落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

真剣屍病み

2012年06月10日 | 復興支援レポート
5月30日(水)~6月4日(月)震災ボランティアレポートIndex

今月転職したぐりですが。

今日、2ヶ月ぶりに予定のない休日を過ごした。
前の職場の引継やらボランティアやらでなんだかここのところいつでも予定がきちきちに詰まっていて、ゆっくりひとりの時間を過ごすということがなかなかできなかった。
前に予定もなく休めたのは4月の初めに暴風が吹いて仕事が突然休みになったとき以来。といってもその日も結局自宅で仕事してたけど。
今日はここのところあまりにも疲労がたまり過ぎていたので、家事もせずただただウダウダしてました。洗濯物を外に干して昼寝してたら雨降っちゃったりしてね。家でやる仕事もまだあるけど、もう今日はいいやーって思って、寝ちゃいました。

休みもなかったけど平日も時間がなくて、家で仕事したりSkypeでミーティングしたり、出勤前も帰宅後もなんだかんだ時間に追われっぱなしで、すっかり世事に疎くなってしまった。シリア情勢がどうなってるかはもうすっかりわからなくなってしまったし、地下鉄サリン事件の実行犯・菊池直子容疑者が逮捕されたのも昨日知った。
今日は家にいたので、久々にリアルタイムで大阪での無差別殺人事件のニュースを知ったけど。
無差別殺人事件といえば、秋葉原や池袋の事件が印象に残っている人も多いかもしれないけど、それはたまたまこれらが首都圏のマスコミの露出が多い場所で起こったからで、この種の事件そのものは日本全国で起こっている。昨年は千葉県、2010年には茨城県と広島県で、2008年には大阪府、1999年は山口県でも起きている。無差別にたくさんの人を傷つけるという目的だけが重要なら、人間がたくさんいるところならどこでもいいのかもしれない。

この話と被災地にどう関係があるかというと。
こないだ養殖業者さんのお手伝いをしてたとき、地元のアルバイトの男の子といっしょに作業をしていて、いろいろ話す機会があった。
地元には少なくなった20代初めの若者で、今年の夏には上京して都内の会社に入社することが決まっている。実家は漁業ではなく、県内の有名大学を出て就職するまでの期間を実家で過ごしているという男の子だった。
東京に行くの楽しみじゃない?と尋ねたら、ぜんぜん!という意外な答えが返ってきた。治安の悪い東京で暮らすのがとにかく怖くて仕方がないそうだ。
彼は高校時代から実家を出て都市部で下宿して通学してたらしいのだが、宮城県内ですら都市部の治安の悪さが怖かったという。といってもその都市の治安が特に悪いわけではない。地元の治安が良すぎるだけなのだ。

彼の地元・気仙沼市唐桑半島では、多くの住民が自宅に鍵をかけない。地元の人はほとんどが互いに顔見知りだし、誰がどこに住んでどのクルマに乗ってるか、どの船がどこのうちの船か、どこの子がどこの学校に進学してるか、どこの街に就職したかくらいは皆さんほぼ把握している。よそからお客さんが来れば、いつその人が来てどこの家にいって何をしたかもだいたい皆さん知っている。プライバシーというものはほぼ存在しない。
そういうところで見慣れない人間や挙動不審な人間がいればものすごくめだつ。津波で建物が少なくなり、海水をかぶって立ち枯れた樹木の伐採も始まって震災前よりも見通しが良くなったので、その傾向はさらに強くなっている。
アルバイトの彼も、湾を挟んで数百メートル離れた道路を走ってるクルマを見て「あっ××さん帰ってきた」とかいってたし、お母さんは湾に入ってきた船を見て「あれは○○さんがマンボウ穫ってきたね」なんて何気なくいう。2時間後には実際にそこのうちの人が解体したマンボウを持ってきたりする。持ってこないわけにいかないよね。みんなに把握されてんだもん。
平和そのものである。現実にここいらでは空き巣や放火や暴力事件などはほぼまったく耳にすることがないという。というか20代の彼は「生まれてから一度も聞いたことがない」といっていた。

それでも震災直後はこのあたりの治安も悪くなったという。
なにしろ燃料が足りないので、津波で流されて大破したクルマはすべて給油口がこじ開けられて中身を抜き取られていた。無人になった商店のウィンドーもみんな壊されて、無事な商品はすっかり運び出されていたそうだ。この地域にもアジアから働きにきた外国人が何人もいたが、彼らが刃物で自衛して徘徊しているのも見かけたという。
どろぼうなんてものの存在すら知らずに育った男の子にとって、そういう光景そのものが受け入れ難かったのだろう。「怖かった」と繰返しいっていた。平和であたたかな地元をこよなく愛した若者の心を傷つけたのは、災害だけではなくそれが引き起こした人の心の荒廃だった。

ぐりが被災地に来たのは震災から1ヶ月以上たった去年のGWだったけど、そういえばそのころも車上狙いや暴漢、不審者には注意するようにいわれていた。
阪神淡路大震災のときもそうだったけど、この震災のときも、マスコミは「日本ではこんな非常時にも略奪などの治安悪化は起こらない」「どんなときも冷静で誇り高い国民性」などというイメージを喧伝したがるのはなぜなんだろう。
現実には決してそうとはいえない。なんでまたその現実を隠してウソをひろめなくてはならないのかがわからない。
差別や偏見につながるかもしれないからという言い訳が何の役に立つのか知らないけど、市民が平和と安全を脅かされている現実を隠すよりも、メディアにできることをもっとまじめに考えてほしい。

今回はこの彼も含めて新しく知りあった人と話す機会も少しあった。
今までは養殖業の人や、いつもお世話になっているレストランや宿の人など、おなじみの人にただただ親切にしていただいてただけだったけど、そうでない人たちの客観的な意見も聞けてとても勉強になったし、自分がこれまでしてきたことが決して間違ってはいなかったことを再確認することもできた。
これからももっと質の高い支援を続けていけるように努力したい。
ちょっと最近スタミナ切れなのが我ながら心配ですけども。てゆーか仕事もがんばんなきゃな・・・。


ヒナギクの花。唐桑にて。

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Googleマップ 震災ボランティアレポートマップ(ver.3.5)

屍病みの休日

2012年06月04日 | 復興支援レポート
5月30日(水)~6月4日(月)の日程で、またしても宮城県気仙沼市にいってまいりました。

今回はいままでにもさんざんお世話になった地元の漁師さんのご自宅に泊めていただき、おうちのお仕事をお手伝いさせていただいた。
基本は牡蠣の養殖の作業や商品の発送などの事務作業、あとはごはんの仕度やお洗濯を手伝ったり、被災した加工場の跡地を片付けたり倉庫を片付けたり、お母さんやおばあちゃんのお話を聞いたり、一日べったりとご家族の傍にいた。
これまではあくまで泊りはボランティアセンターや公共の宿など、活動時の時間の大半はボランティア仲間といっしょにいたので、ここまでどっぷり地元の人の生活の中でいっしょに過ごしたのは初めてだったかもしれない。
ここのお宅は気仙沼に通い始めたころからのおつきあいなので、既にもう「被災者とボランティア」という関係ではなくなってきている。お母さんやおばあちゃんはよそから来た人にぐりを紹介するとき、「うちの女中さん」とか「従業員さん」とかいったりしていた。なんだかね。おもしろいけどね。

これだけどっぷりしちゃってると、本来ならよそ者には見せない顔や聞かせない声もだんだん浸透してくる。
漁協の複雑な人間関係や、地元で迷惑がられているよそ者の評判など、地域の人同士でもなかなか気安く口にできないような話題も耳にすることも多い。
腰を据えて地域支援をしていくうえで地元の事情に明るくなることは必須の条件だが、知れば知るほど自分がいかに無知で無力かということを思い知る。
だが、そんなわれわれでも頼りにしてくれて、心を開いてくれる人たちがいる限り、できることは続けたいと思う。

タイトルの「屍病み(かばねやみ)」とは土地の言葉で「怠け者」の意。
ぐりは今日転職したのだが、転職前に思いきり唐桑を満喫したいと思って訪問した今回、想定以上に満喫しまくってしまった。
詳細はまた後日。

真剣屍病み


カモシカ。
唐桑にいるとは聞いていたのに、これまで一度も遭遇したことがなく悔しい思いをしていたが、今回は3回も遭遇することができた。
画像のカモシカは朝、道の傍に出てきて、クルマを停めて写真を撮るぐりたちをじっとみつめていた。2歳になる前くらい?角の小さな若いカモシカだった。撮り終わってカメラや携帯をしまうと、くるりと背を向けて森の中に戻っていった。

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