東京地裁が国の請求を認め、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令を出した。信教の自由を保障する憲法の下で、極めて重い判断だ。
教団は即時抗告する方針を示しているが、高額献金や霊感商法が反社会的行為と認定された責任を深刻に受け止めなければなるまい。
宗教法人法は法令に違反し、公共の福祉を著しく害する行為などがあれば、所轄省庁の請求に基づき解散を命令できると定めている。確定すれば戦後3件目となる命令は初めて、民事上の不法行為を根拠とした。
命令の前提が刑法だけとは限らないことを示す先例となった。恣意的(しいてき)な運用を疑われることがないよう、可能な限り、審理の過程を開示し、国民に対する説明を尽くすべきだろう。
東京地裁の決定によると、献金などの被害者は1500人を超え、総額は約200億円に達する。教団の財産がその救済に充てられれば大きな前進となる。国会では財産監視を強化する法律が成立した。資産の流出や隠匿を防がねばならない。
安倍晋三元首相銃撃事件で表面化した自民党と教団の不透明な関係も説明が尽くされたとは言いがたい。解散命令で決着とはならない。政治が不当にゆがめられたことはなかったか。徹底した再調査が求められる。
■違法認定受け止めよ
東京地裁は決定で、献金被害が甚大で教団による改善も期待されないとして、民法上の不法行為を根拠とした解散命令はやむを得ない措置とした。
1980年ごろから不安をあおる全国共通の手法で法外な献金ノルマを課したとして、不法行為の組織性などが解散事由に該当するとした国の主張を認めた。特異な例ながら、その違法性が認定された意味は重い。
政府が宗教法人への関与を抑制してきたのは国家神道が軍国主義と結びつき、宗教団体の弾圧による人権侵害を繰り返した戦前戦中の反省があるからだ。
教団の場合、宗教団体の形態を取りながらも、実態は信仰の名の下に集金に傾斜した組織となり、信者らの財産権や幸福追求権といった基本的人権を侵害していたと言わざるを得ない。
安倍氏銃撃事件まで教団によるトラブルの解決は長年置き去りにされた。96年に解散命令が確定したオウム真理教の暴走を食い止められなかった反省が、生かされたとは言いがたい。
旧統一教会の問題から教訓を得るためにも、命令の前提となった事実と議論の内容の評価が欠かせない。原則非公開の審理過程の透明化も課題となろう。
■損害回復を急がねば
霊感商法による契約は2018年の消費者契約法改正により、取り消し可能となった。だが、不安をあおったことの立証のハードルの高さなどから、抜本的な解決には至らなかった。
高額献金を防ごうと23年6月に全面施行された不当寄付勧誘防止法も、禁止行為や配慮義務の基準があいまいでわかりにくいと指摘されている。
付則には2年後の見直しが明記されていた。どのような状態が違法性の要件に該当するかなど、個別の事例を分析し、実効性を高めたい。
忘れてはならないのが、生活に困窮し、人生を狂わされた信者の家族らの救済である。
とりわけ、宗教2世と呼ばれる信者の子どもは人格形成や成長発達に与える影響が深刻だ。相談や支援の体制を早急に整備する必要がある。
教団は命令が確定すれば宗教法人格を失い税制優遇措置を受けられなくなるものの、宗教活動は継続できる。資産隠しの疑いが浮上したオウム真理教の後継団体アレフのように、活動が水面下に潜行することがないよう注視しなければならない。
■自民の調査欠かせぬ
少なくない自民党の議員が教団から選挙支援を受けていた。そうした関係が政策決定に影響を及ぼさなかったかの検証も尽くすべきだ。
特定の宗教との結びつきで国家が判断を誤れば、憲法の政教分離の原則にも反する。
昨年9月には、13年の参院選前に当時首相だった安倍氏らが教団会長らと党本部で面談したとされる写真が報じられた。組織的関係はないという自民党の主張は根底から崩れたと言わざるを得ない。
下村博文文部科学相時代に行われた教団の名称変更の経緯なども未解明のままである。
自民党は教団との関係について、国会議員の自己申告に基づく「点検」しか行っていない。
安倍氏や教団側の会合に出席していた細田博之元衆院議長のほか、秘書や地方議員を対象外としており、不十分だ。
石破茂首相は昨秋、新たに教団との接点が判明した牧原秀樹法相を続投させ調査も行わなかった。認識が甘い。事実解明を主導し、教団との関係断絶を宣言した党の行動指針を実践することこそ首相の責務である。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月25日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。