と付け足していた。
電話がある家の電話は、みんな黒電話だった。

飛び出してきたのは、定期的に黒電話を掃除してくれる人が家に来た、という記憶だ。

紺色の制服を着た女性が電話機を拭き、コードを拭いて、最後に受話器の声を吹き込む方に、丸いプラスティックの、独特な香りがするものをカチっとはめて終了する。
その香りは他に例えるものがない香りで、想像するに、消毒機能のある芳香剤なのではなかったかと思う。
どの程度の頻度で来ていたのかはわからない。
子供だった私は、その人が来ると、近くでジーっと作業を見ているのが好きだった。

「黒電話、使ったことある?」夫に聞いてみた。

「あるよ。インディアナ州のグランパんちにあった」

「今思い出したんだけど、定期的に掃除に来る人がいたんだよ。それで芳香剤を取り換えて帰るの」

「ふーん、その人はどこから来るの。掃除専門なの、電話会社なの」

「わからない。その頃は電話は 電電公社 といって公共事業だった」

「わざわざ電話を掃除するために、1件1件まわるの?」

「なーんにもわからないんだよね・・・・あれはなんだったんだ」


母に聞けば覚えていると思うが、その母はもういない。
こういう、どうでもいいような思い出などを、もっとたくさん話しておきたかったと悔やまれる。
受話器に取り付けられた芳香剤の香りが、まるで目の前にそれがあるかのように鼻先に香ってくる。
1960年代終わりから1970年代前半の頃の話である。