【社説】:半導体戦略 競争と連携、したたかに/06.28
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:半導体戦略 競争と連携、したたかに/06.28
お家芸だった半導体産業を立て直し、日本の産業再生につなげられるどうか。難しいかじ取りを迫られる。
政府は今月、半導体を経済安全保障上の「戦略物資」と位置づけ、サプライチェーン(供給網)の強化に集中投資する方針を打ち出した。米中対立の影響などで供給不足が深刻化している半導体を自前で確保するのが狙いだ。
だが最先端の生産力を持つには、数十兆円もの投資が必要とみられている。日本1国で取り組むのはさすがに無理ではないか。製造装置や素材など日本が持つ強みを生かして、国際的な協業を視野に入れるべきだ。
半導体は「産業のコメ」と言われる。自動車からパソコン、スマートフォン、おもちゃまで、さまざまな工業製品に使われる。コロナ禍でパソコンやゲーム機の売り上げが増え、世界的に需要が急拡大している。
世界中で供給不足が深刻化し、生産ラインが休止に追い込まれるなど影響が出ている。3月に国内の半導体工場で火災が起き、マツダをはじめ自動車メーカーは工場の一時休止など対応を迫られている。
先進各国は安定的な確保に向けた動きを進めている。米国のバイデン政権は500億ドルを予算化。欧州も中国も巨費を投じるという。日本も対策を迫られていることは間違いない。
素材を用意し、製造装置を使って最先端の半導体を生産し、供給するサプライチェーンを、1国で確立するのに越したことはない。だがそれには巨額の投資と時間を要する。今の日本には難しいだろう。
また各国がこぞって生産力を上げれば、供給過剰で価格が暴落するリスクもある。当面は品薄が続くだろうが、市場動静を見極めた対応が求められる。
先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、半導体の安定供給のため各国で連携することが申し合わされた。となれば、自国の強みを武器に、国際協業の枠組みで主導権を握ることが現実的な選択肢ではないか。
日本が生かすべき強みは製造装置と素材だ。製造装置を造る日本企業の技術は高く、世界的メーカーの半数を占める。素材のフォトレジスト(感光材)も高品質の日本製が世界シェアの9割を誇る。
半導体生産では韓国企業の競争力が高いものの、素材は日本頼みである。自国生産を目指すが、高品質の日本製に依存するのが現状だ。一方、日本は最先端半導体を韓国に頼っている面がある。素材と半導体の供給で両国が連携する「協業」も、一層深められるはずだ。
政府は世界シェアトップの台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が茨城県に設置した研究・開発拠点に期待する。TSMCと連携し、開発・生産体制の強化に乗り出したい考えだ。
最先端半導体を組み込んだ製品を造る日本のIT製造業は少ない。日本には外資が製造拠点を設けるだけの市場としての魅力も乏しい。企業の育成や誘致も同時に進めねばならない。
かつて日本は50%超の半導体シェアを誇ったが、パソコンやスマホの普及などを読み誤り韓国や台湾に追い抜かれた。半導体調達の巧拙が産業の発展を左右する時代である。半導体戦略を早急に再建せねばならない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年06月28日 06:38:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。