【福島県】:何作っても売れねえべ…気がつけば「激辛の村」
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【福島県】:何作っても売れねえべ…気がつけば「激辛の村」
■特集福島原発
中南米原産の激辛唐辛子「ハバネロ」を使った商品が、福島県平田村の「道の駅ひらた」で人気を集めている。東京電力福島第一原発事故を機に栽培と商品化を進めたところ、いまや農家12戸がハバネロを生産し、店頭にはカレー、ドレッシングなど約10種類がずらり。昨春からは勝手に「日本一辛からい村」を名乗り、海外進出ももくろんでいる。
売り場に並ぶハバネロを使った商品(6日、平田村の道の駅ひらたで)
10月下旬、道の駅の店頭に積まれたのは、新発売の「生地獄いきじごくカレー焼きそば」。原料のハバネロが不足したため、9月の収穫を待ち、予定よりも約1年遅れのデビューとなった。乾燥させたハバネロをたっぷり振りかけたソフトクリーム「ハバネロトッピングソフト」も約半年ぶりに復活。駅長の高野哲也さん(57)は不敵に笑う。「自己責任で召し上がってください。決してお薦めしません」
大量のハバネロをトッピングしたソフトクリーム(道の駅ひらた提供)
ハバネロ商品が生まれたきっかけは原発事故だ。福島第一原発から約45キロ離れた村でも2011年6月までホウレンソウやコマツナなどに出荷制限が出た。その後も「どうせ作ったって売れねえべ」と意欲を失う農家を励ますため、道の駅では「野菜は全部買い取る。その代わり、来年も農業をやめないで」と採算度外視で買い取った。その中に「珍しくて赤くてかわいいから、風評に負けずに売れるかも」と3農家が試作したハバネロがあった。
ハバネロ(7日、平田村で)
11年秋、道の駅が買い取ったハバネロは約200キロに上ったが、辛すぎて全然売れない。商品化しようと業者に粉末加工を頼んだが、吸うとせき込む、触ると痛い、涙も出る――という代物で、「えらい目にあった。労災になるから勘弁して」と断られた。
そんな中、矢祭町の元シイタケ生産者が加工を引き受けてくれた。原発事故で原木シイタケが売れなくなり、加工業を始めたばかりだった。ハバネロ専用乾燥機を用意し、防じんマスクに防護服姿の社長が作業に当たった。
11年冬、第1弾「ハバネロ味噌みそ」が完成。それでもハバネロは大量に余り、レトルトカレー「ハバネロ戦隊カラインジャー」も開発。あまり売れず、辛さ10倍の「激辛レッド」も売れ行きはそこそこだった。
「もっとハバネロを消費できる商品を」と生まれたのがハバネロソフトだ。最も辛い「地獄級」の完食者を無料にすると、次々と挑戦者が現れ、既に約260人が完食した。人気に火を付けたのは、昨年3月に発売した、激辛レッドの30倍の辛さの「生地獄カレー」。なぜか激辛レッドの3倍も売れ、北陸や東海地方などからも挑戦者が訪れた。
気がつけば、開発品は10種類以上。今年初めには原料がなくなり、稼ぎ時の春の大型連休前にハバネロソフトは休止に追い込まれた。辛酸をなめた結果、12農家に種を無料で配布し、買い取り価格も引き上げて今年は約1トンを購入した。
道の駅に出荷する農家の平均年齢は73歳。意欲を維持してもらうために海外進出を目指し、10月中旬には千葉・幕張で開かれた海外バイヤー向け商談会に初出店した。イスラエル、カタール、香港のバイヤーがサンプルを持ち帰るなど、関心を示した。高野さんは「ハバネロは偶然の産物で、あくまで広告塔。これをきっかけに村を知ってもらえたら」と期待している。(大月美佳)
元稿:讀賣新聞社 主要ニュース 経済 【企業・産業】 2018年11月30日 21:58:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。