【水曜討論】:オンライン授業 普及でどう変わる
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【水曜討論】:オンライン授業 普及でどう変わる
新型コロナウイルスの影響で学校が休校となった今春以降、にわかに注目され始めた「オンライン授業」。子どもたちが教室に集まり、教師と相対する従来の授業の形式とは大きく異なるが、国が教育現場の情報通信技術(ICT)化を推進していることもあり、今後も取り組みは続きそうだ。オンライン授業は教育をどのように変え、導入にはどのような課題があるのか。教育現場でのICT活用に詳しい専門家とオンライン授業に力を入れている教員に聞いた。
■問題解決型の人材育つ 青山学院中・高等部講師・安藤昇さん
私は以前勤務していた佐野日大高(栃木)で放送部を指導し、番組づくりのノウハウを学びました。また、生徒に伝わる話し方を磨くため、自分の授業を撮影して動画投稿サイトにアップしてきました。青山学院中・高等部(東京)では、情報科で人工知能(AI)、プログラミングを教えています。最終的に生徒にスマホアプリをつくってもらうことを目的としており、生徒は生き生きと取り組んでいます。
青山学院では大型連休後から、インターネットによる遠隔授業を始めましたが、こうした蓄積のおかげでスムーズに行うことができました。連日、ほかの教員にオンライン授業の方法をアドバイスしています。
オンライン授業を実践する上で、最も大切なことが三つあります。まずはよく通る声でゆっくりと話すこと。もう一つは画面に自分の顔を出すことです。多くの先生は嫌がるのですが、画面に教師の顔があると、途中で離脱する生徒が少なくなります。
そして、三つ目は双方向でやりとりすること。私の授業では動画配信サイト「ニコニコ動画」のように、生徒が書き込んだメッセージが画面に流れるようにしています。面白いことに、対面授業では全然手を挙げない生徒も、オンライン授業ではたくさん質問をしてくれます。リアルタイムのやりとりができれば、習熟度をつかみながら授業を進めることもできます。
実践を通じ、「知識を伝えるだけなら遠隔授業で十分」ということに気付きました。対面授業でも、大学の大講堂でたくさんの学生を対象に行われるようなものであれば、オンラインで行っても変わりありません。
加えてオンライン授業がさらに普及すれば、日本の教育のあり方を一変させる可能性を秘めています。オンラインで他校の人気授業を受けられるようになれば、生徒が教員を選ぶ時代がやってきます。教員には厳しいかもしれませんが、授業が得意な先生、学級担任業務など対面でしかできないことに力を入れる先生など、教員の分業化が進むのではないでしょうか。少子高齢化で働き手が減少する中、教員の負担を軽減できます。
また、評価基準もオンラインと対面では異なります。オンラインでテストしても、正解を調べた上で回答できるため、知識量を測ることはできません。おのずから「授業内容をいかに理解し、アウトプットできるか」を重視することになります。それは問題解決型の人材育成につながると思います。
新型コロナウイルスの感染拡大で、教育現場でもデジタル化の遅れが明らかになり、児童生徒に1人1台の情報端末を配備する文部科学省の「GIGAスクール構想」が加速しました。新政権はデジタル庁の設立を目指しており、新型コロナの影響で進んだ教育のICT化は後戻りすることはありません。
周りを見てもICTを使いこなせる教員はまだ2割ほどにすぎず、教育現場はまだ変化に追いつけていません。オンライン授業は実習には不向きという課題もありますが、対面授業とすみ分けをしながら、教育のデジタル化が進めばいい。オンライン教育に情熱を注ぐ教員がもっと増えてほしいですね。(東京報道 大能伸悟)
■教育の「地域差」解消に 千歳科学技術大教授・小松川浩さん
オンライン授業とは、オンライン会議システム「Zoom(ズーム)」などを使い、対面授業をそのまま行うことばかりを指すのではありません。
例えば、インターネット上のドリル形式の学習システム「eラーニング」は、子どもそれぞれの得意、不得意分野などのデータを蓄積し、分析して、効果的にサポートします。ある子どもの算数の正答率は分数が高くて図形が低いといった傾向が可視化され、苦手分野を重点的に指導できる。逆に、日本史の戦国時代の単元が得意だと分かれば、さらに深い知識を問う問題で興味を深めていくこともできます。
その上で、学校の対面授業では教科書の内容について子どもたちが発表したり、教え合ったり、議論したりして情報や知識を整理、活用する方法を学ぶ。それが、ICTを利用した新しい教育の形です。
道内では、私たちが開発した小中学校向けのeラーニングを道教委を通じて無償で提供しています。利用者は2018年の8千人から今年は8万人まで増えました。千歳市内の中学校では、新型コロナの影響で休校した際の授業の遅れを取り戻すため、放課後学習にeラーニングを取り入れているそうです。
北海道では都市部以外では塾の選択肢が少ないなど地域によって教育環境に差があるのに、入試で同じ土俵に乗るのは平等とは言えません。でも、ICTの利用で、広大な道内のどの地域でも同じ水準の教育を届けることができるのです。
一方、課題もあります。一つは教員の養成。ICTを使いこなす技術に加え、子どもそれぞれに合った学習方法を提案し、後押しする力が求められます。ICTはあくまで道具で、一人一人に効果的な使い方を見極めることは生身の先生でなければできません。教員研修や大学の教員養成課程などを通じた体系的な養成が必要です。
二つ目は情報教育です。授業でネットを活用する機会が増えれば、子どもたちが不適切な情報や真偽不明な情報に触れる可能性も高まります。そうした側面を捉え「危険だから使わせるべきではない」と言う人もいますが、ICTは車と同じ。危険だから関わらないのではなく、リスクも含めて正しく学べば良いと思います。
むしろ使い方を知らずに社会に放り出す方が危険です。ICT導入は、情報を取捨選択する力の「リテラシー」、情報で他人を傷つけない「モラル」、情報から身を守る「セキュリティー」の教育と同時に行われなければなりません。
三つ目は、ICT利用に向けた環境を家庭や地域に整備することです。前提となる学習環境に差が生じることはあってはなりません。道外には、放課後学習を支援する団体や施設に補助金を出し、公衆無線LAN「ワイファイ」の整備を支援する自治体もあります。家庭環境などによって情報格差が生じないよう、行政が主体となって早急に整備すべきです。
ICT教育が急速に進めば当然、ひずみも生じるでしょう。負の側面を十分理解し、利点を最大限に活用できる環境をつくることが、ポストコロナの命題と言えます。(報道センター 斉藤千絵)
<ことば>GIGAスクール構想
人工知能(AI)やビッグデータを活用する社会を見通し、全国の小中学校、特別支援学校に校内LANを整備し、すべての児童生徒に1台ずつ情報端末を割り当てる構想。文部科学省は当初、達成目標を2023年度としていたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、本年度中に前倒しした。また、学校の授業だけでなく、休校中の自宅学習や遠隔授業での活用も目的とした。同省の調査では、道内の全自治体が本年度末までに端末を配備予定と回答した。
元稿:北海道新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【水曜討論】 2020年09月30日 10:25:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。