とはいえ、「コロナ感染死」と「ワクチンの副反応との因果関係が疑われる副反応死」とでは、その性質は大きく異なる。
「取材依頼をかける段階で、X氏は上層部には『ワクチン関連死を訴える遺族に取材する』とは伝えていなかったのでしょう。ワクチン死についてはさまざまな評価がありますし、局内でも医学的あるいは政治的な観点から、触れるべきではないという声も上がったでしょうから」(前出のA氏)
現にX氏から来た取材依頼のメールの文面では、意図的なのか、「ワクチン」という文言は使われていなかった。だが、つなぐ会のホームページに連絡してきたということは、ワクチン接種後に肉親を失い、関連性を訴える遺族たちの会であることは、天下のNHKの記者ならばわかっていたはずだ。
おそらくNHKの中ではX氏がワクチン死を訴える遺族を取材した後、その報告を受けて「ワクチン後遺症やワクチン死に触れるといろいろ面倒だ。広い意味では『コロナ禍で亡くなった方々』なのだから、ワクチンの部分を放送せず『遺族の証言』として放送できるだろう」という判断が下されたのだろう。
鵜川氏によると、17日にもNHKから改めて謝罪を受けたという。だが、それで憤りがおさまったわけではない。
「訂正放送も求めています」
しかし前出のNHK関係者は「訂正放送には応じないのでは」と見通しを明かす。
「先ほども言った通り、NHKの局内ではワクチン死はセンシティブな問題。遺族が主張する『ワクチンで亡くなった』という訂正放送をすることはできないでしょう。『今回の放送は放送倫理に反していました』と認めて謝罪するにとどめ、ワクチンに言及するのではなく、自分たちの番組作りを反省する流れに持っていきたいのではないか、とみています。
局内では今回のことをX氏とその上司の責任にし、チェック機能を強化して再発防止策を講じることで幕引きにしたいのでしょうね」
◆NHKはどのように考えているのか
ワクチン死の扱いの難しさもさることながら、訂正放送などすれば「NHKは信用できない」という声が高まり、受信料不払い運動につながるのでは――そんな懸念も胸の内にはあるのかもしれない。
NHKは、どのように考えているのだろうか。真偽を聞こうと質問を送ったところ、次のような回答がメールで寄せられた。全文を掲載する。
〈放送までの経緯などについては現在、詳細を調査中ですが、担当者は、NPO法人を通じてご遺族を紹介してもらい、取材の過程で、ワクチン接種後に亡くなった方のご遺族だと認識しました。番組は、コロナ禍で亡くなった方のご遺族の思いを伝えるという考えで放送しましたが、適切ではありませんでした。ご遺族に対してはNPO法人を通じて謝罪しました。
16日には、ニュースウオッチ9で、キャスターが、伝え方が適切ではなかったとお詫びしたほか、動画を載せたツイッターなどの投稿を削除した上で、お詫びの投稿を行いました。
ワクチンを接種後に亡くなった方のご遺族だということを正確に伝えず、新型コロナに感染して亡くなったと受け取られるような伝え方をしてしまったことは適切ではなく、取材に応じてくださった方や視聴者の皆さまに深くお詫び申し上げます。
取材・制作の詳しい過程をさらに確認し、問題点を洗い出した上で、再発防止策を徹底し、信頼回復に努めます〉
取材をしたこれまでのやり取りを振り返ると、X氏は当初から「コロナワクチンによる副反応死疑い死の遺族」だということをわかっていて取材依頼を出したことは明らかだ。しかし、NHKはあくまで「取材を進める中でそのことがわかった」としたいようだ。真偽も含めてX氏に直接コンタクトをとってみると……「今、たてこんでおりますので後ほどお電話いたします」との返答で、以後連絡はなかった。
NHKの取材に応じた、ワクチン接種後に母親を亡くした佐藤かおりさんはこう反応する。
「私たちがNHKに求めているのは『真実を伝えること』です。ワクチン死の訴えを聞き、取材の場では『このことを伝えたい』といったのですから、それを実行してほしい。
今回、NHKの取材に応じたのは、ワクチン被害や遺族についてきちんと報道してもらえるものと思ったからです。実名で顔を出してカメラの前に出ること……そこには期待と覚悟、さまざまな思いもありました。だからこそ、今回の放送はとてもショックでした。改めて、私たちの声を全国に問うてほしいのです」