【社説①・03.17】:年収の壁見直し 理念置き去りで税制が歪んだ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.17】:年収の壁見直し 理念置き去りで税制が歪んだ
財政の根幹を支える所得税制が、政党間の手柄争いで 歪 められてはならない。国民の声を広く聞き、あるべき姿を議論していく必要がある。
所得税が課され始める「年収の壁」を、103万円から160万円に引き上げる税制改正案の審議が参院で始まった。
会社員などの収入には、原則全ての人に一律適用する48万円の基礎控除と、年収に応じて最低でも55万円を差し引く給与所得控除が設けられている。年収がこの二つを合計した103万円以下なら、所得税を課さない仕組みだ。
物価高が長引き、低所得者層の家計は苦しい。デフレが長期化したことで、1995年から非課税枠は据え置かれたままだった。昨今の物価上昇を踏まえれば、課税最低限を見直すことは妥当だ。
だが、改正案はいびつな形になってしまった。税収減を抑えたい自民、公明の与党と178万円への引き上げを求めた国民民主党との駆け引きで、数字合わせに追われた結果と言わざるを得ない。
改正案は、年収200万円以下の人について非課税枠を160万円に広げた。それ以外は原則、基礎控除と、給与所得控除の最低額をそれぞれ10万円引き上げる。
ただし、物価高を考慮し、年収が200万円超から850万円以下の人には2年間の時限措置として、年収に応じ、基礎控除をさらに5万~30万円上積みする。
実際の減税額は、単身者の場合2万~4万円程度、夫婦共働きで年収がそれぞれ400万円なら、4万円と試算されている。
国民が納得して税を納めるには、簡素でわかりやすい制度とすることが前提だが、これほど複雑では、理解は難しいだろう。
改正案では1・2兆円の税収減となる。財政状況が先進国で最悪の水準にあるにもかかわらず、財源のめどがないのも無責任だ。
そもそも基礎控除は、最低限必要な生活費には税をかけず、国民の生存権を保障するためにある。年収で細分化し、控除額を変えるのは、その趣旨にそぐわない。
所得税の見直しは多くの国民に影響が及ぶ。本来、時間をかけ丁寧に議論を進めるべきものだ。基礎控除は、所得税率の在り方や、他の税制の見直しなどと合わせて考えていくのが望ましい。
「手取りを増やす」として議論に火をつけた国民民主党は結局、改正案に賛成せず、与党との協議は決裂した。参院選をにらんで、与野党とも政治的な駆け引きばかりが目立つ現状は嘆かわしい。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月17日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。