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僕の昭和人論    文科系

2019年05月24日 21時56分56秒 | 歴史・戦争責任・戦争体験など
 即席の日本人論と昭和人論を一つ。

1 まず歴史的背景について分かりやすいように、歴史順に箇条書きにしてみましょう。

①織豊時代、戦国時代に、日本の経済力が凄まじく伸びた。

②その力が、徳川の安定期に入って鎖国もあったりして、ほぼ「国内消費」にだけ使われた。回船など国内流通、商業もおおいに発展して、100年もたたないうちに、大都市などでは元禄の町人文化という形で、庶民文化も先進国相当の発展に達した。日本人が1日2食から3食にかわったのも、このころだ。基本的に「生産と消費の国内好循環」は徳川末期まで波はあっても続いていたのではないだろうか。この、アジア有数の力が、明治維新でいわゆる近代化が達成されていく原動力になっていったのだと思う。

③明治維新は一種の革命だったと僕は思う。下級武士により旧来身分制度(の固定化)が崩れ、できる庶民が、あの時代のアジアとしたら差別少なく登用されるようになった。こういう民主主義の一例が、例えば学校制度にある。庶民登用型学校制度という側面のことである。全国に女子と男子二つずつの高等師範学校が、西と東に設けられた。男子は広島と東京、女子は奈良と東京に。この四つは一般帝大よりはるかに難しく、それだけ教師が大切にされていたということだろう。ここには何の身分、家柄はなくとも成績がすごくよい人(今の超難関医学部ほどか?)なら、多少のお金があれば(一般帝大平均よりも貧乏な人でも)入れた。逆に金があっても、家柄がいくら良くても、成績が満たなければ入れなかった。ここを出た人々が、日本教育界の指導者としてそれぞれ東と西の全国に派遣されたから、こういう「立身出世流儀(教育)」が全国に広まっていった。明治、大正時代の世界でもずば抜けた識字率向上は日本人の民主主義的教育水準の高さを示していると思う。

④そして、敗戦である。廃墟からの再建熱と「民主主義的出世流儀」・学校制度のゆえに、60年代まで庶民の教育熱がどんどん広がっていく。この60~80年代ほど大学就学率が高まった国はこのころまでの世界ではちょっと希なのではないか。この平均的教育水準の高さという点は、英仏など過去の先進国からも驚かれている所だ。
 ただしその教育が目指すモノが、戦前とはちょっと変わった。戦前の旧制高校は「弊衣破帽」「末は博士か大臣か」に象徴されようが、戦後は「博士、大臣よりも『大企業の社長』に」というように。つまり、仕事内容よりも金が大事な社会になったのだろう。
 以上が、昭和人なのだと思う。

⑤以上のマイナスの負の部分、側面にも触れねばならないだろう。相当民主主義的で、世界の時代にも合った?ものだったとは言え、基本的に上からの改革であったということだ。各界の戦略、つまり長期的・全体的な方針は「上から下りてきた」ということである。組織、団体の上に上るほど戦略に絡めるが、そういうのはごく少数の人だったし、封建的身分制度の残りかすもあったりして、民主主義の全体的定着は近代化の進展に比べれば非常に弱かったということである。例えばこういうように。
 明治、大正の日本近代文学の最大テーマは、近代的自我であった。村の身分、家柄、本家分家、男女差などなどに押しつぶされる個人の苦しみを描いたものだったということだ。


2 よって昭和人の特徴は

①平均的に世界1と言って良い働き者で、仕事上気も利いて、働きの質も高い。

②上に従い、競争を好む。上の顔色を見ながら、組織人として多分世界でもトップクラスの有能さを示す。ただし、「専門」と「組織」以外には弱い。

③過労死、ノイローゼ・鬱病、自殺の多さなどは、以上の結果でもあるのだろう。以上の反面として、「社会性という習慣、心をも含んだ広い意味での人間関係」に極端に敏感なところがあるということではないか。非民主的な公私混同習慣なども、そうさせているのだろうが。

④趣味、文化活動は大いに必要だと思っているが、若い頃にその養いが少ないので、趣味とか、ましてや相当の知識人でも「文化」とかいうようにはなりにくい。戦前までの伝統文化が欧米文化移入によって途切れてしまった事も関係していよう。
 廃墟育ちでもあり、味覚、聴覚、視覚など五感の養いが少なかったからでもあるのだろうが、「好き」ということが弱いと思う。音、形・色、味、運動感覚など(の芸術・文化)というものは好きでなければ極めようもない。飯は掻き込むモノ、古い家は壊して新しくするのがよいという具合である。文化への尊敬、その鑑賞者は結構多いと思うが、アマチュア創造者が少ないのではないか。

⑤その教養・精神は、便宜主義で、哲学がない。あっても、また相当の知識人でも、便宜主義の哲学、生き方ノウハウ論の延長程度である事が多い。物事を突き詰めて考えず、習慣的にだけ反応し、考えてきたのだと思う。常識の範囲から出ることが少ないということだろう。③④が関係しているのではないだろうか。


3 以上と、後の人々、例えば平成成人組などとを比べなければ、昭和人論としてはまだ不十分だろう

 ①の現在は、「平均的には」最も落ちてきていると思う。②は、①ほどではないがやはり平均的には落ちてきていると思う。③は一種もっと深刻になっている。④はオタクというのも含めて、大事にされるようになってきた。ここが、後の人々が昭和人と最も違う「豊か」なところではないか。お祭り好きなど、「楽しい」がすきでもあるし。⑤は相変わらず弱い。日本知識人の最も弱いところだと思う。だからこそ③が整理できず、④がオタクになってしまうのではないか。


4 昭和人受け継ぎ、この国の未来に関わる結論

 少子化の成熟国の子ども、人間は、親、先輩がその成熟を作ったよい所を受け継がず、悪いところを見ていて、反省、改善はするのだが、はてまっとうに改善できるのかどうかといったところ。それで成熟国は、古今東西常に衰えてきたのではないか。その「正しい民主主義度」のエネルギー、「格差固定」の排除があるか無いかによって、現状維持継続期間の長短はありながらも。ちなみに、イギリス、フランス、ドイツなど明治日本がその民主主義で模範にした国々も、今や新たな身分固定社会になり、発展の芽はなくなっている。これだけめまぐるしい世界、社会になれば、3代目が家をつぶすと言われることが国にも当てはまってくるようだ。

 ワスプなんて習慣があったアメリカだって超大国で100年ほど続いているが、ナチスからの逃亡を含んだ移民と東欧没落がなければとっくに没落していたと思う。明治、大正生まれを祖父とすれば、現日本の中心は丁度3代目だし、移民は毛嫌いしている人がまだまだ多そうだ。


(2010年1月15日のエントリーを、再掲)
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「反日」「反日」と言いたがる人々に   文科系

2019年05月24日 21時01分42秒 | 文芸作品
 「反日」、「反日」と五月蠅い人々がネット社会に多い。これはそういう人々に進呈したい掌編小説。「反日」の「日」、つまり日本とはなんぞやをほんの少しでも考えようとして欲しいから。日本を知らず、語れない人々に「反日」「反日」と叫ばれてもねー?というわけである。
 一例、日本って何? 世界って何? 「反日」教徒というのは特に、世界を知らずに日本を語っている人のようだ。日本とはなんぞやって、世界との比較からしか分からないはずだが?


 掌編小説 「日本精神エレジー」   

「貴方、またー? 伊都国から邪馬台国への道筋だとか、倭の五王だとか・・・」
連れ合いのこんな苦情も聞き流して、定年退職後五年ほどの彼、大和朝廷の淵源調べに余念がない。目下の大変な趣味なのだ。梅の花びらが風に流れてくる、広縁の日だまりの中で、いっぱいに資料を広げている真っ最中。
「そんな暇があったら、買い物ぐらいしてきてよ。外食ばっかりするくせにそんなことばっかりやってて」
「まぁそう言うな。俺やお前のルーツ探しなんだよ。農耕民族らしくもうちょっとおっとり構えて、和を持って尊しとなすというようにお願いしたいもんだな」

 この男性の趣味、一寸前まではもう少し下った時代が対象だった。源氏系統の家系図調べに血道を上げていたのだ。初老期に入った男などがよくやるいわゆる先祖調べというやつである。そんな頃のある時には、夫婦でこんな会話が交わされていたものだった。
男「 源氏は質実剛健でいい。平氏はどうもなよなよしていて、いかん」
対してつれあいさん、「質実剛健って、粗野とも言えるでしょう。なよなよしてるって、私たちと違って繊細で上品ということかも知れない。一郎のが貴方よりはるかに清潔だから、貴方も清潔にしてないと、孫に嫌われるわよ」
 こんな夫に業を煮やした奥さん、ある日、下調べを首尾良く終えて、一計を案じた。
「一郎の奥さんの家系を教えてもらったんだけど、どうも平氏らしいわよ」
男「いやいやDNAは男で伝わるから、全く問題はない。『世界にも得難い天皇制』は男で繋がっとるん だ。何にも知らん奴だな」
妻「どうせ先祖のあっちこっちで、源氏も平氏もごちゃごちゃになったに決まってるわよ。孫たちには男性の一郎のが大事だってことにも、昔みたいにはならないしさ」
 こんな日、一応の反論を男は試みてはみたものの、彼の『研究』がいつしか大和朝廷関連へと移って行ったという出来事があったのだった。

 広縁に桜の花びらが流れてくるころのある日曜日、この夫婦の会話はこんな風に変わった。
「馬鹿ねー、南方系でも、北方系でも、どうせ先祖は同じだわよ」
「お前こそ、馬鹿言え。ポリネシアとモンゴルは全く違うぞ。小錦と朝青龍のようなもんだ。小錦のが  おっとりしとるかな。朝青龍はやっぱり騎馬民族だな。ちょっと猛々しい所がある。やっぱり、伝統と習慣というやつなんだな」
「おっとりしたモンゴルさんも、ポリネシアさんで猛々しい方もいらっしゃるでしょう。猛々しいとか、おっとりしたとかが何を指すのかも難しいし、きちんと定義してもそれと違う面も一緒に持ってるという人もいっぱいいるわよ。二重人格なんてのもあるしさ」
 ところでこの日は仲裁者がいた。長男の一郎である。読んでいた新聞を脇にずらして、おだやかに口を挟む。
一郎「母さんが正しいと思うな。そもそもなんで、南方、北方と分けた時点から始めるの」
男「自分にどんな『伝統や習慣』が植え付けられているかはやっぱり大事だろう。自分探しというやつだ」
一郎「世界の現世人類すべての先祖は、同じアフリカの一人の女性だという学説が有力みたいだよ。ミトコンドリアDNAの分析なんだけど、仮にイブという名前をつけておくと、このイブさんは二十万年から十二万年ほど前にサハラ以南の東アフリカで生まれた人らしい。まーアダムのお相手イヴとかイザナギの奥さんイザナミみたいなもんかな。自分探しやるなら、そこぐらいから初めて欲しいな」
男「えーっつ、たった一人の女? そのイブ・・、さんって、一体どんな人だったのかね?」
一郎「二本脚で歩いて、手を使ってみんなで一緒に働いてて、そこから言語を持つことができて、ちょっと心のようなものがあったと、まぁそんなところかな」
男、「心のようなもんってどんなもんよ?」
一郎「昔のことをちょっと思い出して、ぼんやりとかも知れないけどそれを振り返ることができて、それを将来に生かすのね。ネアンデルタール人とは別種だけど、生きていた時代が重なっているネアンデルタール人のように、仲間が死んだら悲しくって、葬式もやったかも知れない。家族愛もあっただろうね。右手が子どもほどに萎縮したままで四十歳まで生きたネアンデルタール人の化石もイラクから出たからね。こういう人が当時の平均年齢より長く生きられた。家族愛があったという証拠になるんだってさ」
妻「源氏だとか平氏だとか、農耕民族対狩猟民族だとか、南方系と北方系だとか、男はホントに自分の敵を探し出してきてはケンカするのが好きなんだから。イブさんが泣くわよホントに!」
男「そんな話は女が世間を知らんから言うことだ。『一歩家を出れば、男には七人の敵』、この厳しい国際情勢じゃ、誰が味方で誰が敵かをきちんと見極めんと、孫たちが生き残ってはいけんのだ。そもそも俺はなー、遺言を残すつもりで勉強しとるのに、女が横からごちゃごちゃ言うな。親心も分からん奴だ!」

 それから一ヶ月ほどたったある日曜日、一郎がふらりと訪ねてきた。いそいそと出された茶などを三人で啜りながら、意を決した感じで話を切り出す。二人っきりの兄妹のもう一方の話を始めた。
「ハナコに頼まれたんだけどさー、付き合ってる男性がいてさー、結婚したいんだって。大学時代の同級生なんだけど、ブラジルからの留学生だった人。どう思う?」
男「ブ、ブラジルっ!! 二世か三世かっ!?!」
一郎「いや、日系じゃないみたい」
男「そ、そんなのっつ、まったくだめだ、許せるはずがない!」
一郎「やっぱりねー。ハナコは諦めないと言ってたよ。絶縁ってことになるのかな」
妻「そんなこと言わずに、一度会ってみましょうよ。あちらの人にもいい人も多いにちがいないし」
男「アメリカから独立しとるとも言えんようなあんな国民、負け犬根性に決まっとる。留学生ならアメリカかぶれかも知れん。美意識も倫理観もこっちと合うわけがないっ!!」
妻「あっちは黒人とかインディオ系とかメスティーソとかいろいろいらっしゃるでしょう?どういう方?」
一郎「全くポルトガル系みたいだよ。すると父さんの嫌いな、白人、狩猟民族ということだし。やっぱり、まぁ難しいのかなぁ」
妻「私は本人さえ良い人なら、気にしないようにできると思うけど」
一郎「難しいもんだねぇ。二本脚で歩く人類は皆兄弟とは行かんもんかな。日本精神なんて、二本脚精神に宗旨替えすればいいんだよ。言いたくはないけど、天皇大好きもどうかと思ってたんだ」
男「馬鹿もんっ!!日本に生まれた恩恵だけ受けといて、勝手なことを言うな。天皇制否定もおかしい。神道への冒涜にもなるはずだ。マホメットを冒涜したデンマークの新聞は悪いに決まっとる!」
一郎「ドイツのウェルト紙だったかな『西洋では風刺が許されていて、冒涜する権利もある』と言った新聞。これは犯罪とはいえない道徳の問題と言ってるということね。ましてや税金使った一つの制度としての天皇制を否定するのは、誰にでも言えなきゃおかしいよ。国権の主権者が政治思想を表明するという自由の問題ね」
妻「私はその方にお会いしたいわ。今日の所はハナコにそう言っといて。会いもしないなんて、やっぱりイブさんが泣くわよねぇ」 
男「お前がそいつに会うことも、全く許さん! 全くどいつもこいつも、世界を知らんわ、親心が分からんわ、世の中一体どうなっとるんだ!!」
と、男は一升瓶を持ち出してコップになみなみと注ぐと、ぐいっと一杯一気に飲み干すのだった。


(当ブログ06年4月7日  初出。そのちょっと前に所属同人誌に載せたもの)
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