落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

パトリック・ジュースキント著『香水』

2005年02月22日 | book
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読み終わりましたー。
今忙しいので通勤の時しか読書時間がないんだけど、なにしろ今の仕事場は近くて電車に乗ってる時間が10分もない。往復読んでもなかなか捗らないので、大した長さの本でもないのにやたら読むのに日数食ってしまいましたー。

面白かったです。
これはたぶん各所の紹介文では特異な犯罪者の一代記、すなわちクライムサスペンスのような表現をされてたように記憶してるんですが、全くそんなカタイお話ではないです。むしろある種のおとぎ話、冒険譚と云うべきかもしれない。
舞台は学究界の発展と革命に揺れる混乱期のフランス、主人公は家族も友人も恋人もいない、誰にも愛されず誰も愛さずにひたすら孤独を生きる男。彼の伴侶はただ魔法のように鋭い嗅覚と、体臭を持たない肉体だけ。つまり誰とも世界を共有せず、たったひとりの「香り」と云う名の宇宙に住む生まれながらの犯罪者。

物語のトーンが各章で絶妙な変化をなしていて、読んでいて全然飽きません。妙にシリアスにリアルな章もあれば、笑っちゃうくらい奇想天外な章もある。ある章では内面描写がメインになり、ある章では情景描写が多くなる。トーンが変わるたびに読み手の視点がスッキリとスムーズに移動していき、自然と世界観がつぶさに、そしてひろびろと見えて来る構成になっています。
とてもよく書けている、大変完成度の高い娯楽小説と云える。あとがきに映画化の話が持ち上がってると書かれてましたが、コレは映像化するのは難しいだろうなぁ。だって匂いは映像に映らないから。

それはそれとしてぐりはこの小説があまり笑えませんでした。
と云うのが、この主人公グルヌイユの人物造形が、これまでに何冊か読んだ犯罪ノンフィクションに登場した実在の犯罪者像に重なって仕方がなかったからです。津山30人殺しの都井睦雄幼女連続殺人事件の宮崎勤神戸連続自動殺傷事件の少年A・・・。
殺人によって何かがなされると信じた彼らに、安易に重ねてはいけないと思っていてもどうしても重なる。いつの間にか殺人者の城に迷いこんだ救われない魂。
もしそうした本を読んでなかったら、もっとこの物語も楽しめた筈だと思うのですがー。


大統領の理髪師

2005年02月12日 | movie
『大統領の理髪師』
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満員でした。そして場内が暑くて途中で眠くなった。
この劇場(渋谷のデパートの中にある結構気取った映画館である)は行くたび間違いなく不愉快なこと─ロビーが狭過ぎる、飲食物が持ちこめない、係員が誤って会場を案内してしまう、画面が揺れる、作品が期待外れ(←確率高し)など─があるので出来れば行きたくないのだが、ここで上映される作品はほとんどが他では観られないので仕方なく時々行っています。

でも映画はちゃんと面白かったです。
たぶん予告やTVスポットを観た人は、シリアスかつシニカルな社会派ドラマを想像してると思うんだけど(ぐりもそうだった)、これは全然そんなカタイ話ではない。どっちかと云えばのほほんとしたホームコメディです。60〜70年代の韓国の社会背景をかなり派手にデフォルメしてブラックに皮肉ってあるので、全くリアルなドラマには見えないです。全然笑えないような歴史的事実を、強引に笑い話にしちゃってる。
だからちょっと見には拍子抜けするんだけど、物語が展開していくに連れて家族愛の深さ・あたたかさ、そう云ったミニマルな幸せに対するつくり手の情熱がしっかりと伝わってくる映画でもある。
しかしこの時代背景を実際に経験した人間でないと登場人物たちのビミョーな心理はやはり何か分かりにくいような気もしてしまう。分かることは分かるのだが、分かったような気分になるのがなんとなくおこがましく感じると云うか。
何にせよ平和がいちばんだし、監督も結局はそれが云いたかったのかなぁ。

主役のソン・ガンホはやっぱ良い役者だと思いました。かっこいいしね・・・とか書くとなんか激しく誤解されそうですがー。でも体格も良いし面構えもなかなかだと思うんだけど・・・。
奥さん役のムン・ソリはプロモでは主役級の扱いだけど実質的には全く脇役でしたー。よーするにこの映画のプロモはウソばっかってことっすね(失笑)。
子役(イ・ジェウン)がすごく良かったです。可愛いし、芝居も上手い。どっかで見たことある顔だなーと思ってたら、『殺人の追憶』に出てたんだよね。将来が楽しみですー。