「この子は野菜を馬のように食べますから、よろしくお願いします」。結婚式前に母が今の連れ合いに改まったように姿勢を正してお願いしていたこの言葉をいまだに覚えているのはなぜなのか・・・。このごろはこれを思い出すことさらに多く、八十路過ぎた感傷も絡んでかしみじみ感じられるのが〈母のこの言葉、何と有り難いものだったことか!〉。八十過ぎてもランナーを続けられ、活動年齢が延びているその原動力がスポーツ好きと並んで間違いなくここにあるようだ。最近このことを何倍も感じ、識り直した。
「野菜スープを昨晩作ってみました。簡単で味付けもコンソメだけで十分ですね。普段は毎日朝食時にファンケルの冷凍青汁を解凍して飲んでいますが、沢山の種類の野菜の栄養を摂るにはこの野菜スープは絶好ですね。両親も美味しいと言って喜んで食べていました。両親へ出すメニューが一つ増えたので助かります。また作り置きしておけば色々アレンジできますね。ありがとうございます。感謝です。」
嬉しいコメントが返ってきた。僕のある日のブログ記事「最強の野菜スープ」に付けられたものである。三年越しのブログ友。神奈川に住み、十歳程年下の僕と同じランナー、Gさんの日記ブログには、九十歳を超えたご両親の介護日誌も入っている。即、応答した。
「Gさん、この優しい味はいわゆるダシなどの旨味の一種で、日本人も特に好きなもの。フランス料理の野菜と肉で作るミネストローネと同類の味なのも、なんか面白い。ご両親の『喜んで食べていました』も嬉しかった。大根やカボチャは甘さが出るし、トマトは酸味が加わる。タマネギやセロリはその独特の味を加えるし、ね。『作り置きして、アレンジ』の良いのがあったら教えてください」
「最強の野菜スープ」、これはこの六月に手に取ったある本の題名。著者、熊本大学名誉教授・前田浩は抗がん剤でノーベル賞級と世界に知られた権威であって、この本はスポーツマンにとっては格別に大事な大事な活性酸素対策の書である。「はじめに」に書かれているこの書の要点を示すスローガン風の文章と、野菜スープの作り方とを紹介してみよう。
「抗がん剤の研究者だからこそ、がん予防にも力を入れたい」
「野菜スープは猛毒の活性酸素を消去する物質の宝庫」
「野菜に含まれる各種の抗酸化物質が連携して害を防ぐ」
「野菜スープはがん予防に確実につながる」
こういうスープの作り方だが、前田先生が常備している野菜は、キャベツ、タマネギ、ニンジン、かぼちゃで、これに各季節の緑黄色野菜を適宜加える。例えばそれら五百gほどをざく切り、一口大切りなどにして、重さの三倍(千五百ml)ほどの水を加えて火にかける。沸騰する直前に弱火にして、三十分煮込んで出来上がり。なお、ニンジン、大根などは皮をむかず、セロリやキャベツ、ブロッコリーなどの外側の色濃い葉なども、特に抗酸化物質が多い部分だから、よく洗って全部使う。調味料は入れなくても、好きなものを入れても良いが、僕は固形のコンソメスープの素を水五百mlに一つほど入れ、塩適宜をその日その人の好みに合わせて加える。特にこの液体スープ自身が生野菜の何十倍などという各種抗酸化物質の宝庫なのだそうだ。
ここで、これらの背景理論を紹介してみよう。人間は運動するが、その時大気から取り入れる酸素とともに活性酸素を吸収してしまう。この活性酸素が人生最凶の細胞老化物質であって、これを中和しないと体中の細胞老化が進み、癌もできる。こういう活性酸素を中和してくれる抗酸化物質こそ、緑黄色野菜などが育むファイトケミカル。これでもって細胞老化、癌も防げるという理屈なのだ。ポリフェノールやカロテノイドを代表とするこれは、普通に野菜を食べるだけなら野菜の固い細胞壁、細胞膜に包まれたまま多くが便として放出されるが、煮込んで細胞膜が破れるとスープに溶け込んでくるのだ。だからこのスープが、細胞老化対策の宝物になるのだ、と。血管細胞の老化を防げば、免疫系強化などにも、いわゆる血色とか若い皮膚とか美容にもなるのだし、老人斑を薄くしたり、白内障や抗癌延命にも効いたという数々の実験結果も書かれていた。スポーツマンは特に、多量の空気と同時に取り込む活性酸素を中和させねばならないということだ。
切り餅二つをチーンしてどんぶりのこれに入れれば立派な食事になる。生ソーセージや生協の豪牛「ヒレ肉の切れ端」をフライパンで焦げ目が付くまで炒めて入れると、香ばしくて美味い酒の肴だ。わがお連れ合いも「これを飲むようになって、よく寝られるようになった」と言いつつ、作り置いたのをどんどん活用してくれるから、上記分量が一日でなくなっていく。スポーツ習慣も加わって、「活動年齢百歳まで」になるかも知れない。