落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

愛の灯台

2010年09月15日 | movie
『悪人』

長崎に住む解体作業員の祐一(妻夫木聡)と、佐賀で紳士服店に勤める光代(深津絵里)。出会い系サイトで知りあい、互いにひとめで惹かれあうふたりだったが、祐一は彼女と出会った前日に21歳の保険外交員・佳乃(満島ひかり)を殺害した殺人犯だった。
吉田修一の同名小説の映画化。

先日モントリオール国際映画祭でのふかっちゃんの快挙がニュースになりましたけども。まさしく。これ名作かもしんない。すごいいい映画でした。
よけいなものが何にもないし、けどいいたいことはしっかりそっくり全部伝わる。そのうえで、観てる方にもいろいろと考えさせる。パーフェクトでございます。
ぶっちゃけね、そんな期待してなかったのよ。ブッキーもふかっちゃんもTVの俳優さんだしさ、CMもあるし。どこまでヨゴレOKなん?ってとこがやっぱ未知数じゃないですか?けどフタあけてみたらば。ガチでやりきってた。おおーって感じ。
世間的には賞を穫ったふかっちゃんの方が話題になってますけど、ぐり的にはブッキーも素晴しかったと思います。バカなんだけど純粋で、なのに不器用でひとりぼっちで、オレ生きててスイマセンって感じの哀れな男の子にぴったりハマってた。原作が気に入って自分で売りこんで出演したらしーですけども。解体のバイトも実際やってみたり、祐一のドライブコースを走ってみたり。とりあえず超気合い入ってると。全編ほとんどノーメークのふかっちゃんの気合いもすごいですけど。おふたりとも素晴しかったですよん。

脚本に原作者が関わってるからだと思うんだけど、台詞に非常に印象的なフレーズがいくつもあって、すごくそれが胸に響きました。ネタバレになるので具体的には書かないけど、聞いててホントにドキッとしました。何度も。
ただ、だからって台詞で全部説明したりしてる風でもないのね。物語の舞台が福岡・長崎・佐賀と分散してるせいもあって、どのシーンも登場人物が少なくて、場合によっては会話もないシーンもけっこう多い。むしろその無言のシーンで大切なことを能弁に描写してたりもするし、台詞も直接いいたいことを言葉にするんじゃなくて、その会話の向こうにある心情がうっすら伝わってくる言葉になってたり。それで却って重要な台詞がしっかり響くようになってたり。
やっぱし映画はシナリオですよ。それに尽きます。それを充分に描写しきった映像も完璧でしたけれども。とくにライティングがスゴイ良かったです。めっちゃリアルで。

そしてキャストが無茶苦茶豪華。ワンシーンしか出てこないチョイ役まで全部超メジャーな役者さんばっかしでびっくりだよ。しかも全員がすっごいドンピシャのナイスキャスティング。全員の演技に間違いがいっさいないってのがスゴイよ。これだけの面子集めといてさあ。岡田将生なんか『告白』もそうだけどおバカ役がホントにハマってるし、満島ひかりの安っぽい腰かけOLっぷりも超ナマナマしかった。マジで一瞬誰だかわかんなかったくらいだもん。
そのうち原作も読んでみようと思います。

愛は永遠なり

2010年09月15日 | movie
『瞳の奥の秘密』

舞台は1999年のブエノスアイレス。
裁判所を退職し、自ら関わった事件を小説化しようと思いたったベンハミン(リカルド・ダリン)は、かつての上司イレーネ(ソレダ・ビジャミル)の元を訪ねる。美しい若妻(カルラ・ケベド)が犠牲となった25年前の暴行殺人事件について語りあうふたりだったが、彼らには他にも長年心に秘めて来た「語られざる秘密」があった。
2009年度アカデミー賞外国語部門を受賞したアルゼンチン映画。

噂に違わぬ傑作。面白かったです。
サスペンスそのものとしてはそれほど凝ってるわけじゃなくてわりと単純な話なんだけど、メインの題材が「事件」と「恋愛」の2軸にがっつり分かれてるってとこがミソなんだよね。新しい。このふたつを絡めるのが従来のラブサスペンスだけど、この映画ではほぼ関係がない。でもいっさいないってワケじゃなくて、クライマックスに来て双方が重要なフックの役割を果たしてたりはするんだけども。その距離感が絶妙なのね。
25年前の未解決と、25年も前から互いに思いあいながら始まってもいないふたりの愛。この過去と現在の時制が入れ替りながら展開していく緩急自在なテンポが観ていて非常に楽しかったです。
基本的に会話中心に物語が進むんだけど、この会話がまたオシャレ。ウィットたっぷりなんだけど上品で、けど気取ってるわけじゃなくてなんかピュアだったりもして。ファッションや美術や音楽も含めて、大人の娯楽映画って感じがすごくしました。粋ってゆーかニクイってゆーかさ。タイプライターの「a」が壊れっぱなしとかね。やるなあー。

25年前に設定されている事件当時1974年のアルゼンチンは軍事政権時代。
この不条理な時代背景が物語にも反映されてるんだけど、映画の中で起こってることっていつどこで起きてもおかしくないんじゃないかなあ?って気がしてしょうがなかったです。それこそ日本でも。
だからこういう上質な大人の映画、日本でもあるといいんだけど。「退職した捜査関係者が過去の事件を書く」という題材では松本清張の『天城越え』とゆー短編が何度か映像化されてますけどね。なんかもうちょっとオシャレなやつ、お願いします。

夫婦喧嘩祭り

2010年09月15日 | movie
『キャタピラー』

日中戦争中期の日本。
戦争で四肢と言語機能を失って帰還、生ける軍神と崇められる夫・久蔵(大西信満)を甲斐甲斐しく介護する妻・シゲ子(寺島しのぶ)。だがふたりきりの家の中、会話もままならない夫婦の間には新たな戦争が展開されていた。
江戸川乱歩の『芋虫』を下敷きにしたオリジナルストーリー。

ベルリン国際映画祭で寺島さんが賞をいただいてましたけども。
んー。確かにものすごい体当たり演技には違いないんだけど・・・でもそれだけ・・・かな?
映像作品としてはちょっとキツかったなコレ。若松監督のイデオロギーばっかりぐいぐい主張しちゃってて、客観性ってものがまったくない。いやいいのよ、イデオロギー。ぐりは若松さんのイデオロギー好きですよ。断固支持しますよ。けど主張したいならそれなりのやり方がある。この作品はダメです。これじゃヘタなプロパガンダ映画とかいわれてもしゃーないよ。今んとこそーゆー批判があるかどーかはぐりは知りませんけどもね。

とりあえずシナリオがボロい。超説明・段取り調。ほとんどコント並みといってもいいと思う。テンポとかリズムってものもなくって、ぶっちゃけしょっぱなからめっちゃ眠かったですよー。ほとんど二人劇でしかも久蔵喋れないからね。
あと映像の完成度も低過ぎる。ライティングなんか超やっつけです。特殊メイクはまあよしとしても、ヘアメイクとか小道具とか衣裳とか音響設計とか合成とかもかなりイタタな感じ。ディテールにリアリティーがないから、うまく世界観にはいりこめない。いちいち「春なのに虫がわーわー鳴いてる?」「こんなド田舎で背景音が軍艦マーチ(しかも題材は日中戦争)てどゆこと?」とか思ってたらねえ。無理じゃん。
いちばんアタマに来たのはテロップね。絶対あれいらんわ。観客ナメんのもたいがいにしなはれ。

しかし寺島さんは完全に“体当たり”で“国際映画祭で話題”ってのが専売特許になってしまいましたねえ。いいんでしょうかね。いいんだろな。うん。
つーワケでこの映画、寺島女史以外に観るべき点はとくにございません。終了。

かっこよくてもダメですよ

2010年09月15日 | movie
『告白』

中学校の真冬のプールで、1年生の担任教師・悠子(松たか子)の4歳のひとり娘が水死。警察は事故と断定するが、3学期の終業式当日、悠子はホームルームでこのクラスに犯人がいると語り始める。犯人の名を明かさないまま悠子は中学を去り、生徒たちは何事もなかったかのように2年生の新学期を迎えるが・・・。
湊かなえのベストセラー小説を『嫌われ松子の一生』『下妻物語』の中島哲也が映画化。

先日、アカデミー賞外国語映画賞に日本作品代表としてエントリーしたとゆーニュースがありましたけど。
うーん・・・そんなにいいかな?これ?ぐり的にはしょーじきイマイチなんだけど。少なくとも名作とか傑作とかゆーレベルではないと思う。
個人的に中哲さんって映画ってよりCMの監督って認識なのね。だからヴィジュアルの完成度はとにかくスゴイと思うのよ。いつも。ハンパなく。ってか無駄に完成しすぎてんの。だからこういう心理劇みたいな作品になってくると逆にリアリズムから遠くなってっちゃう。完璧すぎて。今回はとくにPVばりにハイスピード撮影使いまくりで、途中かなり食傷したね。映像的には確かに綺麗なんだけど、あそこまで濫用する意味はないかと。むしろ緊張感がなくなってダルくなっちゃった気がする。

あと登場人物の大半が中学生だから、なんぼがんばってもやっぱし限界あるじゃないですか?テクニック的に?なのにメインキャラクターが3人だけってのもキツかったんじゃないかと思う。ストーリーも一面的になりがちだし。
あるいは悠子の復讐×復讐される生徒たちとゆー二元構造を強調したかったのかもしれませんが、題材が題材だけに、もうちょっときちっと腰の入った相関関係でクラス全体の空気感を表現してほしかったです。ちゃんと役名のある生徒3人だけの「告白」で『このクラスは異常です』とかいわれても説得力ないよ。
原作がどーなのかはわかんないけど、これだとあまりに淡々としてて復讐劇としても盛上りに欠けるし、世界観の奥行きも感じられない。

松たか子の演技はとりあえずすばらしかったです。
けどそこ以外はとくになんとも。

関連レビュー:
『ザ・クラス』