【社説①・03.03】:デジタル教科書/利点と課題 幅広く検証を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.03】:デジタル教科書/利点と課題 幅広く検証を
社会のデジタル化が進む中、学校の教科書も姿を変えそうだ。
文部科学相の諮問機関である中央教育審議会の作業部会は、タブレット端末などで読むデジタル教科書を、現行の代替教材としての位置付けから、正式な教科書に「格上げ」する案をまとめた。次期学習指導要領が小学校で全面実施される見込みの2030年度から使用するのが望ましいとした。
実現すれば、紙、デジタル、紙とデジタルを組み合わせた「ハイブリッド」の3形式から、各教育委員会が選ぶ。教科ごとに使い分けることも想定している。小中高校のどの学年や教科でデジタル教科書を導入するかは、これから議論する。
文科省はデジタルの利点と課題を幅広く検証し、子どもの発達段階を踏まえて教科書作成に反映させる必要がある。何より重要なのは、児童生徒が授業内容を理解し、学びを深めることだ。教育現場でデジタル教科書を効果的に使うための実効ある支援態勢が欠かせない。
デジタル教科書には、文字の拡大や音声の読み上げ、動画の再生といった機能がある。ペンで線を引くことや、図表の切り貼りも可能だ。現在、紙の教科書と併用する代替教材として小学5年~中学3年の英語と算数・数学で導入されている。
実践例も積み上がりつつある。例えば、英語のネーティブ・スピーカーが話す音声を聞かせるときに再生速度を調整したり、算数・数学で図形やグラフを自由に動かしながら考えさせたりしている。「一人一人に合った学習がしやすくなった」と効果を語る教員もいる。
一方、子どもが授業と関係ない操作に集中してしまう、といったデメリットが報告されている。紙の教科書の方が一覧性に優れているとの意見は根強い。2010年代からデジタル化を進めてきたスウェーデンでは紙の教科書に戻る自治体が出てきている。課題の克服には海外の事例も参考になろう。
兵庫県内の小中学校でデジタル教材を積極的に活用している教員たちからは、校内の通信環境の改善が欠かせないとの声が上がる。一度に多くの子どもが使うと端末が動かなくなるケースは少なくないという。国の支援によるハード面の整備に加え、教科書会社にはデータの軽量化といった工夫が求められる。
正式な教科書になれば、検定や小中学校での無償配布の対象となる。外部のウェブサイトなどと接続が可能なデジタル教科書の検定については、範囲や方法を今後詰める。
紙とデジタルの良さをうまく使い分けながら、教員は指導力に一層の磨きをかけてもらいたい。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月03日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。