【社説・10.17】:2024衆院選・物価高対策 中長期的な視点欠かせぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・10.17】:2024衆院選・物価高対策 中長期的な視点欠かせぬ
円安は一時より落ち着いたが、物価上昇基調は今も続いている。今回の衆院選でも、物価高対策を投票の判断材料にする有権者は多いはずだ。
民間調査機関によると、10月は食料品2911品目が値上げされるという。4月を超えて今年最多になる。
実質賃金は直近の8月が3カ月ぶりに減少に転じた。消費支出もコメが前年同月比34%増、猛暑でエアコンが同22%増となったのに全体は1・9%減と2カ月ぶりのマイナスに。春闘で5%を超す賃上げは実現したが、それ以上の物価高に国民があえぎ、生活を切り詰めているのだろう。
一方で、8月の税収は前年同月比で25%の大幅増となった。国民が窮乏しているのに政府の懐だけが潤って良しとはなるまい。国民の暮らしを立て直す政策が必要だ。
衆院選の公約を見ると、与党の自民、公明両党は低所得者世帯への給付金や、補助金でガソリン、電気・ガス料金を抑制する政策をうたう。
これに対し、日本維新の会や共産、国民民主両党など野党は消費税減税を中心に据える。立憲民主党はこれまでの消費税減税ではなく、給付と減税を組み合わせた「給付付き税額控除」を提唱した。
野党は「補助金は無駄が多く、利権も発生しかねない」と批判し、海外のように減税で国民に直接還元すべきだとの立場だ。ただ、補助金も減税も一過性のものならば、国民生活をどれだけ下支えできるかは見通せない。これまで投じた補助金の効果を検証しないままでは、単なるばらまきに終わる可能性もある。
税額控除は社会保障の仕組みの変更であり、そもそも国民生活へのてこ入れとは発想のベースが異なる。各党の主張には一長一短があり、それぞれの訴えに耳を傾けて判断する必要があるだろう。
気になるのは、公約が短期的なものに片寄っていることだ。目前の選挙を意識するからだろうが、物価高を乗り越えるには日本経済の成長戦略をいま一度、描き直す視点が欠かせない。成長の道筋を示し、実現する具体的な政策を各党が示せているかと言えばまったく物足りない。
もちろん物価高を乗り越える最善手は賃上げによる可処分所得の増加である。各党がこぞってうたう最低賃金1500円の実現が、中長期的対策だと言いたいのかもしれない。ただ、実現する主体は企業であり、政府が原資を負担するわけではない。
安倍政権以降取り組まれてきた、賃上げ企業を優遇する税制は中小企業には縁遠かった。実際に価格転嫁を実現できたのは、100円のコスト増分のうち44円に過ぎないという調査結果もある。大企業による「下請けいじめ」も相次いで発覚している。
既得権益を持つ産業への参入障壁を撤廃するなどの規制改革や、ITや半導体などに関わる技術を生産性向上につなげる工夫が必要なのは言うまでもない。目先の物価高対策に終わらせず、政治がどんな中長期的な視点で政策を講じていくか。その具体策を競う選挙戦にするべきだ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年10月17日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。