路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【12月28日の日報抄】:ことし目にしたニュースの中で忘れられないシーンがある。

2024-12-28 06:10:40 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【12月28日の日報抄】:ことし目にしたニュースの中で忘れられないシーンがある。

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【12月28日の日報抄】:ことし目にしたニュースの中で忘れられないシーンがある。 

 ことし目にしたニュースの中で忘れられないシーンがある。ノーベル平和賞の授賞式で、日本原水爆被害者団体協議会の田中熙巳(てるみ)さんが演説に立ち、声を振り絞っていた

 ▼「3キロ余り先の港まで、黒く焼き尽くされた廃虚が広がっていました」。長崎への原爆投下から3日後、田中さんは小高い山の上から街を見てがくぜんとしたと振り返っていた

 ▼そんな場面を追体験したような心持ちになったことがある。数年前に訪れた、広島の平和記念資料館でのことだ。入り口からまもなく、湾曲した壁一面に原爆投下から2~3カ月後の街を撮った巨大な写真が掲げてあった。米軍が撮影したものだという

 ▼少し離れた位置に立ち、写真全体を眺めてみた。目の前の街は、空襲でじゅうたん爆撃を受けたかのようだった。視界全体に、がれきだらけの廃虚がどこまでも広がっていた。たった1発、一瞬で、ここまでとは。足がすくみ、しばらく動けなかった

 ▼この1年も、ウクライナ侵攻や中東での戦闘で爆撃された街のニュース映像が繰り返し流された。夜空に赤い閃光(せんこう)が走り、ミサイルが打ち込まれた街から黒い煙が立ち上った。残酷な光景ばかりだった。しかし、1発で「3キロ余り先」までを廃虚にしたような映像は記憶にない

 ▼世界には、約1万2千発の核弾頭があると推計されている。それらが1発でも使われたら、どうなるか。「想像してみてください」と田中さんは投げかけていた。想像すれば、核廃絶へ動かずにはいられなくなる。

 元稿:新潟日報社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【日報抄】  2024年12月28日  06:00:00  これは参考資料です。転載等は、各自で判断下さい。

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【社説・12.21】:「核なき世界」へ/被爆者の訴え無駄にしない

2024-12-21 07:55:50 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【社説・12.21】:「核なき世界」へ/被爆者の訴え無駄にしない

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.21】:「核なき世界」へ/被爆者の訴え無駄にしない 

 願うだけでは「核なき世界」は実現しない。被爆の実相を伝えてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞を礎に、日本をはじめとする世界の指導者や市民らが行動し、依然おぼろな核廃絶への道筋を確かなものとしていく必要がある。

 被団協代表委員の田中煕巳(てるみ)さんは受賞演説で、13歳の時に長崎市であった被爆体験を証言した。爆心地近くに住む親族5人が黒焦げになるなどして犠牲となった。「その時目にした人々の死にざまは、人間の死とはとても言えないありさま」だったという。

 1956年に被団協を結成した田中さんらは、原爆の非人道性を訴え、核使用を禁じる国際的な規範「核のタブー」の形成に貢献した。しかし現在、ウクライナに侵攻するロシアや、イスラム組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルは公然と核を脅しに使っている。田中さんは「タブーが壊されようとしていることに限りない悔しさと憤りを覚える」と語った。

 広島、長崎の悲劇を二度と繰り返してはならない。関係国の指導者には、被爆者の声を受け止め、ロシアなどが一線を越えぬよう働きかけることが求められる。

 被団協の後押しで制定された核兵器禁止条約を73の国・地域が批准している。唯一の戦争被爆国であり、米国の「核の傘」に頼る日本は批准も、締約国会議へのオブザーバー参加もしていない。

 世界では4千発の核弾頭が発射可能な状態になっている。田中さんは「皆さんがいつ被害者になってもおかしくないし、加害者になるかもしれない」と述べ、核抑止論からの脱却を呼びかけた。石破茂首相と面会できれば、条約署名への努力を求める構えだ。

 首相は衆院予算委員会で、オブザーバー参加について「どのように役割を果たせるか、意義を検討する」と言及した。被団協関係者と面会する意向も示している。

 日本政府はまずオブザーバー参加をしてはどうか。核抑止力に頼らない国際社会の構築に向け、踏み込んだ対応を求めたい。

 被爆者の平均年齢は85歳で、直接の体験を証言できる人がいなくなる時代がいずれ訪れる。田中さんは「これからは、私たちがやってきた運動を、次の世代の皆さんが、工夫して築いていくことを期待している」と語った。

 被団協運動の記録や被爆者の証言を後世に残す活動に取り組んだり、原爆の恐ろしさを学んで家族らに伝えたりしてもいい。核廃絶への思いを同じくする人々の輪をさらに広げることが大切だ。 

 元稿:福島民友新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月21日  07:55:00  これは参考資料です。転載等は、各自で判断下さい。
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【社説①・12.17】:ハンさん文学賞 過去と現代結ぶ想像力

2024-12-18 07:19:50 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【社説①・12.17】:ハンさん文学賞 過去と現代結ぶ想像力

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.17】:ハンさん文学賞 過去と現代結ぶ想像力

 今年のノーベル文学賞が、韓国の作家ハン・ガン(韓江)さんに贈られた。アジアの女性で初の受賞は、この人が一貫して「非暴力」を訴えてきた創作姿勢への栄冠だろう。強者が他者を圧迫し、「力こそ正義」という風潮がまかり通る現在の世界で、重い意義のある贈賞だ。

 ノーベル文学賞は、欧米文化圏の、功成り名を遂げた男性に贈られてきたイメージが強い。それだけに、アジアの女性で、まだ54歳で盛んに活躍中のハンさんの受賞は、やや驚きでもあった。
 もっとも、その筆力への評価は高い。日本の読者からも「現代の韓国で最も美しい文章を書く」といった賛辞が贈られてきた。
 その美文をもってハンさんが志してきたのは、選考主体のスウェーデン・アカデミーも評するように、歴史的トラウマ(心的外傷)に抗(あらが)い、人の生のはかなさを描き出す、詩的で力強い創作だ。
 代表作の一つ「少年が来る」は韓国で1980年に起きた「光州事件」がテーマ。軍事独裁政権に反して民主化を望む市民たちを、戒厳令下の軍が虐殺した惨事だ。そうした自国の「歴史の暗部」をハンさんはまざまざと描き出し、死者の思いを現代に蘇(よみがえ)らせる。
 それゆえに、国内の保守派などからは厳しい批判も受けてきた。だが韓国では今月、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による「非常戒厳」宣言で、軍が国会に乗り込む事態も起きたばかりだ。ハンさんの文学的な想像力は、光州事件が決して遠い過去の出来事などではないことを、再認識させるといえよう。
 原爆被災者らの痛ましい犠牲を語り継ぎ、「非核」を訴え続ける日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に平和賞が贈られたことを思い合わせると、さらに意義深く感じられた今年のノーベル賞だ。
 ハンさんも受賞スピーチで「この文学賞を受賞する意味を、暴力に真っ向から立ち向かう皆さんと分かち合いたい」と述べた。現に戦火の中にあるウクライナで、あるいはパレスチナで、この言葉に励まされる人たちもいよう。
 平和を願い、賞創設を遺言したアルフレド・ノーベルの精神にふさわしい受賞者だ。日本でも、その作品が一人でも多くの読者を得られるよう願う。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月17日  07:46:00  これは参考資料です。転載等は各自で判断下さい。

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《記者の目・12.13》:ハン・ガンさんのノーベル賞記念行事 分断超える「糸」つなごう=堀山明子(外信部)

2024-12-14 02:01:20 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

《記者の目・12.13》:ハン・ガンさんのノーベル賞記念行事 分断超える「糸」つなごう=堀山明子(外信部)

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《記者の目・12.13》:ハン・ガンさんのノーベル賞記念行事 分断超える「糸」つなごう=堀山明子(外信部)

 過去と現在を行き来する小説の世界にいるのだろうか。韓国の作家、ハン・ガン(韓江)さん(54)のノーベル文学賞受賞を記念する講演や記者会見を、インターネット中継で見守りながら、彼女の文学作品の中に入り込んだような感覚に襲われた。

<picture><source srcset="https://cdn.mainichi.jp/vol1/2024/12/13/20241213ddm012070112000p/9.webp?1" type="image/webp" />ノーベル文学賞受賞の記念講演で、作品を通じて表現しようとした「問いかけ」について語るハン・ガン(韓江)さん=ストックホルムで2024年12月7日、TT News Agency・ロイター</picture>
ノーベル文学賞受賞の記念講演で、作品を通じて表現しようとした「問いかけ」について語るハン・ガン(韓江)さん=ストックホルムで2024年12月7日、TT News Agency・ロイター

 10日の授賞式を中心にストックホルムなどで1週間近く続いた「ノーベルウイーク」が始まる直前の3日夜、韓国で軍事力を用いた「非常戒厳」宣言という歴史的事件が起きた。私はソウルで、関連のニュース中継も同時に見ていたからだ。

 ハンさんは、韓国軍が民主化デモを鎮圧した1980年の「光州事件」を題材にした「少年が来る」(韓国での発表2014年)▽朝鮮半島分断の過程で起きた米軍政下の民衆虐殺「4・3事件」を描いた「別れを告げない」(同21年)など、韓国現代史において封印されがちな国家暴力をテーマに書いてきた。 

 ■この記事は有料記事です。残り1541文字(全文1907文字)

 ■続きは、会員登録後、お読み下さい。

 元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【記者の目】  2024年12月13日  02:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・12.12】:【平和賞授与】:核廃絶への決意を共に

2024-12-13 05:05:40 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【社説・12.12】:【平和賞授与】:核廃絶への決意を共に

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.12】:【平和賞授与】:核廃絶への決意を共に

 ウクライナや中東など世界各地で戦火が絶えない。核兵器の脅威が増す中、被爆者が発したメッセージは重い。
 日本全国の被爆者らでつくる日本原水爆被害者団体協議会(被団協)にノーベル平和賞が授与された。核使用は二度と許されないという「核のタブー」の確立が評価された。
 被団協代表委員の田中熙巳(てるみ)さんは受賞演説で、核使用のリスクが現実味を帯びている現状に「限りない悔しさと憤りを覚える」とし、「核抑止論ではなく、核兵器は一発たりとも持ってはいけない」と訴えた。
 被団協は広島と長崎への原爆投下から11年後の1956年に設立された。終戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の報道規制で被爆者の被害の実態は長く隠されていたが、54年の高知県船籍の漁船も周辺海域で多数操業していたビキニ環礁水爆実験を機に反核運動が活発化し、長崎で結成大会が開かれた。
 結成宣言は「自らを救うとともに、私たちの体験をとおして人類の危機を救おう」とうたう。原爆被害への国家補償と核兵器廃絶を活動の柱に据え、被爆者は国内外で体験を語り、被爆の実相と核兵器の非人道性を証言し続けた。
 2016年からは核廃絶を求める「ヒバクシャ国際署名」を展開。こうした地道な活動が実を結び、核兵器を全面的に違法化する核兵器禁止条約が17年に採択された。市民レベルから始まった運動は世界的に大きな広がりを見せている。
 ただ、先行きは楽観視できる状況ではない。来年は被爆から80年を迎える。被爆者は高齢化し、証言を直接聞ける時間はそれほど多くない。被爆体験を次世代につなぐ取り組みを一層進める必要がある。
 一方で核兵器の脅威はかつてないほど高まっている。今年の世界の核弾頭総数は約1万2千発。昨年から微減したが、運用可能分に限れば微増だった。核保有国は核戦力の維持や増強を進める。
 19年に米国はロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱した。22年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議もロシアのウクライナ侵攻が影響して決裂した。
 先月にはロシアのプーチン大統領が核兵器使用の条件を拡大・緩和する核ドクトリンの改定版に署名。核使用のハードルが下がりかねず、警戒感が強まっている。
 唯一の戦争被爆国である日本政府が国際社会で果たす役割は大きいはずだが、その動きは鈍い。
 日本政府は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任するにもかかわらず、安全保障面で米国の核の傘に依存する。核禁条約にも参加せず、被爆者の怒りと失望を招いている。
 被団協の受賞を核保有国は真摯(しんし)に受け止めなければならない。同時に、日本政府も責任を果たす具体的な道筋を再考するべきだ。
 来年3月には第3回締約国会議が開かれる。被団協側が求めているオブザーバー参加にどう対応するか、まずはその姿勢が問われている。

 元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月12日  05:00:00  これは2自で判断下さい。

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【社説①・12.12】:被団協に平和賞 核廃絶の思い継ぎ、広げたい

2024-12-12 16:00:30 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【社説①・12.12:被団協に平和賞 核廃絶の思い継ぎ、広げたい

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.12】:被団協に平和賞 核廃絶の思い継ぎ、広げたい

 「人類が核兵器で自滅することのないように」。同じ悲惨な苦しみを二度と、誰にも味わわせてはならないという全身全霊の訴えは、世界の多くの人々に響いたはずだ。

 被爆の実相を伝え、核兵器廃絶の運動を広げてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に、今年のノーベル平和賞が贈られた。 

 広島、長崎への米国の原爆投下から来年の80年を目前にしながら、相次ぐ紛争と対立から核兵器の脅威はいまだ世界を覆い、むしろ高まっている。

 ノルウェーの首都オスロで受賞し、演説に立った被団協代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)は、核兵器使用の脅しが公然と語られる現状に「限りないくやしさと憤りを覚える」と厳しく批判した。

 ボタン一つで人間社会を破壊する核兵器の危機は差し迫っている。そのリスクを共有し、なくす確かな道筋と、責任ある行動につなげていかねばならない。

 核問題での平和賞は、「核なき世界」を掲げた2009年のオバマ米大統領、17年の非政府組織「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」に続く。

 ◆被害者にも加害者にも

 フリードネス・ノーベル賞委員長は、授賞理由で「核兵器は二度と使われてはならない理由を、身をもって立証してきた」と評価した。その献身で大戦後の世界に根付いてきた「核のタブー」がいま「圧力にさらされている」とする。

 核の非人道性を体現する被爆者の訴えに改めて光を当て、歯止めを守ろうとしたといえよう。

 田中さんの演説には胸を打たれた。被爆した長崎の一面の焼土と、親族5人を含む大勢の無残な死を目の当たりにした壮絶な13歳時の体験を語った。その年の末までに広島、長崎で計20万人超が死亡、生き残った40万人余りの被爆者も病苦と生活苦、差別にあえぎ、後遺症は今も続く…。

 1発でもこれほどの惨劇をもたらしたのに、世界で現在「直ちに発射できる核弾頭が4千発もある。広島や長崎の数百倍、数千倍の被害が起きる」とし、その異常性を強調した。「いつ被害者になるか、加害者にもなるかもしれない」との問いかけは、いまを生きる人に自分ごととして切迫感を印象づけたに違いない。

 ◆高まる核使用リスク

 田中さんらが身を削って紡いできた核のタブーは大きく揺らいでいる。

 核兵器国とその同盟国が依存を深める「核抑止」は、核戦力を恐れて相手が攻撃を思いとどまるという仮定に基づく。保有国トップの理性に頼る危うさは、もはや瀬戸際を迎えているのではないか。

 ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、核使用を辞さないと威嚇を繰り返す。先月には、核兵器を使う条件を拡大・緩和する核ドクトリンの改定版に署名し、脅しの危険水準が一段引き上げられた。

 中東でもイスラエルの閣僚が核使用に言及し、ロシアとの軍事協力で北朝鮮は核・ミサイル開発を加速。中国の核戦力強化に対し、米国などは「使える核兵器」と呼ばれる小型核開発を進めている。

 こうした指導者の暴走や偶発の事態で、人類は破滅に至る。

 田中さんが訴えた「核兵器は人類と共存できない」「一発たりとも持ってはいけない」という核廃絶こそ、恐怖の悪循環から決別できる「現実論」であることを正面から受け止めるべきだ。

 ◆核禁条約への参加を

 その切なる思いから、被爆者らが国連や平和会議などで訴え広げた核廃絶世論の一つの結実が、核保有や使用、開発を初めて違法化する「核兵器禁止条約」である。21年に発効し、73カ国・地域の批准に広がっている。

 ところが、日本政府は米国の核の傘に頼る同盟体制の否定になるとして、参加に背を向け続ける。昨年の先進7カ国首脳会議(広島サミット)でも核抑止論を正当化し、内外の失望を招いた。

 石破茂首相も被団協の受賞に祝意を示す一方、「核抑止は必要」と繰り返す。ただ、きのうの国会では、西側同盟国でも条約締約国会議にオブザーバー参加しているドイツの主張や議論状況を検証するとし、含みも持たせた。

 核兵器の不拡散体制や軍縮の条約・交渉の停滞や後退が続く中、唯一の戦争被爆国として核兵器国と非保有国の「橋渡し役」を自任するなら、参加へ踏み出すことを求めたい。

 命ある限りと訴えてきた被爆者も平均年齢は85歳を超え、語り部が減少して地域団体の活動縮小や解散も相次いでいる。

 「被爆者なき時代」の足音が確実に近づく中、生身の証人たちの体験を、次の世代に引き継いでいくことも今回の平和賞の大きなテーマである。

 田中さんは、積み重ねた証言を記録、保存し、活用する運動を世界で広げ、それぞれの政府の核政策を変えさせる力になることへの期待を示した。

 決して諦めずに核廃絶のうねりを広げた被爆者たちの信念と粘り強さを、核なき世界への希望につなぎたい。

 元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月12日  16:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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《社説①・12.12》:ノーベル平和賞受賞演説 日本政府は責任を果たせ

2024-12-12 09:31:50 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

《社説①・12.12》:ノーベル平和賞受賞演説 日本政府は責任を果たせ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.12》:ノーベル平和賞受賞演説 日本政府は責任を果たせ 

 核廃絶を強く訴えると同時に、日本政府の姿勢を厳しく問うた。ノーベル平和賞を授与された日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表委員、田中熙巳(てるみ)

さんの受賞演説である。

 冒頭で、被団協の運動が掲げてきた二大要求を挙げた。第一に、原爆の被害は戦争を開始し遂行した国によって償われなければならないこと。第二に、核兵器の速やかな廃絶である。

 1984年に策定した「原爆被害者の基本要求」に明記している。国家補償の要求は、日本政府が主張する「戦争被害受忍論」への異議申し立てだ。

 戦争による犠牲は、国民が等しく受忍しなければならない―。基本要求に先立つ80年、厚生相(当時)の諮問機関が、受忍論を前提に被爆者への国家補償を否定する意見報告を出していた。

 国の戦争責任を不問に付すに等しい考え方だ。田中さんは演説で、94年に被爆者援護法が制定されたものの「政府は一貫して補償を拒み、放射線被害に限定した対策を続けてきた」と批判した。

 そして、「もう一度繰り返します」と述べて、当初の原稿になかった言葉を継いでいる。「原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府は全くしていないという事実をお知りいただきたい」

 広島、長崎の惨禍を二度と起こしてはならない。そのためには、国が責任を認めて補償する必要がある。被団協のその訴えは、核廃絶の要求と不可分だ。

 償いは、金銭だけで済むわけではない。核兵器をこの世界からなくすこと。それこそが、原爆で命を奪われた人々、被爆による苦しみを背負った人々への最大の償いだ。日本政府は被爆国として重大な責務を負っている。

 にもかかわらず、被爆者の積年の訴えが結実した核兵器禁止条約に背を向け、米国の「核の傘」への依存を強めてきた。核による抑止は、いつ崩れるとも分からない危うさをはらむ上、ひとたび破綻すれば取り返しがつかない。

 核保有国のロシアやイスラエルが無謀な軍事行動に走り、核戦争は現実の脅威となっている。ならばなおさら、廃絶を求める声と行動を強める必要がある。

 禁止条約に加わり、核廃絶を率先するのが本来の日本の役割だ。政府は、来年3月の締約国会議にオブザーバーとして参加することをためらうべきでない。被団協の訴えの核心にあるものは何かを、主権者である私たちが再認識し、政府を動かす力にしたい。

 元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月12日  09:31:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【天風録・12.12】:核廃絶のバトン

2024-12-12 07:00:40 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【天風録・12.12】:核廃絶のバトン

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【天風録・12.12】:核廃絶のバトン

 南米に伝わる民話がある。森の火事で動物たちが逃げ惑う中、1羽のハチドリが川から水をすくい、1滴ずつ炎に落としていく。笑われても「私は、私にできることをする」と

 ▲広島市の平和記念公園近くにあるカフェ「ハチドリ舎」の由来である。おととい夜は若者ら20人が集い、日本被団協へのノーベル平和賞授賞式の中継を見守った。店内を包んだのは喜びや感動だけではない。核廃絶に向け、自分に何ができるのか。ヒントを探る熱意に満ちていた

 ▲広島で核問題を考える若者の団体が企画した。代表の一人、田中美穂さんは「被爆者任せでなく、私たちの問題として向き合う」と誓う。15歳の男子高校生は言った。「広島で育ったのに、原爆を知らないことが分かった」。新たな継承の芽だろう

 ▲昨今の情勢を見れば、核なき世界への道のりは遠く険しい。「核には核を」の論理が幅を利かせる。だが被爆者が逆境でも望みを捨てず声を上げ、行動を続けてきたことを忘れてはなるまい。引き継ぐべきものは多い

 ▲ノーベル賞委員長は被爆者を「世界が必要としている光」とたたえた。か細い光、ひとしずくの水でいい。私たちも核廃絶のバトンを継ぐ一員である。

 元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【天風録】  2024年12月12日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・12.11】:被団協とノーベル賞 核廃絶、理想ではなく現実に

2024-12-12 07:00:30 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【社説・12.11】:被団協とノーベル賞 核廃絶、理想ではなく現実に

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.11】:被団協とノーベル賞 核廃絶、理想ではなく現実に

 広島と長崎の原爆の惨禍を証言し、「ふたたび被爆者をつくるな」と国際社会に核兵器廃絶を訴えてきた日本被団協にきのう、ノーベル平和賞が贈られた。

 非人道的な殺りくの手段である核兵器を二度と使ってはならないとする「核のタブー」の確立に貢献したことが評価された。

 

ノーベル平和賞の授賞式で演説する日本被団協の田中熙巳代表委員=オスロで10日午後1時50分、猪飼健史撮影

ノーベル平和賞の授賞式で演説する日本被団協の田中熙巳代表委員=オスロで10日午後1時50分、猪飼健史撮影

 その歩みをたたえる授賞である。心から祝意を送りたい。とはいえ、喜んでばかりはいられない。ノルウェー・オスロでの授賞式で代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)が「『核のタブー』が壊されようとしていることに限りない口惜(くや)しさと憤りを覚える」と訴えたことは重い。

 ◆核のリスク高く

 ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルが続ける中東での戦争などで、核のリスクはかつてなく高いレベルにある。被団協が平和賞に選ばれた意味を深く認識したい。

 平和賞には、これまでも核廃絶や核軍縮・不拡散に貢献した個人や団体が選ばれてきた。非核三原則の表明などで1974年に佐藤栄作元首相が選ばれた。被団協は日本から2例目の受賞となる。

 被爆60年の2005年は国際原子力機関(IAEA)とエルバラダイ事務局長、09年には「核兵器のない世界」を唱えた原爆投下国米国のオバマ大統領が受賞した。

 17年には核兵器禁止条約の制定に貢献した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))が輝いた。その活動を通じ、「ヒバクシャ」の国際的な認知度は高まった。一方で、長らく候補に挙げられてきた被団協の受賞の可能性はなくなったとの見方が大勢だった。

 核兵器禁止条約は21年、発効にこぎつけ、締約国も90を超す国・地域に広がった。だが、核保有国や、米国が差し掛ける核の傘の下にいる日本などは参加していない。

 ウクライナや中東で核保有国が核の脅しを伴って攻撃を続ける。米国と対立する中国は核弾頭の増産を急ぎ、北朝鮮はロシアと関係を強化しミサイル開発に余念がない。

 ◆「重要な警告だ」

 今回の授賞は、国際情勢がそれだけ危機的で「核の使用は許されない」というノルウェー・ノーベル賞委員会の強いメッセージと言える。フリードネス委員長がスピーチで「(平和賞授与のたび)核兵器に対する警告を発してきた。今年、この警告は例年よりも重要だ」と言及したことが示している。

 スピーチは被団協の姿勢にも光を当てた。「自らを救うとともに、私たちの体験を通して人類の危機を救おう」と決意して立ち上がり、どんな困難にぶつかっても核廃絶と国家補償の旗を下ろさなかった。被爆者自身による究明で、人間性を奪う核被害の実態を明らかにしてきた。

 初代代表委員で「核と人類は共存できない」と唱えた森滝市郎さんをはじめ、理論や情念で運動をけん引したリーダーの存在があった。同時に、被爆者や支援者の地道な活動があったからこそ運動は続いた。全ての被爆者と関わった人々の受賞といえよう。

 ◆若い世代に託す

 田中さんは演説の最後に、被爆証言を聞く機会を各国で設けてもらうよう呼びかけた。核保有国とその同盟国の政府の核政策を変えさせるのは市民の力であると強調し、「人類が核兵器で自滅することがないように」と。

 前日の記者会見では、次世代に託す気持ちを「核兵器で何が起きるのかを伝えていきたい。皆さんの未来は皆さんで切り開いていくんだと伝えたい」と語っていた。この言葉を胸に刻みたい。核兵器も戦争もない世界を理想ではなく現実とするため、われわれは行動しなければならない。来年は被爆80年。老いを深める被爆者に頼れなくなる日は遠くない。

 元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月11日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【天風録・12.11】:目に焼き付いた戦争

2024-12-12 07:00:20 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【天風録・12.11】:目に焼き付いた戦争

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【天風録・12.11】:目に焼き付いた戦争

 関心が薄れていた人も多いだろう。シリア情勢に。アサド政権が崩壊した。半世紀以上続いた独裁体制。それを反体制派があっという間、10日ほどで打ち倒す。ロシアやイランから政権への軍事支援が薄れた隙を突いた

 ▲「うれしいが同時に恐ろしい。何が起きるか」。市民は話す。独裁者は去ったものの、周辺国の思惑も絡み、国の先行きは見えてこない。長い内戦に、イスラム国の介入もあった。住民も国土もすっかり疲弊している

 ▲「爆撃と戦争しか記憶にない」。命からがら逃れた難民も多い。昨年2月のトルコ・シリア大地震で両国の子ども700万人が被災した。内戦に災害。子どもたちが気がかりだ。瞳に映ってきたのは何だろう。大勢が憎み合い、殺し合う光景ではないか

 ▲ノルウェー・オスロの会場に、被爆者による「原爆の絵」が並ぶ。日本被団協のノーベル平和賞受賞に合わせて。あの日、被爆者の目に焼き付いた光景である。数え切れぬ遺体、電車の乗降口で黒焦げになった母子…

 ▲「貧者の核」がシリアには残されているらしい。開発費の安い化学兵器のことだ。子どもの目に映る戦争や兵器、絶望的な状況。私たちはいつ、消し去れるのだろう。

 元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【天風録】  2024年12月11日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・12.12】:平和賞の演説 被爆者の言葉胸に刻もう

2024-12-12 06:05:50 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【社説・12.12】:平和賞の演説 被爆者の言葉胸に刻もう

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.12】:平和賞の演説 被爆者の言葉胸に刻もう 

 ひとたび核兵器を使うとどうなるか。被爆者が身をもって証言し、賛同の輪を広げたからこそ、世界は80年近く核の惨禍に遭わずに済んだ。

 日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の功績にノーベル平和賞が贈られた。この機に「核なき世界」への誓いを新たにしたい。

 ノルウェーのオスロで授賞式があり、代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)が演説した。母親と目の当たりにした長崎市中心部の惨状を詳細に語り、被団協の歩みを振り返った。

 「核兵器は人類と共存できない」。田中さんの言葉は説得力を帯びて伝わったのだろう。演説が終わると、会場の人たちは立ち上がって大きな拍手を送った。この共感が核廃絶へのうねりを起こす力になると信じたい。

 1956年に結成された被団協は「ふたたび被爆者をつくるな」を合言葉に、国内外で証言活動を続けてきた。非人道的な核兵器は使ってはならないという「核のタブー」の確立に貢献したことが高く評価された。

 授賞式に出席した被爆者17人はいずれも高齢である。

 広島と長崎で被爆した人の平均年齢は85歳を超えた。全国の被爆者は今年3月末で10万6825人となり、前年度より7千人近く減った。かつて全都道府県に組織された被爆者団体は、11県で解散、あるいは活動を休止した。

 被爆2世や若い世代が被爆体験を継承するようになったのは心強い。被爆者も「命ある限り」と奮闘しているが、核廃絶の道は険しい。

 ロシアによるウクライナ侵攻、パレスチナ自治区ガザでの戦闘は続き、世界で核兵器使用の危機が高まっている。

 核の使用を示唆して他国を脅す指導者もいる。「小型兵器なら使ってもいい」「戦争を早く終わらせるためなら仕方がない」。独善的な言動を許してはならない。

 ストックホルム国際平和研究所の推計によると、世界の核弾頭数は今年1月時点で1万2121発に上る。総数が減少する半面、使用可能な弾頭数は増えている。

 地球上に核兵器が存在する限り、使われる危険があると被団協は訴えてきた。世界の指導者は今こそ、被爆者の証言と警告に耳を傾けてもらいたい。

 核弾頭の約9割を保有する米国とロシアは、両国間で唯一残る核軍縮合意である新戦略兵器削減条約(新START)を更新すべきだ。2026年に失効しても、核保有数を増やしてはならない。英国やフランス、中国などの保有国も同調してほしい。

 核兵器禁止条約には今年9月までに94カ国・地域が署名した。米国の「核の傘」に依存する日本は、核保有国が参加していないことを理由に背を向けたままだ。

 被団協の願いに応え、来年3月の締約国会議にオブザーバーで参加すべきだ。それが戦争被爆国の責務だろう。

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月12日  06:00:00  これは2自で判断下さい。

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【社説・12.12】:平和賞受賞演説/世界に届け被爆者の願い

2024-12-12 06:00:50 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【社説・12.12】:平和賞受賞演説/世界に届け被爆者の願い

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.12】:平和賞受賞演説/世界に届け被爆者の願い 

 世界に被爆の実相を伝えてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)にノーベル平和賞が授与された。ノルウェー・オスロであった授賞式で、被団協代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)が演説し、大きな拍手が送られた。改めて被爆者の苦難の歩みに思いを寄せ、「核なき世界」実現に日本が果たす役割を胸に刻みたい。

 田中さんは1945年8月9日、13歳の時に長崎で被爆した。一発の原爆は身内5人を無残な姿に変え、命を奪った。「人間の死とは言えないありさまだった。戦争といえどもこんな殺し方、傷つけ方をしてはいけないと強く感じた」

 生き残った被爆者たちは「占領軍に沈黙を強いられ、日本政府からも見放され、孤独と、病苦と生活苦、偏見と差別に耐え続けた」。

 「核兵器の廃絶」と、「原爆被害に対する国の補償」を求めて被団協が結成されたのは被爆後11年を経た56年8月10日。「自らを救うとともに、私たちの体験を通して人類の危機を救う」との結成宣言は、長く地道な証言活動の原動力となった。

 目標達成は途上にある。2021年、核兵器を全面的に違法化する核兵器禁止条約が発効したが、米国の「核の傘」に依存する日本政府は参加せず、被団協が求める締約国会議へのオブザーバー参加も見送っている。石破茂首相は10日の衆院予算委員会で「オブザーバーにどんな役割が果たせるか、検討する」と言及した。来年3月の第3回会議への参加を視野に踏み込んだ議論を求める。 

 国家賠償を一貫して拒む政府を、田中さんは「死者に対する償いは全くしていない」と強く非難した。

 ノーベル賞委員会は、核使用は二度と許されないとする「核のタブー」形成への被団協の貢献を評価した。だが、世界にはなお1万2千発の核弾頭が存在し、ロシアやイスラエルなど核を脅しに使う保有国がある。田中さんは「悔しさと憤りを覚える」とし、「核兵器を一発たりとも持ってはいけないというのが心からの願いだ」と強調した。あらゆる機会を生かしてその願いを届け世界を動かすのは、唯一の戦争被爆国である日本の責務ではないか。

 被爆から80年、「被爆者なき時代」が迫る。田中さんは「皆さんが工夫して(運動を)築いていくのを期待する」とし、各国で「原爆体験の証言の場」を開くよう提案した。

 核のリスクが高まる中、「核も戦争もない世界」の実現は人類共通の願いである。田中さんは最後に、核保有国とその同盟国の政策を変えさせるのは「市民の力」だと訴えた。「人類が核兵器で自滅することのないように」。その言葉を真摯(しんし)に受け止め、一人一人が行動する時だ。

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月12日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①・12.12】:ノーベル平和賞 被爆者の訴えにどう応えるか

2024-12-12 05:00:50 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【社説①・12.12】:ノーベル平和賞 被爆者の訴えにどう応えるか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.12】:ノーベル平和賞 被爆者の訴えにどう応えるか

 世界が注目する舞台でヒバクシャ自らが壮絶な体験を語り、核兵器が再び使われようとしている現状に憤りを示した。 

 日本をはじめとする国際社会は、悲痛な訴えにどう応え、核廃絶を進められるのか、行動を問われている。

 ノーベル平和賞の授賞式がノルウェーの首都オスロで開かれた。被爆者団体の全国組織「日本原水爆被害者団体協議会(被団協)」が受賞し、代表として田中熙巳さんが記念講演を行った。

 田中さんは13歳の時に長崎市で被爆した。誰からの手当てもなく苦しむ人々を目撃した体験を紹介し、「戦争といえどもこんな殺し方、傷つけ方をしてはいけないと強く感じた」と語った。

 ウクライナを侵略するロシアのプーチン大統領が核の脅しを繰り返していることについても言及し、淡々とした口調を保ちながらも「限りない悔しさと憤りを覚える」と訴えた。

 広島、長崎への原爆投下から来年で80年を迎え、被爆者は高齢化が進んでいる。田中さんも92歳で、会場には車いすで入ったが、約20分の演説は立って行い、草稿にはなかった言葉も盛り込んだ。

 核の恐ろしさを知る者として、自分の言葉で核廃絶を訴えねばならないという強い使命感からだろう。演説を終えた田中さんには聴衆から大きな拍手が寄せられ、世界のメディアが中継した。

 被爆の実相を伝えることを通じて、核使用を許さないという国際世論の形成に貢献し、核廃絶を呼びかけてきた地道な活動に光が当たった意義は大きい。改めて敬意を表したい。

 だが、被爆者らの思いとは裏腹に、世界では近年、核兵器が再び使用される危険性がかつてなく高まっている。

 プーチン大統領は、核兵器を使用する条件を緩和した。さらに、核弾頭も搭載可能な新型の中距離弾道ミサイルを、ウクライナ戦線に投入した。

 北朝鮮はロシアに兵士を派遣する見返りに、核・ミサイル技術の提供を得ようとしている。中国は核弾頭を増やし、核戦力の増強を急ピッチで進めている。

 核兵器を二度と使ってはならないという「核のタブー」を改めて確認する必要性がある。

 特に日本は、核の恐怖で自国に有利な状況を作り出そうとする国々に囲まれている。核兵器がもたらす残酷な現実を知る被爆国として、各国と連携し、核保有国に自制を促さねばならない。

 元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月12日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②・12.11】:平和賞の演説 世界は被爆者の声を聞け

2024-12-12 04:03:20 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【社説②・12.11】:平和賞の演説 世界は被爆者の声を聞け

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・12.11】:平和賞の演説 世界は被爆者の声を聞け 

 広島・長崎の被爆者らでつくる日本原水爆被害者団体協議会(被団協)へのノーベル平和賞の授賞式が行われた。
 
 代表委員の田中熙巳さんは受賞演説で、被団協の核廃絶の取り組みによって、核が二度と使用されてはならないという「核のタブー」の形成に大きな役割を果たしたと強調した。
 
 だが核を巡る情勢は厳しさを増す一方だ。ウクライナを侵攻するロシアは核の威嚇を繰り返し、事実上の核保有国イスラエルの閣僚が核使用に言及した。
 田中さんはタブーが崩されようとしていることに危機感を示した。核保有国とその同盟国の市民に「核兵器は人類と共存できない、共存させてはならないという信念が根付き、自国の政府の核政策を変えさせる力になるよう願っている」と訴えた。
 国際社会は被団協の願いに耳を傾け、核の危険性を真剣に考えなければならない。来年の被爆80年を控え、今こそ核兵器なき世界に歩みを進める時だ。
 被団協は1956年に結成された。原爆被害への国家補償と核兵器廃絶を二つの柱に掲げ、多くの被爆者が心身を削りながら国連などで核廃絶を唱えた。
 被爆体験に根ざした切実な訴えは少しずつ浸透し、核軍拡の歯止めに役割を果たしたと言える。それが結実したのが3年前に発効した核兵器禁止条約だ。開発から使用、威嚇まで禁じる。
 許し難いのは被団協の受賞決定後、ロシアのプーチン大統領がウクライナや欧米を威嚇するため、核兵器の使用基準を引き下げたことだ。
 米国のトランプ次期大統領が核軍縮に消極的なことも懸念される。第1次政権では、米ソ間で発効した中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄した。米ロ間に唯一残る核軍縮枠組みの新戦略兵器削減条約(新START)の延長にも難色を示した。
 世界の核弾頭の9割を米ロが占める。中国も米ロと互角の核戦力を目指して増強している。
 核保有国は歯止めなき軍拡が人類を破滅させかねないことを真剣に受け止めねばならない。
 日本政府は、米国の核を含む戦力で日本を守る拡大抑止の必要性を強調している。被爆者が切望する核兵器禁止条約にも背を向けたままだ。石破茂首相は次回締約国会議へのオブザーバー参加に慎重姿勢を崩さない。
 
 唯一の戦争被爆国としての責務を放棄しているに等しい。
 
 被爆者の平均年齢は85歳を超えた。被爆の実相をどう継承するかは喫緊の課題だ。
 
 核廃絶に向けた具体的な取り組みは待ったなしである。
 
 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月11日  04:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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【社説・12.11】:被団協ノーベル平和賞演説 「核のタブー」を今こそ

2024-12-12 04:01:40 | 【ノーベル賞(物理学・化学・生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野...

【社説・12.11】:被団協ノーベル平和賞演説 「核のタブー」を今こそ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.11】:被団協ノーベル平和賞演説 「核のタブー」を今こそ

 「『核のタブー』が崩されようとしていることに限りない口惜しさと怒りを覚える」 

 ノーベル平和賞授賞式がノルウェーの首都オスロで開かれ、世界に被爆の実相を伝えてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に平和賞が授与された。

 授賞式の演説で被団協代表委員の田中熙巳さん(92)が強調したのは、今まさに世界は現実的な「核の脅威」にさらされているとの強い危機感だった。

 結成から68年。被団協はこれまで、二つの基本要求を掲げて運動を展開してきた。

 一つは、原爆被害は戦争を遂行した国が償わなければならないということ。そして二つ目は、核兵器は非人道的な殺りく兵器であり、人類とは共存させてはならないということだ。

 核兵器で被爆した当事者として「ノーモア・ヒバクシャ」を合言葉に核廃絶を訴える草の根の活動は、核兵器は二度と使われてはならないという「核のタブー」を世界に広める役割を果たした。

 一方、なおも世界には1万2千発の核弾頭が存在する。

 ロシアのプーチン大統領は先月、核攻撃に踏み切る際の軍事的脅威の条件を拡大する「核抑止力の国家政策指針」(核ドクトリン)の改定を承認した。

 イスラエルはパレスチナ自治区ガザに攻撃を続ける中、閣僚が核兵器の使用を口にした。

 戦争が広がり「核の脅し」はより現実味を増している。

              ■    ■

 田中さんは13歳の時に長崎の爆心地から3キロ余り離れた自宅で被爆した。爆撃機の音が聞こえると真っ白な光に体が包まれ、強烈な衝撃波が通り抜けたという。1発の原爆は身内5人の命を奪った。

 「その時の死にざまは人間の死とはとても言えないものだった。たとえ戦争といえども、こんな殺し方、傷つけ方をしてはいけない」

 広島や長崎への原爆投下から来年で80年となる。

 しかしいまだに被爆者への補償は十分とは言えない。

 特に長崎には国が定める被爆地域の外にいたため「被爆者」と認められず「被爆体験者」と呼ばれる人たちが多くいる。被爆者の認定制度を巡って今も司法の場で争われているのである。

 国は全面救済へ速やかに動くべきだ。

              ■    ■

 日本は米国の「核の傘」への依存を強め、唯一の戦争被爆国でありながら核兵器禁止条約に署名・批准していない。

 それどころか石破茂首相は就任前に寄稿した論文で、米国の核を日本で運用する「核共有」や核の「持ち込み」について議論する必要性に言及したのである。

 これでは政府が主張してきた「核軍縮」にも逆行することにならないか。

 地球上に存在する核弾頭のうち4千発は即座に発射可能とされる。廃絶こそを目指すべきだ。

 元稿:沖縄タイムス社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年12月11日  04:01:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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