【社説・09.27】:斎藤知事失職へ/「県民の負託」を裏切った末に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・09.27】:斎藤知事失職へ/「県民の負託」を裏切った末に
兵庫県の元西播磨県民局長が斎藤元彦知事らの疑惑を文書で告発した問題で、県議会の不信任決議を受けて去就が注目されていた斎藤知事は議会を解散せず、失職を選ぶことを明らかにした。出直し知事選に立候補する意向も表明した。
不信任決議は、政策の是非ではなく、知事の言動や資質を巡り、全議員86人が一致して退場を求めた。斎藤氏は議会の解散か辞職・失職かの選択を迫られていた。
文書問題に端を発した県政の混乱は半年に及ぶ。状況を打開できないままの失職は斎藤氏が強調する「県民の負託」への裏切りでしかない。
解明すべき疑惑はまだ多く、県政の正常化は待ったなしだ。失墜した県民の信頼を取り戻し、多岐にわたる課題に対処できる体制を築き直さねばならない。
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戦後の兵庫県知事は斎藤氏を含めて7人いるが、失職した知事はいない。斎藤氏は会見で県政混乱を招いた責任を認める一方、「仕事を続けたい。県民に信を問いたい」と述べた。不信任については「職を辞すべきことなのか」と不満も漏らした。
斎藤氏は総務省出身で、宮城県財政課長や大阪府財政課長などを経て2021年の知事選で初当選した。
県庁舎再整備事業の凍結など行財政改革を進め、県の貯金に当たる財政基金は23年度末時点で約30年ぶりに100億円を超えた。斎藤氏は会見で財政健全化に一定の成果を上げたと主張した。その財源を生かし、人口減対策として県立大授業料無償化など高等教育の負担軽減、子育て世帯の転入・定住促進事業などに取り組んだ実績も強調した。
一方、会見では文書問題に関する新たな事実が語られることはなかった。出直し選挙に向けた斎藤氏のアピールに終始した印象が拭えず、強い違和感を覚えざるを得ない。
■見過ごせぬ制度軽視
問題の発端は、元西播磨県民局長の男性が3月、斎藤氏のパワハラや企業からの贈答品受領など7項目の疑惑を告発した文書を作成し、報道機関などに配布したことだ。
斎藤氏は会見で文書を「うそ八百」と非難し男性を解任した。男性は4月に県の公益通報窓口にも通報したが、県は内部調査で男性を懲戒処分にした。その後男性は死亡した。
公益通報者保護法は告発を理由とした不利益な扱いを禁じる。県議会が設置した調査特別委員会(百条委員会)で、専門家は報道機関への文書配布は外部公益通報に当たると指摘、県の対応は違法状態と断じた。
斎藤氏は会見でも「対応は適切だった」と非を認めなかった。第三者機関による調査や、内部公益通報の調査結果を待つよう進言したのに顧みられなかったとする百条委での職員らの証言とは食い違ったままだ。
公益通報は組織の健全性を保つ手段の一つだが、いくら制度があっても運用する組織の理解が欠如していれば機能しない。軽視した結果、告発者の人命が失われた事実は重い。斎藤氏は会見で道義的責任を改めて問われたが「仕事を続けることが責任の取り方だ」などと認めようとしなかった。議会解散や辞職は最初から考えなかったとし、失職を選んだ真意も曖昧な説明にとどめた。
斎藤氏はすべての疑惑を否定しているが、今後も説明責任は免れないと肝に銘じてもらいたい。
■県政「刷新」の虚と実
兵庫県政は約60年にわたり、旧内務、自治省から副知事を経て知事になる禅譲体制が続いた。5期20年に及ぶ前県政の「刷新」を掲げた3年前の知事選での圧勝は、有権者の期待の表れでもあったはずだ。
多選知事の下でトップダウンが浸透した県庁組織の意識改革へ斎藤氏は「ボトムアップ型県政」を唱えた。だが実態は前知事を支えた職員を排除し、宮城県庁時代に交流があった片山安孝元副知事ら「身内」を重用した側近政治に過ぎなかった。
全職員アンケートでパワハラなどを訴える声が噴出したのは、知事への忖度(そんたく)や、言動に異を唱えにくい空気がまん延していた証しでもある。県政にゆがみが生じれば県庁内部から声が上がり、トップも耳を傾ける組織風土への改革が欠かせない。斎藤氏を相乗りで推薦し県政運営を支えてきた自民党、維新の会など県議会の責任も重い。
百条委による調査途上での不信任は各会派の政治的思惑も絡んだとの批判もある。
告発文書には昨年の阪神とオリックスの優勝パレードを巡る不正な補助金増額の疑惑も含まれ、核心は解明されていない。県議会は真相究明に一層努めるべきだ。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年09月27日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。