【社説・11.09】:水道耐震化 国の責任で万全の備え急げ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.09】:水道耐震化 国の責任で万全の備え急げ
災害列島の日本なのに、重要な社会インフラである上下水道の地震対応が進んでいない。国土交通省の緊急点検で明らかになった。
避難所や災害拠点病院、市町村役場、警察署、消防署など万一の際に住民の命を守る建物のうち、接続する水道管路と下水道管路、ポンプ場が全て耐震化されている所は、わずか15%だった。
地震はいつ、どこで起きるか分からず、対策が急がれる。上下水道を運営する自治体の務めだとはいえ、財政難に苦しむ市町村だけで耐震化を迅速に進めるのは難しいだろう。国の積極的な関与が求められる。
国交省の緊急点検は、元日に発生し、広い範囲で長く断水した能登半島地震を受けて実施された。災害時に拠点となる全国の重要な建物約2万5千カ所のうち、上下水道が耐震化されていたのは3600余りとお寒い状況だった。
特に中国5県は遅れが目立つ。耐震化率の最も高い鳥取でも9%しかなく、島根8%、広島2%、山口1%と続く。岡山は0・5%と全都道府県でワースト2位だった。
地震が起きる切迫感が乏しいためだろうか。ただ、中国地方にも大きな影響を及ぼす南海トラフ巨大地震は30年以内の発生確率が70~80%とみられている。
万一の際、病院が断水すれば、治療に支障を来しかねない。患者の命に関わる。避難所だと、手洗いや食事、トイレなどで不便を強いられ、感染症のリスクも高まる。
地震や豪雨の発生は止められない。だからこそ、被害をできるだけ減らす努力を尽くさなければならない。災害拠点施設が機能しなければ、救える命も助からない。
「多額の事業費が必要な上下水道施設の耐震化に対する補助拡充を」。そんな国への要望を中核市の市長会が今月1日まとめた。現状の国の支援制度は、条件が付く上、補助額は事業費の25~50%程度で、市町村の負担も大きい。さらなる支援を求める地方の切実な声を、国はどう受け止めてきたのか。
対応の必要性は以前から国も認めてはいる。2018年の西日本豪雨などを受け、国土強靱化(きょうじんか)の緊急対策の一環として、上水道管路の耐震化促進を掲げている。
老朽化した水道管を、丈夫で接続部が外れにくい構造の管に交換するなど、対応は待ったなしといえよう。備えを怠れば、社会インフラが機能不全に陥る恐れがある。
政府は今年8月、水道施設の耐震化など災害対策強化に重点を置いた水循環基本計画を閣議決定した。本年度から5年間で「災害に強く、持続可能な上下水道の機能を確保する」と記している。
ところが、結局は自治体任せという考えが国の姿勢からは透けて見える。国の補助を当てにする前に、水道料金を引き上げるよう市町村に促しているからだ。
今まで通りのやり方では遅々として進まない。備えを万全にするため、災害時の拠点施設は国の責任で耐震化する方針を打ち出すべきだ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月09日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。