人間誰しももっているコンプレックス。もちろん私にもある。いっぱいある。
そのうちでも、これはほんとにどうしようもないな、というのが音楽センスです。あ、音痴とかそういうことではない。
どれぐらいセンスがないかというと、5歳ぐらいからピアノを習ってて普通にバイエルとかソナチネとかやってたんだけど、練習も一応いわれた通りやってたにも関わらず、さっぱり上達しなかった。だいたい「うまくなりたい」というモチベーション自体が低すぎた。
これはピアノだけじゃなくて他の習い事もそうで、水泳なんかわかりやすくタイムという数字が出る。親もコーチも数字が出ないことにはレッスンの成果にならないから当然イライラする。怒る。私自身はそもそもピアノも水泳も算盤も習字も塾もお絵描き教室も、自らやりたいといって始めたわけではないから「なんで怒られるんだろう」としか思ってなかった。要は「競争心」「向上心」という感覚が著しく欠けてたわけです。いまもないけど。
ピアノなんかその最たるもので、同年代の他の子が発表会でどんどんハイレベルな曲に挑戦していて全然そこに追いつけてないのに、自分を誰かと比べて「わたしももっと上手にならなくちゃ」なんてことはまるっきり考えてなかった。純然たる月謝の無駄ですね。ごめんなさい。
ピアノは中学に入って誰になんの相談もなくバスケットボール部に入部したという理由で辞めさせられた。親もピアノの先生も中学教師も全員、私が水泳部に入るもんだと勝手に思いこんでたらしく無茶苦茶ビックリされて、バスケは手を怪我するからそういう子はもう指導できないと即クビになりました(卒業して数年後、水泳部の顧問は部員への性虐待で逮捕された。着任当初から「アイツ怪しい」という噂は校内中に満ち満ちてたから、このときほど己の直感に感謝したことはない。ちなみに2学年下の妹は水泳部部長だったけど小学校時代から喧嘩が強くて有名で、顧問にとっては「対象外」だったらしい)。
バスケは1年の終わりに成長痛がしんどすぎてリタイアした。新入部員の中でいちばん背が低かったので、朝晩牛乳1リットル飲んで自主トレしまくって、制服のポッケに煮干しを詰めた缶を入れてしょっちゅうもりもり食べてたら1年で9センチくらい伸びた。成長痛、結構痛いです。これぞまさに本末転倒というやつです。代わりに走るのは飛躍的に速くなって、短距離も長距離も陸上部の子とだいたい同じぐらいのタイムで走れるようになりました。
高校生のころ世間はバンドブーム真っ盛りで、私も気づいたら軽音部に入部して女の子ばっかり同級生5人のバンドを組んでました。担当はベース。
当時人気だったガールズバンドをコピーしたり先輩のライブを手伝ったり活動そのものは楽しかったけど、入部して1年経たないうちに先輩が部室で喫煙したのがバレて(普通バレるよね)部そのものが無期限活動停止になってしまった。校内で練習はもうできない。後から思えば、学校側は軽音部のように学校の実績につながりにくい部はどうかして潰してしまいたかったんだろうなんて魂胆が簡単にわかる。
それから、バイトも禁止の田舎の高校生同士なけなしのお小遣いをはたいてスタジオを借りて練習してバンドは続けてたけど、メンバーの誰かが「同じ学費払ってるのにうちらだけ部活できないのはおかしい(部活動には学校から予算が出る)」といって部員ゼロだった家庭科部を乗っ取り、放課後はお菓子をつくったりウエディングドレスを仕立てたり、冬は図書館のストーブにあたりつつ(顧問が図書館司書だった)編み物したりするようになった。バンド活動はどこいったんだ。
そのうち受験に本気でとりくみ始める時期が迫ってきて、バンドは自然消滅していた。お年玉貯金で買ったベースやアンプは大学でバンド活動を始めた彼氏にあげた。
私の人生の「音楽経験」はたったそれだけだ。
大学でとってた音楽の授業はすごくおもしろくて、バロック音楽や民族音楽、宗教音楽、現代音楽の良さを教わって、音楽はやるより聴く方が楽しいことに気づいた(遅い)。美術大学なのに音楽系のサークルが数えきれないぐらいあって、彼らの演奏を聴くのも大好きだった。ただ、世の中の音楽の流行には疎くて、何が流行ってて何が新しいとかそういうアンテナは残念ながらまったく機能しなかった。アンテナなんか初めからなかったのかもしれない(なかったんだろう)。映画オタクになってからはサントラCDばっかりやたら買った。
4年生で就職が内定したTV番組制作会社でバイトしてて、撮影・編集した映像に音楽担当のスタッフが既存の音楽をホイホイとハメてくのが、はたで見てて魔法みたいだと思ったもんです。
卒業後は映像制作の仕事を長くやってたので、PV制作は何本も参加した。アーティスト名は挙げないけど世の中の人ならだいたい知ってるアーティストが多かった。中には制作後にライブに招んでくれたアーティストさんもいたし、逆にこっちからライブにお邪魔したアーティストさんもいた。安室奈美恵さんなんか何回か撮影にいって完全にハマってしまい(初めてライブに行ったときの感想)、引退公演まで友だちみんなで参戦した。
過去記事にも書いたけど、伝手でマイケル・ジャクソンの最後のツアーをとんでもない神席で観たことを友だちに話したら「じゃあ大物が来日したらとりあえず観にいってみよう。いついなくなって観れなくなるかわかんないから」ということになり、ビヨンセとかレディ・ガガの来日公演もいった。安室奈美恵のときと同じメンバーで。結果「ビヨンセよりガガさんより安室ちゃんが最高」という結論で一同一致したのには爆笑した。でもマジで安室ちゃんは神です。
ビヨンセのライブでは、友だちのひとりが本番中に「あたしがつくって別作品に納品した映像が勝手に使われてる」ということに気づいてしまい(映像制作者はそういうのすぐわかるからね)超微妙な空気になったのを覚えてます。世界のビヨンセの公演で無断使用ですか・・・。
そんな感じで、ごくたまにクラシックコンサートに行くか、仕事つながりの知人数名のライブに行く以外、仕事のBGMに映画音楽・民族音楽・宗教音楽・現代音楽を聴いて暮らした音楽生活を変えたのがYouTubeだった。
ここ10年はこのツールを使って有象無象玉石混交、あらゆるアーティストのコンテンツが世界中から発信されまくるようになって、それまでの音楽産業のあり方が完全に変わってしまった。何しろアーティストは誰に頼らなくても己のやりたいことを直でオーディエンスに届けられる。しかもお互いタダで。そこから新しいスターが生まれていく。インターネットってすごいよね。25年前、1ページ44キロバイト以下でウェブページつくらされてた時代があった(当時のインターネットには電話回線しかなかったからである)ことすらもう信じられない。
YouTubeは動物系や物づくり系を中心になんでも観るけど、無名のアーティストのカバー動画や民族音楽系もよく観る。そういうのを観てると画面の右側にオススメ動画のサムネイルが出てくる。同じようなジャンルの動画だったり、サムネイルが気になったりしたらそれを選んでまた聴く。
いまのところいちばん再生しまくってるのはこちら。100回は観た。スゴいから。
自分で作曲してひとりで全部演奏して踊ってる。チャンネルをみる限り相当自由な人だけど、Twitterによれば十代でポーランド国立交響楽団のピアニストになってたりなかなかな経歴の持ち主で、小さいころから凄まじい努力をされてきたらしいです。まあそうだろうね。どの楽器でも踊りでもなんでも自分の好きにできる自由って、相応の対価(オカネのことではない)が必要だもんね。
脈絡もなくいろんな動画をみていて、小林私というアーティストの動画にふと出会ったのは今年に入ってからだと思う。
もうどの曲だったかは忘れてしまったがサムネイルの画像が坂井和泉(ZARD)に似ていて「カワイイな」と思って何気なしにクリックしたら・・・たぶん、同じような驚愕を感じたリスナーは結構いると思う。
これは1年前の曲のPV。おわかりいただけただろうか。
えーと、控えめにいって最高なんですけど。いろんな意味で。いやとくに声が。
度肝、抜かれました。
彼はいまはインディーズレーベルに所属してて↑の動画はその公式チャンネルで配信してるけど、それとは別に何年か前から個人チャンネルで活動を始めてて登録者数はいま13万人以上。1年くらい前は3,000人だったみたいですけど、この短期間で何をどうしたらそんなことになるんだろう。
↑の曲なんかはちょっと昔懐かしいメロディーラインの歌謡曲だけど、↓みたいなのもつくっている。もろにボカロの影響を受けてるなという作品もあるしバリバリのロックもあるし、守備範囲はかなり広いみたいです。
うーんこれも最高です。えもいわれぬセクシーボイス。声音そのものも凄い好みなんですが、とくに“ら行”の発声が色っぽい。
なんだけどオリジナルよりカバーの方が再生されてたりします。↓なんか200万回再生超え。
↓は個人的にいちばん好きな2曲が続けて聴けるライブ動画。2年前の時点でこの完成度。なのにチャンネル登録者は1,000人いってなかった。
というわけで最近は音楽系の動画はほぼ小林私しか再生してません。
彼の動画を観て(聴いて)るとときどき不安になる。
どうかすると、ある日突然ふいっといなくなってしまうような気もするし、逆にいきなり超メジャーアーティストになってスタイルがガラッと変わってしまうようなこともあり得る気もする。
なんでかというと、2年前にはこんなツイートをしておきながら、レーベルに所属したあたりから投稿する自撮りが悉く変顔に変わっているからである。
念のために書いときますが、ここ笑うところではありません。わりとまじめな話です。
↑は1年前で更新が止まったインスタの最後の投稿。アカウント名が最高におかしい。本人アカウントです(現在更新されてるのはストーリーだけのようです。最近のちゃんとプロが撮ってるらしいアカウントはこちら)。
これは勝手に思ってることだけど、彼は自分の才能や容貌には相当自信があるんだと思う。
それだけに「外見だけで消費されたくない。自分の好きな音楽だけやりたい」というこだわりを強烈に感じる。自分のチャンネルでしょっちゅうやってる生配信の自室は無茶苦茶汚いし(本人曰く「ものが多いだけ」)服装はもっそいラフだし、喋りながら耳をほじって耳カスをそのへんに飛ばしまくり、フツーにゲップはするし、発言だってどこまでほんとうなのかわからないぐらい低俗だったり無軌道だったりやりたい放題かと思えば、ちょいちょいしっかり常識的なこともいう。美大出身らしいシビアな美学も相応にもってるらしい。その辺にはいくら時代が変わっても美大の普遍性を感じて懐かしくなったりもする。中身はわりと堅気な人なんではないかとも思う。
だからYouTubeの画面越しに彼の音楽だけを心から愛してくれる聴衆が実在することを信じられるんだろうけど、聞けば聞くほど、彼がほんとうは何をめざしていて、どこに行こうとしているのかわからなくなる。ミステリアス。
↓はミステリアス通り越して「そういやこんな感じの子、中学にいたな」的にいたたまれないインタビュー動画。ちょっとみてられないぐらいサブいけど絶妙に笑える。しかし平然とこんだけスベり倒せるってもしや鉄のメンタルなのか。
かと思えばこんなこともしている。
三菱地所のウェブサイトのコメントなんか完全に別人としか思えない。
というわけで「いつ観れなくなるかわかんないから観にいこう」とライブに行ってみた。ひとりで。流石にこのご時世にインディーズのライブに他人を誘うほど神経太くないから。
会場は入場者全員にちゃんと手指消毒と検温、マスク着用とCOCOAのインストールが義務づけられてて声援は禁止、場内もテープで区切ってそれなりのソーシャルディスタンスが保たれるようになってました。
ライブのタイトルは「一つの例を挙げるなら、貝の剥き身の展示かな」。聞いたときは正直なんのこっちゃと思ったけど、始まったら「なるほど」と納得してしまった。
足元は裸足。服装はいつもの生配信で着てる普段着。オシャレのことをどうこういえた義理ではないことは百も承知でいわせてもらいますけど、ダサいです。髪は伸ばしっぱなしのロングヘアを無造作にまとめただけ(後からヘアメイクさんがいたと聞いて腰を抜かした。本番中にしょっちゅうタオルで顔面全体ゴシゴシ拭きまくってたけど・・・もしかして嘘?)。演出は照明だけで映像なんかはない。舞台装飾もいっさいない。
それでいつものアコースティックギター一本で、2曲歌ってはごくカジュアルに喋り、また2曲歌って喋る。内容は覚えてられないぐらい他愛もない話ばかりで、やっぱりどこまで本気でどこからがジョークなのかとらえどころがない。一度は演奏中に歌詞を忘れてスマホで確認したのに、結局また途中で忘れてやめたりする。
観客を煽るようなことはまったくせず逆に「手拍子しないで」「手をふりあげたりしなくていい」「オレのライブのお客さん、やることなくてヒマじゃないですか」などという。自由過ぎる。
つまり飾りがない。ここでは小林私が届けたい音楽だけを文字通り「剥き身」で受けとってほしい。ってことなんだろうと思う。
でもその剥き身の中にはきっと、音楽に対する強い情熱があつあつに燃えているのもちゃんと感じられました。
すごくいいライブだった。
楽しかった。
実をいうと、健康上の理由で、いまの私は大音響や過度な人混みや喧騒が原因で体調が極端に悪くなることがある(のでそういう状況を極力避けて暮らしている)。
ふつうライブといえば大音響と過度な人混みと喧騒そのものなのに、コロナ禍での小林私のライブには、そういうものがいっさいなかった。
ほんとに「剥き身」の音楽だけを、淡々と心ゆくまで楽しむことができた。大満足。ありがたい。
かつさすが22歳、真っ白な陶器のような肌と元気な髪が照明でつやつやキラキラしてて、綺麗な手やすらっと長い手脚の動きがしなやかに優雅で、たいへん眼福でした。飾りなんか初めから何にもいらない。
殻も飾りも何もなくても、小林私は見逃してはいけないアーティストだと思う。
コロナ禍であらゆる経済活動が停滞するなかで「就職しようと思ってた」にもかかわらずインディーズレーベルからデビューしてアルバムを出し、イベントというイベントが自粛を強いられている間に何本もワンマンライブまでして、しかもチケットはきっちり売りきっている。
度胸というのすら全然追いつかないぐらいの勢いというか圧が凄い。
この先、彼がどんな表現者になっていくかなんてわからない。
でもいつか誰かに、「小林私のライブ、いったよ。最高だったよ」とドヤ顔でいえる日が来るのが、ちょっと楽しみだったりします。
機会があれば、絶対また行きたい。
最新アルバム「包装」。タワーレコード限定販売。通販でも買えます。
そのうちでも、これはほんとにどうしようもないな、というのが音楽センスです。あ、音痴とかそういうことではない。
どれぐらいセンスがないかというと、5歳ぐらいからピアノを習ってて普通にバイエルとかソナチネとかやってたんだけど、練習も一応いわれた通りやってたにも関わらず、さっぱり上達しなかった。だいたい「うまくなりたい」というモチベーション自体が低すぎた。
これはピアノだけじゃなくて他の習い事もそうで、水泳なんかわかりやすくタイムという数字が出る。親もコーチも数字が出ないことにはレッスンの成果にならないから当然イライラする。怒る。私自身はそもそもピアノも水泳も算盤も習字も塾もお絵描き教室も、自らやりたいといって始めたわけではないから「なんで怒られるんだろう」としか思ってなかった。要は「競争心」「向上心」という感覚が著しく欠けてたわけです。いまもないけど。
ピアノなんかその最たるもので、同年代の他の子が発表会でどんどんハイレベルな曲に挑戦していて全然そこに追いつけてないのに、自分を誰かと比べて「わたしももっと上手にならなくちゃ」なんてことはまるっきり考えてなかった。純然たる月謝の無駄ですね。ごめんなさい。
ピアノは中学に入って誰になんの相談もなくバスケットボール部に入部したという理由で辞めさせられた。親もピアノの先生も中学教師も全員、私が水泳部に入るもんだと勝手に思いこんでたらしく無茶苦茶ビックリされて、バスケは手を怪我するからそういう子はもう指導できないと即クビになりました(卒業して数年後、水泳部の顧問は部員への性虐待で逮捕された。着任当初から「アイツ怪しい」という噂は校内中に満ち満ちてたから、このときほど己の直感に感謝したことはない。ちなみに2学年下の妹は水泳部部長だったけど小学校時代から喧嘩が強くて有名で、顧問にとっては「対象外」だったらしい)。
バスケは1年の終わりに成長痛がしんどすぎてリタイアした。新入部員の中でいちばん背が低かったので、朝晩牛乳1リットル飲んで自主トレしまくって、制服のポッケに煮干しを詰めた缶を入れてしょっちゅうもりもり食べてたら1年で9センチくらい伸びた。成長痛、結構痛いです。これぞまさに本末転倒というやつです。代わりに走るのは飛躍的に速くなって、短距離も長距離も陸上部の子とだいたい同じぐらいのタイムで走れるようになりました。
高校生のころ世間はバンドブーム真っ盛りで、私も気づいたら軽音部に入部して女の子ばっかり同級生5人のバンドを組んでました。担当はベース。
当時人気だったガールズバンドをコピーしたり先輩のライブを手伝ったり活動そのものは楽しかったけど、入部して1年経たないうちに先輩が部室で喫煙したのがバレて(普通バレるよね)部そのものが無期限活動停止になってしまった。校内で練習はもうできない。後から思えば、学校側は軽音部のように学校の実績につながりにくい部はどうかして潰してしまいたかったんだろうなんて魂胆が簡単にわかる。
それから、バイトも禁止の田舎の高校生同士なけなしのお小遣いをはたいてスタジオを借りて練習してバンドは続けてたけど、メンバーの誰かが「同じ学費払ってるのにうちらだけ部活できないのはおかしい(部活動には学校から予算が出る)」といって部員ゼロだった家庭科部を乗っ取り、放課後はお菓子をつくったりウエディングドレスを仕立てたり、冬は図書館のストーブにあたりつつ(顧問が図書館司書だった)編み物したりするようになった。バンド活動はどこいったんだ。
そのうち受験に本気でとりくみ始める時期が迫ってきて、バンドは自然消滅していた。お年玉貯金で買ったベースやアンプは大学でバンド活動を始めた彼氏にあげた。
私の人生の「音楽経験」はたったそれだけだ。
大学でとってた音楽の授業はすごくおもしろくて、バロック音楽や民族音楽、宗教音楽、現代音楽の良さを教わって、音楽はやるより聴く方が楽しいことに気づいた(遅い)。美術大学なのに音楽系のサークルが数えきれないぐらいあって、彼らの演奏を聴くのも大好きだった。ただ、世の中の音楽の流行には疎くて、何が流行ってて何が新しいとかそういうアンテナは残念ながらまったく機能しなかった。アンテナなんか初めからなかったのかもしれない(なかったんだろう)。映画オタクになってからはサントラCDばっかりやたら買った。
4年生で就職が内定したTV番組制作会社でバイトしてて、撮影・編集した映像に音楽担当のスタッフが既存の音楽をホイホイとハメてくのが、はたで見てて魔法みたいだと思ったもんです。
卒業後は映像制作の仕事を長くやってたので、PV制作は何本も参加した。アーティスト名は挙げないけど世の中の人ならだいたい知ってるアーティストが多かった。中には制作後にライブに招んでくれたアーティストさんもいたし、逆にこっちからライブにお邪魔したアーティストさんもいた。安室奈美恵さんなんか何回か撮影にいって完全にハマってしまい(初めてライブに行ったときの感想)、引退公演まで友だちみんなで参戦した。
過去記事にも書いたけど、伝手でマイケル・ジャクソンの最後のツアーをとんでもない神席で観たことを友だちに話したら「じゃあ大物が来日したらとりあえず観にいってみよう。いついなくなって観れなくなるかわかんないから」ということになり、ビヨンセとかレディ・ガガの来日公演もいった。安室奈美恵のときと同じメンバーで。結果「ビヨンセよりガガさんより安室ちゃんが最高」という結論で一同一致したのには爆笑した。でもマジで安室ちゃんは神です。
ビヨンセのライブでは、友だちのひとりが本番中に「あたしがつくって別作品に納品した映像が勝手に使われてる」ということに気づいてしまい(映像制作者はそういうのすぐわかるからね)超微妙な空気になったのを覚えてます。世界のビヨンセの公演で無断使用ですか・・・。
そんな感じで、ごくたまにクラシックコンサートに行くか、仕事つながりの知人数名のライブに行く以外、仕事のBGMに映画音楽・民族音楽・宗教音楽・現代音楽を聴いて暮らした音楽生活を変えたのがYouTubeだった。
ここ10年はこのツールを使って有象無象玉石混交、あらゆるアーティストのコンテンツが世界中から発信されまくるようになって、それまでの音楽産業のあり方が完全に変わってしまった。何しろアーティストは誰に頼らなくても己のやりたいことを直でオーディエンスに届けられる。しかもお互いタダで。そこから新しいスターが生まれていく。インターネットってすごいよね。25年前、1ページ44キロバイト以下でウェブページつくらされてた時代があった(当時のインターネットには電話回線しかなかったからである)ことすらもう信じられない。
YouTubeは動物系や物づくり系を中心になんでも観るけど、無名のアーティストのカバー動画や民族音楽系もよく観る。そういうのを観てると画面の右側にオススメ動画のサムネイルが出てくる。同じようなジャンルの動画だったり、サムネイルが気になったりしたらそれを選んでまた聴く。
いまのところいちばん再生しまくってるのはこちら。100回は観た。スゴいから。
自分で作曲してひとりで全部演奏して踊ってる。チャンネルをみる限り相当自由な人だけど、Twitterによれば十代でポーランド国立交響楽団のピアニストになってたりなかなかな経歴の持ち主で、小さいころから凄まじい努力をされてきたらしいです。まあそうだろうね。どの楽器でも踊りでもなんでも自分の好きにできる自由って、相応の対価(オカネのことではない)が必要だもんね。
脈絡もなくいろんな動画をみていて、小林私というアーティストの動画にふと出会ったのは今年に入ってからだと思う。
もうどの曲だったかは忘れてしまったがサムネイルの画像が坂井和泉(ZARD)に似ていて「カワイイな」と思って何気なしにクリックしたら・・・たぶん、同じような驚愕を感じたリスナーは結構いると思う。
これは1年前の曲のPV。おわかりいただけただろうか。
えーと、控えめにいって最高なんですけど。いろんな意味で。いやとくに声が。
度肝、抜かれました。
彼はいまはインディーズレーベルに所属してて↑の動画はその公式チャンネルで配信してるけど、それとは別に何年か前から個人チャンネルで活動を始めてて登録者数はいま13万人以上。1年くらい前は3,000人だったみたいですけど、この短期間で何をどうしたらそんなことになるんだろう。
【告知】
— 小林私_2 (@zokubu_tsu) May 21, 2020
おかげさまでYouTubeのチャンネル登録者数が3000人を突破しました!その記念にYouTubeライブにて記念生配信を行います
長時間の生配信なら結構収益が得られるのではないか?という魂胆です
日時は5/23(土) 12:00~
小林私YouTubeチャンネルにて
1時間程度を予定しています。 pic.twitter.com/AVxMyKj0Ef
↑の曲なんかはちょっと昔懐かしいメロディーラインの歌謡曲だけど、↓みたいなのもつくっている。もろにボカロの影響を受けてるなという作品もあるしバリバリのロックもあるし、守備範囲はかなり広いみたいです。
うーんこれも最高です。えもいわれぬセクシーボイス。声音そのものも凄い好みなんですが、とくに“ら行”の発声が色っぽい。
なんだけどオリジナルよりカバーの方が再生されてたりします。↓なんか200万回再生超え。
↓は個人的にいちばん好きな2曲が続けて聴けるライブ動画。2年前の時点でこの完成度。なのにチャンネル登録者は1,000人いってなかった。
というわけで最近は音楽系の動画はほぼ小林私しか再生してません。
彼の動画を観て(聴いて)るとときどき不安になる。
どうかすると、ある日突然ふいっといなくなってしまうような気もするし、逆にいきなり超メジャーアーティストになってスタイルがガラッと変わってしまうようなこともあり得る気もする。
小林私はお前らに顔面だけでマウントがとれるということだけは忘れるな pic.twitter.com/tavQfcwPRc
— 小林私_2 (@zokubu_tsu) September 4, 2019
なんでかというと、2年前にはこんなツイートをしておきながら、レーベルに所属したあたりから投稿する自撮りが悉く変顔に変わっているからである。
念のために書いときますが、ここ笑うところではありません。わりとまじめな話です。
↑は1年前で更新が止まったインスタの最後の投稿。アカウント名が最高におかしい。本人アカウントです(現在更新されてるのはストーリーだけのようです。最近のちゃんとプロが撮ってるらしいアカウントはこちら)。
これは勝手に思ってることだけど、彼は自分の才能や容貌には相当自信があるんだと思う。
それだけに「外見だけで消費されたくない。自分の好きな音楽だけやりたい」というこだわりを強烈に感じる。自分のチャンネルでしょっちゅうやってる生配信の自室は無茶苦茶汚いし(本人曰く「ものが多いだけ」)服装はもっそいラフだし、喋りながら耳をほじって耳カスをそのへんに飛ばしまくり、フツーにゲップはするし、発言だってどこまでほんとうなのかわからないぐらい低俗だったり無軌道だったりやりたい放題かと思えば、ちょいちょいしっかり常識的なこともいう。美大出身らしいシビアな美学も相応にもってるらしい。その辺にはいくら時代が変わっても美大の普遍性を感じて懐かしくなったりもする。中身はわりと堅気な人なんではないかとも思う。
だからYouTubeの画面越しに彼の音楽だけを心から愛してくれる聴衆が実在することを信じられるんだろうけど、聞けば聞くほど、彼がほんとうは何をめざしていて、どこに行こうとしているのかわからなくなる。ミステリアス。
↓はミステリアス通り越して「そういやこんな感じの子、中学にいたな」的にいたたまれないインタビュー動画。ちょっとみてられないぐらいサブいけど絶妙に笑える。しかし平然とこんだけスベり倒せるってもしや鉄のメンタルなのか。
かと思えばこんなこともしている。
三菱地所のウェブサイトのコメントなんか完全に別人としか思えない。
というわけで「いつ観れなくなるかわかんないから観にいこう」とライブに行ってみた。ひとりで。流石にこのご時世にインディーズのライブに他人を誘うほど神経太くないから。
会場は入場者全員にちゃんと手指消毒と検温、マスク着用とCOCOAのインストールが義務づけられてて声援は禁止、場内もテープで区切ってそれなりのソーシャルディスタンスが保たれるようになってました。
ライブのタイトルは「一つの例を挙げるなら、貝の剥き身の展示かな」。聞いたときは正直なんのこっちゃと思ったけど、始まったら「なるほど」と納得してしまった。
足元は裸足。服装はいつもの生配信で着てる普段着。オシャレのことをどうこういえた義理ではないことは百も承知でいわせてもらいますけど、ダサいです。髪は伸ばしっぱなしのロングヘアを無造作にまとめただけ(後からヘアメイクさんがいたと聞いて腰を抜かした。本番中にしょっちゅうタオルで顔面全体ゴシゴシ拭きまくってたけど・・・もしかして嘘?)。演出は照明だけで映像なんかはない。舞台装飾もいっさいない。
それでいつものアコースティックギター一本で、2曲歌ってはごくカジュアルに喋り、また2曲歌って喋る。内容は覚えてられないぐらい他愛もない話ばかりで、やっぱりどこまで本気でどこからがジョークなのかとらえどころがない。一度は演奏中に歌詞を忘れてスマホで確認したのに、結局また途中で忘れてやめたりする。
観客を煽るようなことはまったくせず逆に「手拍子しないで」「手をふりあげたりしなくていい」「オレのライブのお客さん、やることなくてヒマじゃないですか」などという。自由過ぎる。
つまり飾りがない。ここでは小林私が届けたい音楽だけを文字通り「剥き身」で受けとってほしい。ってことなんだろうと思う。
でもその剥き身の中にはきっと、音楽に対する強い情熱があつあつに燃えているのもちゃんと感じられました。
すごくいいライブだった。
楽しかった。
実をいうと、健康上の理由で、いまの私は大音響や過度な人混みや喧騒が原因で体調が極端に悪くなることがある(のでそういう状況を極力避けて暮らしている)。
ふつうライブといえば大音響と過度な人混みと喧騒そのものなのに、コロナ禍での小林私のライブには、そういうものがいっさいなかった。
ほんとに「剥き身」の音楽だけを、淡々と心ゆくまで楽しむことができた。大満足。ありがたい。
かつさすが22歳、真っ白な陶器のような肌と元気な髪が照明でつやつやキラキラしてて、綺麗な手やすらっと長い手脚の動きがしなやかに優雅で、たいへん眼福でした。飾りなんか初めから何にもいらない。
殻も飾りも何もなくても、小林私は見逃してはいけないアーティストだと思う。
コロナ禍であらゆる経済活動が停滞するなかで「就職しようと思ってた」にもかかわらずインディーズレーベルからデビューしてアルバムを出し、イベントというイベントが自粛を強いられている間に何本もワンマンライブまでして、しかもチケットはきっちり売りきっている。
度胸というのすら全然追いつかないぐらいの勢いというか圧が凄い。
この先、彼がどんな表現者になっていくかなんてわからない。
でもいつか誰かに、「小林私のライブ、いったよ。最高だったよ」とドヤ顔でいえる日が来るのが、ちょっと楽しみだったりします。
機会があれば、絶対また行きたい。
最新アルバム「包装」。タワーレコード限定販売。通販でも買えます。