《社説②・12.10》:中部山岳90周年 保護につながる利用こそ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.10》:中部山岳90周年 保護につながる利用こそ
北アルプス一帯に広がる中部山岳国立公園が今月、公園指定から年を迎えた。
日本を代表する優れた自然や風景を守り、未来に残していこうと制度が始まった1934年に指定された国立公園の一つだ。
地球温暖化の防止や生物多様性の保全が世界的なテーマになっている今、貴重な自然を身近に感じられる国立公園の役割は大きくなっている。課題を広く共有しながら、国民の財産ともいえる場を守り、生かしていきたい。
近年、見過ごせないのが、環境への負荷が大きいオーバーユース(過剰利用)の問題だ。
行楽客が集中する上高地では今年の入り込み数が過去15年で最多となり、夏休みや連休を中心に混雑した。帰りのバスを待つ長蛇の列ができたほか、マイカー規制でバスに乗り換える沢渡(さわんど)では駐車場があふれ、渋滞を招いた。
排ガスや廃棄物の増加、景観の阻害といった問題のほか、人が多くなればそれだけ管理の目も行き届かなくなりかねない。
登山客も新型コロナ下の減少から増加に転じている。一方では、主に山小屋が手入れしてきた登山道の維持が人手不足などで難しくなってきてもいる。
それぞれ、混雑状況の情報発信や一部エリアでの協力金の募集などが試みられているものの、妙手は見いだせていない。入り込みの総量規制が要るのか、登山道整備の安定した財源をどうするかなど検討すべき課題は多い。
そうした中、環境省が力を入れているのが「国立公園満喫プロジェクト」だ。滞在型観光を拡充して国内外の誘客を強化し、稼いだお金を環境保全に再投資する「好循環」を生み出すという。
もともと2016年、政府がインバウンド推進を成長戦略の柱に位置づけ、動き出した。国立公園によっては富裕層向けの高級ホテル誘致も視野に入っている。
モデルの一つとして北ア南部の乗鞍岳、乗鞍高原、白骨温泉、さわんど温泉地区が選ばれた。
観光客を増やすことや経済効果に重きを置きすぎ、今以上に環境に負荷を加えるようでは本末転倒だ。じっくりと自然を味わい、自然と人とのかかわりについて知見を深められるようなプログラムこそ充実させたい。
保護と利用とのバランスはどうあるべきか。オーバーツーリズムなど当面する課題の解決と結び付けながら、関心を寄せる市民らも幅広く交えて計画づくりを進めていく必要がある。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月10日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。