落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ボーイズライフinポーランド

2007年10月27日 | movie
『トリック』(ギャラリー

傑作!でした。
7歳のステフェク(ダミアン・ウル)は母(ヴァナ・フォルナルチック)と12歳上の姉(エヴァリナ・ヴァレンジャク)と三人暮らし。幼くして別れた父親の顔はよく覚えていないのだが、駅でときどき見かける男性(トマシュ・サプリック)を父だと思いこんだステフェクは、あらゆるイタズラを駆使して母親と彼とを再会させようとする。

タイトルの『トリック』は英語題で字幕では「魔法」と訳されてたけど、映画では正確には計略とかイタズラといったニュアンスで使われているのだろう。このイタズラというか計略がまことにほほえましい。イタズラといっても誰かに迷惑がかかったりするような性質のものではなくて、一種のおまじない・願掛けに近いものばかりなのだ。
こうした“トリック”も含めて姉とのやりとりやハト小屋や線路での遊びなど、この映画には同じようなシーンが何度も何度も繰り返し描かれる。全体に登場人物が少なく場所や生活など背景描写に乏しい、うっかりするとファンタジックになってしまいそうな物語であるにも関わらず、これらの丁寧な反復表現によって、人の不器用な生をやさしくしっかりと描いているところに説得力を感じた。

主人公のステフェク自身も個性的なキャラクターでおもしろいけど、彼のすることを周囲の大人がおおらかに見守っていて「子どものたわごと」などと乱暴に片づけようとしないのがいい。姉もアルバイトや勉強のかたわらよく弟のめんどうをみているけど、もっとおもしろいのが姉のボーイフレンド(ラファウ・グジニチャク)。大の大人の男なのに、いちいちステフェクの仲間としてうまくつきあってやっている。それでいてヘンな猫なで声を出したりはしない。上から目線ではなくあくまで対等に向きあおうとする。一見チンピラ風だが意外といいやつである。

ポーランドの田舎町の風景もなかなか雰囲気があるし、アコースティックギターやトランペットやアコーディオンをメインに使った音楽もオトナっぽくてステキ。
キャスティングも素晴しい。ステフェク役のダミアンはロケ先の地元の子なのだそうだが、北欧人らしい色白できれいな金髪と青い大きな瞳のかわいい、みるからにワンパクそのものな男の子。眉をむすっとひそめた考え深げな表情になんともいえない味があって、ぽこん!と見事に突き出たまるいおなかも愛くるしい。姉役のエヴァリナ・ヴァレンジャクはスカーレット・ヨハンソンをスレンダーにして野暮ったくしたような美少女で、健康的にセクシーでこちらもぐり好みだった。脚がめちゃくちゃ長くて綺麗。
この映画も監督の子ども時代の思い出をベースにした物語なのだそうだが、まったくセンチメンタルやノスタルジーに流れずに、子どもからお年寄りまで誰でも堪能できる、明るく楽しい娯楽映画になっている。それでいて、監督にもいるという年齢の離れた姉に対する特別な愛情もあたたかく伝わってくる。
これは一般公開してもけっこうあたるんじゃないかと思います。ぐりももう一回観たいです。


ボーイズライフin台湾

2007年10月27日 | movie
『ヤンヤン 夏の想い出』
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厳密にはボーイズライフ映画ではないですね。これは。
ヤンヤン(張洋洋ジョナサン・チャン)は8歳のおしゃまな男の子。両親(呉念眞ウー・ニエンチェン/金燕玲エレイン・チン)と祖母(唐如韞タン・ルーユン)、高校生の姉(李凱莉ケリー・リー)といっしょに暮しているが、母親の弟の結婚式当日、祖母が脳卒中で倒れてしまう。映画ではこの一家それぞれの孤独な葛藤を描いている。だから主役はヤンヤンではなくて、あえていえばゲーム会社を経営する父親だろう。

一家の話だが家族同士の関係性についての描写はあまりない。日常を描いてはいるが生活感もない。一家はそれぞれ、父親であり母親であり娘であり息子である以前にひとりの人間なのだ。ひとつ屋根の下でいっしょに生活はしていても、家族の一員であることはそれぞれの人間性の一部分であって、その他の部分では人はみんなひとりぼっちだ。
でも孤独はべつに悪いことではない。ヤンヤンは頭の回転がよくておもしろい子だが発想が変わっていて、同年代の親戚の子や学校の同級生たちの間にはなかなか馴染めない。そんな彼を父親は否定しない。自分に似ているといって喜んでやり、友だちになりたいという。それもまた変わった見解だが、あえていえば子育てに正解なんかない。そのとき正しいと思うことを選択するしかないし、答えはその積み重ねの延長にしかない。

ヤンヤンを演じた張洋洋はすごくかわいかったけど、もしかして設定の8歳よりもっと小さいのではないだろうか。小柄だし喋り方もたどたどしくて見た感じでは6歳くらいにしかみえない。最近も『指間的重量』という映画に出ていたそうだが、今ではもう10代。大きくなったろーなー。
しかしこの邦題はほとんど詐欺ですよね?確かに結婚式に始まって葬式で終わるひと夏の物語には違いないけど、全然「想い出」話ではないからね。

ボーイズライフin中国

2007年10月27日 | movie
『思い出の西幹道(仮題)』

すっごくいい映画でした。
監督自身の子ども時代の体験に基づくストーリーだということは観ていてすぐわかるのだが、客観的視点に徹底して描かれていて個人的な思い入れのような感情論が極端に排除されているので、観客の感情の邪魔になるようなムダがまったくない。
たとえばカメラは常に物凄い引きの止め画で、出演者はほとんど感情を表情に出さないうえ、台詞もごく必要最低限しかない。画に愛想というものがない。それでいて画面構成がきっちり隅から隅まで決まっているので、どの場面でも何を表現しているのかが瞬時に伝わる。考えるまでもない。シナリオもカメラワークも編集も、極限まで計算され尽くしている。こういうタイプのボーイズライフ映画はけっこう珍しいんではないかと思う。作者の少年時代を題材にした映画といえば、大体がべたべたとセンチメンタルなものばかりだが、この映画はまったくその逆をいっている。

キャスティングが非常に印象的で、とくに主人公ファントゥを演じた子役(名前がよくわからない)は決して美少年ではないのになんともいじらしいというか、黙っていてもユーモラスでどこか哀愁漂う風貌が個性的でかわいかった。シュエン役の沈佳妮(シェン・チアニー)はドラマ『向天真敵女生投降』に出てた人ですね(つーてもぐりはこのドラマ未見ですが)。TIにも来てたけど顔が異様にちっこくて手足が長くて、デッサン狂ってるよ!ってくらい驚異的なプロポーション。劇中ではほぼノーメイクに小汚い田舎くさい衣裳で頑張ってたけど、以前からこういう純粋な芸術映画に出てみたかったそうである。

人間誰にでも必ず子ども時代というものがあり、自らの子ども時代に対する個人的な記憶だって誰でももっている。この映画では、決して安易な感傷に訴えることなく、観客それぞれの古く儚くこわれやすい記憶を呼び覚ますことに成功している。そういう姿勢がとても堂々としていて好感が持てるし、かっこいいと思ったです。

ゴーゴリの名のもとに

2007年10月26日 | movie
『その名にちなんで』
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ニューヨークに住むインド人一家の始まりから終わりまでを描いたホームドラマ。舞台はアメリカなのに登場人物のほとんどがインド人という変わった映画です。監督もインド系らしー。
こないだうちでも名前の話題を取り上げたけど、この映画のタイトルはもろにそのものずばり。ガングーン家に生まれた男の子は初め「ゴーゴリ」と名付けられるんだけど、ゴーゴリといえばロシアの文豪。息子は大きくなるにつれてだんだんそんな名前を鬱陶しく思うようになる。当り前だわな。由来を聞けば誰でも「なるほど」と納得するけど、そんなものよく知りもしない相手にいちいち説明してまわるのも億劫だし、かといって名乗るたびに驚かれるのにも辟易する。わかるわあ〜それ〜。
ただこの映画の主題は名前ではなくて、親子の間の決して埋められない溝と、かつ決して消えない深い愛である。インド生まれの敬虔なヒンズー教徒の両親と、ニューヨークで生まれ育った子どもたちの間には、価値観もものの考え方にもはっきりとした隔たりがある。その距離はただのジェネレーションギャップとは比べ物にならない。だがそれでもガングーン一家は愛によって強く結ばれている。
観れば誰もが「もっと親を大事にしたい」「もっと子どもをわかってやりたい」という気持ちになるんじゃないかと思う。いい映画です。
ただし、ぐり的には、インテリ一家で生活感のない家庭環境の描写や、家族同士の別れの表現があまりにあっさりしているのがちょっと残念でした。衣裳や美術や音楽に時代の変遷が反映されないのにも疑問は残る。そこをもうちょっとリアルに表現してくれれば、世界観に奥行きが出て全体の説得力もさらにアップしたんではないかと。
おかあさん役のタブーとゆー女優がめちゃめちゃ綺麗で、ぐり惚れてしまいました。すんごい絶世の美女なんだよー。

ボーイズライフinイタリア

2007年10月26日 | movie
『マイ・ブラザー』

1960〜70年代といえば日本でも学生運動の時代だけど、イタリアもそうだった。その時代を舞台に、ある兄弟の絆と別れを描いた青春映画。
題材はシリアスなのだが、タッチが軽妙で何がどうなろうが決して重くならないのがすごくいい。というかそんなテクニックがあるってのがスゴイ。絶対に感動や涙をおしつけないで、それでいてちゃんとテーマが伝わってくる。たぶんこういう映画は今の日本やハリウッドではまずつくれないんじゃないかと思う。みたことない変化球を投げられたような、なんだかキツネにつままれたような気分。
イタリア映画だが舞台がラティーナというムッソリーニが建設した町なので、風景がイタリアっぽくない。イタリアの都市といえばどこでも教会や修道院や城塞など歴史的建造物が多くて情緒的な町並みに特徴があるけど、ラティーナにはそんなものはいっさいない。あるのは安普請の小汚い集合住宅群と醜悪な鉄筋コンクリートの教会だけ。いうなればイタリアの他の都市には当り前に存在する、イタリアの最もイタリアたるアイデンティティ(=歴史・文化)がこの街には欠けている。それでもここのイタリア人が保守的で今もムッソリーニを支持しているというところに、人情の不思議さを如実に感じる。このラティーナの矛盾した二面性を象徴するのが、まったく逆のタイプの兄(リッカルド・スカマルチョ)と弟(エリオ・ジェルマーノ)なのだろう。
ぐり的には60〜70年代のかわいいイタリア車がいっぱい出て来たところが目に楽しかったです。イタリア車ってホントかわいかったんだよね(過去形)。最近はそんなこともないけど。