2018年4月28日の日本の新聞に、フィリピンの首都マニラに設置されていた日本軍慰安婦像が、4月27日の深夜にマニラ市によって撤去された事が小さく載った。この件に関して、日本の新聞は、国民の意識を刺激し関心を呼び覚ます事を避けるためであろう、意図的に小さな記事で扱い詳細な経緯を載せていない。また、フィリピンの被害者や支援者の反応を詳細に伝えていない。だから、日本国民はこの件を正しく理解するためには全貌を知るべきである。
マニラに慰安婦像が設置されたのは2017年12月8日であった。フィリピンの元「慰安婦」女性の団体「リラ・ピリピーナ」、フィリピン人女性の同盟「ガブリエル」、トゥライ財団、そしてそれらに対する多くの支持者が、フィリピンの歴史的な記念物の設置に関わる政府機関「フィリピン国家歴史委員会」の支援を受けて設置したのである。
設置の目的は像の台座に記されている。「1942~45年の日本統治下で虐待の被害に遭ったすべてのフィリピン女性の記憶である。彼女たちが自身の経験を語り出すまで、何年もの月日を要した」と。つまり、再発防止のために他ならない。日本軍慰安婦(性暴力)被害者たちは、2度と同じような被害者を生まない平和な世界の実現を訴えてきた。今、世界に広がる日本軍慰安婦メモリアルは、この訴えを記憶する事で、今も戦時下で、あるいは基地周辺で、そして日常の中で繰り返される性暴力を根絶しようとする決意と切望を表すものなのである。
これに対して安倍政権はどのように対応してきただろう。設置直後から「日本政府の立場と相容れない」として「遺憾の意」を伝えていたのである。また、2018年1月には野田聖子・総務相兼女性活躍担当相がフィリピンでドゥテルテ大統領と会談した際に、「非常に残念だ」として政府間で協議するよう求めていたのである。福田・財務省事務次官のセクハラ問題においては安倍政権の対応に対して批判的な発言をしていたが。
また、現場で撤去を確認した在比日本大使館は「(撤去は)フィリピン政府側の判断であり対応」と言いつつ、「フィリピン政府には像設置は遺憾であり、2国間の関係に悪影響を与えないようにとの安倍政権の立場を繰り返し伝えてきた」と述べているのである。
しかし、これまでの自民党政権や安倍政権(日本政府)は、ラグナ州カリラヤに日本兵戦没者の慰霊碑「比島戦没者の碑」を建てているのである。また、日本人生還者や戦没者の遺族が、フィリピン各地に400基を超える日本兵戦没者の慰霊碑を建てているのである。
この事はつまり、かつて日本軍が侵略した事によって120万人もの犠牲者を出したフィリピンに、日本兵の慰霊碑を建てる事には協力してもらいながら、フィリピンの国民が自国の地に、日本軍による性暴力被害女性の碑を建てる事に対しては露骨に妨害しているという事なのである。それも「日本政府の立場と相容れない」という理由で。このような非常識で厚顔無恥、独善的な安倍政権を主権者国民は許しておいてはいけない。
それから、フィリピン人女性の同盟ガブリエルが4月28日に、ドゥテルテ大統領に抗議声明を出している(日本メディアは報道していない)事を知ってほしいので以下に紹介しておきたい。
ガブリエル 声明
ドゥテルテ大統領へ マニラの「慰安婦」記念碑を再建せよ
2018年4月28日
私たちは、2018年4月27日に、フィリピンのマニラ市のロハス通りにおいて、深夜に女性解放運動家、歴史学者などの強い反対を押し切って断行された、「慰安婦」記念碑の撤去に強く抗議する。これはフィリピン人女性の尊厳の冒涜であり、第二次世界大戦中、旧日本軍によって性奴隷にされた何百人ものフィリピン人被害者への侮辱である。
私たちはフィリピン政府に以下の要求をする。
記念碑を保護された公共の場所に再建し、同様の碑を国のいたるところに設置する事。
1、右翼的で軍事的な安倍政権(日本政府)の世界史の修正圧力に抵抗するとともに、元 「慰安婦」女性の経験をフィリピンの歴史として公式に認める事。
韓国、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ドイツの記念碑と同様に、マニラの記念碑は、未来の世代が、第二次世界大戦中の日本のフィリピン人女性に対する残虐行為と虐待、そして侵略戦争において女性が歴史的に被害を受けてきた事を忘れないように貢献するものである。フィリピンの元「慰安婦」女性の団体の一つであるリラ・ピリピーナ、フィリピン人女性の同盟であるガブリエル、トゥライ財団、そして多くの支持者たちが、フィリピン国家歴史委員会の支援を受けて、この記念碑が可視化されるよう長年活動を続けてきた。この撤去によって、右派であり軍事主義者である安倍政権(日本政府)は、世界各国の政府や支持者に対して、歴史修正的な選択を押し付ける事に成功したのだ。同様の「慰安婦」に関する追悼碑や記念碑を持つ都市において、日本政府による外交的・経済的制裁のリスクは圧力とはならなかった。一方で、フィリピン政府が、夜にまるで泥棒のようにマニラの「慰安婦」記念碑を撤去した事は、非常に嘆かわしく恥ずべき事である。仮にロドリゴ・ドゥテルテ政権がこのような凶悪な行いを正すよう求める声を聞き入れなければ、記念碑が撤去された事は、この政権が、女性とフィリピンという国家の尊厳と、何十億もの日本からの借款と技術支援を引き換えにしたポン引き(私娼窟などで、不案内の者を連れ込む客引き)である事を決して忘れさせる事はないだろう。私たちは民衆とともに、フィリピンや各地の旧日本帝国軍による性奴隷制を告発する努力を力強く継続する。いかに安倍政権(日本政府)が占領時の惨事を覆い隠そうとしようと、それを明らかにしようとする女性たちは屈する事はないだろう。
以上
(2018年5月6日投稿)