【社説②・03.24】:薬剤費の削減 患者や病院への配慮が必要だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・03.24】:薬剤費の削減 患者や病院への配慮が必要だ
増え続ける医療費をどう抑制していくかは重要な課題だ。とはいえ、党利党略で薬剤費を安易に削減すれば、医療の現場は混乱してしまう。
負担増となる患者の立場や、病院経営にも配慮し、社会保障制度全体を視野に入れて改革を進めていく必要がある。
自民、公明の与党と日本維新の会の実務者が、社会保障制度改革に関する協議を始めた。焦点となっているのが薬剤費の削減だ。
医師が処方する薬には、服用を間違えると健康を害するリスクのある「処方箋医薬品」と、湿布や胃腸薬など危険度が低い「OTC類似薬」の2種類がある。
OTC類似薬は、医師の処方箋なしでも薬局で購入が可能で、約7000品目ある。ただ、医師が処方する場合は保険が適用され、市販品より安く購入できる。
維新は、こうした薬をわざわざ医師が処方する必要性は低いとして、医療保険の適用から外すよう求めている。制度改革で社会保障費を年4兆円減らせば、現役世代の保険料負担を1人あたり年6万円軽減できる、としている。
2022年度の医療費は、10年前に比べて7兆円超増え、約46兆7000億円に上っている。
今後も医療費が膨らみ続ければ、現役世代の社会保険料負担も、医療費への税金の投入も増える一方だ。患者に一定程度の負担を求めていくのはやむを得ない。
だが、患者が軽症だと思っても重い病気が隠されているケースもある。湿布などの処方は診察の結果であり、初めから治療を要しない状態とは限らない。
また、収入の多くを保険料に頼る医療機関にとって、診療を控える患者の増加は経営にも響く。
維新の主張は、そうした視点が乏しいと言わざるを得ない。
政府・与党は、新年度予算案への維新の協力を得る見返りとして、維新が求めていた高校授業料の無償化をのんだ。その際、維新は無償化の財源4000億円の確保策を示さず、批判を浴びた。
今回の薬剤費削減の主張には、無償化で不足することになる財源対策を提示しようという計算があるのではないか。
維新が、改革をまとめる期限を5月としているのも、夏の参院選に向けて実績をアピールしようという狙いが透けて見える。
政府は先に、高額療養費制度の見直しを巡る調整が不十分で、方針が二転三転し、先送りを余儀なくされた。社会保障のあり方は総合的な観点から論ずるべきだ。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月24日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。