落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

旅する人々

2007年09月30日 | movie
『ミリキタニの猫』
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主人公ジミー・ミリキタニはストリート・アーティストだ。
戦時下での日系人差別の経験からアメリカ政府を恨み、行政サービスのすべてを拒否して怒りつづけ、怒りを絵に描き続ける。
確かに数奇な運命をたどった稀有な人物だが、実際それほどかわった人ではない。純粋で一本気だけど、頑固で昔気質な、どこにでもよくいるご老人だ。
カメラは常にジミーを中心にとらえているが、物語は実は彼ひとりのものではなく、撮影している監督のリンダ・ハッテンドーフとの、日米のふたりの心の交流と旅路が主軸になっている。

911テロ直後、有毒な煤煙が漂う街かどで、リンダはジミーを自宅に招き入れる。
そんなことは日本でもアメリカでもどこの国でも、現代ではふつうの人にはちょっとできない。顔見知りとはいえ縁もゆかりもない赤の他人を親切心だけで家に入れていっしょに暮らすなんて、昔話やおとぎ話の世界の出来事だ。
もちろんリンダはジミー老人の余生をすっかり引き受けるつもりは毛頭ない。ジミーが本来受けるべき生活保護などの行政サービスがきちんと受けられるようあれこれと奔走する。ジミー本人にまったくその気がなくてもおかまいなしだ。ジミーが怒って「アメリカなんかくそくらえだ」とわめくたびに「はいはい、わかったわかった」と受け流しながら、裏ではジミーの親類縁者を探したり、収容所時代に市民権を奪われた日系人をアメリカ政府がその後どうしたかを調べたりして、しっかりと物事を前に進めていく。

画面にはほとんど出てこないリンダだが、彼女がしようとしていること、こうあるべきだと信じる道はすごくはっきりと画面に描かれている。
戦争はひどいことだし、あってはいけないことだ。
でも起きてしまったことをいつまでも怒っていても前には進めない。
ジミーは怒りをアートにぶつけて生きてきたけれど、ほんとうにそんな人生が幸せかどうか、それを彼本人にジャッジしてもらうためにも、怒りのない人生も生きてほしい。

映画全体はかなり淡々としているし、テロップやナレーションも少なくてメリハリのようなものははっきりしないけど、それだけに、大上段に構えた大義名分などではない、監督なりの「正義心」がさわやかに表現されていて、みていてすごく素直な気持ちになれました。
上映後にプロデューサーのマサ・ヨシカワによるティーチインがあった。偶然だったけどいろいろと興味深い話が聞けて楽しかったです。

私の学校

2007年09月22日 | movie
『ウリハッキョ』

韓国の映像作家・金明俊(キム・ミョンジュン)監督が2004~5年の1年間、北海道朝鮮初中高級学校に密着取材したドキュメンタリー映画。
131分という長尺ながら去年韓国で一般公開され大変な反響を呼んだ。韓国では戦前戦中に日本に渡ったまま母国に戻らなかった在日コリアンは忘れられた存在となっており、日本に住む韓国・朝鮮人の生活実態はほとんど知られていなかったそうだ。この作品がきっかけになり、韓国でも在日コリアンの捉えられ方は大きく変化しようとしているともいう。

日本に80校ほど存在する朝鮮学校の中でも、この映画の舞台となっている北海道朝鮮学校はやや特殊な学校ではないだろうか。
広大な北海道に朝鮮学校はここ1校しかないので、遠方から入学する子どものための寮が完備されている。日本の小学校にあたる初級から高校にあたる高級までがひとつの学校にまとまっているが生徒数は少なく一学年一クラス、クラス生徒数は10人前後で、長い生徒になると12年間同じ学校同じメンバーで授業を受け、同じ寮で学校生活を送ることになる。
こうなるともう概念的には既存の学校の域は超えている。彼らにとってこの学校は家であり、教師は親、級友は兄弟のようなものだ。また、学校を支える父兄や地元の在日コリアンコミュニティにとっても、年中行事の多い学校は心のよりどころとでもいえるような中心的役割を持っている。

観ていて涙が流れて仕方がなかった。
画面にでてくる子どもたちがあまりにかわいくて、健気で、いたいけで、一途で、自然と涙が出てしまうのだ。
生徒たちだけじゃない、教師も、父兄も、みんなが輝いて見えるのは、みんながひとり残らず「祖国統一」というひとつの方向を向いて一生懸命生きているからだ。視線のゆくてにあるものがなんであっても、人がまとまって同じ目標のために努力する姿は無条件に感動的なものだ。
ぐりも含めて世の中のオトナは、彼らが帰属する社会や政治や歴史の延長にあるものにばかり拘泥するけれど、少なくとも、子どもたちにはそんなものはいっさい関係ない。日が照って雨が降って草木が芽生えて鳥が歌うのと同じように、彼らは当り前にそこに生まれて、そこに生きて、子どもの常として、夢や希望に溢れている。ピュアだ。
それでも、彼らの夢や希望のはかなさゆえに、涙は溢れて止まらない。

学校の外の残酷な現実を、映画ではことさら強調はしていない。事実を簡単に述べるだけにとどめてある。
それだけに、子どもに文化や誇りや喜びを教えたい、仲間同士で愛や友情をわかちあいたいという理想のあたたかさがしみる。
ものごとには何にでも多くの側面がある。朝鮮と聞いて今の日本人は何を連想するだろう。何を連想してもいい、でもそこで終わってしまわないで、できるだけたくさんの日本人にこの映画を観てほしいと思う。
政治や歴史も忘れていいです。ただただ、いい映画だから。

全国の上映会情報はこちらで。

コントかよ

2007年09月17日 | play
『THE BACK OF BLACK』

期待外れ。がっくり。
去年観た『Show The BLACKⅡ イウ コエ オト』がおもしろかったから今年もけっこー期待しちゃってたんだけど、ぜーんぜん、ダメでした。
今回はストーリーそのものがまったくの別物なんだけど、もうこれは演劇ではないね。コント。単に長いだけの。別にコントでもいいけど、ぐりにはカネを払ってまでコントをみる趣味はない。このために仕事やりくりして時間空けてわざわざ出向いた自分がアホみたい。
コントだから笑えるこた笑えるんだけど、笑える=おもしろいってことじゃないんだよね。楽しいけどね。楽しいだけじゃダメでしょ。大体ギャグもなんか大味で勢いないし。
もー内容ペラッペラ。子どもとか出して来なさんなよー。あざといわしらじらしいわ。
今回は全編暗闇じゃなくてさらに何をどーやってんのかわかんなくて、そこだけは不思議っちゃ不思議だったけど(演者が実際どうやって舞台を見ているのかなどトリックがまったくわからない)、見どころはそこだけ。
これなんでつまんないかっつーと、設定から「暗闇」に頼っちゃってるからだと思う。前回は設定(盲目の主人公)の延長に暗闇があったけど、今回は暗闇演劇の舞台裏という、暗闇でしか成立しない設定になっている。だから物語が暗闇という世界の中で閉じてしまってどこへも行かない。
去年の公演をほうぼうで絶賛してただけに、自分でも恥ずかしいよーな腹立たしいよーな気分です・・・。

匂いとかシャボン玉とかそういう特殊効果は完璧スベッてました。
バターやらチョコレートやらバニラやらいろんな匂い(それもケミカルなの)をさんざん嗅がされて猛烈に甘いものが食べたくなって、帰りにカフェに入ってフレンチトーストを注文したら30分待っても出てこなかったので食べずに帰ってきてしまった。
踏んだりけったりである。

韓国より愛をこめて

2007年09月16日 | movie
『恋愛の目的』
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高校教師のユリム(朴海日パク・ヘイル)は教生のホン(姜惠貞カン・ヘジョン)を一目で気に入り交際を求めるが、彼女は愛なんか信じないといってとりあわない。ユリムにはやはり教師の恋人がいてホンにも医師の婚約者がいるが、ふたりはやがて抗いがたく惹かれあうようになっていく。
すっごいおもしろかったです。これも2時間は長かったけど。主要登場人物が2人しかいなくて、他が思いっきり脇とゆー人物構成で2時間は引っぱり過ぎ。90分でよろしい。
全編のほとんどがユリムとホンの会話劇なんだけど、このふたりのモノの言い方が非常に率直でイヤ味がなくていい。ユリムはとにかくどうでもホンとやりたい。ホンはとにかくどうでも男に騙されたくない。それぞれに手前勝手でありつつ不器用で純粋で、恋愛のみっともないところと楽しいところとドロドロに怖いところがうまくバランスよく物語に織り込まれるようになっている。ウマイ。
赤というキーカラーを上手く配した衣裳やプロダクションデザインもなかなかオシャレだし、会話のテンポや馬鹿馬鹿しくてエロティックな言葉遊びも楽しい。登場人物のキャラクター描写も魅力的。もっと短かったら日本でも一般公開されたろうにと思うともったいないです。
食事のシーンがやたらめったら多くて、それがまたいちーちおいしそう。ああ韓国料理が食べたいなあ。


韓国より愛をこめて

2007年09月16日 | movie
『浜辺の女』
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映画監督のジュンネ(金勝友キム・スンウ)はシナリオ執筆のためスタッフのチャンウク(金泰佑キム・テウ)を誘って海辺のリゾートへ出かける。同行したチャンウクの恋人ムンスク(高賢延コ・ヒョンジョン)とジュンネはひそかに関係を結びソウルに戻ってからも会おうと約束するのだが・・・。
洪尚秀(ホン・サンス)といえば韓国映画の監督の中でも人気あるほうだと思うけど、ぐりは今回初見です。
えーと・・・正直かなりガッカリ。まずねえ、長い。しけたビーチリゾートでダラダラ痴話喧嘩する話で2時間以上ひっぱってどーすんねん。意味わからん。こんなもん80分もありゃ終わるでしょ。フィルムのムダ。
しかもねー、この映画みてても恋愛感情ってまったく伝わってこないのさ。それぞれが自分の欲望のために相手をコントロールしよーとしてしょうもない詭弁を弄するだけの虚しい口論と駆け引きの繰り返し。まあみっともないったらない。
恋愛中の人間なんかみんなみっともないものかもしれないけど、恋愛してるよーにすらみえないんだからどうしようもない。
しかしぐり的に最も耐えられなかったのはちょーーーチープなカメラワーク。1シーン1カットで攻めたいのはわかるんだけど、それが全部カメラ固定。でもってアングルに何のセンスも工夫もなし。テキトーにタマにズームしてみたりパンしてみたり。あのねえ・・・。