【社説①・02.16】:能動的サイバー 重大な被害を未然に防止せよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・02.16】:能動的サイバー 重大な被害を未然に防止せよ
サイバー攻撃によって国民生活や経済活動がまひ状態に陥る、という心配が現実のものとなってきた。大規模な被害の発生を未然に防ぐことが欠かせない。
政府がサイバー攻撃への対処能力を強化するため、「能動的サイバー防御」の導入を柱とした関連法案を衆院に提出した。今国会での成立を目指し、1年半以内に体制を整えるという。
既に昨年末から年始にかけて、重要なインフラへのサイバー攻撃が相次いだ。日本航空では便の遅れや欠航が多発し、三菱UFJ銀行はインターネットバンキングに接続しにくくなった。
手を 拱 いていたら、サイバー攻撃によって社会が混乱するリスクは高まる一方だ。
米国は、日本のサイバー防衛体制が 脆弱 だとして対策の強化を繰り返し求めている。同盟国や友好国と共有している防衛機密などが日本から流出したら、日本の信頼は失墜してしまうだろう。
対策を強化するにはまず、国が常時サイバー空間を監視して、攻撃の兆候を探知することが重要だ。そのためには通信事業者が情報を国に提供する必要があるが、憲法には「通信の秘密」の定めがあり、現状では提供が難しい。
関連法案では、制度全体の運用を監視する、独立性の高い第三者機関を設け、この組織の承認を条件として事業者が国に情報を提供する、という仕組みを設けた。
通信の秘密は尊重されなければならないが、「公共の福祉」を守るためには一定の制約を受けることも容認される、という解釈に基づいている。
また、プライバシーが侵害されるのではないか、といった懸念を 払拭 するため、政府には毎年、国会に運用状況を報告することを義務づけた。政府職員が情報を 漏洩 したり、悪用したりした場合は罰則を科すことも定めた。
政府は法案審議を通じ、サイバー防衛の重要性を丁寧に説明し、理解を広げていくべきだ。
重大な攻撃を探知した場合、攻撃元のサーバーに侵入して無害化する措置は、警察と自衛隊が協力して行う。このほか航空、金融、通信など基幹インフラ15業種の事業者には、サイバー攻撃を受けた際の国への報告を義務づけた。
いくら 緻密 に法体系を整えても、現実に攻撃を防ぐ技術的な裏付けがなければ、民間の協力を得るのは難しいだろう。サイバー人材の育成や、警察と自衛隊の技術力の向上も重要な課題となる。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月16日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。