『人生はビギナーズ』
3ヶ月前に末期ガンで父(クリストファー・プラマー)を喪った38歳のオリヴァー(ユアン・マクレガー)は、友人たちに誘われて出たパーティーで女優のアナ(メラニー・ロラン)に出会い、恋に堕ちる。
亡父は44年連れ添った妻(メアリー・ペイジ・ケラー)の死後にカミングアウトし、晩年はゲイライフを謳歌して過ごした。一人っ子だった少年時代、両親の間には会話らしい会話はなく、父親らしい愛情にも満たされた記憶がなかったオリヴァーは、若いボーイフレンドたちに囲まれ賑やかに残された時間を楽しむ父の姿に戸惑うばかりだった。
『サムサッカー』のマイク・ミルズ監督が自身の経験を基に映画化。
冒頭、主人公がひとりで家の中を片付けている。
書類、服、薬、小物、なんでもない小さなものをこまごまと集めてゴミ袋につめ、ゴミ捨て場に運ぶ彼の後ろを、犬のアーサーがちょこちょことついてまわる。
せりふはない。ひとりのシーンだから。
でも、何の説明もなくても、彼が大切な身近な人を亡くしたことがすぐにわかる。悲しそうな、寂しそうな横顔と、犬にむける視線が、ほんとうはそこにいるべき人の不在を指し示している。
長く患った父親の死の喪失感から立ち直れずにいる彼を励まそうとして、周囲の友人たちはパーティーに連れ出したり、真夜中の落書きドライブにひっぱりまわしたりする。
心配しているというよりは、暗い人間がいるのに我慢ができないからそうしているという空気がリアルだ。
父親が亡くなったあとから映画が始まるので、時制がしょっちゅう前後する。
オリヴァーはなにかにつけて父を思い出し、母を思い出す。一人っ子の彼には両親の思い出を共有する人間がいない。いないからなかなか思い出が消化されないまま、孤独感だけが募っていく。
38歳になってできた若い恋人といっしょにいてもなかなかのめりこめない。優しくて寛容な大人の男を装っていても、彼の孤独に入り込めないことで女は苦悩する。
ふたりで楽しく過ごしたところでどうしても心から笑うことができないオリヴァー。どうすれば自分を解放できるのか想像もつかない。
肖像画を注文されたCDジャケットの仕事で悲しみの歴史を描いてしまうオリヴァー。ほんとうの自分の気持ちを表現する場所を完全に間違えていることに気づいていない。
傷つきたくなくて何もかもから少しずつ距離を置こうとする、ひとりぼっちでちょっとオタクっぽいアラフォー男性といえば思い出すのが村上春樹作品の主人公。
どのシーンもどのシーンもキョーレツにデジャヴュ感満載なワケです。オリヴァーがすることもいうこともなんかもっそいハルキっぽいの。監督が本職アートディレクターだから途中でイラストとかイメージ写真なんかがちょいちょい反復的に挿入されるんだけど、登場人物がすれ違ったり行き違ったり、ナレーションが異常に多用されるなんて構成なんかはやけに王家衛(ウォン・カーウァイ)っぽかったり。王家衛も昔は村上春樹を意識してたのは有名だよね。
こういう作風ってハリウッドじゃ珍しいんだろうけど、こっちじゃそーでもないんだな実は。気のせいかもしれませんがー。
しかし王家衛作品と違ってこの映画の登場人物は超ミニマムだし、物語は超淡々としてるし、正直途中で微妙に眠くなっちゃったりして・・・スマン。
ユアン・マクレガーっていい役者だよね。ゲイ役ばっかやってたせいで、そのうち彼も「実は・・・」なんていいだすんじゃないかなんてドキドキしちゃったりはしなかったけど、寂しいのにどうしていいのかわからないクヨクヨ男子役、むちゃくちゃハマってました。キュートだった。
クリストファー・プラマーはべつにふつー。とくにオスカーがどーとかいう演技じゃない。オスカーは年寄り男優がノミネートされると当確らしーですね。なぜならアカデミー会員が年寄り俳優ばっかしだから。ははははは。
メラニー・ロランは『イングロリアス・バスターズ』の彼女ね。あのときもキレイだなーカワイイなーと思ってたけど、やっぱしすごい雰囲気があって素敵。
『サムサッカー』同様プロダクションデザインが秀逸。この映像美を見るだけでも一見の価値はある。
自分で自分の経験をうまく映像化するのは相当難しかったはず。妥協もなくひたすら細かなディテールをきちんきちんと積み上げた真剣さが伝わる佳作にはなってます。
娯楽映画としてはちょっと退屈かもしれないけど、犬がとにかくかわいく活躍してるので、そこもご愛嬌として許せなくもない・・・か?
3ヶ月前に末期ガンで父(クリストファー・プラマー)を喪った38歳のオリヴァー(ユアン・マクレガー)は、友人たちに誘われて出たパーティーで女優のアナ(メラニー・ロラン)に出会い、恋に堕ちる。
亡父は44年連れ添った妻(メアリー・ペイジ・ケラー)の死後にカミングアウトし、晩年はゲイライフを謳歌して過ごした。一人っ子だった少年時代、両親の間には会話らしい会話はなく、父親らしい愛情にも満たされた記憶がなかったオリヴァーは、若いボーイフレンドたちに囲まれ賑やかに残された時間を楽しむ父の姿に戸惑うばかりだった。
『サムサッカー』のマイク・ミルズ監督が自身の経験を基に映画化。
冒頭、主人公がひとりで家の中を片付けている。
書類、服、薬、小物、なんでもない小さなものをこまごまと集めてゴミ袋につめ、ゴミ捨て場に運ぶ彼の後ろを、犬のアーサーがちょこちょことついてまわる。
せりふはない。ひとりのシーンだから。
でも、何の説明もなくても、彼が大切な身近な人を亡くしたことがすぐにわかる。悲しそうな、寂しそうな横顔と、犬にむける視線が、ほんとうはそこにいるべき人の不在を指し示している。
長く患った父親の死の喪失感から立ち直れずにいる彼を励まそうとして、周囲の友人たちはパーティーに連れ出したり、真夜中の落書きドライブにひっぱりまわしたりする。
心配しているというよりは、暗い人間がいるのに我慢ができないからそうしているという空気がリアルだ。
父親が亡くなったあとから映画が始まるので、時制がしょっちゅう前後する。
オリヴァーはなにかにつけて父を思い出し、母を思い出す。一人っ子の彼には両親の思い出を共有する人間がいない。いないからなかなか思い出が消化されないまま、孤独感だけが募っていく。
38歳になってできた若い恋人といっしょにいてもなかなかのめりこめない。優しくて寛容な大人の男を装っていても、彼の孤独に入り込めないことで女は苦悩する。
ふたりで楽しく過ごしたところでどうしても心から笑うことができないオリヴァー。どうすれば自分を解放できるのか想像もつかない。
肖像画を注文されたCDジャケットの仕事で悲しみの歴史を描いてしまうオリヴァー。ほんとうの自分の気持ちを表現する場所を完全に間違えていることに気づいていない。
傷つきたくなくて何もかもから少しずつ距離を置こうとする、ひとりぼっちでちょっとオタクっぽいアラフォー男性といえば思い出すのが村上春樹作品の主人公。
どのシーンもどのシーンもキョーレツにデジャヴュ感満載なワケです。オリヴァーがすることもいうこともなんかもっそいハルキっぽいの。監督が本職アートディレクターだから途中でイラストとかイメージ写真なんかがちょいちょい反復的に挿入されるんだけど、登場人物がすれ違ったり行き違ったり、ナレーションが異常に多用されるなんて構成なんかはやけに王家衛(ウォン・カーウァイ)っぽかったり。王家衛も昔は村上春樹を意識してたのは有名だよね。
こういう作風ってハリウッドじゃ珍しいんだろうけど、こっちじゃそーでもないんだな実は。気のせいかもしれませんがー。
しかし王家衛作品と違ってこの映画の登場人物は超ミニマムだし、物語は超淡々としてるし、正直途中で微妙に眠くなっちゃったりして・・・スマン。
ユアン・マクレガーっていい役者だよね。ゲイ役ばっかやってたせいで、そのうち彼も「実は・・・」なんていいだすんじゃないかなんてドキドキしちゃったりはしなかったけど、寂しいのにどうしていいのかわからないクヨクヨ男子役、むちゃくちゃハマってました。キュートだった。
クリストファー・プラマーはべつにふつー。とくにオスカーがどーとかいう演技じゃない。オスカーは年寄り男優がノミネートされると当確らしーですね。なぜならアカデミー会員が年寄り俳優ばっかしだから。ははははは。
メラニー・ロランは『イングロリアス・バスターズ』の彼女ね。あのときもキレイだなーカワイイなーと思ってたけど、やっぱしすごい雰囲気があって素敵。
『サムサッカー』同様プロダクションデザインが秀逸。この映像美を見るだけでも一見の価値はある。
自分で自分の経験をうまく映像化するのは相当難しかったはず。妥協もなくひたすら細かなディテールをきちんきちんと積み上げた真剣さが伝わる佳作にはなってます。
娯楽映画としてはちょっと退屈かもしれないけど、犬がとにかくかわいく活躍してるので、そこもご愛嬌として許せなくもない・・・か?