【社説①・11.30】:サイバー防御 攻撃の兆候を素早く把握せよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・11.30】:サイバー防御 攻撃の兆候を素早く把握せよ
政府機関や重要な社会インフラへのサイバー攻撃が相次いでいる。大規模な被害を防ぐには、攻撃の兆候を素早く把握することが大切だ。
重大なサイバー攻撃を未然に防ぐ、「能動的サイバー防御」の導入を検討してきた政府の有識者会議が、提言をまとめた。
サイバー空間を平時から国が監視し、攻撃の兆候を探知した場合、相手のシステムに侵入して無力化する必要がある、と指摘した。
また、電力、通信、金融など15業種の「基幹インフラ事業者」には、サイバー攻撃があった場合、政府への速やかな報告を義務化することも求めた。
日本のサイバー空間の防御能力は低いと言わざるを得ない。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は昨年来、何度もサイバー攻撃を受け、職員の個人情報が流出した。昨年は名古屋港のシステムがサイバー攻撃で機能停止に陥った。
日本はこれまで、専守防衛の原則に基づき、サイバー攻撃を受けてからの対処にとどまってきた。だが、脅威の増大を踏まえれば、攻撃の兆候を早期に把握し、防御措置をとらなければならない。
その実現のためには、国が事業者から通信情報を受け取る必要がある。ただ、現在は憲法が定める「通信の秘密」に基づき、事業者は原則、情報を提供できない。
この点について、有識者会議は「通信の秘密は、公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受ける」と提言に明記した。プライバシー侵害への懸念を 払拭 するため、制度全体の運用を監督する第三者機関の設置も提案した。
サイバー空間の脅威を取り除くのは国の責務だ。その責務に関する具体的な措置について、幅広い理解を得るには、第三者機関を独立性の高い組織としたい。
制度設計だけでなく、実際に運用する体制が重要となるが、政府内の調整には不安が残る。
提言は、防御を担うのは「まずは警察」とし、「必要がある場合に自衛隊が加わる」と記した。
近年、サイバー犯罪やインフラ攻撃への備えを強化している警察当局は、サイバー対策全体を仕切ろうとしているようだが、縄張り争いになっては困る。
サイバー攻撃は、最初の段階では国内を狙った犯罪なのか、軍事的な脅威につながる可能性があるのか、不明だ。同盟国や友好国との情報交換が欠かせない。
防衛省はもとより、外務省や法務省を含め、政府全体で脅威に対処する体制を築くべきだ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月30日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。