落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

If you can take it, you can make it.

2016年02月14日 | movie
『不屈の男 アンブロークン』

こそ泥やケンカで街の鼻つまみ者だったルイ(C.J.ヴァルロイ→ジャック・オコンネル)は兄(ジョン・ディレオ→アレックス・ラッセル)の指導で中距離走者としての才能を発揮、1936年のベルリンオリンピックに出場し5000mで8位に入賞する。第二次世界大戦開戦後、爆撃手となるが搭乗機の故障で洋上に不時着、フィル(ドーナル・グリーソン)やマック(フィン・ウィットロック)とともにかろうじて命をとりとめたものの、ゴムボートの上で飢えや渇きやサメや嵐に脅かされる苛酷な漂流生活を47日も堪えた挙げ句、日本軍に保護される。
実在の陸上選手ルイ・ザンペリーニの自叙伝をアンジェリーナ・ジョリーが映画化した2014年の作品。

去年、反日映画だのなんだのでやたら大騒ぎになりましたが(まとめ)。
実際観てみればぜんぜんそんな大した映画じゃなかったです(爆)。善くも悪くも。
なるほどけっこうな大作映画だし、ストーリーそのものはいい話だと思う。イタリア系移民として差別されグレてしまった少年が、家族の愛情に支えられて目標をみつけ、逆境のなかでタフネスを身につけ自分のものとし、信仰のうちに憎しみを乗り越えていく。いかにも保守的なアメリカ人が好みそうな話です。

映画は大きくわけて四つのパートに分かれている。少年時代~オリンピック出場の戦前の部分、爆撃手としての空中戦部分、延々と続く漂流生活、それから捕虜生活。それぞれのパートは淡々としつつもちょこちょこと見どころもあって場面転換もメリハリが利いてて、部分ごとにはなかなか楽しめる。VFXやら音響やら技術的には非常に丁寧につくられてるし、全体的な完成度にも問題はない。でも、物語そのもののいちばん大事なところがしっかりと再現できてるとはちょっといいづらいです。なにより戦後のシーンがなかったのは痛過ぎた。おそらくは物語としてはそこが本筋のはずなのに。だからものすごく物足りない。

ただ悪い映画ではないし、観て損するというような作品でもないです。真面目に誠実につくられた良作ということはできると思う。
個人的には、連合軍捕虜の立場から見た第二次世界大戦下の日本という視点が新鮮でした。とくにたった一晩で10万人もの死者を出した東京大空襲のシーンはちょっと忘れられない。東京を火の海にしたB29の群れは日本人にとっては悪魔そのものだったけど、捕虜たちにとっては終戦=帰国を示唆する自由の兆しとして表現されている。その一方で「敗戦になったら日本軍は捕虜を殺す」かもしれないという不安にも苛まれる。
空襲のあと、罹災した大森の東京俘虜収容所を出た捕虜たちが、丸焼けになった東京の市街地に並べられた遺体の列を横目に見ながら移動するシーンには、つくり手側の良心を感じました。冒頭の空中戦シーンで、上空から無邪気に「地上はクリスマスだ」などと揶揄しながら爆弾を投下していたその下で人の生活に何が起きていたか、ルイはそのとき初めて目の当たりにしたのだ。

主人公を演じたジャック・オコンネルやフィル役のドーナル・グリーソン、マック役フィン・ウィットロックはもう漂流生活での激痩せぶりが強烈過ぎて、申し訳ないけど他の演技があんまし印象に残らなかった。
例のドS伍長・渡邊を演じたMIYAVIは逆に印象的過ぎ(笑)。色白で華奢で喉仏もほぼないせいか、なんか中性的なんだよね。おまけに微妙にハスキーな声が必要以上に色っぽい。そんでドS。しかもド変態。もう全部もってっちゃってます。
意図してそうなったのかどうなのかはさておき、この映画、結局MIYAVIの映画でした。善くも悪くも。

映画にはうまく感動できなかったけど、原作は機会があれば是非読んでみたいと思います。
最後に一応触れておくけど、去年の反日がどーたらとゆー騒ぎはハッキリとこの映画とはなんの関係もない。
この作品そのものは、非行少年だった移民の子がアメリカ代表としてオリンピックに出て、戦争のトラウマを克服してほんとうに強い心を手に入れた、そのひとりの人間の内面を描いたごくパーソナルなお話であって、それ以上でも以下でもない。
それを映画本編を観もせずにわざわざ原作の揚げ足をとって騒ぎ立てなくてはならない意味がよくわからないし、そういう根拠のない騒ぎにいちいち迎合する映画会社のアホさ加減も信じられない。今回の公開は当初の予定の配給じゃなくて独立系だし当然単館上映だしスクリーンも小さい。大作映画だし戦争ものだし、本来ならもっといい環境でもっとたくさんの動員も見込めるはずだし、そうすることで映像作品として果たせる役割だってあったはずなのに。
ただ、フタを開けてみれば、署名運動やら公開書簡やらするほどの大騒ぎに値するような大傑作でもなかった点は確かに残念ではあるけどね。



Back In Love Again

2016年02月07日 | movie
『大奥 〜永遠〜』

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赤面疱瘡という奇病で男子が4分の1にまで減少し、女子が家督を継ぐようになった江戸時代。将軍・綱吉(菅野美穂)との間に子もなく大奥内での自らの地位を危惧した正室・信平(宮藤官九郎)は、部屋付きに公家の右衛門佐(堺雅人)を京都から呼び寄せる。高い教養と政治力で成り上がっていく右衛門佐だが、その一方でひとり娘の松姫(渡邉このみ)を病で喪い、世継ぎにも恵まれない綱吉を心配した父・桂昌院(西田敏行)は莫大な資金をつぎ込んで毎晩新たな男を娘にあてがうばかりでなく・・・。
よしながふみのSFコミックの映画化。2010年に公開された『大奥』の続編。

続編だけど設定としては前の映画より3代前の将軍の時代が舞台。
家光公の時代に男女が逆転して、男社会でつくりあげられた仕組みにそのまま女が入れ替わるという世襲制度に無理が出てきたことが如実に描かれる。
史実の綱吉も世継ぎに恵まれなかったことが件の悪法「生類憐れみの令」につながったとされているが(これこのまま映画に出てきます)、世襲ってそもそもすっごいリスキーな家督制度なんだよね。中世以降の日本では天皇家でも公家でも武家でも商家でも当たり前に浸透して、いまも政治の世界じゃそのまま受け継がれてるけど、実際にそれだけでやってたらあっという間に血筋は絶えてしまう。不妊症なんか昔から男にも女にもあることだし、生まれた子どもが無事に成人する保証もない。現にいまの天皇家だって直系での継承者は存在しない。

そんなリスクにふりまわされる権力者の悲哀は男でも女でも変わりない。
家の安泰を願う周囲の人間の「世継ぎ」リクエストのプレッシャーを背負わされたヒロインは、多くの男たちと褥を供にしながらも愛を知らない。最高権力者でありながら若い男たちに媚をうるために驕慢に着飾りながら、心の中は荒れ果てていく彼女の美しさが悲しい。どれだけ多くの男を侍らせ意のままに弄ぼうと、子どもが生まれない限り誰も満たされることがないからだ。豪華な宴やきらびやかな衣裳で画面が派手になればなるだけ、その影の暗さは深くなっていく。
見れば見るほど、「こんなのおかしいって誰か気づかんかったんかな?」ってめちゃめちゃ不思議な気持ちになる。なんでこんな大変な思いをして、誰も幸せになれない方法で、家や血筋に執着しなきゃいけなかったんだろう。だいたい家ってなんだ?他にもいろいろあるじゃん。

綱吉には柳沢吉保(尾野真千子)という側用人がいるんだけど、これがまた真っ黒でよろしい(笑)。主君に対する感情がもう全然フツーじゃない。ちょっとした変態さんです。史実でも綱吉と吉保の関係はあれこれといわれてるけど、それをそっくり女性同士に置き換えてここまで盛り上がれるってさすが尾野さんです。
しかしこの映画はホントにキャスティングがものすごくいいです。主役の菅野さんと堺さんしかり、西田敏行しかり、宮藤官九郎しかり、側室・伝兵衛役の要潤や右衛門佐の母役の由紀さおりや、綱吉の初恋の相手・阿久里役の榎木孝明も、メインキャストからちょろっとしか出てこない脇役まで全員がぴったりと隙のない当たり役ばっかりです。ここまで綺麗にぴったりだと気持ちがいいですね。

前の映画も悪くなかったけど、いかんせん設定がイマイチ消化しきれてない感がせつなかったんだよね。それがこの映画ではしっかりクリアできていて、なかなかいい映画だと思いました。たぶんこの設定で原作者がいいたかったことがかなり再現できてる気がする。原作読んでないけど。
なのに興収は7億弱。二宮くんの方は23億だったから、世の中厳しいもんです。完成度としてはこっちの方が断然いいんだけどね。