『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』
観たよー。やっと観た。
実はぐり自身は60〜70年代の学生運動やそれにまつわる事件に対して、もともとはあまり興味がない。正確にいうなら興味が持てない。だから否定も肯定もできない。当時の時代の出来事に対して何の意見もいえない。なぜか。
ぐりの両親はこの映画に登場する連赤幹部たちとほぼ同世代、終戦直後の生まれである。だが望みさえすれば誰でも大学に進学できる現在と違い、当時の大学進学率は13〜15%しかなかった。あのころ、ほとんどの日本人には10代のうちから社会に出て必死に働く以外の人生を選ぶ権利なんかなかった。学生運動の主役たちは民衆の代弁者というより、選ばれた特権階級の人間だった。
ぐりの両親も高卒である。それもふたりとも一家で初めての高校進学者だった。もちろんふたりともそれは真面目に勉強していたという(成績表やノートをみる限り大体は事実のようだ)。でも、どんなに一生懸命勉強しても、アルバイトや内職をしても食べていくのがやっとという極貧の彼らにとって大学はあまりに遠かった。
そんなぐりの両親の目には、学生運動は甘やかされた子どものしらじらしい茶番としかうつらなかったらしい。自分たちは明日食べるものにも不自由しながら働いてるのに何が革命だか、みたいな。学歴コンプレックスの裏返しが歪んだ偏見になってしまっただけなのだが、そういう偏見をぐりはしっかりと受け継いで大きくなった。
ぐりが生まれたのはあさま山荘事件の前月のことだった。
この映画は出演者や関係者に知人・友人がいたので、去年の東京国際映画祭でも観たかったのだが都合があわず断念。先月一般公開が始まってから観よう観ようと思いながら1ヶ月以上行けなかった。だって190分だよ。いまどき邦画で3時間強ってありえんやろー。長いよ!
ところがー。観たら全然長くなかった。ゼンゼンふつーに観れた。ウソみたいに。
映画は1960年6月15日、樺美智子が死亡した国会議事堂正門前でのデモから始まるが、そこから1969年の赤軍派結成までは記録映像と原田芳雄のナレーションで時代背景や学生運動の流れが淡々と語られる。「アレ?これドキュメンタリーだっけ?」と錯覚し始めると、ときどき俳優が演じる再現ドラマが挟まれる。本格的にドラマが展開され始めるのは1970年の“M作戦”あたりからとなる。
とりあえず登場人物は多いし設定はややこしいし、ふつうに考えたらぐりみたいな「学生運動?しらんわ」なヒトには理解しにくい映画になってて当り前なんだけど、本筋に入る前にこれだけキチッと、かつサラッと経緯を説明されちゃうと参りますよ。わからんワケにはいきませんもん。
てゆーかね、この映画、「わかる」ことを前提につくってない。だって当事者たちだって「わかってなかった」んだもん。その「わからなさ」の悲哀が、この物語のテーマなのだ。
劇中、くりかえし「革命」「共産主義化」「総括」などという“用語”が連発される。
でもいくら真剣に観ていても、そういっている本人たちがその意味をどれだけ理解しているのかがまったくわからない。というか、どうみても彼ら自身わかってないようにしかみえない。
物語ははじめ坂井真紀扮する遠山美枝子が主人公になって牽引されていくのだが、組合闘争のなかで父を自殺で亡くした義務感から運動に参加した彼女には、革命の真偽などそもそも理解の範囲ではなかった。彼女の辿った悲劇は、自分でも理解できないイデオロギーに流されていった末の、当然の帰結でしかなかった。彼女自身「わかりたい」と熱望はしていたのだろう。革命の実現が彼女の夢だったことに疑いの余地はない。でも、冷静に考えれば革命は目的ではなくて「手段」に過ぎない。「手段」であるはずの革命を目的化したのが、日本の学生運動の敗北の最大要因だったのではないだろうか。
遠山だけではない。やがて幹部の坂口弘(ARATA)も「“総括”が何を意味するのかわからなくなった」とまで口にする。“総括”の名のもとに多くの同志を粛正した森恒夫(地曵豪←『突入せよ!「あさま山荘」事件』では機動隊員役で出てます)や永田洋子(並木愛枝)の口からも、“総括”の意味は説明されない。
どーせわかってなかったんだよ。みんな。わかってないってことを、みんなに、世の中に暴露されるのがこわくてこわくてしょうがなかったんだよね。
わかってるフリ、しってるフリはこわい。何もわかってないことを認めるには勇気がいる。彼らは確かに純粋だったかもしれない。でも純粋であることもまた、“結果”であって“目的”ではない。
森は逮捕後に拘置所で自殺してるけど、それこそ「バカは死ななきゃ治らない」を地でいってるとしか思えない。
あさま山荘事件のシーンで破壊されているセットが実は若松監督個人が所有するホンモノの山荘だと聞いてぶっとび。監督はなかなか製作費が集まらないこの映画のために借金までしている。
そうまでしてこの映画を撮りたかった監督の熱意は痛いほど伝わる、映画史に残る大傑作に仕上がっている。すばらしい。
俳優陣もみんな頑張ってると思う。とくにARATAは従来のイメージを覆すような熱演で驚きました。坂井真紀に至っては心底度胆を抜かれ。女優魂にもほどがある。
登場人物が多いので大半は無名の若手俳優なんだけど、みなさんホントに体当たりの演技で圧倒される。根性と才能両方もってる若手俳優をご所望の関係者の皆さんはこの映画必見でしょう。メイクとかしてないから全員見た目は超ムサいですけど(笑)。
しかし中には「??なんじゃこりゃ??」な学芸会演技なヒトもチラホラいて、しかもそれがまた目立つ重要な役柄だったりもして観てて若干困惑もしたんだけど、そーゆーヒトは序盤でいなくなる設定でホッとしました(爆)。
新左翼なんかキライだけどといいながら、連赤側の目線で、しかも連赤自体をとにかく徹底して客観的に描いた若松監督の手腕にはまったく脱帽です。スゴイ。すばらしい。芸術家とはかくあるべし。ブラボー。