《社説①・03.23》:戦後80年 「資源小国」の未来 持続可能な社会へ行動を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・03.23》:戦後80年 「資源小国」の未来 持続可能な社会へ行動を
日本のエネルギー政策が袋小路に陥っている。電力の安定供給と脱炭素化の両立を迫られる中、過去の教訓に学び、賢明な戦略を探らなければならない。
「脱炭素電源を十分に確保できなければ、経済成長の機会を逸し、国民生活にも大きな影響を及ぼす」。政府の新たなエネルギー基本計画はこう強調し、原発を再生可能エネルギーと同列に並べ、「最大限活用する」方針を示した。

再生エネについては、電源構成に占める比率を現在の2割強から2040年度に4~5割に引き上げる目標を掲げた。ただ、足元では導入にブレーキがかかっている。日本は山間地が多く、太陽光パネルを新設する余地が乏しい。「切り札」とされる洋上風力も建設費の高騰で期待通りに進むか不透明だ。経済産業省は「目標実現のハードルは高い」と認める。

◆原発頼み繰り返す政府
原発回帰を打ち出したのは、そうした事情からだ。新エネ基で政策を180度転換した。11年の東京電力福島第1原発事故後、堅持してきた「原発依存度の低減」との文言が削除された。現在1割に満たない原発比率を、40年度に福島事故前の水準である2割に押し上げることを目指す。電力会社への支援を強化し、建て替えや新増設を後押しする構えだ。
エネルギーは資源の乏しい日本のアキレスけんとなってきた。
1973年の第1次石油危機は高度成長を終わらせた。脱石油依存を迫られた政府は当時も「準国産エネルギー」として再生エネと原発に活路を求めた。
翌年には、再生エネ開発の国策プロジェクト「サンシャイン計画」が始まり、原発拡大に向けて「電源3法」が施行された。電気料金に上乗せして利用者から税金を徴収し、原発立地自治体に交付金を配る仕組みだ。
サンシャイン計画は「数十年後の需要の相当部分を賄うクリーンエネルギーの供給」をうたった。00年までに国費約1兆円が投じられ、太陽光発電の実用化やパネルメーカー育成など産業政策面で成果を上げた。だが、企業や家庭への導入支援策は不十分で、再生エネを主力電源にできなかった。
一方、大規模な供給力を持つ原発は「効率的で安価な電源」とされ、建設が加速した。交付金で潤う地方にも魅力的に映った。国が作った政策に従い電力会社が建設・運営する「国策民営」の下、原発は全国に広がり、一時は電力の3割超を賄った。
だが、福島事故で安全神話は崩壊した。安全対策費の膨張で「安価な電源」とも言えなくなった。地元の反対で再稼働は滞った。核のごみの問題も未解決で、原発頼みの政策は破綻したはずだった。
にもかかわらず、政府が再び推進にかじを切ったのは、脱炭素に逆行する火力発電への過度な依存を続けられない上、ロシアのウクライナ侵攻で電力の供給不安が高まったからだ。
◆再生エネを拡大する時
原発を優先し再生エネ活用に失敗した過去の教訓を生かさなければならない。
まず太陽光や風力の適地である北海道や九州で作った電気を、東京など大都市で最大限活用する必要がある。それには送電網の抜本的な強化が欠かせない。
イノベーションの促進も重要だ。建物の壁に張れる日本発の革新技術、ペロブスカイト太陽電池の早期実用化と普及に向けた取り組みが急がれる。
エネルギーシステムの変革にはコストもかかる。二酸化炭素(CO2)の排出に課税する炭素税や、排出量取引の本格導入を急ぎ、電力会社の設備投資や、企業の技術開発を促すべきだ。そうすれば、省エネ意識も高まり、国民の行動変容につながるはずだ。
トランプ米政権は地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を決めたが、脱炭素の潮流は変わるまい。企業がクリーンなエネルギーを求める中、日本の対応が遅れれば、産業空洞化を招きかねない。
次世代の声に耳を傾けることも大切だ。「新設コスト、事故リスク、高レベル放射性廃棄物による将来世代へのツケなど看過できない問題がある」。若い世代の視点から政策提言する日本若者協議会は、新エネ基の意見公募で原発回帰に疑問を呈した。
エネルギーは暮らしや経済の基盤である。持続可能な社会を実現するための政策が求められる。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月23日 02:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。